第8話 防衛部の優雅な休暇②
GWのせいで3日ペース崩してしまいました。
「良いじゃないですか、まだ種目残ってますよね?」
「まぁ、残ってるが...」
「あと何種目残ってるんですか?」
「次で最後だ」
「え、じゃあ余計話してくれても良いじゃないですか」
「嫌だ、キャラ崩壊する」
「どうでもいいですよそんな事。だったらあれをロゼさんに」
「あー!話したくなって来たな!話そう!」
◯
「...次で最終種目になります!最終種目は、防衛部訓練恒例行事、魔物狩りでございます!」
魔物狩り。それは防衛部昇格試験にも使われる競技である。討伐した魔物のランクと数に応じてポイントが加算される物で、高ランクの魔物になるにつれポイントが加速度的に加算される。
「現在のポイントを確認してみましょう!
防衛部オールスターズ、47点
ロゼ様チーム、87点です!
ここで逆転しないと私は1ヶ月間木の枝をくわえて空腹を紛らわす事になりそうです!助けて!」
リィの必死の奮起も、もはや防衛部を奮い立たせない。
何故なら...
(あの二人に喧嘩売ったのが間違いだった!お仕置きと言う名の仕返しが待っているのは間違いないから怖い!)
もう心が折れていたからだ。しかも負傷して撤退しようにも、防衛部の誇る治療システムで10分程度で完治してしまうのである。
リィは焦っていた。他のものがやる気を失ったことを感じたのである。
(喧嘩売ったのは間違いだった...が、ここで負ける訳には行かない...。アレを私がゲットし、教会の予算で落とさなきゃ...!)
そしてリィは閃いた。お仕置きが怖いなら、それを確定した未来にしてしまおうと。
「えー、防衛部の皆さん」
「リィってあんな声出せるのね...ってあの子、考えてる事が外道中の外道なんだけど」
「何を考えてるんだいったい?」
「聞いてれば分かると思うわ」
「もし負けたら、追加でわたくしの折檻を味わせてあげましょう」
「うわ、『人型闘気』まで全開にしてるぞあいつ...いやっほーう!!!!!」
「は!?ジン、急に奇声あげてどうしたのよ!」
あたりを見回すロゼ。回りには...
『イェーーーーーイ!!パーティの始まりだぜ!』
異様なテンションに包まれた防衛部オールスターズが!全員がテンションと同様に、攻撃力などが増している様だ。実際全てのステータスが30%近く上昇している。
(そうだ!リィの『人型闘気』の効能は「奮起」!確か、味方の能力を全て底上げし、敵対する者の能力を下げる...だったかしら)
「せっかくなので最後ですし、わたくしも参戦いたしましょうかね」
そういってリィは背伸びをすると体に力を籠め始めた。周辺にはどす黒いオーラが渦巻き、背中からは1メートル程度の翼が。
「この間ソロで倒した魔王の力を吸収しておいて正解でした、さあ、詫びるなら今のうちですよロゼ様方!」
「ジン、『情報』は使える?」
「ああ使えるぞ、だが10メートルほど離れてるからな、限られた情報しか見られないはずだが」
そう言ってジンは彼の固有スキル、『情報』を使用した。『情報』とは、対象のステータスの一部を覗き見る「スキル」である。「スキル」と「魔法」の大きな差は、前者は限られた人間にしか使えないということであろう。
リィ 24歳 出身地:人界
【レベル】 解析不能
【生命力】 1846(+65%)
【魔 力】 1943(+65%)
____以下解析不能____
「って感じだな」
「うっわ、とんでもなく強化されてるわね…+65%って、どんなチート能力よ」
「全く同感だ。65%なんて防衛部後方支援班でも出せないぞ」
「怖気づきましたか?怖気づきましたよね!?あと勝手にステータスを覗き見するのはステン様に背いている気がするんですけど!?」
「知らん!俺は神なんか信じてない!」
「言い切ったわね…教団の人間しかいないのに…いい加減信じなさいよ!」
「知るか」
「さあ!早く始めましょう!防衛部謹製のカードです。これに討伐記録がされますので、制限時間の2時間が終了しましたら提出してくださいね!それでは開始ィィィィィィィィ!!」
普段よりテンションの高いリィの号令で、最終種目「魔物狩り」がスタートした。
○
ジンと別行動して北のほうへずんずん進んでいく。大体時速2520km程度だな、となんとなく頭の中で考えた。
私にジンみたいな魔法のセンスはない。でも、私にはジンが持っていない能力がある。
「大体ね、物理攻撃でなんとでもなるのよ」
私のスキルはほとんどが物理に偏っている。その為小さい頃から魔法に長けた人間が多いこの村でバカにされ続けた。でも、物理を強化し続け遂に「防衛部長」の肩書を得た。
「大体現在N87程度ね。この辺で狩りをするとしようかしら」
『人型闘気』を全開にする。
周辺をぐるっと見回すと、「P10」レベルの「魔王」が3,4体ほど見える。
「『P10』ってひどいネーミングよね。『防衛部最弱の人間が10人で倒せる』って意味なんだから…でも、私なら全員ワンパンで倒せるわ」
不敵な笑みを浮かべ、速度を5倍以上に跳ね上げるとその「魔王」に詰め寄る。
その時周辺に衝撃波が発生し、魔物を数体巻き込んだが彼女はまったく気にしていない。
「ふははははははは!!我は『魔王』!名前はまだない!我が名のもとに貴様を倒す!」
「長い。あと名前ないのに我が名の元にってどういう事よ。じゃあ、ポイントになりなさい」
ワンパンで欠片も残さずに粉砕すると次の魔王に詰め寄る。次の魔王には名乗りすらさせずに粉砕。
「中央大陸から来たようなジンには負けられないわ。さぁ、次!」
○
ロゼと別行動して北西方向に進んでいく。防衛部の人間とは別の方向だ。大体時速1000km程度だな、と頭の中でなんとなく考えた。
俺はロゼみたいな体術のセンスはない。でも、俺にはロゼのは持っていない能力がある。けど・・・
「体術はあんまりだし、魔法は結構集団向きの事が多いから心配が残るが、大丈夫かなぁ」
俺は集団を強化するスキルに偏っているし。オリガミ研究に没頭し続けたせいで戦闘能力は低いのだ。
「今N86程度だな。って、なんでさして北じゃ無いのに『A3』の魔王が!!??」
『A3』とは、「班長レベルの人間が3人がかりで倒せる程度」の魔王である。持ち前の『情報』スキルを活かして魔王のステータスを判別した。
「くっそ、流石に俺がこのままじゃ倒せやしないなぁ...やれるだけやってみようか」
軽く体の前でこぶしを構えて臨戦態勢をとる。
「うぉら先制だ!『魔力弾』を生成!『崩壊』『切断』『威力強化・極大』を付与!発射!」
周辺のエーテルを消費し、直径8センチメートル程度のエネルギーの塊に得意の魔法付与を施していく。
「ふふ、効かんな。痛くも痒くもない」
不敵な笑みを浮かべる魔王。確かにかすり傷ひとつついていない。
「では、こちらから行くぞ、『魔王闘気』」
魔王から驚くべきほどどす黒いオーラが立ち上る。通常の人間なら即死するようなエネルギーの塊だ。
「逃がしてくれる気もなさそうだな。仕方ない、俺も本気出さないとまずいか」
デメリットがあるから使いたくなかったんだが。さあ行くぞ。
「『精神束縛解放』」
精神束縛解放、それは俺自身が自身にかけた「精神束縛」を解き放つものだ。
自身のステータスを85%ほど上昇させ、さらに魔法の威力を相当上げる…と言うよりは制限されていたものを解放するというものだ。
そしてデメリットは...
「イェ――――イ!!楽しんでるか!?魔王さんよ!」
とてつもないハイテンションになることであった。
「…何なんだコイツは。急にハイテンションになられると困るんだが」
困惑する魔王。
「おらァ!最初から全力で行くぞ!!」
まずは「魔力弾」を手のひらに出現させる。束縛時の限界は8センチほどだったが、現在では35センチほどまで成長しており、付与できる魔法の限界数も4から10以上までアップしている。
付与する魔法は決まっている、同じ魔法を付与できないなんて言う制限なんて存在しない。
「重力」「崩壊」「威力強化・極大」を7回。そしてそれを直接放つようなことはしない。
「なんだそれは。剣か?」
「当たりィ!!俺の愛するお手製の剣、『フロッティ』!中性子金属の剣なもんで、まぁ死ぬほど重いぜ。俺以外ならロゼくらいしか持ち上げられないだろう!ハハハハハハハハ!」
「そしてこの多重に魔法が付与された魔力弾をインポートォ!『フロッティ』の発展バージョン!一薙ぎで世界を滅ぼす!」
この剣を縛る力は何もないため、中性のエネルギーである魔力をとんでもない量注ぎ込み形を維持している。
「重力崩壊斬撃(レベル1)!行くぞぉ!!」
「ふざけるな!そのような莫大なエネルギーを持つ技がレベル1なはずがあるか!!」
「ところがどっこいレベル10まであるんですな!さあレベル何まで耐えられるか楽しみだねぇ!!」
軽く一薙ぎ。そして剣を縛る力を弱める。すると、
「おいウソだろ!?私は数日前に発生したばかりの『魔王』だというのに…グァアアアア!!」
断末魔をあげて消えていく「魔王」。目測を誤り、「魔王」の力を優に超えるエネルギーを込めてしまったせいで、
爆音。
周辺数十キロを巻き込んだ魔力爆発を起こしてしまった。エネルギーを全て無に帰すその爆発で生き延びられた魔物はいなかった。防衛部の人間がいなくて本当によかった、と後になって思い返した。
「やっちまったぁ!でも楽しかったしいいや!!帰ろう!!」
帰りは時速2000kmを超える速度で走って帰った。ちなみに爆発に巻き込まれたせいで全身ぼろ雑巾状態だ。
ちなみにその数十キロはのちに「死の大地」と呼ばれ、先100年間は雑草も生えなかったという。
○
「...えー、発表したくないんですが発表いたしますね。進行なんで。」
目の下にクマをくっきりといれたリィが、とんでもなくけだるそうに進行をする。
「喧嘩吹っ掛けた側でいうのも烏滸がましいですが、ひとこと言わせてください」
「何を言うんだろうなァ!Yeah!」
「あんた、『精神束縛解放』使ったでしょ。テンションうざいわ」
「あんたらバカだろ!!!???ロゼ様は討伐量が防衛部の半月並だし、ジン様は植物の生えないような大地を作るし、後処理をするのは俺たちなんだぞ!?」
「「それに関しては返す言葉がない!!」」
二人揃って頭を下げる。実は結構悪いことした自覚はあったもので。一人称まで変わっちゃって相当怒ってやがる。
「はぁ~。まあ防衛部オールスター(笑)はジン様の爆風で全員撤退したんでもう結果発表する意味ないですがね。まあ発表しますよ。はい........」
消え入るような声でつぶやくリィ。半透明に見えてきたような...
「防衛部オールスター 47点
ロゼ様チーム 1479点」
「もう発表する意味ないですよね!?ほらァ!持って行って下さいよ!これでいいんでしょ...」
指を鳴らすと後ろから1メートル立法の箱が現れた。中から出てきたのは巨大な一冊の本。
「あーあ、わたくしの70万イースが。勝った暁には防衛部予算で落とす予定だったのに」
「『全魔法大全』この世に存在する魔法がすべて載っています。著者はウィルファナイン、神の一柱です」
リィの珍しい丁寧な口調。それほどに貴重な文献だ、これは。
「とんでもない物を手に入れたな、ありがたく戴きますね」
ロゼが手に取る。
「まあこれはテスラ君にあげよう。私おそらく全部知ってるし」
「ああーもう怠い!解散!閉廷!!」
リィが指を鳴らして更地に戻り、解散となった。
○
「それで今に至るというわけですね」
「ああ。で、コレね。『全魔法大全』」
「あれ?もっと大きかったんじゃ?」
「神が作ったもので、大きさ可変なんだってよ。ま、読んでみてくれ。俺は寝る、疲れた」
「おやすみなさい~」
さーて、読んでみよう。『ハンディ魔物大全』も読みたいしね。
あと、3000字も破ってしまいました。5000字ぴったり。