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第三十一話 騎士団長の依頼

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「踏込みが甘いですよ」

「これならどうだ!」


 教国騎士団の二人がダニエル達に案内されて中庭に入ると、木剣を持った二人が打ち合いの訓練をしている姿が目に入った。実物に近い重さに調整された木剣を振るうのは攻め出たアイリーンで、受け手がヒルダであった。


 ここでヒルダが本気を出して攻め手に回ると、あっという間にアイリーンの剣が弾き飛ばされて決着が付いてしまうだろう。

 アイリーンの動きはまだまだだが、去年に比べれば随分と動きが良くなり、時折ヒルダが足を動かすところまで来ていた。

 そして、打ち合いの最中、アイリーンの剣をヒルダが躱し、隙を見せたアイリーンの足を木剣の平を使い払う。足を払われたアイリーンはごろんと力なく地面へと転がるのであった。


「だから言ったでしょ、足を出すのは良いけど守りも重視しないと」

「わかってるんだけどなぁ……」


 地べたに座りながら払われた足を眺めている彼女にヒルダがアドバイスを送るが、なかなか上手く体をさばけないらしく悔しそうな顔をして悩んでいた。

 ヒルダももう少し体捌きのアドバイスを口に出したいと考えているが、アイリーンには逆効果と思い今は口を噤んでいた。


「これって、いつもの訓練か?」


 その場に案内された、教国騎士団のルイス団長とリオネロ副団長の二人は、訓練風景を見て驚きの表情をしていた。

 実際にはアイリーンが少しでも剣術の腕を上げたいとしている訓練であり、少しばかり軽めの訓練であった。だが、二人の目には騎士団の下級騎士の訓練よりもハードな訓練をしていると見たのだ。特に受け手のヒルダは立ち位置があまり変わらず、それさえも驚かれていた。


「これはアイリーンの訓練だから、まだ初歩だな。受け手がヒルダで、攻め手がアイリーンだ。アイリーンは弓専門だから、剣は苦手意識を持っているんだけどな。団長もヒルダと打ち合ってみるか?団長ならヒルダに勝てるだろうが」


 ヴルフの言葉にルイスがやる気を見せて、準備運動を始める。五分ほど体を動かし、汗ばむくらいに温めると、木剣を借りヒルダと相対する。


「ヒルダ、本気出さんとすぐに負けるぞ」

「ん、わかった。一本取れるように頑張る」


 ルイスが使い慣れない木剣を構え、ヒルダに木剣を向ける。準備ができたとヴルフに目配せをすると、ヴルフから”始め!”と、掛け声が二人の耳に届く。

 合図と同時に二人は地を蹴り、距離を詰めながら木剣を振るう。


 先手必勝とばかりにヒルダは低い位置からルイスの右腕をめがけて木剣を振り上げる。さすがの教国騎士団団長ルイスであっても、ヒルダの低い位置からの一撃は初見では躱すのがやっとであった。


「なっ!!」


 思わず体勢を崩してしまうが、体を左側に足さばきで移動しながら一撃を回避し、ルイスはお返しの一撃を打ち込もうと木剣を引き込み、突きの姿勢を取る。がら空きのヒルダの右の脇腹に向けて木剣の切っ先を鋭く突き立てる。が、ヒルダは体を”ごろん”と前転させ、ルイスの一撃を頭上すれすれで躱し、直ぐにルイスを正面に置く。


「ちょっと待て、あれを躱すのか?」

「え?今のは危なかったけど、上手く行ったでしょ」


 自信を持って突き立てた一撃を躱され、体勢を整えられてしまったルイスは手を止めて叫んだ。躱されるとはルイスは思ってもいなかった。


「でも、今のは本気じゃないでしょ。躱して当然よね」


 多少手加減をしたとは言え、騎士団の中で訓練してれば副団長でも初見で躱す事は不可能な一撃であった。それを躱し、あまつさえ手加減したとも指摘されてしまったのだ。本気を出せば目の前の彼女に勝つことは容易いが、この場は今の一撃を躱された事で、勝を譲ろうと思い、両手を上げて降参の姿勢を取った。


「手加減したとは言え、今のを躱されるとはな。今日は勝を譲るよ」

「じゃ、遠慮なく。で、ヴルフ、こちらはどなた?」


 ヒルダの指摘に、”そう言えばこの二人の紹介をしていなかった”と、ヴルフはうっかりしていたと改めて紹介する事にした。


「ワシを訪ねてきたアーラス神聖教国の教国騎士団の団長と副団長だ」

「ルイス団長だ。こっちは副団長のリオネロだ。よろしく頼む」


 二人が簡単に挨拶を済ませると、早速とばかりに依頼の話を口に出した。


「いい運動をさせて頂いた。早速、ヴルフ殿にお願いがありまして我らはこちらへ伺ったのですが、お話よろしいでしょうか」

「構わんよ。皆、ワシの仲間だ」

「それでは……。ヴルフ殿に、ある地域の調査依頼をしたいのです。特殊な場所になりまして、ワークギルドに頼むか迷ったのです。直接頼んでも良かったのですが、襲い掛かる火の粉を払い除ける力を持った者達では無いと厳しいかと思いまして。それならば名の通ったヴルフ殿に頼んでみたらどうかと、部下からの提案がありまして……」


 そこからルイスの依頼について説明が長々と始まった。


 国家機密は話すことは出来ないが、剣と盾が消えた事件はダニエルも、そして護衛として付いていたヴルフもエゼルバルドも承知の事実であり、大体は話す事がが出来た。


 事件にかかわったとされるアーラス教の大司教とその従者がアーラス神聖教国方面へ向かったとの情報を得たて、その向かった先にある都市群へ部下を派遣したが、期日通りに帰ってきていない。

 その地域は治安の悪化が懸念されているが、部下達はその位で命を落とすほど、やわな鍛え方をしていない。逆にその様な中を生き延びる術を兼ね揃えていた。


 本来なら教国騎士団で向かう事が理想なのだが、装備や仕草で本国からの騎士団とわかってしまう可能性が高い。そこで騎士団でない者を向かわせようと考えたのだ。


「それに消えた剣と盾の作者、ダニエル氏を護衛していたのも、頼む理由の一つだ」


 剣と盾を持ち去った相手がそこにいる可能性が高い場所への調査を受けて欲しい、それが依頼内容であった。もちろん、調査が主な依頼であるが、見つけ次第取り返しに動いても良いし、犯人が見つかれば捕縛しても構わない。


 ヴルフ達はルイス達の話を静かに聞いた。各々が思う事はあったが、特にヴルフとダニエルは、オークションに出品して世間の目に止めてしまったと、己を責めていた事もあり、何とかしたいとも思っていたのだ。


「なるほどな。話を聞くとその大司祭を追えば剣と盾に行きつく可能性もある、か」

「そうですね。成功報酬はかなりの金額を用意しましょう。最低でも白金貨はお出しします」

「山分けでも大金貨以上か。皆はどうする?ワシは少しでも可能性があれば受けるつもりだが」


 ヴルフは一人であっても、ルイス達の依頼を受けるつもりでいる。ダニエルが作った剣に行きつく可能性があるとの言葉に乗ったのだ。


「アーラス神聖教国は一度行ってみたいと思ってたから、オレも一緒に行くよ」

「当然、わたしも行くわよ」


 エゼルバルドとヒルダは、まだ見た事の無い土地への憧れが強いので当然乗り気であった。この二人は報酬が少なくても、アーラス神聖教国へ向かうと聞けば一緒に行くとヴルフはわかっていた。


「ウチも行くよ。もしかしたら掘り出し物が見つかるかも知れんしね。それに報酬が魅力的よね」


 現金なのはアイリーンだ。実はヴルフ達と合流してからの儲けが、今までと桁違いに増えてしまい、一年一緒にいただけで十年以上生活出来るだけの貯えが出来たのだ。それを思えば高額な報酬を棒に振りたくは無かった様だ。


「私も行きますよ。所でエルザはどうしますか、一度エルフの里へ帰りますか?」


 ルイス達から見えにくい日陰で訓練を見守っていたスイールは、そこから出て夕日を浴びながら自らも同行すると答えた。

 先日からエルフの里に帰ると宣言していたエルザにそれとなく尋ねてみると、彼女は思った通りの答えを返してきた。


「私も行きたいところだけど、帰りが何時になるかわからないから一度エルフの里に戻るわ。来年になったらまた会えるのかしら?」

「依頼は少し長くなるんじゃないかと思う。春になったら、またこのノルエガで落ち合えばいいじゃないか、半年もあるんだし」


 ヴルフが提案した事にエルザが喜んで飛びついた。

 だが、エルザは一つ忘れていた。エルザが船に弱い事だ。それを忘れて喜んでいれば、それ以上言わない方がエルザの為だと思う事にした。もしかしたら二回も船に乗れば船酔いを克服できるかもしれないとスイールは思うのであった。

 エルザを抜かした五人で依頼を受ける事になりヴルフがルイス達に依頼を受ける事を伝える。


「では、ワシ達は五人でその依頼を受ける事にする。詳細がわかれば教えてくれ」

「あぁ、助かります。誰か一人、同行させるので数日したら人をここに向かわて詳細を知らせます。後は旅の用意をお願いします。では、今日はこれで失礼します」


 ルイスとリオネロの二人はクルトの店を出て馬車に乗ると、すっかり暗くなった街を大聖堂に向けて馬車を走らせた。そして、二人がいなくなったクルトの店ではその日の営業を終了し、住居スペースの部屋を煌々と灯りが照らし出していた。


「お主等に余計な仕事を負わせてすまんな。本来であれば儂も付いて行きたいのだが、足手まといになるのは必至だ。スマンが頼んだぞ」


 ダニエルとその弟子のクルトもヴルフ達に深々と頭を下げた。ダニエルはオークションへの出品と、余計な事を言ってしまった責任を痛感していたが、ヴルフ達はそれに対し、怒りも、誰の責任なのかも、追及する考えは無かった。それよりも、凄腕の鍛冶師と知り合いになれた事こそが一番価値があると思っていた。

 それに比べれば剣が盗まれた事など枝葉の事に過ぎないでいたのだ。

 まぁ、盗まれたのを防げなかった事は残念であったがと皆は思っていた。


「気にしないでくれ。ワシ等が見つけて来る。最悪は壊す事になるかもしれんがな。その時は頭をかいて胡麻化すからよろしく頼むぞ」

「壊せるのならその方が良いかもしれん。儂の作品が無くなるのは辛いがな」


 そして、ドワーフの笑いが深夜まで家の中に響き渡ったのである。


 それから、数日が経過するのであった。




    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 晴れ渡る空から太陽がギラギラと光を照らし続ける。まだ午前中なのに水面に写る光は眩しく、肌を刺すようであった。一隻の外洋船がノルエガの港に横付けにされており、出航を今か今かと待っている。

 後部甲板近くは、馬車などを積むために港湾に設置してあるクレーンがフル稼働し、水夫が忙しそうに動き回っている。水辺でもある為、新人水夫が転んでいるのも何処か港の風景と化しているのが面白い。転ぶたびに怒られているのは少しだけ可愛そうであるが。


「エルザ、気を付けてくれよ、船酔いするんだからさ。これ、酔い止めの薬、使ってくれ」


 桟橋の手前では、エルザとの一時の別れを惜しみながら皆で見送りに来ていた。

 スイールが手渡したのは酔い止めの薬である。船に乗るとどうしても寄ってしまい調子が悪くなるので、なるべく抑えるためにと用意したのだ。


「ありがとう。酔わないうちに使う事にする」


 スイールお手製の薬をありがたく鞄に仕舞い込む。肩に止まっているフクロウのコノハが”自分のおやつじゃないの?”と首を傾げている仕草がどことなく可愛く見える。


「来年はわたしとエゼルの結婚式を挙げるつもりなの。エルザも一緒に挙げる?」


 ヒルダとエゼルバルドは書類上は結婚しているが、式を挙げていない事が、今だに夫婦と見なされない気がしているのだ。ちなみに、式を挙げるのは、育ったブールの街の教会を予定していた。


「私は遠慮するわ。ヒルダより先にエルフの里で挙げちゃおうかしら、ふふふ」


 エルザは悪戯好きの子供の様に無邪気に笑って返す。このままだと本気で式を挙げられてしまいそうだとヒルダは焦るが、”冗談よ”と微笑むエルザ。


「そこまでにしてもらおうか。ウチの目が黒いうちは結婚式など挙げさせないわよ」

「そうは言っても決定事項だから無理」


 何処まで本気かわからないが、アイリーンの黒い闇が見え隠れする。

 相手が見つからないアイリーンには、この話題は酷であるが、バッサリとその話題を切り裂き、深い闇へと突き落とすのであった。


「その位にして置け。エルザも元気でな。ワシ等は依頼を片付けて、無事に戻って来るからな」

「ええ、ヴルフも気を付けてね。エゼルもよ」


 話すタイミングを見計らっていたエゼルバルドに向けて言葉を向けるエルザ。実際は話すタイミングではなく、ただ、楽しそうに話しているエルザ達を笑顔で見ていただけなのだ。


「ああ、わかってるよ」

「ヒルダを大切にね」

「それもわかってるさ!」


 エルザがからかうと、エゼルバルドの顔は若干赤くなった。いつも大切に思っているが、面と向かって言われると少し気恥ずかしく感じたのだ。


「そうそう、私から餞別です。エルフの里に着いたら、里で作ってみてください」


 スイールは最後にと皮袋をエルザに渡す。袋の口から覗くのは、ベルグホルム連合公国の地下迷宮で発見した魔力焜炉(マジカルストーブ)の実物だった。魔力を制御球に流し込むと熱が発生する魔力機器(マジカルマシーン)だ。

 それと一緒に書類の束が皮袋に収められていた。


「これは、何?」

「地下迷宮で見つけた魔力機器(マジカルマシーン)とその作り方を書いた書類。熱を起こす魔力焜炉(マジカルストーブ)と氷を作る魔力製氷機(マジカルアイス)の二つを入れてあるから、氷を作る方で冷蔵庫を作れるはずだ。鍛冶師に頼んで作ってみてくれ。こっちはこっちで、その二つは広める予定だから」


 スイールからの思いがけないお土産に少しばかりウルウルするエルザであった。だが、その時間も長くは続かず、出航を合図する鐘が港に響き渡る。


「それじゃ、元気でね」


 エルザは手を振りながら船へと向かって歩いて行く。名残惜しそうな姿に思わず行かないでとヒルダは言いそうになるが、また戻ってくるとの言葉を信じて見送るのだった。


 それから数分で陸と船を繋いでいたもやいが解き放たれ、音もなく船はそこから離れて海を進み始める。甲板にはエルザの手を振る姿が見えるが、それもすぐに見えなくなってしまった。


「さて、ワシ等も行くとしようか。まずは騎士団がいる大聖堂だな」


 エルザを見送った五人は気を引き締め、依頼主の下へと足を進めるのであった。

いつも拙作”Labyrinth&Lords”をお読みいただきありがとうございます。


これで第七章は終わりになります。次の章からは隣の国、アーラス神聖教国へと舞台を移して話が進みます。

第八章、実は主人公たちの影が薄いです。そのように話を作っているのでしょうがないのですが……。


あっちこっちと場面が移って行きますので、把握しにくいと思いますが、お付き合いをお願いします。


ちなみにですが、第八章はいつもの倍の60話を予定しております。

引き続きよろしくお願いします。


更新速度も以前の様に二日に一度に戻しますので、お間違えない様にお願いします。



気を付けていますが、誤字脱字を見つけた際には感想などで指摘していただくとありがたいです。あと、”小説家になろう”にログインし、ブックマークを登録していただくと励みになります。また、感想等も随時お受けしております。


これからも、拙作”Labyrinth&Lords”をよろしくお願いします。


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