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暁へ至る群青  作者: 遊月奈喩多
4/13

村人たち

こんばんは、短い文章のわりにやはり更新の遅い遊月です。

あれ、亀さん脱却するぞとか宣言してなかったっけ……?とお思いの方、すみません。私も思っています。

今回、犬男さんの村や彼らの暮らす「ヴィンタヴァルド」の国についての回です。


では、本編スタートです!

 幼馴染みの朝野(あさの) (ひかり)に付き合う形でこの春から大学に通い始めた私こと雨空(あまぞら) しずくは、大学の新歓帰りにいきなり誰かに襲われて、そのまま川に落とされた。気付いたとき、目の前にいたのは私を「天使様」と呼ぶ犬みたいな耳と尻尾を生やした男の人。しかも鳥みたいな羽根を持った空飛ぶ人まで。

 どうやら私は、今まで生まれ育ったのとは別の世界に来てしまったようで……!?


 聞いたこともない地名だとか突然治ってる傷だとか、そういうものをようやく受け入れたと思ったら、私自身もどうしてか明らかに日本人離れした外見の彼らが話す言葉を当たり前のようにわかったり……!!

 次から次へとわからないことばかりだけど、何とかして元の場所に帰って私を襲ったのが誰か突き止めてみせる。


 その為にはまず、「ここ」のことを知らないと……!



 羽根男が現れたり飛び去ったりした衝撃で壊れてしまった壁の向こうには、家庭菜園くらいの規模の小さな畑と、たぶん私たちがいるのと同じ作りなのだろう小さな木製の小屋がいくつか見えた。あとはただ深い森。どうやらここは森の中にある村らしい。

 隣では犬男(そういえば、そろそろ名前聞いておいた方がいいかな……)が、そのスラっとした長身と涼しげな雰囲気にそぐわないキョトンとした顔で小首を傾げながら「天使様、村、気になる?」と尋ねてきている。

 何というか、まるで「聞いて聞いて!」と言わんばかりの目がちょっと気になる……。

 まぁ、ついさっき「ここのことをもっと知らなきゃ」って思ったばかりだし。

「う、うん……。もしよかったら、ここのこと教えてくれる?」

「もちろん! オレ、この村よく知ってる! 天使様知りたいこと、教える!」

 ……わ、すっごく眩しい笑顔。

 見た目に反して子どもみたいにコロコロ表情を変えながら、やはりたどたどしい喋り方で犬男はこの村とその近隣について色々教えてくれた。


 まず、私がいるのはヴィンタヴァルドという王城の領地で、その中でもこの村(特に名前は付いていないらしい)は最西端に位置している。ここから西に行くと、とても人が立ち入ることなどできない険しい岩山がそびえ立っているのだという。

 村の住民は彼と、それから長老と数人の子どもたちだけ。そして、王城に行くにはこの村から東の方へ、森と川を越えていかなくてはいけないらしい。あと、さっき私たちの前にいた偉そうな羽根男は、やっぱり別の国の住人らしい。

 私は、意を決して犬男に訊いてみた。

「そのヴィンタヴァルドのお城に行けば、ここのこともっとわかるかな?」

「うん。お城、いっぱい人いる。物知りいっぱい。ここも、他の国のことも、きっとわかる」

 私が求めている情報を与えられている、そのことが嬉しいらしく、ブンブンとちぎれそうなくらい尻尾を振りながら目を輝かせて教えてくれる犬男。お城の話をしたときなんて、こんなことも知ってますよ、と言わんばかりに得意そうに答えるところが妙に子どもっぽい。

 だけど、そのことを教えられても私にはどうしようもない。

 その理由は、私の足首にある。

「ねぇ、ちょっと訊いてもいい?」

「いい! 天使様、何でもきく!」

 凄くキラキラした目で頷いてくれる犬男。そんな彼とは対照的に、私の背中には緊張の汗が伝い始めていた。

 もちろん、彼のことが信用できないわけではない。訳がわからないことだらけだけど、少なくとも私に対して明確な敵意を向けては来ないし、何かと好意的に接してくれるところは正直嬉しい。そして、そんな言動にも嘘がないことは何となく窺える。

 それでも、それはあくまで私が彼に対して特に逆らったりとかそういうことを今のところしていないからだ。好意をストレートに向けてくる相手でも、いやそういう相手こそ、もしも琴線に触れるようなことをしてしまったらどんな結果が訪れるかわかったものじゃない。それは、私がしてきた数少ない経験の中で学んだことだ。

 そうでなくとも、目の前でにこやかに笑ってくれている彼の顔が怒りだとかそういう別の感情の色に変わってしまうのも、見たくはなかった。怖いとかそういう気持ちとは別に、そんな様を見てしまったら悲しいな、と勝手に思ってしまう。

 だけど、言わないと何も始まらない。

 そう気持ちを切り替えて、恐る恐る尋ねた。


「何で、私の足首に鎖付いてるの?」

 そう尋ねた私に、犬男は今度こそエヘン、と胸を張りそうなくらいに得意げな顔をした。

「これ、天使様守れる。安全」

「えっ?」


 その言葉や表情には、これまで通り嘘がないように見えた。高校のとき短い間だけ付き合っていた相手が1回こんな鎖を持ち出してきたことがあったけど、少なくとも目の前の犬男からは、その「彼」のように独占欲だったり主導権欲だったりを感じたりはしない。

 この人(?)はきっと、純粋に足首に鎖を付けておくことが私の身を守る最善の手段だと思って、こんなことをしたのかも知れない。

「だって、父様言ってた。これ、オレを守ってくれる。安全」

「あなたも、これを付けられてたの?」

「うん!」

 ………………。

 目を輝かせて説明してくれている彼の目には、疑いとか憤りとかの色が微塵も浮かんでいない。本心から自分が親から、「父様」から愛されていたのだと信じて疑っていない姿が却って痛々しくて、次に何を言えばいいのか、言葉が出てこない。

 どういう理由かはわからないけど、彼は幼い頃から生家で監禁されていた。

 もちろん、私がいた世界と、ここがもし違う世界なら、こことの常識とでは大なり小なり隔たりがあるのは仕方ないかも知れない。だとしても、親が自分の子どもを監禁するなんて、たぶん普通ではない。

 幼い彼は、どんなことを思ったのだろう。

 何を思って過ごしていたのだろう。

 彼の「父様」は、彼にどんな思いを持っていたのだろう。

 普通ならありえない状況に、そしてそれを受け入れてしまっていた彼の姿に言葉を失っているところに、突然賑やかな声が聞こえてきた。


「おい、兄ちゃん! 今すごい音したけど、どーしたんだ!?」

「だいじょうぶ、兄ちゃん!?」

「兄ちゃん、後ろにいるの何!?」


 声のした方を見ると、そこには数人の子どもが集まっていた。

 小麦色だったり灰色だったりする髪の毛や、その上にやはりちょこんと生えている犬耳は、私の傍にいる大きな犬男よりも小さくて、柔らかそうなのが見ただけでわかった。

「柔らかそう……」

 思わず漏らした声に、犬男はまるで自分のことを褒められたみたいに嬉しそうな顔をした。

「……そう! みんな、ふわふわしてる! グラウベ、いつも元気。みんな守ってる! ヒメル、みんなのことよく知ってる。それと、みんな、ヒメル好き」

「おい、兄ちゃん! ゆーなよそーゆーの!」

 グラウベと紹介された焦げ茶色の男の子が、ヒメルちゃん(黒っぽい灰色が多い、小柄でかわいらしい女の子)を撫でている犬男に、まさにキャンキャン吠え立てている。うんうん、何というか実に男の子っぽい反応が妙に様になっているよ、グラウベくん。

 ヒメルちゃんはというと、犬男の紹介通りみんなのことをよく知っているみたいで、グラウベくんの反応すらも予測済みだったみたいな涼しい顔をしている。将来が怖い娘かも知れない……。

 それで、犬男の身を案じて来た3人のうちもう1人の男の子の名前はアイトくん。灰色というよりは銀色に近い毛並みをした、大人しい雰囲気の男の子だ。よく本を読んでいるみたいで、今も分厚い本を大事そうに抱えている。

「アイト、何でもよく知ってる。たぶん、長老様の次に物知り」

 本当にこの子どもたちのことが好きなのだろう、犬男は3人の紹介をするとき、すごく穏やかな顔になる。まるで年老いた人が自分の孫の話をするときに目を細めるように、優しい顔だ。私を「天使様」と呼ぶときのキラキラした瞳とはまた違う、深い愛情を感じる瞳で3人を見つめている。

 そして、犬男は3人に私のことも紹介してくれた。

「みんな、この人、天使様。この間、あそこの山の上から落ちてきた」

 え、そんなの聞いてない。

 私落ちてきたの?

 そう驚いている私にはお構いなしに、子どもたちは口々に「おー!」「すっげー!」「ほんとにいたんだ!」など、嬉しそうな顔と声を私に向けてきてくれる。

「天使様は、【災厄】をやっつけてくれるんだよな! そしたらまた、森で自由に遊べるんだよな!」

 嬉しそうに目を輝かせてそう言うグラウベくん。え、災厄って何? やっつける……? その横ではアイトくんが「ほらグラウベ、そんなに言っても天使様にはまだ僕たちの言葉がわからないかも知れないだろ」と釘を刺している。えっと、わかるけど……。やっぱりそれって普通じゃないの?


 色々なことが同時に起こった感覚になって戸惑っている私を現実に引き戻してくれたのは、もう1人の来客の声だった。

「ほらほら、それくらいにしておけ。1度に色々訊いたんじゃ、天使様だって疲れちまうよ」

 しわがれてはいるけど、よく通る低音の声。

 見ると、小屋の入口に小柄なおじいさんが立っていた。杖を突いてはいるものの、しっかりした足取りで私の方へ近付いてくる。にこやかだけど、どこか厳しさを感じる空気を身にまとった彼は、ゲブリュルと名乗って、あくまで笑顔のまま、こう言った。


「天使様、1度私の家にいらしてください。どうやらあなたは我々の言葉に通じていらっしゃるようだ、この世界のことをお教えしなければなりませぬ」

こんばんは、長らくお待たせしてしまいました。遊月です。

出てしまいました、【災厄】。どうやらこの世界ではしずくちゃんのような【天使】はその【災厄】を倒す役割を与えられているようで……?

次回以降もよろしくお願いいたします!

ではではっ!!

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