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双華のディヴィーナ  作者: 賀田 希道
氷華誕生編――Birth of Flores
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ファーストナイト・オーヴァー

 8位を何重もの結界が張られた懲罰部屋に投げ込んで、俺はイリアに事後報告を行う。報告義務というものらしいが、面倒なことだと思う。


 「それで、茨木千乱執行委員は今回の処置が適切だった、と考えるわけですね?」

 そう口にしたのは執行委員会の副委員長だ。エリート官僚みたいな成りで、学内の成績もけっこういい。そういう人間はより天才に近い人間の下で働くのはさぞかし不本意だろう。


 「はい、あの状況では相手の筋肉の動きを麻痺させるのが一番最善だと判断しました」

 と答えたのは俺だ。実のところこの話をするのはもう二度目だ。報告のためにイリアの執務室に赴いたと思えば、今度はこの頭でっかち副委員長のとこに回されたわけだ。


 副委員長の執務室は片付いており、先に訪れたイリアの部屋と正に雲泥の差だ。アレの執務室ときたら完全に私物化されていて、それはもう足の踏み場がないくらいだ。

 こちらの部屋のほうが人さえ違えばまだ好きになれる。


 「そうですか。では今回の件はそう処理しましょう、お疲れ様でした」

 思いの外あっさりと副委員長は了承して、8位の件を片付けた。思いの外この人っていい人なんじゃないの、と思ってしまった。


 「ありがとございます、副委員長」

 一礼をして退室する。


 闘技場の一件は8位に全面的に非があるとされ、8位の一週間の禁固処分ということで片がついた。本人も反省している、ということで退学は勘弁されたらしい。俺としては禁忌を犯したのに学園側も手ぬるいな、と感じずにはいられなかった。

 学校のメンツというのもあるだろうが、仮にも魔導師一人の人生が終わりかけたのだ。もう少しキツイ処罰がくだされてもはいいくらいだ。


 騒動を起こしたのが8位というのも関係しているのだろう。学園を代表する成績優秀者だ。退学や監獄送りにしてドル箱を捨てるのはもったいない。

 被害を受けた4位の方は今日中に目を覚ますということらしいし、学園側もこれ以上は大事にしたくはないのかもしれない。


 とりあえずは落ち着いた、と考えるべきなのだろうか。

 どうせ俺にはもう関係のないことだしね。



 「どうでもよくないって!」


 帰り際にイリアが怒鳴った。

 副委員長への事後報告をした後、その足で帰ろうとしたらイリアに呼び止められた。そして今の今まで雑務を押し付けられていた。

 結果として現在時刻は午後六時。寮の門限まであと三十分しかなかった。


 イリアが怒っているのは学園側の判断についてだ。スパッと結論が出ることにかけては右に出るものがいない学園統括委員会の決定速度だが、いかんせん今回の結果にイリアは納得がいかないらしい。

 理解できるっちゃ、理解できるがイリアが何を言おうと、もう決定は覆らないだろう。


 「なんで、禁忌に触れた魔導師を休学一週間くらいで済ますのさ、ありえないでしょ!」

 「決定は決定なんだから何言っても無駄だって……」

 言っても無駄だということはわかっていても、一応説得を試みる。


 しかし、イリアは頑として聞かず、喚き散らした。

 「(えん)ちゃんも燕ちゃんだよ。統括委員会の言いなりになっちゃってさー!」

 ちなみに燕ちゃんというのは副委員長のことだ。本名を九条燕(くじょうえん)(つばめ)という。


 「まぁ、統括委員会会長がうちの序列一位だからねー。そりゃ文句も言えないでしょ」

 「ほんと、今度決闘申し込んでみよっかなー」

 「あー、それ止めて。学園崩壊するから」


 これは比喩でもなくただの事実として。なにしろイリアはうちの学園の序列3位。実力だけなら会長と同じくらいだ。魔導師としての階位は第八層魔導師。

 教師連中よりも階位は高いので、将来有望な女だ。


 「そんなのしないって。そんなことしたらあたしが監獄行きじゃん」

 少しは理性的な脳みそが残っていたのか、その回答は安心できるものだった。この人、リミッターがついてないとグリーンランドの一つや二つくらいは海の底に沈めそうなんだよなぁ。

 「お分かりいただけたようで何より」


 一応の理解を示してくれたイリアに敬服の意をこめてやろう。ちょっと暴走衝動あるけど、基本は聞き分けいいんだよなー、イリアは。

 

 「あ、あたしの寮こっちだから」

 そう言って、イリアは別方向の道に歩いていった。イリアが向かっている寮は学内序列十三位以上のみが入寮できる特別な寮だ。一度イリアに連れられて入ったことがあるが、中はまるで高級ホテルのような造りになっていた。


 全て合わせて二十のスイートルームが各階に四部屋ある六階建て構造で、三ツ星レストラン並の料理が出る食堂や地下闘技場などもある。また、入寮している生徒各々がいつでも魔法の練習ができるように、地下二階に小さいながらも練習場が二十部屋ほど用意されている。


 ここまでの恵まれた環境の寮など、世界中探してもここくらいなものだ。ほんと、優秀な生徒に対してこの学園は甘い。そんなことしたって、将来貸した恩が返ってくる保証もないだろうに。

 対して俺が入寮している寮は、主に下位序列者が多くいる。中には中位の序列者も何人かいるがごく少数だ。寮の造りは至ってシンプルで、二人一部屋の部屋が一つの階に何十とある六階構造だ。


 ゆえに規模はあるけど、スペース自体はあまりない。食堂はいつだって混んでるし、練習場は大きなものが一つだけだ。

 許容人数は大体三百人程度。こんな寮が島に最低八つはある。それでもまだ島の敷地に余裕はある。


 「第七寮」と書かれた看板を抜け、寮の中に入る。寮の中にはいると、まず目の前に小さな団欒所があり、数人の生徒が話し合っていた。

 会話の内容は定かではなかったけど、なんか重要な話をしている風だった。


 団欒所を抜け、四階まで階段を登る。俺の部屋は四階の208号室で、階段に割りと近い。二人並んで歩けるかどうか、という廊下を通り、自分の部屋に入る。

 ドアノブを回してすんなり開いたので、俺のルームメイトはもう部屋の中らしい。ちょうどいい、今日鍵を忘れていたんだった。

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