第5話 図書館②
滑り込みセーフ
後ろの方でストーカーが捕まったようだ。何だか聞いた事あるような声だった気がしたが、気のせいだろう。
さあ、貨幣についてだ。
通貨は「イース」と言い、精神を司る神の名前から取られたらしい。
そして貨幣は
・1イース硬貨
・10イース硬貨
・100イース硬貨
・500イース硬貨
・1000イース紙幣
・5000イース紙幣
・10000イース紙幣
があるようだ。
正直数が多く覚えるのが大変だろうが、まぁ頑張ろう。あ、そういえば。巾着にはどれくらい入っているのだろう?
ジャラッと音を立てて机に硬貨を出す。えーっと?
・1イース硬貨 4枚
・10イース硬貨 7枚
・500イース硬貨 1枚
うーん。正直価値がわからない以上どれ程の値段かは分からんが、大した金額じゃない気がする。というか、持っていた小銭を全て押し付けたようにすら見える。
とりあえず食堂へ向かう。流石に食事のできない金額を渡してくるほどロゼさんは鬼畜ではないだろう。そう信じたい。
入り口部分にメニューが置いてある。中をめくってみると、パンとメインとスープとサラダの組み合わせで、大体400イース前後で食事がとれるようだ。
なるほど。一応しっかり食べられるだけの金額はあるようだ。俺はメインをコカトリスの照り焼きにする事にし、食堂の中に入った。
「へいらっしゃい!今日のオススメは...うーん違うな、おかえりなさいませ、ご主人様...だと女性はどうすればいいのか分からないし...」
何故か挨拶の練習をする白衣を着た店員さん。食堂なんだから入店の挨拶は別になくてもいいと思う。
「あのー」
「はい!いらっしゃいませ!今日のオススメはぁああああああああ!!??」
「!?」
オススメの後に何故か絶叫される。俺の顔を指差してプルプル震えている。
「取り敢えず、指差すのやめて頂けます?」
「あ、あんたはロゼさんの....!!いやでもロゼさんと接点ができて嬉しい!ライラも引き回されたい!こいつはズルい!」
「あ、どこかで見たことあると思ったら...」
深い紫の髪をしたその少女は、俺が引きずられてた時にロゼさんに声を掛けてきた少女だった。
◯
「まぁお座りなさい」
「あ、うん。失礼します...じゃないわ!ロゼさんとどういう関係なのか吐いてもらうよ!」
「同居してる」
「は?」
「同居してる」
「どど、同居ってそれは同じ家に住むという事?」
それ以外に意味があったら教えて欲しい。
「うわああああステン様ぁあ何でライラじゃないのぉ!!!」
泣き始めた。
「そういえば名前言ってなかったな。テスラだ、宜しく」
「話の転換雑すぎるでしょ!?ライラ・ディラックだよ」
突っ込まずには居られない生真面目なタイプの人種か。
「そういえば今日ストーキングしてたよな、何で?」
「うぐっ」
痛いところを突くね...と呟いて彼女は話し始めた。
要約すると、ロゼさんとの接点作りの為に俺と接触しようとして本棚の後ろから伺っていたら不審な行為として捕まり、結局解放はされたがあらぬ疑いを掛けられてムカついて食堂でやけ食いしたら財布を持っていないことに気づき、今友達と無銭飲食分働いている、という事だそうだ。
「普通に声掛けてくれれば良いのに...」
「ロゼさんの関係者だと思うと迂闊な行動取れなくって...でも同居なんて許さないんだから!」
なんでお前の許可が必要なんだ。
「ところでディラック、無銭飲食分働いてるんじゃなかったのか?」
と俺が言うと、急激に顔を青ざめさせ、がたっと椅子から立ち上がった。
「まずいわ…もう行かなきゃ!あと、ライラって呼んでいいわよ」
それじゃ!と言い放って厨房のほうに消えていった。
騒がしい人だなぁ...注文すら出来なかったし。
仕方ないので他の人に注文を伝え、受け取ってコカトリスの照り焼きを食べる。
うん...鶏肉だな。朝ウロボロスを食べてしまったせいであまり美味しさを感じない。
ちゃちゃっと完食し、調べ物に戻る。
現在時刻は14時手前だ。
あ、ロゼさんで思い出したけどスキルの話をしていたな...次はスキルについて調べる事としよう。
スキルについては文献が大量にあるせいでなかなか有益な情報が見つからず、3時間近く掛かってしまった。
まとめると、
・スキルには先天性の物と後天性のものがある
・先天性にしかないスキルは存在しない
・訓練などによってスキルを入手することが出来る
・発生原理は解明されていない
・スキルは大まかに4分割される。
・自然系
・超能系
・精神系
・肉体系
しかし、この分割方法に属さないものの多く、現在はあまりこの分割方法は用いられない。
とのこと。まぁわかりやすく分割することはあるだろうから覚えておいて損はなさそうだ。
時刻は17時半。あと2時間半だ。最後に魔物について調べる事としよう。
ウロボロス...ウロボロス...と文献を探すも見つからず、司書さんに聞いてみる。
「魔物のデータですか?それなら地下書庫ですね」
図書館に入った時に見た石造りの地下への階段を降りる。司書さんがなにやら唱えるとガチャッと音を立てて堅牢な扉が開錠され、ギィ...と音を立てて開いた。
「ここは魔物のデータを集めているデポジット・ライブラリとなっています。自由に使うことができますので、いつでも声をかけてください」
丁寧な所作の30代くらいの男性が礼をしながらそういった。
本棚はあいうえお順でしっかりと並べられていた。まずは今朝食べたウロボロスについて調べる事としよう。
[文献1]中央政府出版 魔物大全 ウロボロス
・[特I級]の魔物。発生した場合人族の80%以上が死滅する恐れがあり、[終末プログラム特I]に則った行動を行う。
・尻尾を自身で飲み込んでいる龍型の魔物。体長は最低でも30メートル程度。
・過去200年間、中央大陸では発生を確認されていない。
え、なんだこの天災級の魔物は。明らかに普通の食卓に朝ごはんとして並ぶものではなさそうだが。
と思ったら隣にも1つ文献が見つけた。
[文献2]ステン教団出版 魔物大全 ウロボロス
・[B級]の魔物(中央政府では[特I級])。 発生した場合は防衛部2名程度で対応する。
・尻尾を自身で飲み込んでいる龍型の魔物。体長は大きいものでも50メートル程度。
・3週間に一度程度、特定のスポットで発生することがある。
・肉は引き締まっていて美味しい。
同じ魔物とは思えない表現の差だ。最後の記述に至ってはご飯としか見ていない、著者の食欲がありありと見て取れる。
というか、この書庫には魔物の数だけ解説書があるようで、到底読み切れない。
そんなことを思っていたら先ほどの司書さんが再度やってきた。
「魔物についての知識を手っ取り早く身に着けたいなら、この本がお勧めですよ」
『ステン教団出版発行 ハンディ魔物大全』。簡単に持ち歩けそうな、図書館にあった文庫本とやらと同じくらいのサイズだ。
「こちら2年前のモデルでもう貸し出しができないので、ほしい方に配っているのですが」
「ぜひください」
これはいいものを手に入れた。さあ、残りの時間で地理について調べねば。
すみません、あと0.5話程度図書館編続きます。