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恐怖の女風呂

作者: 松田寿生

 先日、兄貴(姉の夫)と出水の温泉に行った。兄貴がトイレに寄っていくと言うので、冷たい雨が降って少し寒かったこともあって先に入っていた。

 ああいい湯加減だと気持ちよく湯船につかって、鼻歌一つでも歌いたい気分だった。

 しかし、それにしても兄貴が来るのが遅いなぁーと思っていると、外で兄貴の声がした。何かわたしに叫んでいるようで、湯船から出で耳をすますと、


「そこは女風呂だよ」

と叫んでいるのだ。

だっていつもと変わらない、先月も入ったお風呂だと思っていると。


「ひと月ごとに男風呂と女風呂が交代するだ」

と言っている。

わたしは、あわてて濡れたままパンツをはいて、服を籠ごと持って隣の男風呂に移った。


ひと安心と思っていたところに、持って来た温泉セットが見当たらないので。

また慌てて女風呂に温泉セットをとりに引き返した。


幸い、まだ誰も入っていなかった。


神様に感謝して、急いで女風呂から出ようとしたところに女性が入ってきてしまった。


その時のわたしの姿は、手ぬぐいを首にかけ、黒色のボクサーパンツをはいて上半身は裸だ。

女性は「あらっ」と、つぶやいた。一瞬不審に思ったのであろう。

わたしは「やばい、どうしょう」と思い。

「掃除が終わりましたので、ごゆっくりどうぞ」

ととっさに言葉が出た。


女性は納得がいったのか

「ご苦労様」

といってお風呂に入って行った。

「やれやれ」


せっかく暖まっていた肩に、またもや冷たい雨が吸い込むように降り注ぎ、いそいで男風呂に飛び込んだ。

そんな私の様子を見て兄貴は「ゲラゲラ」笑っていた。

こっちとしてはとても笑い話ではないと思っていたが、自分でも振り返って思い出すとおかしくなり「ヘヘヘ」と頭を撫でて笑った。

しかし間一髪ではあるが久しぶりに女湯に入った体験であった。

(母ちゃんと一緒に女風呂に入っていたのは7歳ころまで)


そしてまた、数週間後に男風呂に入ったら、わたしが持って来た女風呂の籠がまだ置いてあった。

女風呂の籠は白色で男風呂の籠は茶色。

ここの職員はなんで男風呂に女風呂の脱衣籠が置いてあるんだろうかと思わないんだろうか。不思議である。


わたしは此処の温泉施設は客が少ないのが気に入っている。

主に宿泊客用のお風呂だからそうなんだろう。


オットドッコイ、ところがまだ続きがあった。数週間後のことである


いつものよう、わたし一人でお風呂に浸かっていた。しばらくして、三名ほど客が入って来たが、さっさと入浴を済ませて出て行った。

「ああ、泊の客だから時間を置いて数回入るんだな」と思った。


身体を洗いながら、また一人でお風呂を楽しんでいた。

約一時間経って、そろそろ出ようかなと思っていたところに、お風呂の入り口のドアの音がした。

「次の客が来たんだな」と思いながら服を着たが、なかなか次の客が入ってこない。

「どうしたんだろう」

そんなことを思いながらお風呂の入り口に行くと、赤いサンダルがあった。赤いサンダルは女風呂用のサンダルである。

「おかしいなぁ、何で女風呂のサンダルがあるんだろう」と思っていたら、トイレの電気がついていた。

もしかすると女の人が間違えて男風呂に入って、いまトイレを使用しているのかな、前の俺と同じ間違いをしている人がいるんだと思いながら、男風呂から施設のたまり場に移動した。


「それにしてもさっきの女風呂用のサンダルが気になるなあ」と思い、男風呂の方を見てみるが、女の人が出てくる様子もない。かと言って男の人が入っている様子もない。客が少ないので特に問題が起こらないのかもしれないと思いながら、温泉施設を後にした。


お風呂から上がって長く男風呂の方を気にしていたためか、体が冷えたようだ。さっさとウィスキーを飲んで夕方のニュースも見ずに寝ることにした。


しばらくして、また温泉に行った。この間は女風呂と間違えたので慎重である。やはり先客はいなかった。


「まあ、午前10時だから客がいないのも当然だろう」


湯船につかり鼻歌でも唄っているところに、女性の声が聞こえてきた。いや、女性たちの声と言った方が正確だろう。たぶん二人以上だろう。


女性といえば良くしゃべるもので、この間なんか、わたしが買い物に行くとき道路で二人の女性が話していた。そこから2キロぐらい先のデパートで買い物をしたが、ここでも通路でしゃべっている。しかもカートを掴んでいるわけだから通路の半分以上占領しているわけである。通行人が迷惑そうに見ながら通り過ぎても一向に構わない様子で、体中から笑い声と話声が発散されていた。困ったもんだと思いながら買い物を済ませた。

ところがである。驚いたことに、買い物に行く途中であった女性たちがまだおしゃべりをしているではないか。

つくづく女性と言うものはおしゃべりが好きな動物なんだと、感心さえしてしまう存在である。


さて話は戻るが、さっきの男風呂に異変が起きた。何と女性三人が入って来たではないか、しかも前を隠しもしないで堂々と。五、六十ぐらいの女性たちである。

わたしは、鼻まで湯船に浸かった。

女性たちは私の向かい側に入って来た。


驚いたわたしは

「あのう、ここは男風呂ですよ」と言った。

女性たちはお互いに顔を見合わせて

「違うわよ、女風呂よ」と挑戦的に言った。

「男風呂の暖簾がかかっていたでしょう」

「いえ、女の暖簾だったし、今日は一日(ついたち)だからこっちが女風呂です」と確信的に言い放った。


確かに今日は一日(ついたち)だからお風呂は入れ替わるけど、わたしが入る時は確かに男風呂の暖簾がかかっていたはずである。


わたしは蛇に睨まれたカエルみたいに慌てて湯船を出て暖簾を確認した。

確かに女風呂に変わっていた。


わたしは、そのことを施設の職員に話した。

「ああそういえば、10時過ぎに暖簾は変えましたが、中には女性しかいませんでしたから、問題がないと思っていました」と職員は平然とした顔で応えた。


「どうやって中を確認したんですか、確認には気づかなかったけど」


「入口のサンダルが赤い女性用だったからです」


私は思い出した。

そうだ、わたしがサンダルを間違えてしまったけど、まあいいやと思ってそのままにしてお風呂に入ったんだった。

ミスマッチはこうして起こるのだということを職場の危機管理で学習したことを思い出した。


急に寒気がしたので、今度こそ間違いなく男風呂で芯まで暖まろうと思い、またお風呂に入ることにした。そして男風呂の入り口のドアを開けて驚いた。なんとそこには女風呂用の赤いサンダルが一杯あるではないか。それも山積みみたいに。


もう頭がクラクラになったところで目が覚めた。

時計を見るとまだ午後の10時を回ったところであった。

外出から帰宅してテレビを見ている妻に言った。

「おはよう」

何も知らない妻の反応は

「あら、もう起きたの」

わたしは、この話をした。

妻は笑った。


・・・・恐怖の女風呂の話であるぞ・・・・ (´◉◞౪◟◉) 。。。


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