第四十四話 孤児院が無い理由とは?
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これからも、拙作”奇妙な魔術師とゆかいな仲間たちの冒険”をよろしくお願いします
魔術師は少し遅い昼食を取ろうと宿の近くにあるいつも行く食堂へと足を向けた。
曇天模様だが北から吹く冬の風は冷たく肌が切れそうだと感じ眉を顰めるしかない。ただ、昨日の様な体温を奪う雨が降らないだけで快適に外出できると感じるだけでもありがたい。
しかし、太陽の暖かな日差しを恋しいと思うのは、外出する者だけではないはずだ。
さて、食堂に到着するもテーブルはすでにガラガラで、ポツリポツリと数人が座っているだけだった。カウンターで視線を向けるマスターも、人が疎らになって来たと安心していたのか、カウンターに腰かけ昼食を貪るように食べていた。
この場に、あの少年達の姿があれば話を聞きたかったが、誰の姿も見えないとわかると、仕方ないとばかりにカウンターに腰かけ昼食を注文する。
「マスター、メニューになさそうなんだけど、それって注文できるのかい?」
今日のおススメメニューの中には載っていない昼食に目を付けた魔術師は、迷惑と知りながらも尋ねてみた。
「あん?確かにこいつはメニューに無いが、ただのあり合わせだ。客に出すようなモンじゃねぇぞ」
「そうなんですね。それでしたら、今日のおススメと飲み物をお願いします」
「って、食事してるのに頼むなよ。ちょっと待ってな」
迷惑だとばかりに顔をしかめ、魔術師の注文を伝えに厨房へと向かった。
休憩時間の為、営業口調は終わっていたが仕事は仕事だと受けた注文を言いに行くところは仕事人であろう。
しばらくして注文した昼食が出てきて、考え事をしながら食べるとあっという間に食べ終わってしまった。
今後の予定だが、まずは少年達に話を聞きに行くのが第一であろう。裏路地で屯する少年達が何処にいて、何時から路上生活を始めたのかを明らかにする必要がある。
「ご馳走様。また食べに来ますね」
「おう、待ってるよ」
支払いの硬貨をカウンターの上に置き、そそくさと食堂を出て次なる場所へと足を向ける。
石畳を”コツコツ”と足音を立てて表道から裏道へと入って行く。薄暗い曇天のため、裏道はさらに暗く感じる。
先日、少年達が屯していた場所へ来てみたが、あいにく姿が見え無かった。
「はて?ここで屯していると思ってましたが、見ませんね……!」
少年達の姿を”きょろきょろ”と探していると後方よりいくつかの気配を感じ取り、振り返ってみると先日とは別の少年達が角材や鈍器を肩に担ぎ魔術師を睨みつけていた。
年齢は少し上がって、十三歳から十五歳の成人予備軍と思われた。
「おい、オッサン。ここが何処だかわかってんのか?」
「オッサンとは酷いですね。それは後で躾けるとしまして、私に何か用でしょうか?私はただ、この辺にいた少年達を探しているのですがね」
少年達の口の悪い問い掛けに、ムッとしながらも感情を抑えて答えを口にする。当然ながら、少年達が屯しているのはわかってこの場所に来ているのである。
「オッサンもアイツ等の仲間だってのか?」
「まさか、仲間ではありませんよ。少し聞きたいことがあったから探していただけですが?」
聞きたい事があると口にした途端、少年達は眉をピクリと動かし少し足を広げて重心を落とした。魔術師から見れば、大人一人に複数人で襲い掛かる準備をしているのだろうとの見え見えの行動に、少し痛い目を見せて躾ける必要があるなと同じように準備を始める。
とは言え、少年達を相手にするには肉体一つでは無理がありすぎる。
自分の子供達だったら一人でも相手を圧倒できる訓練を積んでいるが、魔術師にはそこまでの自信は無い。おそらく半分以上は殺してしまうだろう。
そうなっては本末転倒と、得意の魔法を準備するのである。
炎や水の魔法を使うと殺傷能力が強すぎてこの場では使えない。さらに建物を火災に巻き込んでしまうことも考えられる。だとすれば手加減が可能な何時もの魔法を使うしか手はないと考える。
魔術師はすぐさま魔力を集め始める。
念のために右手は腰の細身剣の柄を握りしめ、魔法が躱された時の反撃準備をしておく。
そして、目の前の少年達が動き始めたと同時に魔術師は魔法を解き放った。
「風の弾!!」
魔力がすぐさま二つの空気の塊になり、少年達へと向かって行く。
見えない空気の塊は少年達をかすめるようにまっすぐに進み、見えないが為に守るも躱すも何の動作もできずに三人の少年を跳ね飛ばした。
「えっ!?」
駆けようとしていた少年達は道の脇まで吹き飛ばされる。
とは言っても、裏路地の道幅は狭く、精々三メートルあるかないかだ。中央付近から吹き飛ばされたのだから一メートルが精々であろう。
それでも、見えない力に吹っ飛ばされた事には違いなく、残った少年達はその場で足を止め戦意を失い、力なく危ない武器を捨てるのであった。
「はいはい。オッサンと相手を見くびらず、話をしていればこんな事にはならなかったでしょうね。こんな所に来るのですから、それ相応の実力を兼ね揃えていると考えても不思議ではありませんよ」
一つ勉強になりましたねと、”にっこり”と笑顔で少年達を諭す魔術師。戦意を失った少年達に向けて、すらっと細身剣を抜き放ち、一人の目の先に鋭く輝く剣先を向ける。
「さて、幾つか聞きたい事がありますが、素直に話してくれますよね」
剣先を突き付けて、何時でもあの世へと送れるのだと行動で示しながら、その裏では微笑みを絶やさずにである。
「は、はい。知ってる事だったら……」
「素直でよろしい」
少年達は銀色の切っ先を下ろすのを待って逃げようと考えていたが、そのまま口を開いた魔術師に絶望の色を見せるのであった。
「まず、ここにいた少年達の事を教えなさい」
威勢の良かった少年達も銀色に輝く切っ先に怯え、どもりながら答えを口々にして行く。彼等の言い分では羽振りがよさそうだった少年達に襲い掛かり、持っていた金銭を手中にしたという。こちらは武器を振りかざしていたが、相手は何の武器も持ち合わせていなかったために、あっという間に決着が付いたらしい。
その後は街外れの教会に逃げ込んだ事までは確認したが、いかな少年達と言えども教会に乗り込むなど罰当たりな行動はしなかったと言う。
「なるほど、次にですが、貴方達がこのように路上で暴れる前は何処にいたのですか。正直に答えなさい」
「あんまり、脅さないでくれよ。話すから……」
「宜しい。それで?」
少年達が口にしたのは北にあった孤児院だった。この場にいる少年達の他に数名がいたらしいが、他の場所で同じように路上で生活を余儀なくされているらしい。
「北か。それはどうでも良いが、追い出されたのは二年前だな。それと、女の子はいなかったのか?」
少年達はお互いに顔を見合い、複雑な表情をしていた。驚きも、怖さもその中には内包されていた様だ。
「と言うか、何で二年前って知ってるんだ?」
「ん?簡単だ、町の人が知ってるからだよ。そうなれば当然、私の耳にも入って来るさ」
別段隠す事でもないと、少年達に種明かしをしたのだ。
それにより、少年達は逃げようとしていた気も失せ、この状況が変わるかもしれないと改めて、魔術師に話をするのであった。
「そうか、オッサンなら何とかしてくれるかもしれないな」
「時と場合に寄るぞ。それにオッサンは止めろ」
「へいへい」
少年達は壁際に移動して腰を下ろしてから、最後の話をしてきた。
「実は、オッサンに話しておきたいことがある」
「オッサンは止めろって……。まぁ、いいか、続けてくれ」
「言っただろ、”女の子はいなかったのか”って」
「確かに、言ったな」
今までにない真面目な表情で少年達は話を続ける。
「俺達は孤児院から放り出されたんだ、オッサンが探してる奴らも一緒さ」
孤児院が無くなったとは聞いたが、年端も行かぬ少年達をこうも簡単に捨てる様な方針が通るとは思えなかった。しかも、強引にである。
この世界では人は簡単に死を迎える。それは郊外を歩いていて獣に襲われたり、病気で死ぬことも多い。それに、成人するまでに何割かの子供達が病気などで命を落とす。
幾ら、人口が多くなっても死を迎える者達が一定数存在するには、生まれてきて成長させなければならぬ。
それが、孤児院で養われている子供達だって同様だ。幾ら官吏が権限を持っているからと言って、子供達の未来まで奪う権利など無いはずだ。
そう思っていると、魔術師の心には沸々と怒りが湧いてくるのであった。
「オッサン、大丈夫か?」
「ああ、すまん。続けてくれ」
「俺達はこうやって放り出されたけど何とか生活してる、苦しいけどな。それで話すのは一緒に育った女の子達だ」
「なるほど、少年達は見るが、少女達を見ないのはそれが理由か」
「って、何も言ってねぇぞ、オッサン」
恐らく、想像した通りの事が起こっていたのだろうと、魔術師が溜息を吐く。
「男はいらない。女だけで十分か。見目麗しき姫君は連れられて色町にでも送られたか、何処かに集められているって言いたいんだろ」
「……オッサン、そこまでわかってたのか?だが、ちょっと気味が悪いぞ、その言い方は」
感心したように少年達が視線を向ける。そこで、魔法で飛ばされていた少年の一人が目を覚ましたらしく、倒れたまま魔術師を見上げる。
「アンタに喧嘩を売った事を後悔してたけど、今は逆だな。アンタと出会えた事に運命を感じるよ。そこまで知ってるんだ、最後のピースを知りたいだろう」
その少年は、一度気を失ったが直ぐに気が付き、気を失ったふりをして会話を聞いていたらしい。武器もこの中で一番立派だったからリーダー格と見て間違いないだろうと予想した。
「そうだな、話してくれるとありがたい」
「まず……」
少年は上体を起こして壁に背を付けてもたれ掛かり、楽な姿勢を取る。
「俺達と同じところにいた仲が良かったのは官吏の館に集められてると聞いた事がある。何処にいるかは知らない」
それは初耳だと、興味深く少年に耳を向ける。
守りが重厚だと思っていたが、金銭でなく人を隠しているのだと思わなかった。集めた財を隠しているだけだと予想していたが……。
「あと、年齢が十歳未満は町中にはいない。町外れの教会跡地だ、そこを利用して孤児院の真似事をしているのがいる」
「なるほど、それは信じよう」
いつでも突き付けられるように抜身のまま右手で握っていた細身剣を、ここでようやく鞘に納めた。
「やっとか。すでに戦う気はないよ、アンタとはね」
細身剣を納めた事で少年達はやっと恐怖から解放されて肩の力が抜けたらしい。それぞれの顔に笑顔が戻りつつあったのが見れて取れた。
「出来れば、女の子を助けてやって欲しいが、すでに二年だ。一緒にいた仲間はもういないかもしれないから、アンタが進めたいようにしてくれればいい」
「そうか、わかった。ありがとう」
少年達に一言礼を言って、とりあえず宿に戻ろうと足を動かし始めた時である。
「あ、あと!!」
少年が魔術師を呼び止めた。
何事か?と振り向くと、ボリボリと頬を掻いて申し訳なさそうに一言付け加えた。
「少年みたいなちっこい|のに、気を付けて……」
”わかった”と呟きながら、魔術師はその場を後にするのであった。
宿に戻った魔術師は自室へと戻らず、カウンター前のロビーで小さな丸テーブルに陣取り、頭を回していた。
これから、どの様に動こうかと悩んでいたのである。
(まず、官吏は黒として、その他だな)
この町に派遣されている官吏に疑惑があるではなく、それが現実になっているのだと少年達からの情報でほぼ確定した。町の生き字引である雑貨屋の老婆から聞いた情報を合致していた。
それに、侵入した倉庫群で見つけた紙切れの情報も恐らく、少女達が何らかの形で関わっている。元々、色町で入手していたが何らかの理由があって、孤児院に目を付けて支援を打ち切り、そこに裏から手を回していたのだろう。
そう言えばと、その紙切れをもう一度鞄から出して覗き込めば、ここ二年の数字が跳ね上がっている。一桁前半だった数字がある時を境に十台後半に変化している。
明らかに官吏が関わっているとわかれば、後は乗り込んで力任せに叩きのめしてしまうのが楽だが、どれだけの敵が控えているかわからない。
そして、最大の謎が一つ残ってしまっている。
「さぁて、如何したもんかなぁ……」
魔術師は大きな溜息と共に、次の行動を深慮するのであった。
そろそろ、謎がわかってきましたね。
町のお偉方は何を隠しているのでしょうか?
って、ほとんど答えが出ちゃってるし……。
ただ、黒幕は……。
第9章も10月で終わりそうです。




