第三十七話 卒業試験でゴブリンと戦う
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これからも、拙作”奇妙な魔術師とゆかいな仲間たちの冒険”をよろしくお願いします
「さて、あいつらを如何するかだが……」
ジョセフが班の皆に何の武器が使えるかを改めて確認する。逃げるにしてもどんな手段を持っているか確認しておくのは悪くない。
まずジョセフがブロードソードを使えると話す。半年間でかなりの自信が付き、一対一ならば小鬼ごときに遅れは取らないと豪語していた。
次にジョセフと同室のティムだが、彼はショートーソードを二本腰に差していた。二刀流で使うのではなく、もう一本は予備であると。
そして、班の中で一番背の低いウィニーは腕力の無さを補うために弩を担いでいた。
同行者のレナードは細身剣を主武器として、短剣を投げつける攻撃手段を取っている。
「私は……」
「貴女は何時もうっとり見てるショートソードでしょ」
「ウチは……」
「言わなくてもわかってる、達人級の弓使いでしょ」
ジュリアとアイリーンが扱う武器は訓練場の仲間内でも有名過ぎて紹介すらさせてもらえない状況に陥っていた。
いつでも紹介の順番が回って気もいいようにと待ちわびでいただけに、あまりの仕打ちにがっくりと項垂れてしまった。
ジョセフはまだ距離が離れているので、先制攻撃をしてから切り込んで小鬼を殲滅すると作戦を立てた。だが、誰の目にもそれが作戦となっていないのは当然で、六人で小鬼を相手にするのは無理があると見られた。
「ちょ、ちょっと待って、あいつらの数はわからないのよ。私達の腕が上がってても、実戦はまだしてない。切り込むなんて無理よ」
ジュリアの言うとおり、実戦を経験していないこの班の面子では無理があるだろう。同行者のレナードはすでに二年程、卒業してから時間が経っていて実戦経験もあると見て間違いない。最近は狩りには行って無いが、子供の時には動物相手に狩りをしている。
他の面子は動物相手にさえしていないかもしれない。そうなったら、人型の小鬼を相手にするにはきついはずだ。
「じゃぁ、どうするんだよ?」
「あの、裂け目を使ったらいいんじゃない?」
三十分くらい洞窟内に戻るが、裂け目を使うのは悪手ではない。ただ、三十分も戻らなければならず、作戦に無理があろう。
その後もいろいろと案が出たが、次善の策にもならずに行き詰ってしまう。
そして、コソコソと話をして五分が経とうとしてた頃である……。
「ギャギャギャ!!」
小さな声で話していたが、それが小鬼に届いてしまった様だ。もしかしたら、洞窟の奥から噴き出る風に乗った、人の匂いを嗅いだのかもしれない。
最悪のパターンとなってしまった。
「ちぃっ!各自、自分の身を守りながら洞窟の奥に逃げるぞ。ここで戦っても勝ち目はない」
皆は無言で頷くと武器を抜き放ちながら、小鬼が向かい来るのをゆっくりと下がりながら待つ。
そこで、アイリーンだけが、魔法の光を点灯して光源替わりしていたいた矢を番えると小鬼に向かって躊躇なく放った。
「ギャ!」
洞窟の暗闇を真っ白な光が一直線に線を引き、向かい来る先頭の小鬼の眉間へ狙い違わず突き刺さった。足場の悪い洞窟をゆっくりと向かっていたのが裏目に出て、一匹の小鬼がアイリーンの矢によって倒れたのである。
さらにもう一射しようと矢筒に手を添えた時、その手を捕まれ引かれる感覚を覚える。
「後退だ!君は早く逃げろ」
アイリーンの手を引いたのはティムだった。こんな時に異性に良い所を見せたいのかと憤る。
もう一射していれば確実に小鬼をもう一匹屠っていたはずで、襲い来る速度を緩められたかもしれない。そう思いながら、彼を”キリッ!”と睨む。
「何だよ、その目は。少しは感謝してくれても良いんじゃないか?」
「喋ってる暇はないぞ、来る!!」
ティムの言葉を無視して、アイリーンはその横を通って洞窟の奥へと足を向けようとした。だが、ティムはともかく、リーダーの役をわざわざ買って出てくれたジョセフをむざむざと殺られるのは寝起きが悪いと、彼等の少し後ろの岩上に陣取って攻撃を敢行する。
「あと、十八本……」
矢筒から一本、矢を取り出して”ボソッ”と呟く。今取り出した矢の他に矢筒にはそれだけしか残っていないのだ。
それが尽きればアイリーンは攻撃の手段を失う。それまでに何とか打ち倒したと思う。
卒業試験で洞窟に向かうためにバックパックにいろいろと詰め込み、矢を満足に持ち運べなかった事が悔やまれる。
「とりあえず、一匹だけでも……」
ジョセフとティムの頭上を通り、向かい来る一匹の小鬼の眉間に向けて撃ち放った。その小鬼も一匹目と同じように眉間に矢を受けて、一射で命を失った。
「後は任せてくれるかい?敵は怯んだようだからね」
もう一匹射殺そうと矢筒から”あと十七本”と呟いて掴み取った時に、彼女の横を手を上げて通り抜けるレナードの姿を捉えた。
右手に細身剣を携え、前衛のさらに前に向かう。
前衛に三匹の小鬼が迫り来る。手にした獲物を掲げて迫り来る姿は実戦経験の無いジョセフとティムには恐ろしいに違いない。だが、二人の前にレナードが躍り出て、初撃を食らわせた。
「はああぁっっ!!」
レナードの細身剣が先頭を進み来た小鬼の脇腹を突き切る。レナードはワザと細身剣が抜け出る様に突き刺したのだ。
それによって、小鬼を痛みで攻撃不能にし、次の小鬼へと向かえるのだ。
そして、脇腹を押さえ攻撃の意思を摘み取った小鬼に向かうのは実戦経験の無い二人だ。
人型の敵を屠るのをブルブルと震えて躊躇していたが、地面に伏した小鬼を屠るのは精神的に辛いが、問題なく行動には移せた。小鬼に近づくと握っていた武器を小鬼に突き付け、そして、体重をかけて首に刺して命を奪った。
殺らなければ殺られる!弱肉強食の世界に飛び込んだ瞬間だった。
それから、箍が外れたのか、二人は迫り来る小鬼をなんとか一匹ずつ倒す事に成功するのであるが、そこからは状況が変わってしまった。
弓を持った小鬼が三匹、姿を見せたのだ。
「た、退却だ!!」
前衛にいた三人が逃げようとじりじりと下がり始める。そこへ小鬼が迫り、後五十メートルまでの距離に近付くと、矢を番え射撃の準備を始める。粗末な作りの弓に歪な形の矢を番え、キリキリと弦を引き絞る。このままでは殺られると思った瞬間、弓を構えた小鬼の一匹がドサッと仰向けに倒れ、ピクピクと手足を痙攣させて命を終わらせた。
アイリーンが準備して番えていた矢を、小鬼が攻撃する前に放って一匹を仕留めたのだ。
「矢筒には十六本……」
アイリーンがさらに一本矢筒から抜き取ったと同時に、残った二匹の小鬼から矢が放たれ、三人へと放たれた。一匹が倒れ小鬼が動揺したのか、真っ直ぐ飛ぶはずだった粗末な矢は少し目標を外れていた。
幸か不幸か、飛んでくる二本の矢は、後退りするジョセフとティムに向かって飛び、そして二人に突き刺さった。
「「ぐわっ!!」」
ジョセフは右肩に、そしてティムは頭を庇った左腕にそれぞれ矢を受けた。
「二人は下がれ、」
レナードの声が二人に向けられる。
痛みで歪んだ表情を見れば、始めて受ける矢の痛みに正常な意識を保てていないのだとすぐにわかる。暗がりの中であってもだ。
レナードはジョセフが落とした松明を拾い上げ、二人を逃がすように殿の役目を果たそうとする。
さらに、小鬼は矢を放とうと弓に番えようとするが、そこへアイリーンの一射が再び放たれ、一匹の首を貫き倒した。その一撃に恐れをなしたのか、弓を持った小鬼はクルッと身を反転させ、洞窟の入り口へと逃げだして行った。
「早く逃げよう!」
逃げる小鬼を追撃したかったが、洞窟の入り口に堂々と姿を見せる一匹の小鬼のシルエットが見えていたために追撃を断念し、洞窟の奥へと向かう事にした。それが今の最善だと信じて。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「うぐぐぅ!」
「ぐぐぐっ!」
ジョゼフとティムは矢が刺さったまま三十分歩き続け、三メートルの裂け目を何とか通り過ぎた後で、刺さっていた矢を抜かれた。
小鬼も急いでいたらしく、矢には毒の類は塗られていなかったのは幸運だったと言えよう。
傷薬を幹部に塗り包帯を巻いた二人は痛々しい姿をしていた。たった六人の戦力の二人を失い、どうするかと頭を捻らねばならず皆が頭を抱えていた。
小鬼の追撃が、この場にたどり着いてから現れていないのが今は不気味であった。
「う~ん、もしかしたら小鬼を率いてる奴がいるかもしれないな」
「率いてる?小鬼にそんなのが存在するのでしょうか?」
レナードはうろ覚えながら、先輩から聞いた事を話しだした。
小鬼には群れる習性があり、数匹から十数匹くらいが群れの単位となっているのは一般的に知られている。
まれに、その群れを率いる存在が生まれる時があり、十数匹以上を率いる事が噂されていた。
それが、小鬼長と呼ばれる存在で、通常種の小鬼の肌が土色だとすれば、特別種の肌は赤黒いらしい。そして、バラバラに攻撃してくるはずの小鬼が連携して攻撃を仕掛けて来るなど、いやらしい存在なのだ。
「だとすれば、弓を扱った三匹の小鬼の動きは納得出来るわね」
連携してくる敵に、素人兵法が役に立つのかと思われるが、やるしかないと皆は腹をくくった。
「それじゃ、ここで迎え撃つから準備をお願いするよ」
怪我をしたジョセフに代わり、レナードが指揮を引き継いで皆に次々に指示を出してゆく。あと数時間後には無事に脱出できるか、それとも後悔の念を抱きながら死にゆくか、この作戦に掛かっているのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『グギギギ!!』
この洞窟を住処にしようと来てみれば、配下の兵隊を七匹も失ってしまった。しかも弓を扱える三匹の内二匹失ったのは痛かった。
配下を二十匹も抱えて、すでに三分の一を失い、どうするかと頭を悩ませていた。
とは言え、後十三匹もいればこの洞窟を制圧するなど容易いと考えた。
敵は少数ですでに奥に引っ込んだ、そんな奴らは敵じゃないと。
それにこちらは洞窟に済む種族だ、暗闇でも見通す能力を持っていれば敵がどう出ようがすぐに動きがわかるだろう。
すでに敵が置いていた荷物はこちらで物色済みでたいしたものが無かったのもわかっている。少しだけ食料が残っていたが、それも回収済みだ。敵は食料を持ち合わせていないと見ていた。
それならば一気に攻めてしまえば洞窟を制圧できると確信した。
『グググギギギ!!』
彼は残った全員に出撃を命じた。彼を入れて十四匹が洞窟を制圧するために行進を開始したのであった。
『グギギグギ!』
行けども行けども敵が出てこない。いったい何処に隠れたのか?暗闇を見通せる二十八の目が隅から隅まで見通しているにも拘らず敵は出てこない。天井にまれに蝙蝠がぶら下がってるが、そんなのは敵ではない。
いい加減にしろと彼は言いたいのだ。探索もすでに飽き飽きしてきた。飽きるのが早いのもまた彼等の特徴だ。先頭を行く配下の二匹は出てこない敵に嫌気をさして、すでに遊び始め、じゃれ合っている。
『グギャギャグギャ!!』
こんなので、洞窟を制圧できるはずもないと彼は声を荒げる。
どれだけ歩いて来ただろうか、敵が残した白い光が地面に落ちていた。じゃれ合っていた二匹は格好の遊び道具だと拾って見せあっていた。
『グギャグギャ!!』
それは敵が置いた罠だ。さっさと捨てないと攻撃を喰らうぞ、と配下の二人に捨てさせる。まったく、頭を使わない奴はこれだから困るのだと自分を棚に上げて配下を罵る。
だが、白い光があるという事は敵が近くにいる証拠だ。
『グギャグギャグギャ!!』
彼は配下の全員に戦う準備をさせるのであるが、彼等の行く先には白い光が沢山現れる。さっきの二人は怒られたからか手を出したくても我慢している様だった。それに、錆びているとは言え、剣を与えられているからにはここで敵を殺して手柄を立てたいと考えていたようだ。
『ガァーー!?』
『ギャギャ?』
白い光の中を通っていた二匹が突然消えた。彼は何故消えたのか全く分からなかった。
実際にはアイリーン達が渡った裂け目に沿って生活魔法の灯火を掛けた石を置いておいたのだ。
暗闇の中を見通せる小鬼達は白く光る地面を見て、暗闇に突如現れた眩しい光に対応できなかったのだ。
つまりは白い光に眼が引かれて、暗闇を認識できずに足を踏み外し、裂け目から落下したのである。
『グ!ギャァァ!』
彼が呆然としていると次の瞬間、暗闇を切り裂く風切音が彼の耳に届いた。その瞬間、頭部に衝撃が走り何らかの攻撃を受けたと理解した。
それが弓から放たれた矢だとわかった時には既に遅く、彼の目の前が真っ赤に染まり行き意識を失いながら、これから起こりえたであろう略奪に思いを馳せながら暗くじめじめした洞窟へとその身を委ねるのだった。
対ゴブリン戦。二人が怪我しましたが、辛うじてリーダーを倒すことが出来たようです。
最後はゴブリンチーフ視点でございます。




