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第十話 旅は道連れ、塞がる者たちは敵だらけ?

ブックマーク、感想、評価お待ちしております。


 ブラームス達の服飾関係の仕入れが無事に終わった。それ以外はヒルダが気に入った反物を手に入れた事があっただけで大きな出来事もなく、ベリル市での予定は滞りなく終了した。

 襲い来る暴漢も、強盗もなく平和な一日を過ごせたのである。


 それから次の日にベリル市を出発し、西に向かって三日後には【ハイム】へ。そして、ハイムで一泊して北西に向かい同じく三日後に【ミンデン】へと到着してた。


 ハイムはトルニア王国を南北に貫くように流れるラルナ長河(ちょうこう)の中流付近にある街であるが、大きな特色がある訳でもなく、中継地の宿場町として栄えているだけである。とは言いながらも、トルニア王国のほぼ中央にあるために、人が集まる場所であるだけに人口はかなり多く、ブールの街以上の人口を有している。


 様々な商品群が集まるが、主な産業はと質問されても答えられるほどの産業がないので、物価は多少高かったりする。


 ブラームス達はそんな宿場町を一泊しただけですぐに出発し、トルニア王国の北部地方に入り、その入り口の街であるミンデンへと入った。

 ハイムから川沿いを北上すると【シュターデン】と言う街もあるが、そちらはキール自治領との境としての意味合いが強い。


 このミンデンは周辺が広大な平原であるために穀物類もそうだが、砂糖の生産が盛んである。砂糖は南国で採れるトウキビからが有名であるが、南国からの輸入が制限されるトルニア王国では、トウキビの代替でテンサイが栽培され、この地方だけで八割以上の砂糖が生産されている。


 そんな、農業が主産業で爭い事とは無関係と思われるミンデンで、ブラームス達が宿を取った時に暗い噂を耳にしたのである。トルニア王国北部三都市が王国から独立を画策している、のだと。

 だが、その噂も信じられていないかった。


 キール自治領と海の街アニパレとの間に挟まれた狭い地域である事が大きな理由だろう。南北百五十キロ、東西二百キロの本当に狭い地域に三つの都市がひしめき合い、人口が平均して少ないのも無理があるとされる理由の一つだった。


 海に面した【エトルタ】、【ボルクム】は海運が通っているのだが、遠浅の浜辺のため大型船が停泊しにくい地形だ。そして、その二都市から内陸に入った【ブメーレン】はさらに産業が少なく、立地も輸送の面も劣っている。

 農業生産はある程度の量が取れるが、他地域の生産量が多いために輸出は少なく、外貨獲得にはエトルタとボルクムと連携して当たらなければ難しい。


 では、今滞在いるミンデンはどうかと言えば、先ほどの説明の通り、砂糖の生産を一手に引き受け、北部三都市とは財政の様相が違う。


 その様な事情もあるので、北部三都市は自らの都市から得られる税金だけでは足りず、王国から毎年のように補助金を受けており、独立など夢のまた夢であるのだ。

 ただし、北部三都市にアニパレが合流した場合はどうなるかと言えば、これまた様相が変わってくる。


 アニパレはブールの街を上流に持つ河の河口に位置し、この場所だけが切り立った崖を有している。その為に遠浅の砂浜を持つエトルタ、ボルクムに比べて大きな船舶が停泊でき、大型の建造ドックをも備えている。

 軍船、民間船問わず、停泊できる良港のアニパレは外国からの輸入品や輸出品を一手に引き受け、財政が安定している。


 アニパレが北部三都市と合わさって独立運動を始めてしまえば、財政面で一気に有利になり、北部だけでの独立に現実味が起きて来る……のだが、アニパレは軍事的に重要拠点とされているだけあり、国の直轄地とされているので独立運動の要には成り得ない。




「ふ~ん、噂ねぇ……。まぁ、俺達の知ったこっちゃないけどな」


 食堂で夕食に出て来た塊肉を強引に噛み切りながらガルシアが我関せずとの気怠そうな表情を見せていた。他の面々も同じように、その噂には興味無いとの表情をしながら、肉汁滴る塊にナイフを通している。


「だけど、仮にだよ。この北部が戦場になったらどうするんだ?護衛を辞めて戦争にでも赴くのか?」


 噂であっても現実に起こりえないとは言え無いとエゼルバルドは思っていた。それはアーラス神聖教国の北部内乱に参加していたからこその考えであった。トルニア王国では百年以上、内戦と言うべき戦争は起こっていない。多少の小競合いはあったが、数万人が動員される戦争を起こそうなど、誰も考えていないだろう。

 現在の王族の政治が安定し、各都市の財政に補助金を出したりと不満が膨れ上がるなどあり得ず、国民は平和を享受しているのである。


 だが、そう思っていても各都市の為政者の中には国からの補助金を受けている事が恥であると感じている者もいるかもしれない。平和に見えても遠くの国と繋がって裏で”コソコソ”と戦力を整えてる可能性も捨てきれないのだ。


 あの内戦の裏事情を知ってしまったために、噂は噂だと片付けられないとガルシア達に質問を投げかけてみたのだ。


「ふん、起こるもんか。それこそ取らぬ狸の何とやらって言うんじゃねえのか?」

「仮にの話さ。オレもヒルダもそうそう戦場になるとは思っていないよ。だけど、突然戦争に巻き込まれる事だってあるからね」


 そう語ったエゼルバルドの言葉を聞き、ガルシア達は腕を組んで考え出した。

 彼等は報酬の良い護衛で食ってけると思っていただけに、向かう先が戦場になっているなど考えた事も無かった。通り道に盗賊が網を張っていて、何度も撃退した事はあったが、本格的な戦争はと言えば想像もしていない。


「そうだな。否応なく巻き込まれるのだったら仕方ないな」

「そうじゃのう。起こって欲しく無いが、巻き込まれたなら仕方あるまい」


 他の二人も同じような考えで、巻き込まれたら仕方なく戦うだろうと考えたらしい。


「ま、今はそんな事が起こるなど考えなくてもいいだろう」


 暗い雰囲気を弾き飛ばす様に、再び肉の塊にかぶりつくのであった。

 エゼルバルド達も戦争など起こって欲しくないと思うのであった。




    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 嫌な噂を聞き悶々とした翌日の早朝、ブラームス達の馬車はミンデンを出発して最後の目的地、海の町アニパレへと向かっていた。

 丁度この日は五月に入ったばかりで、草原を拭く風に乗り草花の甘い香りが鼻孔をくすぐっていた。真っ青な空に白い雲が”プカプカ”と気持ちよさそうに浮かび、それが東へとゆっくりと流れていった。


 そんな気持ちの良い天候の中、すれ違う馬車も殆ど無く数回の休憩の後、太陽の位置が真上に位置する時間となり昼食を取ろうかと考えていた時であった。


 進行方向右側の草原の上を馬に乗る一団がこちらへと走ってくるのが見張りが発見したのである。


「ね~!右から騎馬の一団がやって来わよ~」


 注意喚起を真っ先に行ったのは二台目の馬車の御者席で見張りに勤しんでいたマルリスであった。平原であるために遠くまで見渡せ、接敵するにはまだまだ時間があると見られた。それでも、敵か味方かはっきりせぬために、ガルシアは戦闘準備を皆に指示していた。

 御者をしているブラームスには急いでも仕方がないと、そのままの速度を指示して馬車馬の体力温存を図った。


 一定の速度で進むブラームスの馬車を素通りして行くかと思っていたが、その一団は進みゆく進路を修正し、こちらの馬車に向かって一直線に向かって来る。何処か不気味な動きであるが、下手に逃げても被害が大きくなる可能性も考えると、むやみやたらと動くのは拙いと思えたのだ。


 だが、その一団、--見える範囲では六騎--が、土埃をあげて向かって来るのだが、その後ろからもさらに別の一団が追い掛けているのをまたしてもマルリスが発見した。


「もう一団、追いかけてるみたいだから気を付けて!」


 先に逃げる一団六騎よりも多く、約十騎ほどで追い駆けている様だった。


 それから、こちらの馬車まで後三百メートル程に接近した時になり、向かい来る騎馬達の格好がはっきりと目に写ったのである。


 先を逃げる騎馬達は揃いの鎧を身に着けており、何処かに所属しているかのような格好だった。旗印等は持ち合わせておらず、所属は明らかにならなかった。

 そして、後を追う騎馬達はまちまちの姿をしており、鎧姿であったり、厚手のシャツだったり。


 ガルシア達もそうだが、エゼルバルドとヒルダもちぐはぐな逃走劇に得も言えぬものを感じ、どの様に対応しようかと戸惑ってしまう。

 その二つの騎馬隊を見れば、逃げる一団が何処かの騎士達であり、追う一団が盗賊達の様にも見えてしまう。


「ガルシアさ~ん、どうしますか~?」


 ガルシアに指示を仰ごうとマルリスが叫んだ。呼ばれたガルシアは向かい来る二つの騎馬達の行動を見てから指示を出そうかと考えていたために、返事が遅れてしまった。

 そして、ガルシアが指示を出すか迷っていると、逃げる騎馬達がブラームス達の馬車を素通りすると、その横で速度を落とし、馬車を盾にする様に並走しだした。


「馬車を盾にするなど、騎士の風上にも置けない奴らめが!!」


 馬車と並走しているのだが、その距離は実に十メートルはあるだろうか。ブラームス達の馬車を間に挟むようにして、追いついた一団が大声で叫び相手を挑発する。

 馬車の後方から回り込もうとすればその逆へと馬を進め、先頭から進もうとすれば後部へと馬首を向ける。


 巧みに馬を操って馬車を盾に逃げ回ろうとする。どちらに正義があるのかわからず、ガルシア達はいまだに我慢の時を過ごしている。ただ、全員が内心で”何故前後から挟み撃ちにしない?”と思い、冷めたような眼で見ていた。


 ブラームス達の馬車に仕掛ける気は無いらしく、ウロウロと馬車の進路を邪魔する様にと走り回っていた。数分に渡って邪魔な動きをするものだから、堪忍袋の緒が切れたガルシアが大声で怒鳴ってしまった。


「こらぁ!お前ら!商売の邪魔しようってなら賠償を請求するぞ!責任者はどいつだ!」


 御者席の横で長剣を高くに掲げながら迫力ある姿を見せると、その姿と言葉の迫力に押され、二つの騎馬達は体を”ビクッ”とさせながら一定の距離を取り、足を止めた。

 そして、ブラームスに指示をして馬車を止めると、ガルシアが御者席より降りて二つの馬車の間に進んだ。


 さらに先の馬車からネストールが戦斧(バトルアックス)を担いで飛び降り、ガルシアの動きを補助する様に背後に付いた。ティアゴは荷台から二つの勢力を交互に見て、まだ自分の出番ではないとまだ息を抜いていた。

 馬車を挟んで二つの勢力がにらみ合う構図となったが、馬車との間はそれぞれ十メートル程に開き、直ぐに戦端が開かれる雰囲気は無かった。


 後の馬車ではと言えば、まずマルリスが御者席で立ち上がり、弓を握り締めて数本の矢を右手で握っていつでも番える準備をしていた。荷台の中ではエゼルバルドが両手剣をいつでも出せる様にとロックを外し、ヒルダが軽棍(ライトメイス)を握りしめて自らの出番が来るかと様子を見ていた。


「こんな所で関係のない商売人を盾にするとは言い身分だな!理由を言えや!」


 再度、ガルシアが吠える。


「ま、待ってくれ。我々は貴方達に迷惑を掛ける気は無かった」


 ガルシアの言葉に反応したのは馬車の右側、つまりは追っていた一団からであった。一団から一馬身ほど飛び出して、言い訳じみた言葉を告げて来た。言葉を発した物だけが左の二の腕に赤い布を巻いていて、一団のリーダーと見られた。


「あの者達はミンデンで不穏な動きをしていた一団だ。ようやく尻尾を掴んでここまで追いかけて来たのだ。大人しく我等に捕まれ!!」


 そのリーダー曰く、ミンデンで見慣れぬ動きをしていたが、それが終わると北西方向、つまりは海のあるエトルタ方面へ街道を通らずに向かっていた。そして、真意を正そうとしたところ、逆に南へと馬首を向けたのだと語った。


 それに対し、馬車の左に位置する五名程の一団は全くの誤解だと反論した。


「我々の予定通りの行動に難癖付けるのは何事か!全く恥を知れ」


 北西へと草原を進んでいたのは予定の行動であり、それから突如南へと進路を向けたのも寄る場所を忘れていただけだと語った。


 左右の者達の言い分に食い違いがあると誰でもわかるが、左に位置する五名が追いかけられていたのは事実であり、さらに理解できぬ行動をしているとガルシアは結論づけた。

 それならばと、この場をさっさと解決し先を急ごうと決断するのであった。


「よぉ~く、わかった。要するに俺達の邪魔をするって事でいいな。全員、あいつ等を捕まえろ。マルリスは後ろの一団を牽制しろ!!」


 ガルシアは声を高々と上げて、護衛の五人に各自の仕事をするようにと指示を出すのであった。


※なんで商売人の馬車を間に入れたのでしょうかねぇ~。

 この世界でも馬車の護衛は当然であり、見かけなくてもそれ相応の人数を乗せています。それがわからないはずもないのですがねぇ。


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