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双華のディヴィーナ  作者: 賀田 希道
氷華誕生編――Birth of Flores
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アンソウト・ヴォイス

 ドアを開くと、中から大音量の騒音が聞こえてきた。鉄と鉄を思いっきりぶつけ合ったような不快な騒音だ。ところどころに黒板をひっかくような音は鼓膜にかつてないほどのダメージを与え、騒音に紛れた動物のうねり声はそれを増長させていた。


 なんだこれは、と思い、部屋の中を改めれば、俺のルームメイトである島城(しまぎ)が大音量スピーカーを付けながら、ウンウン唸っていた。

 彼の手元にはエレキギターがあり、弦を無茶苦茶に揺らした。そこから発せられる音はこの世のすべての音に対する侮蔑と捉えてもいい、不快なものだった。彼自身も良くわからないドクロメイクを顔中に塗りたくり、呪いの儀式でもしているかのようだった。


 これだけの大音量が部屋の外に漏れないのは、島城が防音用の結界を張っているからだろう。だから、行き場を失った音がこの部屋中をガンガン跳ね返る。

 まるで高さがあまりない鉄橋の上を電車が走っているような感覚だ。


 「おい、島城ぃぃ、何やってんだぁぁ?」

 そこそこ大きな声で島城に問う。大音量のせいで俺の発した言葉は俺の耳には届かなかった。

 「あぁ?なんだってぇぇ?」

 

 唇の動きから俺がなんか言ってるのは聞こえるらしいが、何を言ってるかはわからないらしい。しょうがないから騒音撒き散らしている大音量スピーカーの電源を切ることにした。

 非魔導師の機械って扱いにくいんだよなー。少し床に視線を向けてコンセントを探したが、コンセントが見当たらない。スピーカーを調べてみれば、オン/オフというスイッチがあったので、押してみれば音が止まった。


 「ちょっと何すんだよ」

 怒ったような島城が抗議してきた。

 「いや、うるさい、ただうるさい。つか何そのメイク、デスメタル?」

 「おお、よく知ってんなー。そう、今度学園でバンドやろうと思ってさ」


 島城は軽いノリで答えたが、多分流行らないと思うぞ、バンド。伝統を重んじるこの遠海学園において、あんな奇声騒音を吹き出すだけのバンドなんて無用有害の類だろう。

 あと、うっさい。


 「ま、それは好きにすりゃあいいけどさー。俺がいるときは控えてね?」

 「オーケイ、わかった」 

 島城はデスメタルメイクを落としながら、気楽に答えた。ちょっと心配だけどね。


 島城は俺が学園に入学した当時からの友人だ。ルームメイトだから、というのもあったが、主な理由は島城と俺の学内序列があまり変わらないからだ。

 いわゆる共通の友、というやつである。

 だから気が合うというのもあるのだが。


 「そういや、今日は随分な活躍だったよなぁ」

 「は?なんのことだよ」

 俺はとぼけるような反応を示した。何のことを言っているかはなんとなくわかるけど、とりあえずとぼけてみる。こうやってとぼけることで、相手の情報を引き出す、というのがイリアから学んだ執行委員の取り調べ術だ。


 「とぼけんなよ。今日、お前が闘技場で8位の野郎をぶっ倒したことは学内周知の事実だぜ?」

 そう言って、いつの間に発行されたのか、学園新聞の夕刊を島城は取り出した。

 その表紙には今日のトップニュースがデカデカと載せられていた。曰く、『下位序列者 十三(Tredici)騎士(Cavariere)の一角を圧倒!新たなエリート登場か!?』というものだった。


 ちなみに十三騎士というのは、序列上位十三名の別称だ。ここ以外の魔導師学校でも同様の制度が適応されている。

 つか、俺らは騎士というよりかは使徒に等しいと思うんだけどね。


 「うちの序列8位、『(Cinis)の風(Ventus)』を倒すなんてすごいじゃん」

 「何その二つ名。あのインテリメガネそんな名前だったの?すげーかっこ悪いんだけど」

 「あーそれは俺も同感。灰の風(笑)って感じだよなー」


 序列上位十三名には本人が望まずとも勝手に二つ名が与えられる。大抵は本人の得意としている魔法が適用されわけで、8位は風を扱う類の魔法が得意というわけか。

 ちなみにイリアの二つ名は、『妖焔(Myst・Felum)の戦巫女(Virginis)という。実にあの執行委員長の芯をついた二つ名だと思う。


 「じゃなくてさ、お前そんなに強かったのかよー。なんで黙ってんのー?」

 「いや、だからアレは単に向こうさんの筋肉の動きを抑制していただけだって。どんな魔導師でも口が動かなきゃ魔法は使えんだろ?」

 「ああ、そゆこと。──よし、メイク取れた」


 振り向いた島着の顔は程よく整っていた。これは魔導師全体に言えることだが、基本魔導師は整った顔立ちをしている。あ、今日の8位みたいなのは例外だよ。だって、あいつは絶食でもしていたのか、ガリガリだったからね。

 現に島城も少し茶髪が混じった黒髪に、鋭い眼光。スーツとかを着せたらドS上司みたいな顔をしている。


 「お前さー素材は良いんだから、ちょっとだけメイクすりゃバンド売れんじゃねーの?」

 わざわざデスメタルにする理由とかもないしね。

 「いやいや、デスメタルがいいんだよ。そもそもイケメンが『ギャー!!!』とか喚きながらはちょっと引くでしょ」

 俺の冗談をサラッと島城は返す。いや、だからなんでデスメタルなのさ。目立ちたいの?


 「ま、人の趣味趣向は人それぞれだとは思うけどね」

 これ以上何を言っても無駄だと判断したので、何も言わないようにした。あまりうるさくいうと、ルームメイトとの関係にヒビが入りかねない。



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