消えない傷と確かな温もり
こんばんは、別サイト様での活動ばかりになってしまっている気のする遊月です!(。-人-。) スミマセン
ということで、第9話です!
橋の街ブリュッケブルクに到着したしずくとパト。
2人を待っているものは……!?
本編スタートです!
「しずく、着いた。ここ、ブリュッケブルクの街」
しばらく続いた深い森を抜けて、視界が開けた瞬間に感じたのは、吹き抜ける風とそれに混じる潮の香り。凪いだ海から聞こえる静かな波の音と、海峡に跨るように造られた街から聞こえてくる、活気のある賑わい。
海峡に架けられた橋のような役割を持っているらしいその街を見て、ふとあのことを思い出して。
「――――――――っ!!」
あんなこともう起こらないってわかってるのに、背筋が凍るような感じがした。
「しずく、震える。寒い?」
「う、ううん、違うよ、パト。ありがとう。大丈夫だから……」
そう言えば言うほど、思い出してしまう。
『じゃあ、行けばいいじゃん』
私がこの世界に来るきっかけになった出来事。
大学の新歓帰りに、背後から聞こえた声。あれも、自宅のすぐ近くにある橋の上だった。確か、彩が少し遠のいたように感じて思わず独り言を言ってしまったときのことだった。
『こんな気苦労とかしない世界に行きたい』
そんなのない、って思ってたけど。
でも、ちょっと気持ちをすっきりさせたくて出た言葉。
それに答えるように、あの声は聞こえた。
その後は――――
思い出しただけで、お腹が痛くなる。
この世界に来たとき、お腹に怪我はしてなかったらしい。心配したパトにいきなり服のお腹を捲られてびっくりした弾みで思い切り叩いてしまったのを思い出して、ちょっとだけ恥ずかしくなる。
でも、あのとき私は確かに名前も顔もわからない誰かにお腹を刺された。
皮膚の中に冷たい金属が入ってくる感触も、身体の中身が引き千切られるような気持ち悪い感触も、お腹から広がる熱も、じわじわ芽生えてくる痛みと一緒に迫ってくる不快な寒さと、段々曖昧になっていく意識。
最後に感じた、水の感触……。
「ぱ、」
隣に立つ彼の名前を呼ぼうとして、
* * * * * *
「あぁ、気付かれましたか! お加減はいかがですか、天使様?」
目を開けると、そこは石造りの小さな部屋の中。ベッドで仰向けになっている私を心配するように覗き込んでいるのは優しそうな――そして何より安心したような微笑みを浮かべているおばさんだった。その表情の優しさに、犬耳が生えているところは違うけれど、私は近所の世話好きなおばさんを思い出した。
「え、と……、ここは?」
おばさん――名前はカーラさんっていうらしい――に尋ねると「ここは私の自宅でございます」と丁寧に教えてもらえた。
石の冷たそうな感じに反して、中は暖房か何かのおかげで暖かい。
「えっと、カーラさん。私どうしたんですか?」
「あっ、そうでした! 天使様、早く彼を安心させてあげてくださいな!」
「彼?」
「貴女様を私のところに担ぎ込んできた背の高い男の方ですよ。彼ったらもう凄い慌て様で……。言葉もろくに通じない中で必死に天使様を助けるように、って訴えかけていらしたんです。きっと大事に想われていらっしゃるのね」
ふふふ……という生温かい笑顔に何だか頬が熱くなりながら、「え、えっと彼はどこに行きました?」と尋ねる。
「あー、きっとここの屋上にいらっしゃるんじゃないかしら。そちらでお待ちいただくように申し付けておりますから。あ、あら天使様! まだ起きたばかりなのですからあまりお急ぎになると危ないですよっ!?」
慌てたようなカーラさんの声を背中に、私はパトの待つ屋上に向かう。
大事に想ってくれるとかそういうことが……まぁないとは言えないかも知れない。私はこの世界を救う力を持った【天使】なんだから。
でも、きっとそういうことじゃない。
パトが倒れた私を慌ててカーラさんのお家に担ぎ込んだのは、そういうことじゃない。
その理由がわかっているから、早く顔を見せてあげないと……!
「パトっ!」
「…………、しずく?」
振り返ったパトの顔は案の定、怯えた小さい子を思わせる泣き顔だった。
前書きに引き続いて、遊月です!
後書きとは言いがたいかもですが、ちょっとした小話を。
今回、しずくが「橋」にトラウマを刺激されて倒れてしまうシーンがありましたが、書き始める直前まで練っていたプロットの段階では全く考えられていませんでした。まぁなるだろう状態なのですが、そういうものだったりします。
ということで、書いてみるって大事なのかも知れませんね、というお話。
また次回お会いしましょう。
ではではっ!!