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暁へ至る群青  作者: 遊月奈喩多
7/13

旅立ち

こんばんは、久方ぶりの更新ですね、遊月です。

とうとう今作の更新ができました……(先々月以来ですって!) 遅くなってしまい、すみませんでした!


ということで、しずくとパト(犬男)が旅立ちます。

本編スタートです!!

「よろしくね、パト!」

「しずく、オレ覚えた。よろしく、しずく」

 晴れやかな笑顔をこちらに向けている犬男……改めパトが握り返してくる手の温もりが離れて、私たちは村の門に向き直る。


「…………」


 この村を出た先は、まったく知らない世界をただ歩くことになる。そこに不安がないわけがない。

 何もわからないし、何ができるのかもわからない。そんな中を進んでいく頼りなさと心細さに、押し潰されそうにも感じる。

 でも、ひとりじゃない。


「しずく、行くか?」

 隣でそう問いかけてくるパト。きっと私の決心がつくまでいつまででも待ってくれるだろうその穏やかな顔に向けて、私は「うん、行こう」とはっきり答えた。

「わかった。行く」

 小さく頷いて、パトが私の先を歩き出そうとしたときだった。


「あぁ、よかった! ……どうやら間に合ったようですな」

 少し荒い息をしながら走ってきたのは、この森の村を治める長老……ゲブリュルさんだった。

「長老様!」

「どうしたんですか、ゲブリュルさん!?」

 とても急いできたのだろう、息切れして両膝に手をついて、しばらく何も言えずにいるゲブリュルさん。その姿を見守っていると、ハッと気付いたように立ち上がって、「あぁ、これは失礼いたしました」とお辞儀をして、私の前に立った。


「もしもしずく様がまだこちらにいらしたら、と思いましてな。取り急ぎこちらをお渡ししようと急いだのですが、いやはや情けない限りです……」

 苦笑いしながら、少し息が落ち着いたらしいゲブリュルさんが懐から何かを取り出す。

 手渡されたそれは、小さな巾着の中に入った石みたいな物だった。


「これは……?」

「しずく様はこの地方の気候には慣れていらっしゃらないようにお見受けしたので、僭越ながら私から守り石を贈らせていただきたく存じました」

 守り石、という名称にも馴染みがなかった私は、ただ首を傾げることしかできなかったけど、これから旅立とうとする私たちを見送りに来てくれたのは嬉しかったし、そんな気持ちのせいか貰った守り石がとても温かく感じた。

 すると、私が守り石のことを知らないことを察してくれたのだろう、パトが説明してくれた。


「守り石、力のある祈りで出来る石。持ってるといいことある。そういう力、ある」

「あ、そういう石なんだ……」

 じゃあ、手に乗せた時に温かく感じたのは、ゲブリュルさんの祈りの力、なのかな……? もちろん、そんなこと私が育ってきた場所ではとても信じられるものではないけど、ここでは何が起こっても不思議ではないのではないか、と思った。


 急に訳も分からず襲われて、お腹を……。

 そのまま川に落とされて、目覚めた先の世界。


 動物みたいな人(?)が出迎えたこの場所で、私は【天使】と呼ばれる存在で、この世界の住民を困らせる(場合によっては死に至らしめるという)【災厄】という存在を祓うことのできる数少ない存在なのだという。


 元いた場所で、私は幼馴染のひかりの保護者みたいな立ち位置で、もちろんそれでも――今にして思えば――満たされていたし、たぶんそれで私の毎日は楽しかった。

 だからこそ、あの日――――新入生歓迎会の日、よくわからなくなった。

『じゃあさ、俺と付き合っちゃう?』

『え~? どうしよっかな~?』

 酔っ払って頭がうまく回ってない状態で言ったことだって、わかってはいるつもりだった。

 でも、その言葉を聞いたとき、足下がぐらついたような気持ちにまでなって。自分が彩にとってどんな存在なのか、少しわからなくなって。

 だから、言ってしまった。


『もう、こんな気苦労とかない世界に行きたいよ』


 そして後ろから声が聞こえた。


『じゃあ、行けばいいじゃん』


 その声の直後、私はこの世界に落とされた。

 何もわからない、自分が自分の分を超えたような役割まで与えられて。

 そんな世界で、真心を持って接してくれる人に出会って。いつの間にか、旅に出ようとまでしている。色々なことが一度に起こりすぎて、整理しないと混乱してしまいそうになるけど、それでも。


 いつか、彩の所へ帰るために。

 そして、パトたちを苦しめるものから彼らを助けるために。


 私は私にできることをしよう……なんて思っていた。


「しずく様、これよりあなた様がする旅は決して楽なものではありませぬ。恐らく、我らが想像することもできない辛苦があなた様を苛むことでしょう。時には己の身を、そしてこのような役目をあなた様に押し付けた形の我々を恨むときが来るやも知れませぬ。

 それでも、どうか忘れずにおいてほしいのです。あなた様がここに降りられたこと、それ自体によって、確かに我々の心は救われたのだということを。……ありがとうございました」


 そう、深々と頭を下げたあと、ゲブリュルさんは穏やかな声で言った。

「ですから、我々この世界の民はあなた様に大恩がある身。何かございましたら、何なりとお申し付けください。できる限りのことを各々が致しますでしょう。

 まずは、この村から出た森を東に抜けて、ブリュッケンブルクの街を目指すとよいでしょう。そうすれば、恐らく次なる道が開けるはずです。海峡に跨る街ですので、歩いていれば辿り着けるかと。お気をつけくださいませ」

 その言葉を聞いてから、私たちは村を出た。

 目の前には、どこまでも続いているような森が広がっていた。

 ここから、私たちの旅が始まる。



「おっ」

「しずく、転びそう。大丈夫か?」

「う、うん……」

 ……そうは言ったものの、森の道は遊歩道とかで整備されているわけでもなく、ただ生活する上で通れる程度に草が踏み分けられているという程度。

 土とか石とかが自然のままに散らばった道は歩きにくく、それに足が疲れてきたこともあって、少し歩くだけの間で何度も転びかけてしまった。パトが咄嗟に支えてくれなかったら、今も転んでしまっていたかも……。

「ゆっくり歩く。そうすれば転ばない」

「うん……、気をつけるね」

 そういう会話を繰り返しながら、またしばらく歩く。

 …………。

 辺りを見回すと、日光を浴びて緑色に輝いている木々がどこまでも続いている。決して先も見えないほど密集しているというわけでもないのに、遠くまで見ても木以外のものは見えなかった。ここにはたくさんの木があるし、森は広いのだろう。

 こんな深い森を歩くなんて、今までなかった。

 小学校のときの林間学校でどこかの高原に行ったことがあったけど、きっとそのときに行った場所よりも深い森に違いないな、なんて考えていたとき。


「しずく、危ない! 下がる!」

「えっ?」

 どうしたの、と訊く間もなく襟を掴まれて後ろに引き倒される。

 地面にお尻からぶつかってしまった。痛い……そう声に出そうだったけど、転んで見上げた頭上――それまで私が立っていた、ちょうど胸辺りの場所を通り過ぎた黒い影に言葉を奪われていた。


 がさっ


 そんな音を立てて私たちの後ろに着陸したのは、たぶん人間のすねくらいまでの大きさの動物。

 森にいる、普通の動物のような形をしていた。

 普通じゃないのは、それの全身が黒いもやのようなもので覆われている……というより、そのもやで出来ているように見えることと、顔のまんなか――ちょうど眉間辺りに赤々と光る石のようなものがあること。

 そして。


「気をつける、しずく……!」

 パトの警戒の表情。まるで空気全体が痺れるような緊張感が走っている。

「パト、あれ何なの?」

「あの黒いやつ、【災厄】。触る、病気になる」

 不安を紛らわせるように口を開いた私を振り返ることなく、パトは緊張しきった声で返してきた。


 ……目の前のもやみたいな生き物は、地面に前後の足を踏ん張って、今にも飛び掛かって来そうに見えた。心なしか、目みたいな部分の赤い輝きが増したように見える。

 あれが、【災厄】なの……!?


 突然わかったことに戸惑う間も与えないというように。

 その生き物、【災厄】はこちらに飛び掛かってきた!!

前書きに引き続いて、遊月です! 森って、ほんとに歩き慣れないと大変なんですよね……。

ということで、【災厄】に遭遇してしまいました!

さぁ、しずくたち【天使】はどうやってこれらを祓うというのでしょうか……? その方法は次回ですね!(わりとバトルっぽいバトルになるかも知れません……)


また次回!

ではではっ!!

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