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第二話 グローリアの武器と悪い噂

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2019/3/21 サブタイトル変更

「お、この店はなかなか品ぞろえがいいな」


 この日、朝から鍛冶屋巡りをしていたが、満足する品ぞろえの店に入ったのは八軒目にの事であった。鋳造品ばかりを扱い、実戦ではすぐに使い物にならなくなる、そんな武器を扱っている店が多かったのだ。

 そして、やっとの事で入った店では、店主が常に眉間にしわを寄せて頑固そうに客を睨んでいるのである。グローリアが持ちたいとヴルフ達に告げた武器は長槍(ロングスピア)であり、馬上で慣れしんでいた武器でもあった。


 ヴルフ達と共に飾ってある長槍を眺めては、これが良いとグローリアは手に取るが、ヴルフ達からは駄目だと告げられ、決め手の一本が決まらない。

 どれも同じではないかと尋ねるが、ヴルフは別の壁に飾ってある一本をグローリアに手渡す。


 先程の長槍と何が違うのかと、手に取ってみればその違いに驚くグローリア。先程のは何だったのかと思う程に、この長槍はしっかりとしており、先端の槍頭も鍛造で作られ、綺麗な刃模様が刻まれていた。槍頭を爪で弾けば硬質な甲高い音が響き、しっかりと熱処理がされていた。

 おまけに槍はかなり軽く作られているが、その秘密は持ち手が中空と説明に書かれていた。この加工を出来る職人は少なく、それがここで手に入るのであれば少し高くてもこれを持った方が後々、後悔しないだろうとヴルフに言われた。


「凄いわね、この長槍(ロングスピア)は。しっかりとした剛性感に丈夫な槍頭。支給品でこんな良い槍は貰った事ないわね」


 さすがの教国騎士団でも、大量に消費する武器に予算を掛け過ぎる事は出来ない。グローリアが感動するのも納得するが、それよりも値段を見てもっと驚いていた。


「これって、こっちの槍の五倍!こんなに出せないわよ」

「あぁ、気にするな。ワシが余計な分を出してやる。遠慮無く買ってこい」


 ヴルフが大金貨を一枚、グローリアに投げて渡す。ヴルフは安っぽい武器を使うよりも品質の確かな武器を使い続ける事を推奨している。これから行く場所では、何があるかわからない場所である。命を預ける武器が役に立たない紛い物や、安物では心もとないとわかっているからだ。

 道具の手入れをする事は当然であるが、まずは良い道具を持つ事が始まりなのだ。


 その槍を持って、カウンターで難しい顔をしている店主に購入する事を告げると、今までの顔は何だったのかと思う程の、にこやかな顔をして会計をしてくれた。


「おう、この槍を買ってくれてありがとうな。良い仲間に恵まれたようだ。大事にしてくれよ」


 最後のお釣りを渡すまで終始にこやかな顔をした店主は、それからも上機嫌であった様だ。




「親父ぃ!いつもの渋い顔はどうした。上機嫌じゃないか?」


 グローリア達が帰った後に入った常連客が、いつものように剣を研いでもらおうと話し掛けた。常連客が店主のにこやかな顔を見たのは何年も前だった気がしたほど、店主のにこやかな顔を見る事は稀であったようだ。


「お前さんにはわかるまい。いつもいつも一人で依頼を受けて、たまにしかパーティーを組まない奴にはな」

「おいおい、そりゃないぜ。いつもこの店をつかってるオイラにも教えてくれないのか?」


 使いこまれた剣、--ショートソード--を受け取った店主が刀身を眺めながら常連客に口を開く。


「いや、なに。先程な、槍を見てた客がいたんだが、安い方の槍じゃなく壁に飾ってある槍を買って行ったんだよ」

「ほへ?安い方で十分じゃねえか、普通は」

「それはお前の考えじゃろう。その客の仲間が薦めてたんだよ、そっちじゃない、こっちの槍だってな。ありゃぁ、相当な腕前を持っているってすぐにわかったね。そんな者達に使ってもらえるんだ、鍛冶師冥利に尽きるってもんよ」


 嬉しさに口が緩んだのか、いつも以上に上機嫌で常連客のショートソードを研ぐべく、奥の工房へと入って行った。




    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 ウキウキ気分で歩くグローリア達の最後尾で、一人険しい顔をしたスイールが辺りを気にしながら歩いている。その姿に他の者が気付いたのは、昼食時で何処かの食堂にでも入ろうかと相談を始めた時であった。


「あれ?スイール、どうしたの」


 険しい顔をしたスイールに初めて気が付いたのは、一番にお腹の虫が鳴り始めたエゼルバルドであった。食堂を探すためにきょろきょろと見まわした時にスイールの険しい顔が目に入ったのだ。険しさと同時に不安感も混じり合った、何とも不思議な表情をしていたのが印象的だった。


「先程、鍛冶屋を何軒か見た時に、少人数でかなりの武器を購入する姿を見たんだ。あれだけの武器を揃えるのは、何の理由があるのかと不思議に思ってね」


 そう言えば道端に台車を用意して、そこに百本以上の剣や槍を積んでいる姿を見たなとエゼルバルドも思い出した。今思えば、確かに不自然であり、そこまで武器を用意する場面が思いつかない。軍隊であればお抱えの鍛冶師や納入業者が用意するのが常であるはずだが……。


「思い出してみれば不思議だね。どう思ってるのスイールは?」

「あれだけの武器だ、百人以上に行き渡るだろうね。これから調査に行く地域が治安が悪い事と関係しているのかもしれない。少しばかり情報を集める必要があるな」

「それじゃぁ、お昼を食べたらみんなで情報収集?」

「その方が良いかもしれないな。少しばかり予定変更となるが、当ても無く進むよりはよっぽど良いはずだろう」


 グローリアが武器を購入し、明るい気分である為に、今は暗い気分にさせたくなかった。それと、この先の事は幾ら情報があっても足りることは無いとも思っていたし、慎重に行動するべき出だとも思っていた。それならばここで少しでも情報を得てから行動すれば丁度良いのではと、二人は話していた。




 そして、食堂に入って昼食を食べ終わり、食後の飲み物で喉を潤そうとする時を見計らい、スイールが先程エゼルバルドと話した事を口に出した。


「これから、情報収集をしたいのだが半日ほど出発が遅れて大丈夫かな?」


 その提案を嫌な顔をしていたのはグローリアであった。

 自分の武器を購入するために鍛冶屋巡りをしていたために、半日、予定が遅れている。その遅れを取り戻して、一刻も早く現地に入り活動を開始したいと思っていた。

 だが、このパーティーに厄介になっているのは自分であるとの思いがある為に、口に出す事はせず、他の者達の表情を伺ったのだ。


「それは、何か理由があっての事だろうな?」


 昼間から酒を飲む訳にもいかず葡萄ジュースで我慢しているヴルフが、ジョッキになみなみと入ったそれを喉に流し込みながらスイールに問いただす。理由も無く言う訳がないとわかっているが、今は先を急ぎたいとヴルフも思っていた。


「エゼルにも話したが、鍛冶屋街で武器を大量に購入し、積んでいる台車を目撃した。その武器の行先が気になる。一本ずつ配れば百人では済まないほどの数だった」


 エゼルバルドが目撃しているのだ。ヴルフを初めとした他の面々もその台車を目撃している、そう、何台もだ。その台車を武装した数人が守り、身軽な者達が数店の鍛冶屋から武器を抱えてその台車へ向かっていたのを思い出していた。

 今考えれば、不思議な光景と言わざるを得なかった。


「確かに不思議じゃったな。あれだけの武器を必要とするのは、もしかしたら軍隊か?」

「それも思ったけど、軍隊は自前で用意するはずよ。それに雑多一纏めにしすぎ。もし軍隊だったら、敗走軍とか?」


 グローリアは良くわかっていない顔をしていたが、ヴルフの”軍隊か”との疑問に”敗走軍”と答えてのはアイリーンだった。通常編成の軍ではあり得ない武器の用意の方法に疑問を呈したのだ。


 だが、敗走している軍隊がこの近くに存在しているかと思えばそんな事は無かった。そして、大量の武器と向かう地域の治安状況を結び付けて考えたスイールが口を開く。


「その大量の武器が治安の悪い場所へ運ばれるかもしれないと考えれば、情報収集は必要だろう」


 その武器が治安維持を目的とした事で使われるのならば、願ったり叶ったりであるが、盗賊などの手に渡るのであれば、阻止するべきであろう。これから向かう先へ運ばれる可能性がある限りは。


「わかった。スイールがそこまで言うのなら今日は情報収集と行こう。その武器がワシ等に向けられるかもしれんからの」


 皆が飲み物を”グビグビ”と飲み干し、その後は二人一組で街へと散って行った。当然、支払いを済ませた後で、である。




    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 日が暮れて夕食時である。宿屋に帰ってきたのは、エゼルバルド、ヒルダ、そしてアイリーンにグローリアの四人であった。この四人は主に街中での情報収集をしていたため、この時間以降店も軒並み閉まってしまうために早々に帰ってきたのである。

 帰りが遅いヴルフとスイールは、この時間以降も開いている酒場を中心に回っているはずで、帰りは遅くなると当初から予定を組んでいた。


「やっぱり、スイールのにらんだ通りだったよ。悪い噂ばっかりだったわ」

「我が国の噂でありながら、これほどまで悪いとは思いませんでした。恐らく、聖都でもまだ知られていないと思います」


 グローリアと組んでいたアイリーンでさえ、悪い情報しか得られないのであった。そして、エゼルバルドとヒルダの情報も同じように悪い方へと向かっている噂がほとんどであった。


「これ、拙いんじゃないか?いくら国境に近い都市でもまだ別の国だよ。ここまで噂が流れてきているんじゃ、現地はもっと酷いはずだよな」


 エゼルバルド達がいる、このノーランドと、これから向かおうとしている地域は直線距離にして二百五十キロ以上離れている。街道沿いを進むのであればさらに距離があり、徒歩で移動であれば七日から八日も時間を要する。それだけの距離が離れて、さらに他国で噂が広まっているとすれば、残された時間は少ないと見るべきだろう。


「そうしたら、ヴルフ達が戻って来たら、情報のすり合わせね」


 ヒルダの声と共にテーブルの上に残っていた料理を全て平らげると、ヴルフ達が戻ってくるまでと各部屋に戻り仮眠を取るのであった。




 数時間後、街が寝静まった頃、ヴルフとスイールが赤い顔をして宿に戻ってきた。

 男性が泊る四人部屋に全員で集まり、遅い時間にもかかわらず、手に入れた噂を合わせ始めた。他の宿泊客はすでに夢の中へ旅立っており、話し声は一切聞こえてこなかった。ヴルフ達はランタン一つを、部屋の中央のサイドテーブルに設置し、部屋から洩れない程度の声で話し始めた。


「ワシ等が聞いた噂も殆どが悪い噂じゃったな。特にこれから向かう【アドネ】領では税が高く、住民の不満が募っているらしく、それが治安の悪化を生んでいる様じゃな。生活が苦しく街から逃げ出して、盗賊になる者が増えているらしい」


 ヴルフとスイールが顔を赤らめて酒場で仕入れた噂であった。税が高いとは聞いたが、盗賊が増えている噂は街中では聞かなかったとエゼルバルドが呟く。


「ふ~ん……。と、すれば北の城門を出てアーラス神聖教国へ向かった馬車は、その盗賊に対抗する武器を運んだって事かな?」


 アイリーンとグローリアが、城門を守る兵士に数枚のお金を握らせて手に入れた情報を、そこに当てはめてみたが、スイールは首を横に振った。


「盗賊の相手はあくまでも他国から来た商売人やアドネ領の輸送馬車だそうですよ。そこに住んでいた人達が盗賊になったのですから、元住民を襲うはずが無いでしょう」


 それを聞いて”あれっ?”と、エゼルバルドとヒルダが首を傾げた。聞いた話と食い違ったのだ。


「そうすると、鍛冶屋で聞いた話と噛み合わなくなるな。大量に買った武器は村の自警団に持たせるって話をしていたらしい」

「村が襲われる心配がないのなら、武器なんか必要なくなっちゃうね。何のために買ったのかしら?」


 エゼルバルドとヒルダは鍛冶師の店で聞き込みを行い、購入した者達が何の目的で揃えていたのかを十数軒回って、聞き出せた情報であった。鍛冶師が嘘を言ってたのではなく、購入した者達がそのように話していたのだ、と。


「と、すれば買った者達が違う目的を意図的に伝えていたのだろう。こんな事もあろうかと、事前に聞かれても良い目的を用意していた、とか」


 そこまでの噂や情報を聞いたスイールは、酔いが吹っ飛ぶほどに頭を回し始める。そして幾つかの中から可能性の高い考えを話し出した。


「税の高騰、盗賊の増加、治安の悪化。そして、隣接する街とは言え、他国での武器購入です。自警団を組織し武器を持たせるのであれば、自国内の鍛冶屋で武器をそろえる方が、合理的なはず。それを購入できない理由があるとすればどうでしょう?」


 スイールはそこで皆の顔を見渡し、様子をうかがう。そして、スイールではなく、エゼルバルドがその後に続き口を開ける。


「もしかして、反乱?」

「私の考えでは、そうなります」


 アドネ領主に対する反乱、住民による一斉蜂起が起こると予測したのだ。税が高いと他国にまで噂が流れるほどなら、この一年の事ではないはずだ。数年、下手をしたら十年以上にわたって徐々に税が上がったのだろう。その結果がここに来て爆発したのであればすべてのつじつまが合うとスイールは告げていた。


「もしかしたら、白金貨程度じゃ割に合わん仕事かもしれんな」


 グローリアを見ながら溜息を吐き、ヴルフが呟いた。


「まだ神聖教国に入ってもいないのに行くのを止める、って事は出来ませんからね」


 嫌な予感を脳裏に思い浮かべながら、反旗を翻す勢い止める事が出来るだろうか、と思いながら、部屋へと戻ってベッドに入り、その日は眠りに就くのであった。

いつも拙作”Labyrinth&Lords”をお読みいただきありがとうございます。


気を付けていますが、誤字脱字を見つけた際には感想などで指摘していただくとありがたいです。あと、”小説家になろう”にログインし、ブックマークを登録していただくと励みになります。また、感想等も随時お受けしております。


これからも、拙作”Labyrinth&Lords”をよろしくお願いします。


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