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双華のディヴィーナ  作者: 賀田 希道
氷華誕生編――Birth of Flores
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ソーリー、アイム・ア・イントゥルーダー

 最初に視界に入ったのは薄い笑みを浮かべている8位。雷の影響で制服のいたる箇所に切り傷がついたり、焦げたりしている。しかし、別に大事に至っているわけではない。

 逆に次に視界に入った4位の方が悲惨だった。顔面が引き連れ、鼻水がダラダラと流れ出ている。両の目は充血せんばかりに見開かれ、絶えず奇声という名の悲鳴を上げる。時折、自分のきれいな髪を引きちぎったりして、ガンガンと頭をステージに打ちつけ、血がほとばしった。


 まるで何か恐ろしいものでも見ているのか、彼女の目はひどく震えていた。


 「これは……、精神汚染か」

 いくつかある魔導師世界のタブーの中で使ってはいけない、とされている魔法の一つだ。この手の魔法は7つあり、それぞれがほぼ確実に相手の精神を破壊することができる。


 しかし、誰も何も言わない。ただの錯乱魔法と思っているのか、それとも4位自体がとち狂ったのか、と考えている、のかもしれない。

 そもそもここにいる連中自体精神汚染魔法なんて見たことないだろう。名前だけの知識なわけで、使う訳がないと考えているのだ。


 でも、止めないわけには行かないよね、執行委員として。


 「執行委員として宣告する!この決闘は続行不可能、また高等部二年、グレイ・ガリアスには同二年、エリス・フレイアに対しての精神汚染魔法を解くよう要求する!」


 闘技場内のほとんどの視線が俺の方に向く。8位もだ。連中の目はほとんどが驚きに染められ、少数が邪魔者を見る目、そして8位の目は後者だった。

 俺はその視線を流し、悠々とステージに降り立つ。周囲の視線なんて感じない。感じないったら感じない。


 8位を押しのけ、4位の状態を確かめる。絶えず奇声を上げているが、状態を見る限りは第七精神汚染魔法をかけられているようだった。確か幾千もの豚に犯されるという類の幻惑を見せるというものだ。

 そりゃあ、発狂もする。今4位の脳の中には終わることのない絶頂の感覚が与えられているはずだその快感は容易に人を地平の彼方へとトリップするはずだ。


 「Surgere・a・somnium」

 とりあえず幻惑を解除する。数秒後、精神汚染魔法が解けたのか、4位は悲鳴を止めて倒れ伏した。


 「さて、8位様。これからあんたを拘束することになる。場合によっちゃ監獄送りかもな」

 8位にだけ聞こえる小さな声で拘束宣告をする。無論そんな宣告8位は受け入れずに反抗する。


 「何いってんの?君、僕にそんなこと言っていいの?僕はこの学園の序列8位だぞ!すごく偉いんだぞ!」

 「はいはい、そうですか。えっと……Infirmitatem・to・vos」


 唱えると、8位は足腰が立たなくなって、膝を屈した。失禁を乙女子(おとめご)みたいだな、とガラにもなく思ってしまった。

 ただ足の筋肉の動きが抑制される類の極めて低位の医療魔法を使っただけ、ではあるが効力は長く、一度かけられたらなかなか麻痺がとれない。


 「僕は第六層魔導師だぞ?こんな麻痺が効くわけ無いだろ!」

 威勢のいいことを言って、8位は麻痺を解こうとする。何度も、何度も麻痺を解こうと、医療魔法を自身にかける。お陰ですり傷だったりはすぐにヒール!すごいねー、魔法って。

 でも、麻痺はいっこうに解けない。相変わらず8位の足はうんともすんとも言わない。


 ちなみに8位が口にした第六層なんたら、というのは魔導師の階位のことだ。より深く地獄の奥底に潜ることで階位は上がり、最上位の存在として第九層魔導師が存在する。ちなみに大抵の魔導師は第六層辺りまでしか潜れない。

 連中の器の底、というわけだ。たしか、4位は第七層魔導師だったかな?使える魔法も、威力も、精度も、すべてが8位より上のはずだ。なのに負けちゃったのは何でだろーね?


 「なんでだよ……、なんで解けないんだよ!執行委員つっても、学園序列は僕に及ばないだろ!」

 「ええ、まったくその通り。俺の学園序列は下も下。2,657位だよ」

 「なんで、そんな下位序列者(ローランカー)が僕が解けないような魔法をかけられるんだよ!」

 「あはは、何でだろーねー。おかしいよねー」


 笑いながら俺は適当にはぐらかす。なんでかなんて、教えてやる義理はないし、何よりも面倒くさい。頭でっかちな人間に簡単なことを説明することほど面倒なことはないのだ。

 「まぁ、強いて言うなら8位様は俺よりも魔法のセンスが無いってことだよねー」


 それが8位様のプラスチック並みに脆いプライドを粉々に砕いた。元々下位序列者なんかにかけられた魔法を解けない時点でズタズタだったプライドがさらに傷付けられたわけだ。

 8位様は怒りを露わにして俺に向かって、

 「Lussria!」

 とか叫んだ


 途端に視界がフェイドアウトして、周囲の景色がガラリと変わった。薄暗い空間に、なんとも淫らな雰囲気の建造物が建っていた。看板には「帝釈天(色男)の園」と書かれている。つまるところは男の男による男のための憩いの場だ。

 「趣味悪」

 そうつぶやかずにはいられない建物だった。


 すぐに見る絶えない汚物のような、連中が建物の中から押しよってきた。連中は形こそ人だが、その容姿は人とは形容できない。ただの汚物だ。

 下品な脂肪の塊をぶら下げ、陵辱の限りを尽くそうとしてくる。別にこのまま連中と遊んでやってもいいのだが、それだとさっきの4位のようになりかねない。あんな風に奇声を撒き散らすマンドラゴラみたいなのはゴメンだ。


 「Ad・et・terminabunturque」


 少しの間を置き、汚物が俺に手を触れようとした時に、連中の体がはじけ飛んだ。脂肪が爆発し、そこらじゅうにきったない体液をぶちまける。

 いうてただの幻覚であるわけであって、俺の脳内で起こってることにすぎない。だから現実にいる観客や8位には何も見えない。知覚はできると思うけど。


 汚物がくたばると、「帝釈天の園」も周囲の薄暗い空間も消え、元のステージの上に戻った。奇声とかは多分あげてないと思うけど、一瞬幻覚をかけられたから少し寝てただろうなぁ。

 恐る恐る目を開けると、驚いているような8位の顔がまず視界に入った。口と目を目一杯広げて、眼球と校内が乾かんばかりだった。


 周囲も似たようなものなのか、それとも何が起こったのかわからなかったのか、唖然としている。要約すればみぃんなアホ面引っさげている、ということだ。


 「うーん、第六層魔導師くらいじゃこんくらいが限度かなー」

 「は?何言ってんだよ……何やってるんだよ……」

 現実が理解できていないのか、8位は唇を震わせた。ついでをいえばまだ麻痺を解除できていないらしい。相変わらず地べたに這いつくばっている。


 「どうやってあの精神汚染魔法を解除したんだよ!あれは僕の魔法の中で最高のものだぞ!」

 精神汚染魔法が最高のものって……いやバカだねー。なぁんでタブーの類を最高の魔法にしちゃうのよ。凡才なりに努力しなさいよ。

 つか、精神汚染魔法認めちゃったね、ラッキー。


 「あー、あのさ、そろそろ拘束していい?」

 そう言って、8位の筋肉全体の動きを抑制する。酒を飲んで酔っ払ったような感覚になるはずだ。脳の働きは抑制されはしないが、顎の筋肉が緩んでしまっては魔法は使えない。さながら薬中末期の患者のような状態になるはずだ。


 「えっと……本日午後四時四十八分、高等部二年、グレイ・ガリアスを禁則事項関与の疑いで拘束する」

 一応急に魔法を解除されても困るので、二重に筋肉動作を抑制する魔法をかける



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