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ショートストーリー 完全犯罪

作者: 夢前孝行

 黒田は金に窮していた。と言うのはタバコは吸う、酒は飲むパチンコはするで給与のほとんどはそれらに費やされていた。自分の給与内ですむ内は良かったが、次第サラ金に手を出すようになっていた。

 黒田は姫路のM文具卸問屋に勤めていて、高校を卒業してすぐにこの会社に入ったのだが、はや十年は経つ。

 勿論まだ独身だ。

 M文具卸問屋は姫路が本社だが神戸にも支店を出していた。黒田は一九九四年十二月まで五年間神戸支店に勤めていた。

 サラ金に手を出し借金が二〇〇万円を優に超えていた。



 神戸支店勤務の頃神戸長田のK文具店に黒田は文具用品を卸すため、週に一度訪店して文具用品を卸していた。

 この文具店は老夫婦が経営していて、かなり裕福そうだった。夏など暑い日には訪店すると、風呂にでも入って汗を流して行けとよく言われたが一度も入ることはなかった。

 勿論家の中に入りお茶などいただくのは日常茶飯事だった。

 そこでよく見る光景は老夫婦が汚いえんじ色の風呂敷包みを押し入れから出してきて広げると、一万円札を無造作に何百枚も入っていて、これが私たちの全財産や、と自慢げに見せてくれることだった。



 一九九五年一月十七日午前五時、黒田はこのK文具店に現れていた。すでに姫路本店勤務になっていたがどうしてもサラ金の取り立てが厳しくて、思いついたのがこの店にはたんまり風呂敷に現生が包んでいるのを知っていたのでちょっと失敬しようと現れたのだ。

 ところが家の中に侵入するともうこの老夫婦は起きていて、何であんたが今頃来たんや、と怪訝な顔をしていた。

 黒田はまさか午前五時に起きていないと思い侵入したのだが老人の朝は早い、金を盗みに来たともいえず、

「今日十時には三百万円サラ金にはらわなあかんのや。ちょっと貸して貰おうと思って」

「そんならちゃんと挨拶して入ってこんかいな、親しい仲にも礼儀ありやで」

 老夫婦が声をそろえて言う。そして、

「金は貸さへんで。これは私らの老後の資金や。金など絶対貸さへん」

 黒田はその言葉を聞いて急に切れて逆上し、台所にあった包丁を掴むと、老夫婦めがけて突進し二人を滅多切りに刺して殺してしまった。そして金の入った風呂敷包みを押し入れから出してくると、新聞紙を丸めて百円ライターで火を付け、風呂敷包みを持って文具店の前に止めていた単車に乗り逃走した。

 丁度、五時四五分だった。



 その直後、つまり十七日の午前五時四七分、あの阪神淡路大震災が起きたのだ。

 そして神戸長田地区は大火災に包まれた。



 阪神淡路大震災の死者は六四五四人だが、その内の二人はこの震災で死んだのではない。

 黒田が殺したのだ。



 黒田は無事姫路に戻り、借金を返済し、あの老夫婦を刺した包丁はきれい血を吹いて粗大ゴミに出しておいた。

 そしてパチンコから足を洗った。

 

 

 今はK文具卸店も辞めて老夫婦から奪った金で株をやっている。

 その日その日決済する売り方専門のデイトレーダーだ。

 年に一千万は稼ぐ。

          *参考文献 大久保雄一箸 ヒロシマ


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