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双華のディヴィーナ  作者: 賀田 希道
氷華誕生編――Birth of Flores
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飛鳥島

 日本は南鳥島よりさらに東に島が一つある。名を飛鳥島といい、大きさは山手線半周分くらいの面積を有している。この島は個人の資産であり、島の上に人工物が多数建造されている。

 それだけ見ればただの金持ちの道楽施設だ。


 ただ一つ他の島と違うことはこの島が浮遊していることに尽きる。膨大な量の瘴素によって重力逆らっているこの島は魔導師、と名乗るインテリ連中の学び舎がある。

 名を遠海学園といい、世界に名だたる魔導師のための学校の一つである。全寮制の学園で、島のいたる場所に巨大な寮や研究所を保有している。


 中等部と高等部があり、中等部では基礎的な数学と英語に加えて魔導師社会のシステムなんかを学ぶ。高等部では中等部で習ったことに加えて、本格的な魔法理論の構築とかをしたりする。高等部卒業後は各々自由な道を選んで世界に羽ばたいていく。

 羽ばたいていくと言っても、大抵は学園に残って魔法の研究をしていく。あとは魔導師の魔導師による魔導師のための職場である『リーグ・オブ・ファンタズム』という機関に所属することになる。


 どちらにしろ俗世に関わることは少ないわけだ。



 遠海学園の校内の一角に縮小した自然公園のような場所がある。昼食時と放課後はここに多くの学生が集まり、メシを食ったり団欒したりをする。彼ら、彼女らは学園生活を満喫しているらしく、人間性の不審さなどはまるで感じない。

 ほんと、非魔導師社会にだって簡単に溶け込めそうな連中だ。しかし、


 「うわっ、ちょっと火、火!」

 「水出して、水出して!」

 「Aqua!」


 近くで炎を使って作業をしていた女子生徒たちが、驚いて水を魔法で出現させる。すぐに炎は鎮火されたが、少しだけ芝生が焦げてしまった。

 驚くとすぐに魔法を使って解決しようとするから、魔導師は非魔導師社会に溶け込めない。お陰で非魔導師社会じゃ魔法を使ったばかりに超能力者、とか呼ばれるまである。本当の超能力者に失礼だと思う。


 その様子を窓から見ていた俺は呆れるしかなかった。これだから頭でっかちの連中は、と。反射的に魔法を使うとか素人に相違ない。

 リボンを見る限りは高等部の生徒だ。それがまったく。あと校内での魔法の行使は禁止なんだよなぁ。

 

 うちの学園は黒を基調とし、襟や袖口が群青色のブレザー式の制服を採用している。男子はネクタイ、女子はリボンだが、中等部はこの色が青で、高等部は黒だ。

 とは言っても、魔導師一人一人の個性があるためか、ネクタイとリボンの色以外は自由に変更できる。例えば女子で黒い地味な制服を着たいのなんて少数だ。それは男子生徒も同様で、殆どの生徒が制服の色を派手な色に変えたりしている。


 若気の至り、というやつだが、あとになってそういうのは後悔するのだ。その証拠に教師陣はみんな地味な服装をしている。

 それを理解しているので俺もプレーンというわけだ。


 「ねぇ、千乱(せんら)、あんた話聞いてる?」

 俺に語りかけたのは赤髪ポニーテイル女子生徒。西洋系の顔立ちをしており、瞳は紫色だ。背丈は大体161センチくらい。制服はプレーン。理知的だねー。

 「聞いてないけど」

 とっさに否定的なことを口走った。

 

 「ふーん、そういうこと言っちゃうんだ」

 俺に否定的な意見を言われた人物、イリア・ルージュは怒ったように俺を睨みつけてきた。美女に怒られるというのも悪くない。

 ことイリアのような外国人系の美女に怒られるのはマニアにとってはご褒美だ。俺にそんな趣味はないけれど。


 「いや、ごめんなさいね。生意気言っちゃって」

 俺は髪をかきながらてきとうに謝る。もちろん謝辞の意思なんてまったくない。

 それが向こうさんにも伝わったのか、イリアは猛烈に怒っているように見えた。彼女の周囲に漂っている瘴素が震える。魔法を行使する前触れだ。

 

 「ちょっとストップ!ここで魔法を使うのは校則違反でしょ!」

 俺のその言葉が届いたのか、瘴素の震えが止まった。


 「仮にもあんたは学園の秩序を守る執行委員だろ。それが校則違反はマズイッて……」

 「いや、あんたも執行委員でしょ。ていうか、あたしの話を聞け!」

 「はいはい」


 同意を示すや否や、イリアは一枚のチラシを持ち出した。書いてある内容は以下のようなものだ。

 『本日四時半より、高等部二年生エリス・フレイアと高等部二年生グレイ・ガリアスの決闘を学園内第三闘技場で行う。

 これは両生徒、執行委員会並びに学園統括委員会の承諾を得た正式のものである』


 ふむ、決闘ね。

 学園内じゃよくあるお遊戯だな。

 決闘とは、魔導師同士が主義主張のために、幾重もの結界で覆われた闘技場の中で魔法を乱用するというものだ。勝利条件はどちらかが降参の意思を示した時か、気絶した時に限る。あとは、審判連中が戦闘続行を不可能と判断する時だ。


 「うちの学内序列4位と8位が決闘……なんでこんな下らないのにサインしちゃったのよ?」

 「仕方ないじゃん、統括委員会の方からの強い強い要請だったんだから」


 イリアはもうどうにでもなぁーれ、といった感じで投げやりな口調になった。でもねー、これはちょっとねー。


 学園内序列は総合的な成績で決まる。そこに学年別の差はなく、功績だったり実力だったりですべてが決まる。全校生徒が三千人くらいのマンモス校において十番以上は極めて優秀であるといえる。

 もちろんそこに人間性だったりとかは加味されない。だって学業には関係のないことだから。


 「で、俺にどうしろと」

 「審判役として同行しろ。で、危なくなったら止めなさい」


 うわー無茶振りだなー。俺の学内序列ってたしか2,657位とかだよ。4位と8位の決闘に割り込むスキなんてあるわけがない。

 実力は歴然であるわけで、それに視線がねー。第一俺よりもマシな執行委員は他にもいるだろう。そいつらに命令すればよいではないか。


 しかしそんなことをイリアに言ったところでどうしようもない。どうせ、行けとだけしか命令されないのだ。行っても意味はないと思うけどね。

 そもそも4位と8位が決闘したとして、多分勝つのは4位だ。現在の4位であるエリス・フレイアは高潔で知られている類の人間だから、相手を痛めつけるだとかなぶるだとかいう性癖は持ち合わせていなはずだ。


 問題があるとすれば8位のグレイ・ガリアスの方だろう。姑息で卑怯な手が大好きな男だ。確か学園に入学してすぐに8位の座に就いたけれど、二日後には4位に負かされて転落人生歩んでたやつだ。

 そっから苦労してようやく8位の座に就いたと思えばもうエリス・フレイア様は4位の席に就いていたんだから面白くないのだろう。嫉妬とかそれくらいしか4位に向ける感情はないはずだ。


 「まぁ、いいか。高位序列者の決闘なんて滅多に見れないし」

 「あたしも見に行くからヨロピクー」


 それなら俺行く必要なくない?執行委員長が止めれば万事解決世界はハッピーじゃん。



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