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第十二話 狂気の正体とそのコレクション

序章の13話を入れ、とうとう150話達成しました。

いつもありがとうございます。これからもよろしくお願いします。


序章を削除した関係で、最新の話が既読となってしまっているようです。

12月7日更新分の第六章 第八話(第141部分)からになるようです。

DBの順番が繰り下がるようで、ご迷惑をおかけします。

 スイールとヒルダが訪れた部屋の中央には、奥行き三メートル、幅一メートル、高さ一メートルの重量物が乗っても壊れないがっしりとした台が鎮座していた。足は無く、まさに直方体と言った所であろうが。その傍らには、台に上るための踏み台も置かれている。

 左の壁際には机と椅子が置かれ、その上には書類とノートが散乱しており、まだ作業の途中であった。机の横の書庫を見ると様々な書類と書物が乱雑に押し込められていた。


 右の壁際には中央の台と同じ高さの作業台が置かれていて、その上には特殊な形をした刃物やはさみ、何に使うかもわからない道具が所狭しと並んでいる。


 異彩を放つのは右の壁の奥に見えるドアだろう。別の部屋につながっているのは一目でわかるが、それよりは机の上や書庫を調べ上げた方がいいとスイールは睨んだ。


「ヒルダ、この書類が何かを調べるから手伝ってくれ」

「了解~」


 二人は机の上や書庫の中に有る書類や書きかけのノートを調べてるために手に取って目を通して行く。スイールはその内の一冊、日記と思われるノートを見つけ、ぱらぱらとめくり読み進める。初めのころはただの雑談だが、しばらくめくると驚愕な事が書かれていた。スイールも気持ちが悪くなる程であった。

 よく読んでいないが、人のする事ではないと思う程である。


 書庫の中を調べていたヒルダも何かを見つけた。人や亜人、獣を解剖したスケッチであろうと思われるノートだ。


「スイール、これ見て」


 日記に目を奪われていたスイールに、スケッチしたノートを見せるとその内容にさらに驚いた。


「ヒルダ、これと同じようなノートを全部探してください。私もこれと同じ日記を探します。急いで」


 二人はその部屋の中を調べ、あっと言う間に日記を三冊、そしてスケッチしたノートを十冊、見つけ出しスイールの鞄に仕舞い込んだ。この日記やスケッチは(おおやけ)にしたら世界が負の方向に向かってしまう、とスイールの直感がささやいたのだ。


 ちなみに、そのスケッチはその後、スイール達の調べで回復魔法を使う者たちの必修科目となり、怪我による死者の劇的な低下に寄与する事になるのだが、それはもう少し後の事である。


 その後、右奥のドアの奥を調べるべくその中へ入ったのだが、その光景にヒルダの顔は津波が引くかの如く血の気が引き、胃の内容物をその場にぶちまけた。それほど衝撃的な光景であった。


「く、おぞましい、背筋が凍る程だ。ヒルダ、大丈夫ですか?」


 我慢できるとは言え、スイールを以てしても嫌悪する光景だ。ヒルダが今だに”ゲーゲー”と唸り、答える気すらなくなるのはどうしようもない。

 それは棚に並んだ円筒形のガラス瓶の中に入った人体や動物の一部だ。

 ガラス瓶にはわかる部位で、目玉、腕、手先、足、性器などだ。内臓はわかるが体のどの位置に入っているかわからない。他にも脳もある。


 それらがガラスの中で何かの液体の中に浮かんでいる。


「この屋敷の主はいったいどこまで頭が逝かれてしまっているのか?ずいぶんと生きてきたがここまでまとめて見たのは初めてだ」


 隣の部屋の椅子にヒルダを休め、人体の部位が置かれている部屋の奥まで進む。広さは大分ある。二十メートル程はあるだろう。その先にはうず高く積まれた白い骨。人だけでなく獣類もその中に含まれている。


「あの男はどれだけの生命(いのち)を死に追いやったのか。この屋敷ごと消し去りたい……」


 一通り見まわると、今だに顔色の戻らないヒルダの休む部屋へ戻って行った。




    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 カスパルとハンスは階段を駆け上っている。ムキになっているわけでは無いが、オーギュスト伯爵をこの手で捕まえたいと思っていたからだ。

 この屋敷の構造を考えると、捕えて監禁するのであれば最上階しかない、それも理由であった。その考えは正解で、階段を上がった誤解に閂が降ろされた部屋が一部屋のみ存在しているだけだった。


 閂を外し、油の切れた音を出しながら木製のドアを開ける。そこには目的のオーギュスト伯爵が部屋の隅で膝を抱えて小さくなっていた。ドアの開く音に気が付くと、ホッとしたのか、”助けてくれ、何でも話すから”とカスパルに言い寄ってきた。その姿は何かに怯えているとしか言いようがなかった。


「オーギュスト伯爵ですね」

「そうだ、助けてくれ。吾はまだ死にたくない」

「殺しはしませんよ。ちゃんと話してくれればですけどね」


 それにホッとしたのか、オーギュスト伯爵は続ける。


「あいつは、あいつはどうした」

「あいつ?ああ、Dr.ブルーノですか。あれは死にましたよ」

「死んだ?殺しても殺されるような奴じゃないぞ」

「でも、死にましたよ」

「そ、そうか……」


 カスパルはハンスに命じてオーギュスト伯爵を後ろ手に縛り、その部屋を出て階段を降りて行った。伯爵はなぜ後ろ手に縛られなくてはならないのか納得がいかない様であったが、命の方が大事だと今は反論する事を諦めた。




    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 怪物と戦った部屋へ戻ってきたカスパルとハンス。そこにエゼルバルドとヴルフ、そしてアイリーンが合流した。


「こいつは何処へ居たの?」

「最上階の部屋へ閉じ込められていた。閂がかかって出られないようにしてあった」


 オーギュスト伯爵が閉じ込められていた状態を簡単に聞かせた。簡単にと言っても隠す事も無く、ほとんどだったが。


「この場でワシ等もこいつに質問してよいかな」

「どうぞ」


 カスパルは快くそれを了承した。


「お主、エルフの杖を持っているか?」

「エルフの杖?」


 ヴルフが聞いた事に付いて、オーギュスト伯爵はそれが何の事か分からなかった。


「知らんのか?”華開く杖”とか呼ばれてるあれじゃよ」

「それなら知っているが、ロニウルベルグにいる奴に売ると言って出入りしている商人が持っていったぞ。かなりの金額で売れると喜んでいたがな」

「その商人に聞けば誰に売れたか聞けるのだな」

「無理だ」

「無理?どういうことだ」

「ここ二か月ほどそいつを見てない。今は別の奴が来ていて、そいつは連絡も無く、消えたらしい」


 エルムベルムの街にあると来てみれば、すでに持ち出された後であった。よくよく運が無いなと思いつつ先は長いとため息を付くのであった。

 それでも出入りしていた商人の名前を憶えていてくれた事は感謝するしかない。


「それにしてもよく喋るな」

「ああ、吾は命の危機を知ったからな。それから比べればこの位何てことない」


 オーギュスト伯爵が捕まっている間に何かあったらしいが、素直に話してくれて助かった。これからの取り調べがきついと思うが、これなら全てが明らかになるのは早いかもしれないと思うのであった。




「仲間はまだ来ないのか?」


 つま先をトントンと鳴らしながらカスパルがヴルフに訪ねる。オーギュスト伯爵も捕縛したので早く帰りたいらしいが、スイール達がまだなのでもう少しここにいると伝えると、


「それでは先に街に帰る事にする。気を付けて帰れよ」

「あの男はどうするのだ?」


 ヴルフの指す先には燕尾服を着た男が今だに座り込んでぶつぶつと念仏を唱えている。気味が悪いのでこの場から連れ去って欲しいのだが……。


「そうだな、話を聞けるか分からんが、この屋敷の重要参考人だ。一応連れて行くことにしよう」


 ハンスに命じてあの男も連行する事にして、後ろ手に縛りこの屋敷を後にした。”街に帰ってきたら警吏官の建屋に寄るのを忘れるなよ”と一言付け加えながら。




 カスパルとハンスがその場から街へ向かって歩き出したその後の事、ヴルフ達の元へスイールがたった一人で、神妙な顔をして戻ってきた。ヒルダを連れていたはずだが、肝心な彼女の姿はスイールの後ろにも見えなかった。

 ヒルダの身に何かあったようだが、スイールもふら付く様な歩き方で憔悴している様だった。


 何があったかと聞いたが、それよりも一緒に来てくれと促され、屋敷の中へと入り、ある一室へと案内される。。そこには青を通り越し、真っ白い顔をしたヒルダが椅子に座り項垂れている姿を見つける。


「ヒルダが見たものをこれから見せる。それを見てヒルダは気分が悪くなって座っているのだ」

「それほど酷いのか?」

「ああ。私も気分が優れん。それ程と覚悟してくれ」


 右奥のドアを開け、その中へ三人を招き入れる。

 三人が見たものは先ほどヒルダが見たガラス瓶に入っている臓器などだ。三人とも気分が悪くなったが、胃の内容物を撒き散らす事は無かった。


「これはいったい?」


 エゼルバルドがスイールに聞く。明確な答えが返ってこないかもしれないが、それでも初めに見つけたのだ。何か考えを聞けるかもしれないと期待して、だ。


「人、亜人、獣、それを解体してそれぞれを保管した物だ。この屋敷の主、ブルーノのコレクションと呼べばいいかな」


 スイールはコレクションと言った。半分正解で半分外れだ。

 飾ってあるのは趣味であるが、これら自体は実質的にゴミである。そこがコレクションかどうかの違いであろう。


「彼は死者を墓から暴き、人を攫い、獣と人と亜人を融合させ一つの生命体を作る事を目的としていたらしい。らしいとは本人が亡くなったから聞けないので資料から予想したのだ。日記からは自分に都合の良い命令を聞く兵士を作りたかった様だ」

「兵士って、何のために?」

「それは何処にも書いてないからわからん。だが、肉体は作れても頭は無理だったようだ。要するに脳だ」


 ブルーノコレクションから脳の入ったガラス瓶を指し、また話を続ける。


「まず、肉体を作る。これは大変だったが成果が出た様だ。先ず、ベースとなる肉体を用意する。これは胴体だな。そして、どれだけ力を出すか、速度を出すかによって腕や足の骨をその位置に置き、その上から動物などの筋肉を纏わせ魔法で固定させる。そして、強靭な体に合わせて別の種族の皮膚を乗せて再度、魔法で固定。この時に膨大な知識が必要となったとある」


 その他にも細かな調整やブルーノが作った人工的な部位、--金属などで出来た骨や皮膚の下に入れる金属板など--、を埋め込み体が完成する。あとは脳を乗せるだけとなったがここが上手く行か無かった様だ。そして、その後、


「幾つかの実験の末、ある結論にたどり着いたらしい」

「ある結論?」

「そうだ。この結論は正直言って言いたくない。人として、いや、命を(もてあそ)ぶことになったのだ」


 一瞬の静寂の後スイールの口が開き、その続いた話に恐怖した。


「人の脳は赤子の、亜人は幼児の脳を使う事で兵士が出来上がるのだ」

「脳?しかも赤子や幼児だと」

「そう、大人の脳では無理だったらしい。彼、いや、ブルーノの考えでは精神と体の整合性が取れていないと拒絶反応を起こし、自我が崩壊する様だ。ここにある脳は自我が崩壊した脳なんだよ」


 まさに、”悪魔の研究”と呼称をするべきであろうか?

 生命を繋ぎ合わせ新種の人を創造する。人の手が作り出す怪物であった。


「それがワシ等が戦った怪物だったのか。そうするとあいつらもブルーノの被害者でもあったのか」

「そう、つなぎ合わせるのも新しい回復魔法を開発したらしく、肉体は何とかなったらしい。その回復魔法は何処にも書かれていないのでブルーノの頭の中だけなのだろう。その狂気の一端を見たんだ、頭がおかしくなりそうだよ」


 珍しくスイールが己の行為を後悔している。こんなスイールは初めてだった。


「ただ、ブルーノの研究で分かった事も多い。こっちは功績であるな。天才と何とかは紙一重と言うが、こっちの分野では天才であったのだろう」


 次のガラス瓶には人の足が液体に浸かっている。その足には皮膚が付いておらず、筋張った筋肉が剥き出しになっている。


「これは人の足だ。皮膚を剥いだ状態だ。そして、この白いのが何かわかるかって言ってもわからないだろう。当然だ、私も初めて知ったのだから。これは”神経”と言って脳からの命令を伝える役目をしているらしい」


 ガラス瓶の中を指しながら講習の様に話を続ける。これは画期的な事なんだ、これがわかれば人を治す事が今よりずっと楽に出来るようになる等、熱弁を振るわれている。その度に、乾いた感情を出すのだが、気にしていないようだ。


「たまに聞かないか、剣で切り落とした腕を回復魔法で付けても動かせる可能性は半々であると。動かないのはこの神経が繋がっていないからだそうだ」


 それはここにいないヒルダに話をするべきなのではと思っていまうが、こうなるとスイールは止まらない。困ったなと思いつつ、いつ終わるのかを楽しむことにする。

 だが、終わりは唐突に現れ、


「ここまで話して、この屋敷を燃やしてしまう方が良いのではないかと思ったのだが、持ち主や街に迷惑がかかると思うと考えがまとまらなくてね。どう思う?」


 皆で考える良いアイデアが浮かばない。どうしても我々の仕業だと思われてしまう。

 あれこれ話をしながらヒルダのいる部屋へと戻って来ると、ぐったりとしていたヒルダだったが何とか顔を上げて意見を言った


「スイールが回収したノートを見ないで、あの気持ち悪いのが何の目的で置いてあるかわかるの?」

「あぁ、そうですね。その手がありましたね。回収したノートを見なければ何の目的で人を解体したのかわかりませんね。そうです、放置でいいのですよ。何でこんなに簡単な事が思いつかなかったのでしょう」


 無事に解決したと喜び上機嫌になる。ここまで表情を出すスイールを見るのは初めてかもしれない。普段から感情の起伏を意図的に抑えているのか怒ったり、不快だと言う事も滅多にない。あの表情を見ればスイールも一人の人間なのだなと思えて安心できる。

 とは言え、この場で嬉しそうな表情を見せるスイールは何者なのかと、少しだけ疑うのであるが。


「それであれば、こんな所から早く出て帰りましょう」


 不気味で悪趣味な、頭がおかしい主人の持ち物だった屋敷から転げるように出て、暗くなりつつある森の中を街へと足を進めるのであった。


いつも拙作”Labyrinth&Lords”をお読みいただきありがとうございます。


イメージ的には敵はフランケンシュタインです。半分くらい自分で考えました。魔法世界に適用出来るのではないかと。これがキメラの作り方では無いかなと思案した結果です。ちなみに元ネタあります。

魔法で別種族を合成したではあまり面白くないので、気持ち悪いかもしれませんが人の手で合成する事にしました。

予備知識なく、ホルマリン漬けの人体標本を見た時は、ヒルダと同じになるかと思ったものです。


キメラはそのうち出したいなと思います。


気を付けていますが、誤字脱字を見つけた際には感想などで指摘していただくとありがたいです。あと、”小説家になろう”にログインし、ブックマークを登録していただくと励みになります。また、感想等も随時お受けしております。


これからも、拙作”Labyrinth&Lords”をよろしくお願いします。

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