第三十六話 卒業試験に突入
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これからも、拙作”奇妙な魔術師とゆかいな仲間たちの冒険”をよろしくお願いします
訓練所の卒業生レナード率いる班は、卒業試験の行われる洞窟を目指して歩いていた。 それぞれ五日分の食糧を持ち、野営の道具を分散してバックパックに詰め込んで担いでいる。
太陽が姿を現して早々に出発したにもかかわらず、太陽はすでに真上に上がって皆を照り付け、体力を消耗させていた。
あらかじめ作り出していた水を入れた水袋の中身もそろそろ底をつきそうな勢いだった。
「あと少しで洞窟に到着するはずだ。もう一度、洞窟の様子を確認しておこう」
昼食の休憩がてら、班のリーダーを申し出たジョセフがこれから入る洞窟の詳細を確認しておこうと皆に提案していた。同行者のレナードは危険が無い限り、一切の口出しは厳禁で、今は卒業試験をにこやかに見守るだけだった。
知り合いのアイリーンの事は気になるが、優しく見守るだけに留めていた。
「訓練所の講師が事前に中を見てると言ってたから危険は無いはずだけど、その後に入り込んだ動物がいないとも限らないから注意しよう。それ以外は足場に注意すれば奥まで入れるはずだ」
手渡された資料を見ながらのジョセフの言葉に皆が一様に頷いて返す。尤も、何度も見返した資料だけに、既に詳細が頭に入っており、見るべきところは少ない。改めて見直す事も無いだろうと少し目を通しただけで皆、資料をバックパックに仕舞った。
「それじゃ、洞窟に向かおう、三十分位で到着できるはずだ」
ジョセフが気合を入れる様に声を掛けると、皆立ち上がりジョセフの後を付いて行く。
「ねぇ、この試験って楽勝……じゃなくって?」
アイリーンに同室のジュリアが話し掛けてきた。これから向かう洞窟の詳細が書いてある資料を渡されてある為に、すぐに終わる楽な卒業試験と思ったようだ。
おそらく、班のみんなも同じように思っていると思えば、迂闊な事は言えないなとアイリーンは考えていた。
アイリーンは、卒業試験なのにこんなにも詳細が書かれた資料を配るのかと疑っていたのだ。向かう先の洞窟の場所はともかく、内部がイメージできるほどの詳細を書いておくだろうかと。卒業試験なのだから、安全を確認するだけに留めて訓練生の訓練度合いを見るべきではないか、と。
そんな考えを浮かべていたから、ジュリアに声を掛けられてもすぐに答えを出せないで黙ってしまったのだ。
「ねぇ、アイリーン。どうしたの、何か気になって?」
「あ、ゴメン。ちょっと考え事してたから……」
「アイリーンも心配性ね。大丈夫よ。私が一緒にいますから」
ジュリアが一緒だとしても、大丈夫と思えないと言う訳にもいかずに、沈黙で返すしかなかった。本当は洞窟がどうなっているのか気になって仕方ないのだが、班のみんなの手前、言って意欲を削いでしまってはいけないと躊躇してしまっていたのだ。
ここでアイリーンが一言でも発言していたら……と思う事が起こるのだが、今はそれを知る由も無かった。
「ここが入口だな」
先頭を歩いていたジョセフが洞窟を見つけて近寄り中を覗き込んだ。彼に付いていた残りの四人も同じように近づいて洞窟を覗き込む。
すると、洞窟内から冷たい空気が勢い良く拭き出て熱さを吹き飛ばし、心地良さに皆が顔を緩ませる。
「ちょっと怖いね。大丈夫なんだよね?」
三人目の女の子、ウィニーが木の棒を拾って蜘蛛の巣を払いながら不安そうな声を上げる。彼女が言いたい事は良くわかると皆が頷いている、
「でも、貰った資料にあるようにあまり危険が無いみたいだから、大丈夫だよ」
リーダーと同室のティムが笑顔を見せてウィニーを元気付ける。普段なら、そんな笑顔に騙されるはずの無いウィニーだが、少しの恐怖と不安が入り混じった洞窟の入り口ではコロッと騙され、頼もしいと思ってしまったに違いない。
そんなだから、リーダーのジョセフが松明に火をつけて洞窟に侵入して行っても、ウィニーはティムの服の裾をしっかりと掴んで離さなずに後を付いて行ったのだ。
「やってらんないわねぇ……。そう思いません事?」
「ウチに言われてもねぇ……」
吊り橋効果でカップルが成立してしまい、ジュリアが毒づいてアイリーンに同意を求めて来るが、探検の第一歩を踏み出した事が嬉しいと思い答えをはぐらかした。
尤も、ジュリアの視線の先は、たった今成立した二人ではなく同行者のレナードが写っているのだが。
洞窟は天井から水がしたたり落ちてくる鍾乳洞の一種で、生まれてからまだ間もないとみられた。
その証拠に水は天井から落ちてきて、首筋を濡らして黄色い声を上げさせているが、岩がツララ状にもなっていないし、地上からもタケノコ状に生えていない。
ただ、一つ言えるのは人の手がもしかしたら入っているかもしれない事だろう。丁度良い鍾乳洞を見つけて、破壊される前にツララ状の鍾乳石を壊してしまおうと考えたのかもしれない。
ちなみにだが、重いバックパックは洞窟に入って少しした場所におろして、最低限必要な道具と携帯食料だけを別の鞄に詰めて各々が持ち歩いている。
「おっと、第一関門だな」
奈落の底とまではいかないが、資料では幅三メートル、深さ十メートルの裂け目が道を塞いでいる。
アイリーン一人であれば、数歩の助走で三メートルなら飛び越せるが、今回はそれをしては卒業試験にはならないだろうと、皆で渡れる手段を考える。
「ねぇ、あの岩にロープを引っかけられないかな?」
洞窟を入ってすでに三十分が経過していると見られ、怖さに慣れてきたウィニーが裂け目の向こう側にある地面から生えた岩を指した。直径五十センチ程の生えた岩はロープを引っかけるのに十分と見られた。
「それなら任せておけ!」
ウィニーに良い所を見せたいティムが、ロープを鞄から出して先を輪っか状にしてひょいと投げる。だが、数度、挑戦してみてもコントロールが悪いようで引っかかるそぶりすら見せない。
イライラしていたのは誰も同じであったが、アイリーンだけは違った。
「ちょっと、ウチに貸してみてよ」
ティムからロープを奪うと、そのロープを投げるのではなく、裂け目を数歩の助走だけで飛び越え輪っかを岩に通して、またこちら側へ戻ってきた。
「はい、お終い。……あれ?みんなどうしたの、っあ!!」
レナードも含めて、皆が動きを止めてアイリーンを冷めた目で見ていた。さすがのアイリーンも”しまった”と口元を押さえ、自らがうっかりと取ってしまった行動を反省するのである。
「アイリーン、ちょっと、宜しいかしら?」
「ん、なに?」
ジュリアが、ちょいちょいと手を振ってアイリーンを呼ぶ。それに従い彼女の下へ赴くと、ジュリアはアイリーンの脇腹を手でつついて来た。
「ちょ、ちょっと止めてよ」
「貴女は何でそんな簡単にしてしまうのかしら?これは卒業試験なのよ」
「ご、ゴメンって。反省してるから、許して~~!!」
それからしばらく、アイリーンの脇腹をつつくのはしばらく続き、それが終わった後はなぜか色っぽく息を吐きながら横たわる姿が見られたのだ。
「これで制裁は終わり!次からは気を付けるのよ」
「は、はい……」
アイリーンの活躍(?)で最初の関門は難なく通過し、第二第三の関門も誰かの手によって、と言うか、たいした事の無い関門だったのでサクッと通過してしまった。
何の訓練もしていない一般人だったら、第二第三の関門も苦労したが、ここには半年間みっちりと訓練に明け暮れた五人が顔をそろえているのだ、簡単に突破して貰わなければ訓練所も困ってしまうだろう。
そして、資料にあった洞窟の最奥に到着すると、五十センチ四方の四角い宝箱が訓練生を待っていた
「この中身を持ち帰れって事か……」
南京錠の付いた宝箱を目の前にして皆がそれに目を向ける。資料には宝箱の中身を持って帰れとの指示が記されているだけだ。南京錠ならだれでも一、二分もあれば開錠できてしまう腕は皆が身に付けている。
罠も仕掛けれていない様で、リーダーのジョセフは口よりも早く手が動き、南京錠を開けていた。
「腕輪……?」
錆びついた蝶番の鈍い音と共に宝箱が開けられると、中から木製の腕輪が五個出て来た。
「えっと、何だろう。これを持って帰れば良いのか?」
「でも、腕輪の内側を見て!」
アイリーンも一つ、腕輪を受け取り、内側に目を向けてみると”おめでとう?”と掘られているのが見える。
「”おめでとう”って私達の卒業を祝福しているのですわね」
「それはおかしい。”おめでとう”の後に何故”?”が付いているんだ」
ジュリアが腕輪を見て喜んでいたが、誰かがそれはおかしいと彼女を否定する。やはり気になるのは”?”である。疑問符がなぜ付いているのかと皆が頭を捻っている。
「だとすれば、俺達はまだ卒業試験をパスしてないって事だろうね」
「やっぱりそうか、僕も可笑しいと思ったんだよ」
ジョセフとティムの男二人が、確信を得た様で宝箱を調べ始めた。箱の中、外、そして洞窟の天井、地面……。だが、松明の光をあてて、十分な光量が得られているにもかかわらず、何も発見できずにいた。
「おかしいなぁ。何もないぞ、探し方が悪いのか?」
それから三十分程、皆がああでも無い、こうでも無いと索敵も忘れて意見を言い合っていると、アイリーンが”ああっ!”と突然声を上げた。
そして、矢を一本、矢筒から取り出し、生活魔法の灯火を唱えて白い光を新たに作り出した。
「どうした?何を気付いたんだ」
ジョセフだけじゃない、皆が気になってアイリーンに視線を集中している。そして、宝箱の中をその魔法で作り出された白い光で照らし始めた。
「揺らぎ、揺らぎよ。魔法の光は安定しているけど、松明はゆらゆらと燃えているから固定していても光は安定しないのよ。だから見逃したのよ、きっと」
アイリーンが気が付いたのは言葉の通りで、魔法の光は掛ける場所が必要ではあるが光源の場所がゆらゆらと動く事は無い。だが、松明は木の先端が燃えているので微かに光源が揺れ動く。
松明の光で壁面に写った影がゆらゆらと目の錯覚かと思われるくらいに微妙に動いていたのに気が付いたのだ。
そうして、松明ではなく魔法の光を作り出して光源としたのだ。
「そうだ、やっぱりあった。ほら、これ!」
揺れ動く光だとわからなかったが、魔法の固定された光源からの光ではすぐに宝箱の謎が判明した。
松明を洞窟で使うのは理由がある。大きな理由は松明が急に消えてしまえば息が出来なくなり、死んでしまうからだ。可燃性のガスが噴き出ているよりも、不燃性で息が出来ぬ方が圧倒的に多いと、この訓練場では教えているので、マニュアルに沿った探索だったので間違いではないのだ。
「ふ~ん、二重底ね。卒業試験もたちが悪いわね。もうしかして、昔からなのかしら?」
宝箱の底を見ていたジュリアが、同行者のレナードへ視線を向けると、彼は苦笑いをして肩をすくめた。どうやら正解だったらしい。
「よくわかったね。今だから言うけど、木の腕輪でも卒業試験は合格なんだ。だけれども、下にある指輪は卒業した後の活動資金としてもらう様にとの国からの配慮って訳さ」
アイリーンが取り出した五つの指輪は金色に輝いた台座に赤い宝石がはめ込まれている。真っ赤な宝石、大玉のルビーは見ている者を魅了する。指輪を皆に渡すと、大事そうに鞄に仕舞い込んでいた。
「例年だと、一組がその指輪を見つけて来るけど、今回は何組が見つけるか楽しみだ」
にっこりと笑って、”よく見付けたね”とエールを送った。
「それじゃぁ、帰ろうか。殿は魔法の光を持ってるアイリーンね」
「うん、わかった」
松明を持ったジョセフを先頭に、一列になって用を済ませた洞窟を出ようと入り口に向かって歩き出した。
宝箱からすでに一時間程歩き、もうすぐ出口にたどり着こうかと、皆の気が緩み始めたその時、先頭を歩いていたジョセフの足が止まり、皆にかがむ様にと指示を出した。松明も光が見えない様にと地面に置いていた。
「如何した?」
「あれを見ろ、小鬼が来やがった」
小鬼達は、彼らが置いてあったバックパックに群がり、中身を物色していた。
トルニア王国に住まう小鬼ならいざ知らず、他の国では小鬼は人の敵対者となっている。人を見れば集団で襲い掛かり、所持する物資を奪って行く、いわば、渡り行くイナゴの群れの様な存在だ。
「さて、どうする?出口はあそこ一か所だ。隙を見て逃げるか、戦うか、二つに一つだ」
こっそりと車座になりジョセフが洞窟からの脱出を如何するか、意見を聞こうとするのであった。
英語で記されているとすれば、”Congratulations?”ですかね。
小鬼:ゴブリン:は集団で生活し、集団で戦います。雄と雌が同居している。
人間の女を襲って手籠めにして孕ませる……その様な設定にはしていません。




