第二十六話 パーティー会場に移動して
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昨日は、投稿予約時間を間違えて、手動で投稿……。間抜けすぎる。
鍛冶師のダニエルと護衛のヴルフとエゼルバルドの三人は、式典の後少し離れた打ち上げと称された宴会会場にその姿を見せていた。
式典に呼ばれた来賓はダニエルを初めとして、ノルエガの街長、司教のロモロ、副司教、そして式典で剣と盾の祝福を与えた大司教等だ。その他にノルエガの有力商人やアーラス神聖教国の領主やボルグホルム連合公国の貴族など、ダニエル達には見た事も聞いた事も無いような招待客が会場を所狭しと行き交っていた。
それらは当然ながら、ダニエルの作った剣と盾を落札すべく牽制しながらの会話となり、会場はギスギスした雰囲気が漂っている。護衛の二人はともかく、ダニエルはこんな所から一秒でも早く帰りたいと憤っていた。人の作品を理由に余計な争いをするな、とばかりに。これならば昼間の式典の方がよっぽど良かったと思うほどだった。
そんな暗い気持ちを抱きながら、入れ替わり立ち替わり現れる、名前も知らない貴族や商人に軽く挨拶や世間話をするくらいならダニエルも我慢は出来る。
だが、こんな場にまで貴族面するものまで現れれば、ダニエルもたまったものではない。
「我が下手に出て、それを貰ってやろうとしているのがわからんのか?」
オークションである。
出品した商品を引き下げ、白金貨で五枚以上の価値があるされるそれを、大金貨数枚とか白金貨に比べれば二束三文で譲れなど馬鹿にしている。だいたい、ここはルカンヌ共和国であり、自由商業都市ノルエガである。議会制民主主義の国で商売人が、金が支配するここでは、貴族の肩書は一文の価値も無い。金の次に価値があるとされるのは、どの国でも変わらない力である。
オークションは金だけ唯一、ダニエルの出品物を落札できるが、この場ではダニエルを守ることが出来るのは力、すなわち、後ろに控えているヴルフやエゼルバルドの護衛なのだ。
「申し訳ないですが、それ以上はダニエル氏に近づける訳にはいかない」
ヴルフがダニエルの前に出て、貴族との間に入り牽制をかける。紺色の外套を羽織っており、手元の動きがわからないが、外套から飛び出しているのはまさしく剣の柄である。こんな場所で大げさに鎧を着る事は出ないため、厚手にシャツの下に鎖帷子のみであるが、酔いの回った赤ら顔の男などヴルフの敵ではない。
なんとか穏便に過ごそうと、手を出さずに口と威圧だけでダニエルを守る。
そうこうしているうちに会場を警備しているアーラス教の衛兵が騒ぎを聞きつけ、その貴族を会場の外へと連れ出し、そのまま帰させる。
当の本人、ダニエルそうだが、護衛の任に付いているヴルフもエゼルバルドも怪我人を出さずに済んだとホッとするのだ。
「ダニエルさんですかな?頼もしい護衛を連れているようですね」
ワイングラス片手に近づいてくる貴族が、一連の流れをみていたようで、”貴族の風上にも置けない男もいるのだな”と声を掛けてきた。
「そちらは?」
「おお、失礼。アーラス神聖教国の片田舎で領主をしております【アンテロ=フオールマン】侯爵と申します。お見知り置きを」
侯爵と名乗った貴族は、ワイングラス片手に優雅に頭を下げた。その美しさと優美な動きはワインの表面が不規則に動く事を嫌っているほどだった。
他の地ではどうか知らないが、この場ではダニエルが主の役をしている。そう思えばこの貴族はなかなかの知識人だとうかがえるのだ。
「アンテロ=フオールマン侯爵でございますか。ダニエルと申します、こちらこそよろしく」
ダニエルも優雅とはいかないが頭を下げて応じる。
「先程見てきましたが、なかなかの品物でございますな。実用性重視で作られているありが、ダニエルさんの凄みを感じる事ができます。普通の鍛冶師であれば装飾を華美にしたり、宝石を散りばめたりと余計な手を加える事でしょう。それが無く、あれだけの剣と盾を作り出せるのはダニエルさんしかいないでしょうな」
満足げに話すアンテロ侯爵は、酒が体に回っているのか上機嫌でダニエルに話し掛けていた。ダニエルもその言葉に嬉しそうな表情を見せ満足していた。
「オークションで是非とも落札して、ダニエルさん直々に持って来て頂きたいものです。それに”ヒュドラ喰い”にも一度会ってみたいと思ってますしね」
「ヒュドラ喰いとはなんでしょう?」
「ヒュドラを倒したのだ。なにか名乗っても良いのではないかと思って私が付けた名前ですよ。もし会ったら伝えておいてほしいですな」
”はっはっはっ”と笑いながらワインをグイッと飲み干し、その場から離れて行き、他の貴族の下へと向かった。その足取りは酒を飲んだとは思えないしっかりとした足取りで、護衛の二人はその姿をしっかりと捉えていたのである。
ヴルフは彼に何かを感じたらしく、護衛をエゼルバルド一人に任せ、パーティー会場へとその身を紛れ込ませて行った。
「エゼル殿、しばらく一人ですがよろしく頼みますぞ」
「ダニエル師、お任せください」
ダニエルは護衛のヴルフがいなくなったが、そのまま言い寄ってくる貴族たちと談笑を再開するのであった。
(さて、先程の貴族は何処へ行ったか?)
音を立てずにゆっくりとパーティー会場を歩くヴルフ。酒の匂いの蔓延するパーティー会場で、酒を我慢するのは、以前のヴルフでは拷問に匹敵するのだった、酒を控えていた彼には我慢できない程でなかった。
(ヒルダに感謝せねばなるまい)
それでも終わった後に一杯くらい飲むかと、頭で思いながら足を進めれば、先程見た貴族が何やら話をしている所へ出くわした。誰と話をしているかと姿を見れば、アーラス神聖教国より来たと言う大司教であった。
貴族と大司教の話が一段落したようで、何処かへ離れていくのが見えるが、酔いが回って来たのか少しだけ足の運びが怪しく見えた。
(酒に強いだけか……?)
貴族の男にはそれ以上の印象を持つことは無かった。
貴族の男、アンテロ侯爵はアーラス神聖教国の片田舎で領主をしていると自己紹介していたので、大司教と話をしていても不思議はないのだが、その横にいる男にヴルフは違和感を覚えた。
大司教の陰になってチラッとしか目に写らなかったが、何処かで見た事がある顔ではないかと感じたのだ。
ヴルフが顔を見たとなれば、それは戦場や護衛などの戦いの場である事が殆どだ。稀にトルニア王国の王城で見るかもしれないが、アーラス教の信徒となれば、思い出しても良いはずだった。それが思い出せない事を不思議に思ったのだ。
それを確かめるべく、会場を何気ない顔で一回りし、危険人物がいないかを確かめるふりをしながら、大司教とその側にいるアーラス教の信徒をこっそりと見て行く。
ダニエルの護衛として会場に入っているヴルフは、他の貴族や商人達へ頭を下げても、護衛任務中なのを怪しがられる事は無かった。
そして、大司教の後ろをヴルフが通りがかると、体を大司教とヴルフの間にスッと入れ、その身を盾にした。そんな行動を取られると思わなかったヴルフは思わず外套の中でブロードソードに手を掛けてしまいそうになった。
「大司教にどの様なご用で」
とっさの事にヴルフは焦り、口が動かなかった。それでも、無い知恵をしぼりだし目の前に現れた信徒に答える。
「いや、会場に危険が無いか見ているだけじゃ。うっかりと大司教の後ろに回ってしまった事は謝罪いたす」
ヴルフはその信徒と振り返った大司教に頭を下げ謝罪をした。その二人に頭を下げただけで、重要な情報を得た事に内心ほくそ笑むのである。
「そうでしたか。お仕事ご苦労様です」
信徒の男は何かを見つけたような目でヴルフを見て一礼をすると、大司教の横へと立ち位置を戻した。
双方ともに見た目上、それぞれの誤解を解いたと周りの参加者に印象付けてから、ヴルフは護衛の下へと戻って行った。
(あの鋭い動きは危険だ。それにワシが死角から来た事にすら気が付いた、何かあるな)
アーラス教の信徒の身震いするような動きを思い出しながら、ダニエルの下へと戻って行くのである。
一方、大司教の下でヴルフを牽制したアーラス教の信徒は、あの場で殺し合いに進展する事無くホッと胸を撫で下ろしていた。両刃の鋭い短剣を密かに所持していたが、ヴルフがブロードソードに手を掛けた事を察知し、冷や汗を流していた。
それに、一度対峙した事のある顔を忘れる事は無く、己の正体が露見するのでないかとの心配もあった。かつらをかぶったり、目元に化粧をしたりと変装していたことが功を奏したのであった。あの場で正体が見破られればあの男に勝てる気はしないどころか、守るべき雇い主も彼の刃に命を落とす可能性もあった。。
「”エス”、どうした。汗でびっしょりではないか」
アーラス教の大司教にまで上り詰めた男でさえ、彼が何を見て、汗をかいている事すらわからない。人の気配や小さな殺気を見定める事の出来ない大司教にはそれが普通であった。
「あれが、”神速の悪魔”だ。あの男が邪魔さえしなければ、何もかもが上手く進んでいたはずなのに!」
彼は小さく毒を吐くのであったが、大司教には信徒の男が悔しさが滲みだしている様に聞こえた。
「いつもの手で退場して貰えば良いではないか?」
この男と”神速の悪魔”との力関係を知らない大司教がそれとなく伝えてみるが、信徒の男は首を横に振り、力なく肩を落とすだけである。大司教からすれば、この信徒の男は相当の凄腕と聞いていた。その男でさえ、首を振るほどの相手であるとわかり、それ以上は言葉を掛ける言葉が無かった。
「そうか、それ程なのか……」
大司教と信徒の男の二人で話しをしていると、再び貴族の男、アンテロ=フオールマン侯爵が大司教の元へとワイングラスを手に戻ってきた。
「誰かと話をしていたようだが、どうした?」
アンテロ侯爵は大司教と信徒の男を眺めながら訪ねる。さすがに信徒の男の汗は引いたが、その分汗の匂いが近くでは感じられる。彼の汗のにおいを嗅ぎ取ったアンテロ侯爵が不思議そうに見ていたのだ。
信徒の男、正体は”黒の霧殺士”の”エス”であるが、それが汗の匂いを出している事に驚いたようだ。
「先程話していたのは”神速の悪魔”です」
信徒の男からアンテロ侯爵に告げられる。だが、その言葉を聞いても何も思い出すことが出来ずに不思議な顔をしただけであった。
「”神速の悪魔”とは何だったかな?覚えがあるのだが思い出せん」
「あれです、実験を中止させられた相手の一人です」
そう言えばそんな事もあったなとアンテロ侯爵は思い出したようだ。実験体を使った実戦試験を行っていた中で、実験体を一体、失った事である。直接報告を受けてはいないが報告書の中にその名前があったなと思い出していた。
「それがあの鍛冶師の護衛に付いているのか。とは言え、計画に支障はあるか?」
「いえ、それはありません。対峙しなければ不都合はありませんので」
「それならば結構。それと、鍛冶師に付いていたもう一人の護衛もなかなかの腕ではないか?」
「ええ、”神速の悪魔”に勝るとも劣らない腕前かも知れません。彼がひとり残して護衛をさせる程です。あれにも気を付けた方が良いかもしれません」
信徒の男が言い残す。それを聞いた途端、溜息を吐いたアンテロ侯爵は、酔いが回ったと、会場にいる人々に触れて回り、パーティー会場を後にして、泊まる宿へと向かうのであった。
ダニエルの元へ戻ったヴルフは、護衛対象のダニエルとエゼルバルドが無事に過ごしているのをその目で見てホッと溜息を付いた。護衛の仕事を心配しているのではなく、対外的な行動をエゼルバルドが出来ているかを心配していたが、それは杞憂であった。
後ろからエゼルバルドに近づき、無事に戻った事を告げる。
「ヴルフ、お帰り。何かありましたか?」
平然としているヴルフに尋ねる。ヴルフの事だから、何かを掴んできたはずと疑わずに。
「貴族は自然体だな。ここで話していた時はまだ酔いが回っていなかった様だ。だが、大司教の側にいたあの信徒は要注意だ。死角の外から来たワシに気が付いた。あの身のこなしはあいつらを思い出す」
ヴルフの口にするあいつらとは、依頼を邪魔され、不名誉となる二つ名まで付けられた”黒の霧殺士”だ。実際に戦った訳では無いが、身のこなしに見覚えがあった。だが、顔を見る限りでは思い出す事は無く、思い過ごしではないかと感じた。
「この会場でそれがいるのは、誰かを暗殺でもするのかな?」
”黒の霧殺士”と言えば暗殺集団とエゼルバルドは思っていたので、暗殺と口にするのは仕方がない。だが、ヴルフのイメージで言えば違った。
「違うな。暗殺者集団だが実のところ、仕事に見合った金さえ貰えばば何でもやるぞ。暗殺以外では盗みや情報収集なども行っているはずだ。それで邪魔されているんだからな」
ダニエルの影でひそひそと護衛の二人が話をしていると、ダニエルに話しかける人が途切れたようであった。周りを見れば人も少なくなり、パーティーも終了近くになった。
「儂等もここから出るとしよう」
ダニエルは護衛の二人を従える様に、当てがわれた客室へ向かうべく、パーティー会場を後にした。
いつも拙作”Labyrinth&Lords”をお読みいただきありがとうございます。
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