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双華のディヴィーナ  作者: 賀田 希道
氷華誕生編――Birth of Flores
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フロスト・フレア’ス・ファーストタイム・ヒー・ビケイム・シリアス

 「さて、立てるだろうな?」

 酔いから覚めたエリスが俺を見下ろす。彼女自身も落雷を受けたはずなのに、傷一つない。自分の魔法だから相殺できたのかな。


 体が動くことを確認して、ゆっくりと立ち上がる。ホコリを払って、改めてエリスに向き直る。彼女は多少の余裕を残して、俺の目を見つめている。

 ちょっとだけやりにくくなったかな?とりあえず……対処用の魔法をいくつか使っとくか。


 「改めて、この私の実力を見せてやろう。Ruggire・del・tuono!」

 瞬時にエリスの両隣に(いかずち)が現れる。彼女の合図とともにそれらは俺に向かって、一直線に放たれた。単調ではあるが、速度は音速を超えている。

 が、無駄なんだよなー。


 「───ice───」

 瞬時に雷が凍りついた。俺に当たる八歩手前で。

 凍った雷は砕け散り、俺の足元にその欠片が転がる。


 「で?何を見せるって?」

 転がってきたかけらを砕いて、エリスに向き直る。踊りているのか、それとも理解できていないのか、反応がない。

 完全に放心していた。


 「なんだ、それは?」

 第一声がそれだった。脳みその処理速度が遅いのか、言葉に感情が乗っていない。音速を超えるあの雷をどうにかできるとは思っていなかったのだろう。


 「ただの冷却系の魔法、瞬間系のね」

 「それは理解している!私が言っているのは……」

 「どうやって反応したのか、とかいうこと?」


 俺の問いかけに彼女は頷く。確かにその辺はきちんと説明しとかないきゃね。変な憶測を立てられても困るし。


 「単純だよ。要はあんたの魔法が届く前に発動させりゃいいんだろ?そんなの俺の唇の動きがあんたの雷を凌駕すりゃいいだけのことだろ」

 言うのは簡単だけど、これって案外むずかしい。

 人間は一秒に十文字までが限界だと言われている。それでは雷の速度にはかなわない。だから、対処するために唇の動きの速度を三倍速にした。


 そうすれば、一秒に三十文字が言える。これをより細かくすれば、〇.一秒で三文字がいえる計算だ。さっきの雷の速度は340メートル/s、即時詠唱をすれば事足りる速度だ。

 そして、重要なのはこっから先、俺は相手のどんな魔法にも即時対処が可能ということだ。つまり、相手に打つ手はない。多分。


 「そんなふざけた方法で!Lama・del・tuono!」

 雷の次は雷の刃ですか。速度は音速は超えてないから、避けれるかな?

 と思って回避するが、回避した直後、刃は軌道を変え、再び俺に襲い掛かってきた。追尾機能付いてんのかよ、めんどくせーなぁ。


 「Clypeus」

 しかし、音速に至っていないなら対処は容易だ。障壁を張って、刃を防御する。追尾に殆どの機能を割いていたのか、刃はあっさりと砕け散った。


 「そろそろ、俺も攻撃しますか。Incrementum・et・exess!」

 ポケットから監視用の紙切れを一枚取り出し、エリスに向ける。紙切れは先端部分から急激に伸び、エリスまで到達する。

 「Hardened!」

 

 到達する直前に紙切れを一瞬だけ硬質化し、鉄筋棒が衝突するような痛みを与えようとする。が、エリスはその攻撃をかわし、ポケットから何かを取り出す。

 それは小石だった。どこにでもある何の変哲もない小石。それを俺めがけてエリスは投げてきた。とっさにガードの体勢をとる。


 が、何も起こらず、小石は俺の腕に当たっただけだった。すぐにブラフだと気づいたが、その時にはもう遅かった。

 エリスはすでに次の魔法の行使準備を終え、俺を見据えていた。

 「Lancuia・di・tuono!」


 全長三メートルはある雷の長槍。それが一直線に俺に向かって放たれた。普段ならあれくらい受けても気絶はしないけど、今はマズイ。

 防御もできない、体もボロボロ、受けるしかないかな?


 「なんてね。Crypeus・et・rex」

 障壁をより強く張り、槍の一撃を防ぐ。しかし、急に障壁を張ったので、周囲の瘴素は完全に枯渇していた。

 そのせいか、障壁が消え去ると同時に、すごくダルく感じた。


 息切れが酷いな、俺。

 瘴素がなけりゃ魔法は使えない。移動しなきゃな。

 そう思って、エリスから距離をとりつつ、左三メートルに移動する。その間にエリスからの追撃はなく、余裕が現れていた。


 いい加減にめんどくさくなってきたなー。もうここらで本気出そうかな?よし、そうしよう

 「Terra・glacies!」

 唱えて数瞬後、俺を中心として大地が凍っていく。さっき使った冷却系の魔法みたいなチンケなものじゃない。訓練場の地面における力の移動を凍結させているのだ。


 力の移動を止める、ということは地球の物理法則、慣性だったり摩擦だったりもなくなる。つまり、今この瞬間だけ俺が立つ場所以外は地球の法則が通じなくなった。

 そこから導き出される答えは……まともに活動ができなくなる、だ。


 エリスの体が壁に打ちつけられる。直後に地面にうつ伏せになって、体を起こせなくなった。なんとか体を起こそうと手を地面につくが、甲斐もなく滑り転げる。

 気がかりがあるとすれば諦めずに魔法で反撃をしてくることだけど、そんな事できそうにないかな。今の彼女の状態じゃ。


 エリスはなんとか自分を壁だったり、地面にだったり打ちつけている力を解こうとする。しかし、どれだけ抵抗しても、彼女は無力だった。

 摩擦力がないせいで、単純な膂力だけで立ち上がるしか彼女に方法はない。しかし、それも力の進む向きが存在しないため、意味を成していなかった。


 「あのさー、そろそろ諦めれば?こう言っちゃぁなんだけど、この魔法の範囲に入って、俺に勝った試しのある人間いないよ?」

 「これは……なんだ?」

 途切れ途切れでエリスがつぶやく。


 「これ?第九層魔法」

 「なんだと!?」

 驚愕の表情がエリスの顔を染め上げる。


 「そのひとつに凍結魔法ってのがあるんだけどね。概念の活動を停止させるっていう代物なんだよね」

 「凍結……魔法?」

 「そ。ダンテ著『神曲』に記されてる『第九圏コキュートス』の縮小再現を行う魔法。永遠に溶けない氷の中に永久に拘束される。その内の『不変』という概念の具現化を今は行ったわけ」


 エリスはようやく俺の言っていることが理解できたのか、黙ったまま聞いていた。

 「それでさ、そろそろ降参しない?これって、やろうと思えば永遠に使ってられるけど、辛いものがあるんだよねー」

 「這いつくばっている誰かを見る、とかか?」


 普段のエリスからは想像できない面白い冗談だった。

 「まぁ、そうかもね」

 「趣味が悪い……。が、確かに私の負けのようだな、降参しよう」

 エリスが負けを認めると同時に魔法を解く。


 この魔法、使ってる時に動けないのが難点だよなー。だって、少しでも足を動かせば俺も摩擦力をなくして壁に激突しちゃうわけだからね。

 強力ではあるけど、使う場面を選ぶよね、これは。瘴素の消費だって半端にならないしね。もうこの訓練場に瘴素ないんじゃないの?

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