第三十一話 黄色薔薇騎士団、発足!
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これからも、拙作”奇妙な魔術師とゆかいな仲間たちの冒険”をよろしくお願いします
「ねぇ、カーラ。起きてる?」
「まだ起きてるわよ」
部屋の明かりを消してベッドに潜り込んだは良いが、王城に泊まっている事、そして、パトリシア姫から告げられた言葉が頭の中をぐるぐると回り、二人は眠れずにいた。
スースーと寝息が聞こえてくるが、カーラではなくアンジュではないかと思い天井を向いたまま声を掛けてみた。
「ねえ、アマベルは如何するつもりなの?アマベルが王女様の勧誘に乗るのなら私も付いていくわよ」
「おれに将来を委ねていいのか?もっと、ほら……自分の意思があるんじゃないのか?」
「叔父さん達にも言われたんだけどね。私も色々と考えている事があるのよ」
カーラは昨日の帰宅時に、どんな仕事を請け負っているのかといつも心配しているのかと告白されたばかりでだった。アマベルとのワークギルドでの仕事は楽しいし、やりがいもあり、いつまでも続けていたいと思った。
だがそこに、心配しているとの同居人からの告白があれば考えざるを得ないだろう。
「騎士になって安定した収入を得られるのも魅力はあるね。でも……」
アマベルはそこで言葉を切り、言い澱んだ。
騎士に成るほどの実力が本当にあるのか、騎士になる資格があるのか。悩んだらきりがなかった。
それに、悩み続けていたら一年経っても結論が出ないとも感じ、ついカーラに弱音を吐いてしまった。
「おれって騎士になる資格ってあるのかなぁ」
「そうね。私も騎士としての資格って本当にあるのか、考えちゃうわね」
カーラも同じように悩みを抱えていたらしく、弱々しく自信が無い言葉が返ってきた。
「隣で聞いていれば、何、消極的になってるのよ。騎士、お姫様の騎士よ。光栄と思わなきゃ。それにこんなチャンスは二度とないのよ、私だったら二つ返事で返しちゃうけどね」
アマベルとカーラの会話が耳に入り、浅かった眠りから目を覚まさせられたアンジュが、布団を跳ねのけて起き、口を挟んだ。
アンジュは一度、王都アールストの中でも五指に入る豪商の息子との結婚が決まっていたが、相手の言動により破談となってしまった過去を持つ。
その経験から、何かを掴むには時間を置いてしまっては逃げてしまうだけだと、考えるようになっていた。
それから積極的に動く事により、今の探偵事務所で働けるようになり、人生が大きく変わったのだ。人生が変わったのは、婚約を解消され失意の底に沈んだ事が大きな原因でもあったのだが……。
アンジュが飛び起きた事で、四月の寒い夜に三人はランタンの小さな灯りの中を囲んで話し合い、日付が変わってしばらくの間、それが続いたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夜が明けて、昨日のコルセットを身に付けられたきついドレスとは打って変って、ラフなワンピースを着込んで、晩餐会と同じ顔ぶれで朝食を取っていた。
ホスト席に座るパトリシア姫も同じようなワンピースで、片肘で頬杖を付き王女らしかぬ姿勢で食後の紅茶を楽しんでいた。アンブローズはその姿勢を見て何か言いたげであったが、目の前に座る騎士団団長のギルバルドに動きを止められ、沈黙を守っていた。
「昨日はありがとうございました」
魔術師のカーラがパトリシア姫へ、お礼の言葉を口にした。
その前の日に、遅くに帰宅して同居人に心配をかけた事で、王城に一日泊まると伝言を頼んだのである。その伝言も、犯罪を起こして捕まったと同居人が勘違いをして玄関先で大騒ぎになり、その様な事実はなく助けられたお礼を王女がしているのだと、誤解を解くのに一苦労していたと聞き、お礼を言わなくてはと思っていたのだ。
「なに、妾が頼んだのじゃ。それくらい当然じゃ」
紅茶を口に運びながらパトリシア姫は微笑みを浮かべる。
「それで、パトリシア王女様。昨日のお話ですが」
「なんじゃ、堅苦しいな。もっと砕けた呼び方で良いぞ。アンブローズは”姫様”と言うしな」
アマベルの他人行儀な話し方が気に入らないパトリシア姫がアンブローズに冷たい視線を向けながら釘を刺す。散々、パティと敬称を付けずに叫んでいただけに、今更と思ったのだ。
「それでは、姫様」
「それで良い。で、なんじゃ」
「はい、昨日の姫様のお話大変嬉しく思いました。ぜひ、姫様の下で働かせて頂きたいと存じ上げます」
「お願いします」
「そ、そうか!」
客室へ通された後、ベッドに入ったものの寝付けずカーラやアンジュと話し合った結果であった。
第一の理由は、アンブローズ達の騎士の実力を間近に見て、その実力を身に着けたいと感じたからだ。ワークギルドでは二人合わせて様々な依頼を受けて来たが、これ以上、実力を上げるには環境が整っていないと感じていた。
第二の理由は、収入の面で魅力があった。一攫千金を狙うにはワークギルドで依頼を受け続ける方が良いが、怪我等で動けなくなった場合には自己責任で怪我の回復、入院をしなくてはならない。それに、依頼を受けられないのであれば収入が無くなってしまうのも痛い。その点、騎士になれば一定の収入が約束されるはずであった。初めはそれも低いかもしれないが。
だが、デメリットもある。今は自由な時間でワークギルドに行き依頼を受ける。そして、休みも自由に取る事が出来る。
騎士になってしまえば休みは決まった日に取らなくてはならず、さらに戦争が起きれば強制的に参加せざるをえなくなる。尤も、盗賊の討伐の延長と考えれば、戦争はデメリットに感じないのであるが……。
そんな理由もあり、二人はパトリシア姫に頭を下げて、申し出を受ける事にしたのだ。
それを聞いた、パトリシア姫は余りの嬉しさに紅茶が入っているのも忘れ、カップを無造作にテーブルへと置くと、アマベルとカーラに手を差し伸べ握手を求めた。
「では、これからよろしく頼むぞ」
「「はい、宜しくお願いします」」
二人が騎士団に入る事になり、喜んだのはパトリシア姫だけでなく、見守っていたギルバルドやアンブローズもそうであった。ただ、彼らはしごきがいのある新人が入って来るのだと別の意味での喜びであったのだが。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
四月が終わり、五月に入ってすぐ、王城で二人の女性騎士が入団した。パトリシア姫の騎士団発足はまだ先である為に、騎士団団長ギルバルド付きの訓練生としてであった。
予め、二人には伝えていたが、足腰を鍛える事が最重要課題だったために、初日から屋外訓練場を走らされていた、それも一日中である。
休憩も途中途中に取る事は出来たが、一日が終わった時には食事を取って直ぐにベッドで大鼾を掻いていた程である。
それが半月ほど経つと、走り回る訓練は半分になったが、王女付きの騎士としてのマナーの講習となった。それは王侯貴族への挨拶から、食事、言葉遣い等、多岐にわたった。
アマベルの言葉遣いは一部修正できなかったが、それはギルバルド団長の口の悪さを考慮して咎められることは無かった。アマベルの個性として残そうと最終的にはパトリシア姫が結論を出したからである。
六月に入った頃には体力もだいぶ付いてきて、訓練場をかなりの速度で走り回る事が出来る様になると、体力作り、マナー講習、に加えて剣技訓練が追加される。
アマベルは体力向上もあって、男性騎士と打ち合いにはすぐに慣れたが、魔術師カーラは基本が出来ておらず、剣技は苦労していた。
魔法を使えぬ時に役に立つのだが、”魔術師に剣技が必要なのか”と愚痴をこぼしていた。
六月の訓練の合間には、パトリシア姫の護衛として騎士養成学校を回り、新人の発掘も手伝ったりとアマベルとカーラは忙しい日々を過ごしていた。
「それで、二人には話があるのだが……」
アマベルとカーラ用に新しく作られたばかりの外出用の軽量鎧を身に着けている最中にパトリシア姫から相談があると告げられた。
「えっと、姫様。畏まってどうされたのですか?」
「何時もの姫様らしくないのですが」
「そう言うな。重要な事なのだぞ」
それからしばらくは二人が軽量鎧を身に着けている最中であり、パトリシア姫は黙っていたが、出掛けるために馬車へと乗り込んでから、再度、口を開きだした。
「重要な事だ。実は、騎士団の名称を決めたいのだが、何か案が有るかと思ってな」
「騎士団の名称ですか?」
「姫様直轄騎士団とかでは駄目なのですか?」
アマベルの出した、安直な名前にパトリシア姫姫は首を横に振って拒否した。もっと気の利いた名称が欲しいのだと。
とは言え、パトリシア姫が素晴らしいと賛美する名称はなかなか見つかるものではなく、その日、王城に帰るまでにいろいろと案を出してはいたが決まる事は無かった。
そして、王城に帰着し馬車からパトリシア姫が下りた時にアマベルはある植物が目に飛び込んできた。
「姫様、アレなど、名前に宜しいかも知れませんよ」
「ん?」
王城のエントランス中央の花壇に咲きほこる、真っ赤な花を付ける棘のある植物。だが、その色の花言葉はパトリシア姫には似合わない。
そこはパトリシア姫の髪色に近い植物を思い出せば、ぴったりな花ことばが見つかった。
「こんな時にですが、一つ閃いた騎士団の名称があるのですが……」
「それなら、自室で聞こう」
ここでは都合が悪いと、二人を従えて自室へと向かって行く。
パトリシア姫の自室へ戻り、外出用の服装から室内用の楽な服装に着替え、テーブルに腰掛けると先ほどの話を聞き始めた。
「それで、エントランスでの話の続きを聞こうか」
「はい、薔薇を見て閃いたのですが、薔薇を騎士団の名称にしてはどうかと」
「薔薇騎士団か?女性騎士団には良い名称ではあるが、少し安直ではないか?」
植物の名称が入るのはパトリシア姫としては宜しいと思ったが、あまりにも安直であると難色を示した。そこで、アマベルが一つ付け加えるのである。
「姫様の髪色をイメージして、ぴったりな花言葉が薔薇にはございました」
「花言葉だと?」
アマベルがイメージしたのは。金色のパトリシア姫の髪色そのままを使うのではなく、近似色の黄色を入れる事だった。
黄色い薔薇の花言葉は”友情”、”平和”、”愛の告白”、そこから今の時代に合った、平和を象徴する騎士団としてはどうかと告げたのだ。
「黄色薔薇騎士団って事か?」
「はい、黄色薔薇騎士団ではいかがでしょうか?」
金色に輝く薔薇は存在せず、名称にするとおかしくなる。だが、黄色とすればパトリシア姫自身の髪色を思い出させる事もあり、誰を守る騎士団か、一目でわかり適切と思えた。
それに、薔薇はパトリシア姫が好きな花の一つでもあれば、異を唱える事も無いとアマベルの案を採用する事にした。
「よし、それで行こう。早速、お父様に話してくる!」
言うが早いか、二人をその場に残して、サッサと国王の下へと駆けて行くのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それから月日は流れ、八月の暑い日の事である。
屋外訓練場にパトリシア姫直下の騎士団団員が全て揃い整列をしていた。
騎士二十名、魔術師五名、そして隠密兵五名、総勢三十名の小さな部隊である。
それに団長の一名が集団より前に出てパトリシア姫からの訓示を聞いていた。
六月の騎士養成学校の卒業時には全ての団員が揃わず、すべての団員が揃ったのは七月の半ばを過ぎてからであった。特に、隠密兵候補を集めるのに苦労したのだが、そこは国家の隠密部隊と、アンジュのいた探偵事務所の協力を得て何とか集めることが出来た。
実際にはパトリシア姫の騎士団として正式に発足するのは訓練が一段落する年明けの一月からとなるのだが、今は彼女の言葉に皆が目を輝かせてる。尤もその中で二名は死んだような目をパトリシア姫に向けているのだが。
「集まったのは精鋭として期待する三十と一名。これから、トルニア王国の騎士として、そして、妾の手足としての活躍を祈るものである」
長いパトリシア姫の訓示が終わりを告げようとして、彼女は最後の一言を高らかに宣言する。
「ここに、黄色薔薇騎士団の発足を宣言する」
その一言で、集まった三十一名は腕を大きく上げて大きな声を上げた。
その後、王城の訓練場では元気に走り回る女性騎士と疲れて女性を諦めたような声を出しながら倒れる女性騎士達の光景が毎日のように目撃されるのであった。
パトリシア姫所属の騎士団の発足物語はこれにて終わりです。
この章が終わってからも度々出て来る予定ですので、お楽しみに。
次は、何故かアイリーンの話です。




