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第二話 魔法の応用【改訂版1】

2019/3/18改定

 エゼルバルドがスイールより新たに教わった攻撃魔法の練習を始めて六日が経過した。

 毎日、練習を欠かさず行い、火球を出す速度、回数は()()()()上達したが、まだまだ誤差の範囲である。

 それでも、エゼルバルドとしては、成果が出始めていたので練習を張り切っていた。




 この日、エゼルバルドは魔法の練習を行うための、あの沼ではなく、何故か守備隊詰所の調練所に来ていた。

 そこにはエゼルバルドの他に、スイール、ヒルダ、そしてシスターにジムズもいる豪華なメンバーが揃っていた。


 守備隊隊長のジムズは昇進を打診されていると噂されていて、街中では噂が絶えない程の渦中の人物である。それだけ、隊長に任命されてからの期間が長く、手柄を積み重ねているのだろう。


 スイールはいつもの杖だけを握っていた。エゼルバルドは借り物の練習用の剣と杖、ヒルダはシスターから借りた練習用のメイスと丸い盾を持っている。

 シスターも練習用にメイスと盾、ジムズも練習用の剣を持ってきている。

 ここにいる全てが、何らかの白兵戦用の練習武器を持っている事になる。魔法の練習なのに何故だろうとエゼルバルドは首を傾げてた。


「さて、この場を借りたのは、練習できる場所がここしかないからだ。場所を提供してくれたジムズには皆でお礼をしましょう。それで、魔法を使っても良いけど、本気で使うと壊れるので注意するように。それでは練習を始めよう」


 ジムズにお礼を言った後、スイールが宣言してこの日の練習が始まった。


「それじゃぁ、まず、エゼルがこの六日でどれだけ、魔法が出来るようになったか見せてくれるかな?」


 調練場には、弓の練習用に丸い(まと)が設置してある。木製で矢が刺さり易いように作られている。

 ただ、その的は”ボロボロ”になっていて、処分しようとしていた的を今回は魔法の練習用に用いる。一種の廃品利用である。


 エゼルは、スイールの指示に無言で頷くと、右手に杖を握り集中し魔力を溜める。そして、一秒ほどで魔力が火の球に変換されると一直線に訓練用の的に向かって飛んで行った。


火球(ファイヤーボール)!」


 ある程度、燃えぬ様に威力を絞ったので威力は殆ど無いが、二十メートル先に設置された的の()()()()に火球が命中し、焦げ目を残して火球は四散した。


「「おおぉ!!」」


 それを見て、ジムズとシスターが声を上げて驚いた。

 攻撃魔法を教わり、わずか六日足らずの子供が二十メートルもの先にある的のど真ん中に命中させたのだ。教わったばかりであれば的に当てる事さえ難しいはずなのに、難なくこなしてしまったのだ。


「スイールや。この子、本当に教えてから六日しか経ってないのかい?」


 思わずシスターの口から言葉が漏れてしまった。


「ええ、本当ですよ。ですが、生活魔法をずっと練習させてましたから、下地がきちんと出来ているので当然と言えば当然の結果ですけどね」

「アンタが凄いんじゃなく、この子が凄いんだけどな」


 魔法の練習を小さいときから欠かさずさせていたからとスイールは胸を張っていたが、魔法の練習をずっと続けていたエゼルバルドが凄いのだと、彼の高くなった鼻を折ると、ごもっともだと小さくなった。


 褒められたエゼルバルドは嬉しそうに笑顔を見せていたが、それよりもシスターが自分の事のように喜んでいたのが印象的だった。


「剣も扱えて、魔法を教わり始めて六日目でこれなら、怖いもん無くなるぞ」


 剣術の練習を見ているジムズも、太鼓判を押しても良いかと考えている様だ。


「魔法は火を出すだけですから、これからですよ。剣の扱いも、もっと出来ると良いですが、教えてくれる人がいないのが、これからの課題でしょうかね?」


 エゼルバルドの剣術の腕前は、年齢から見ても突出している。十五歳になる前にジムズを上回ってしまうのではないかと今から懸念事項としてスイールは悩んでいた。

 それに加えて、魔法が使えるのだから、どれだけ強くなるのか、楽しみでもあった。


「ところでシスター、ヒルダは何ができる?まさか、攻撃魔法を教えてないでしょうね?」


 シスターの横で、頭の後ろで手を組んで楽しそうに見ているヒルダが気になりスイールは尋ねてみた。エゼルバルドの魔法に驚いた様子も見せずに、こやかな笑顔を見せているのがとても気になったのだ。


「この子には回復魔法と防御魔法を教えてるだけだよ、少し前からね。と言っても一か月程だけど。あと、攻撃魔法は教えてないよ」

「そうですか。それなら、ヒルダもどのくらい出来るか見てみましょう」


 シスターの答えを聞き、スイールは少し意地悪な笑顔をヒルダに見せる。


「ヒルダ、あの的辺りで魔法防御、発動できるかな?的を守るように」

「は~い」


”トコトコ”と的に向かって歩いて行き、魔法を発動させて魔法防御(マジックシールド)で的を覆った。そして的より少し外れ、火球が当たらない位置でエゼルバルドを見ている。


「エゼル、さっきと同じくらいでいいから、的に向かって魔法を撃ってみて。多分弾かれるから」

「はい!」


 エゼルバルドが的に向き直り、瞬く間に火球の魔法を発動して的にそれを飛ばす。


火球(ファイヤーボール)!」


 エゼルバルドの火球(ファイヤーボール)は、またしても的のど真ん中に向かって飛んで行くが、今度はヒルダが発動した魔法防御に遮られ、命中せずに火球は四散した。


「うん、予想通り。エゼル、もう一回。ただし、威力はそのままでいいから、魔法を小さくして、火球の当たる範囲を狭められるかな?」


”たぶん出来ると思う”と呟き、溜まった魔力が圧縮され、変換されると小さな火球を生み出した。


火球(ファイヤーボール)!」


 そして、火球は同じ軌跡を引いて的に飛び込んみ、ヒルダの展開した魔法防御(マジックシールド)を”パリン”と突き破ると的に当たって新たな焦げ目を作り出した。

 スイールは予想通りと満足げな顔で”ウンウン”と頷いているが、破られたヒルダは頬を膨らませて”ムッ”とした表情を見せていた。


「それでは、ヒルダ。今度は的の前だけに魔法防御で覆ってみてくれるかな。魔力は先ほど同じで。それが終わったら、エゼルは今と同じ魔法を」


 エゼルバルドに負けてなるものかとヒルダが魔力を溜めて的の前だけ、約五十センチ四方を魔法防御で覆った。

 先程の、的からヒルダの前までの広範囲で覆っていた時に比べ、魔力が集中しているのが目視でわかる程だった。


 的の前面にキラキラと光る透明な板が現れたのを目視し、エゼルバルドは火球の魔法を発動して的に撃ち出す。


火球(ファイヤーボール)!」


 四度目の火球(ファイヤーボール)が的に向かって一直線に飛び込むが、ヒルダの展開した魔法防御(マジックシールド)に阻まれ、火球は四散した。


「これが同一魔力での応用だ。本来であれば説明するのに少し早いんだけどね。魔力を狭い場所に集めれば一点の威力は集中する。逆に広範囲に広げれば、威力は弱くなる。合算した威力は同じだけど、応用で色々使えるんだ」


 エゼルバルドとヒルダに向かい、身振り手振りを使いながらなるべくわかり易いように説明を続けた。その努力もあってか、二人はなるほどと頷いていた。全てを理解したのかは二人の顔を見れば不安しか残らないのだが。


「と、まぁ言葉で説明しただけじゃわからないと思ったから、先に実地でやって貰った。防御魔法は私が使おうと思ってけど、ヒルダが出来たからやってもらった。そんなところだな」


 全ての説明が終わった後、スイールに向けて尊敬の眼差しを二人は向けていた。魔法を教わるのは体で覚えるしかないが、理論的に説明されるのはわからないなりに心に沁み込んだらしい。


(後は練習あるのみだぞ、エゼルにヒルダ。がんばれ)


 スイールは内心で二人にエールを送ると、この日の魔法の練習は終わりを告げる事になった。


「魔法はこのくらいで、剣術の練習に入ろうか。今日も寒いから、体を動かしていこう!これからはジムズとシスターにお任せしますね」


 魔法の練習が終わったからと、スイールは調練所の隅で腰を下ろし休もうとした。


「おいおい、お前さんも体を動かすんだよ。子供にばかりにやらせてダメな後見人だな」

「そうだよ、隊長さんが正しい。アンタも体を動かすんだ。ヒルダに少し、稽古つけて貰いな」


 ジムズとシスターに辛辣な言葉を投げつけられると、”やれやれ”と、重い腰を上げて練習に参加するのであった。




 さて、エゼルバルドとヒルダであるが、年齢が上がって体もだいぶ出来上がり、一人である程度の武器は扱えるようになっていた。


 小さいときから剣術の練習をしているエゼルバルドは、普段の練習でジムズと平気で撃ち合っている。特に十二歳となって少し体格ががっしりとしてきた為、ぶつかっても吹き飛ばされることが少なくなった。


 ヒルダも二年程、シスターに師事しているので、そこそこの形になっているが、まだ足の運びに不安がありそうだった。シスターもそれがこれからの課題だと思っているが、まだその段階ではないと上手い事手加減をしているので、怪我だけは無いらしい。足を引っかけて転ばしてはいる様だが。


 その二人の練習風景を見て、スイールは目を見開いて驚いた。


「二人とも、私より動きが良く見えるんだが、気のせいか?」

「あれだ、剣術の練習を(ないがし)ろにしてるから、体が(なま)っているんだろ」


 二人が体を動かしている時に何処かへ行って練習を(ないがし)ろにしているだけだろうと辛辣な言葉をジムズが掛けて来た。

 それを聞いて、あわてて練習用の剣を借り、鈍っている体を目覚めさせるべく、素振りを始めた。


(それにしても、末恐ろしい二人を育ててる気がする。魔法の練習を始めたばかりなのに、そこそこの魔力を秘め、さらに剣やメイスを振るうんだから。エゼルバルドは体が十分成長すればジムズを早々に追い越す。ヒルダもシスターが手加減しているとはいえ、そこそこ打ち合えている。このまま、この街で埋もれさせるには惜しいな。世界を教えて、見せてやりたい)


 素振りをして体を温めつつ、スイールの内に秘めた野心が前にもまして燃え上がるのであった。




    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 エゼルバルドとヒルダが学校、遊び、練習と子供ながらに忙しい日々を過ごしているうちに、季節は進み、学校は夏休みの長期休暇となろうとしていた。

 さすがに夏は暑く、勉強に身が入らないだろうと長期の休みに入るのである。

 しかし、学校からは宿題は出されるので、少しずつ終わらせる必要がある。


 それはさておき、スイールは旅行を企画していた。旅行と言っても隣の大きな街まで行って観光して帰ってくるだけなのだが。向こうで七日ほど過ごそうと考えていた。


 行先は、ブールの街から北に三百キロほどの場所にある海の街【アニパレ】。

 ブールの街は山の(ふもと)にあるので、海の見える街が良いだろうと考えての選択だ。街の規模はブールよりも大きく八万人くらいが街の中で生活をしている。海に面しているので魚など海産物を捕る人達が多数働いていて、海産物の加工も盛んであった。

 そこで加工された品々は船に乗せられ、ブールの街まで運ばれるので、街の存在自体は誰もが知っている。


 ブールからは河に沿って船が運行されているので三百キロとはいえ、行きは二日の距離。帰りは河をさかのぼるので、四日ほどの時間がかかる。

 それでも陸路を馬車で移動するよりはずっと早い。


 スイールが旅行を思い立ったのが雪解けの四月、社会勉強も兼ねてだ。

 同行者はスイールをリーダーとして、シスターとエゼルバルド、ヒルダ。その他の子供達は親戚から呼び出されていたり、用事があったりと都合が付かなかった。


 旅行の話をエゼルバルドとヒルダに話をしたとき、二人は諸手を挙げて喜んだ。

 だが、そんな二人を見たシスターは、落ち着きがなく大丈夫なのかと怪訝そうな目を二人に向けていたのが印象的だった。


 予定が決まれば、夏休みの八月までに旅の装備を整える。船を使っての旅行なので、途中で獣が襲ってくる事は少ないが、服の下に身に着ける鎖帷子だけは用意した。後はエゼルバルドが練習用の木剣とナイフ、ヒルダが杖代わりの棒とナイフだ。

 荷物は食料と着替えがほとんどで、その他、必需品が数点だけだった。




    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 そして、旅行当日。




 旅行に出掛ける四人は、まだ孤児院の中にいた。地平線の向こうに白々と太陽の光が見え始めるこの時間に置きだしたのは、旅行の保護者として同行するスイールとシスターだ。


 連れて行く子供たちは、ベッドの中でまだ、夢の中にいるはず。

 スイールとシスターはそんな二人を布団を剥ぎ取って乱暴に起こす。

 優しく起こしても、目を覚まさずもしかしたら二度寝をしてしまうのは目に見えており、予定の船に乗り遅れると憂慮した。その為、仕方なく乱暴に起こす事にしたのだ。


「おはよう。早く着替えて支度を整えてください」

「「はぁ~い」」


 眠い目をこする二人を見ながら、起こし方とは逆の、優しい声で二人に朝の挨拶をする。

 強引に夢から覚めた二人は、ごそごそとベッドから起き出し、用意してあった服に着替え出す。とは言え、夢現(ゆめうつつ)のためか、ゆっくりとした動作であったが。


 ようやく着替えが終わり荷物を担ぐと、何となく頭が起きて冴えて来たようだ。

 外では地平線が明るく光り出し、太陽が頭を出す時間に差し掛かっている。


「それじゃ、出発だ」

「「おーーーー!」」


 まだ街は眠っている。小声での掛け声だったが、子供達の声には力が入っていた。

 最初に目指すのは、ブールの街の東にある船着き場。

 四人は孤児院を出て、元気に歩き出すのであった。


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