第4話 図書館①
「テスラ君、朝だよ」
美味しそうな食べ物の匂いがして起床。昨日起きてから何も口に入れていないのでかなりの空腹感である。
「あ、ごめんね。昨日何も食べてなかったか」
「あ、いえ。昨日は疲れていたので。良い匂いですね」
「今日はウロボロスの尻尾の唐揚げだよ」
遅れて起きてきたジンさんと3人でリビングのテーブルに着席。このテーブルは俺が寝た後にジンさんが切って作ったらしい。とんでもない仕事の早さだな...
「そういえばテスラ君、唐揚げは覚えてたんだね」
「はい。自分のことは全く思い出せないんですが、直接関連しない事はどうやら覚えているみたいです」
「記憶喪失でも言語機能は失わない事が多いし、似たような物かね」
そしてこの唐揚げ、余分な油がなくサクサクでとても美味い。肉も引き締まっている。
あ、そういえば。
「ウロボロスってどんな動物なんです?」
「尻尾を自分で噛んでる蛇っぽい奴だよ、防衛部2人で倒せるくらい弱いけどあんまり湧かないからレアなんだ」
「えっ尻尾の唐揚げですよねコレ、尻尾噛んでるんじゃ」
沈黙。
「気付かなかったんですか」
「私達はどこを食べてるのかしら」
「全体が尻尾みたいなもんだろ」
適当だな!
「でもテスラ君は記憶を失ってからみんなと話が通じないんじゃない?」
「いや少年は今まで俺とロゼとローザさんくらいしか喋っていないはずだ」
強引な話の転換。あと遭遇していないという表現のほうが正しいと思う。
「でも防衛部の訓練に参加するんだったら知識はあったほうが良いですよね?」
「少年の言う通りだろう。という訳で図書館に行こうか」
図書館か。記憶を失ってから何も新しい知識を得ていない気がするし、割と楽しみだ。
○
相変わらずの厳重警戒、『転移』で教会併設の図書館へ移動。それにしてもこの教会なんでもあるな。ここだけで一生を終えられるかもしれない。
「そんな人生は悲しいだけだけどね。やっぱり人間たる者世界を見なきゃ」
「まぁその通りですね。あとロゼさん。心読みながら会話するのやめてくださいよ!」
「しかたないでしょ、パッシブスキルなんだから。私だって止められるもんならやめたいわ」
ぱっしぶ?
「まぁそれも調べてみるといいわ、私とジンは仕事あるから、今日の夜8時に迎えに来るわ。はい、これ」
そういって巾着袋のようなものを渡してくるロゼさん。中には硬貨のようなものが入っているようだ。
「おなかが減ったらここの食堂を使うといいよ。図書館の食堂は美味しくて健康にいいって評判だから大丈夫よ」
「あ、ありがとうございます」
「危なくなったら助けを呼ぶんだぞ。少年はひ弱なんだから」
図書館で生命の危機にさらされる状況ってなんなんだいったい。心配してくれるのはうれしいが…
それじゃあね、と手を振っていなくなる2人を見送っていざ、調査だ。
○
まずは図書館の調査から始めよう。今俺が立っているのは玄関部、先に進むと円柱型の吹き抜けと壁いっぱいの本棚、そして…飛ぶ足場。上のほうの本はあれに乗って取れということだろう、どういう仕組みで動いているのかすごく気になるところだが、今はグッと我慢だ。
吹き抜けの先には四角い帽子をかぶった司書さんのような人が1人。その前には数多くの木製の机が置いてあり、まだ朝早いのに多くの人が本を読みふけっているようだ。
そしてその周りをぐるっと取り囲むかのように本棚。そちら側に向かって進んでいくと、地下に進む階段が見えた。図書館の調査はこれくらいにして本題に入ろう。
まずは調べたいことをリストアップだ。現在時刻は朝8時。迎えが来るまでぴったり12時間、読める本の量などたかが知れている。
しっかし、文字に関する記憶が失われていなくてよかった。文字すらわからなかったらもう大惨事だ。
「ご自由にお使いください」とあったので紙を数枚とペンを借りてきて、リストアップだ。
・魔力とは?
・暦について
・オリガミとは?
・ステン様とはいったい?
・ウロボロスを筆頭とした、魔物について
・スキルとは?
・経済について
・地理について
軽くこんなものだろうか。気になったら他の物を調べることにしよう。
まずは一番気になる魔力について。司書さんに調べたいという旨を伝えると、お勧めの本を3冊ほど持ってきてくれた。奥に座っている司書さん以外にも3人程度の司書さんが巡回している。
そして約1時間後。わかったことを軽く紙にまとめた。
・魔力とは生物および物体が生み出す余剰エネルギーの総称である。
・たとえば火を加熱に使用する場合、光エネルギーは余剰エネルギーで魔力となり、松明として使用する場合は熱エネルギーが魔力と認識される。
・魔法とは空間中の「エーテル」を消耗することによって魔力を魔法エネルギーに変換するものである。
・「エーテル」の原理は解明されていないが、魔力が多く存在するところに多く存在する傾向にある。
・魔法を使用する場合、魔力はいったん体内に取り込む必要がある。そのため、魔力が多い環境でも発動することができる魔法は、魔法を使おうとするものの魔力上限値を魔力消費値とするものである。
こんな感じだ。案外難解であった。松明から熱エネルギーを取り出し、魔力回復ということもできるのか。
なかなか便利だな、魔力。異なるエネルギーへの変換が簡単なのは素晴らしい。
そして次、暦について。これは数十分で終了した。というのも、俺に時間感覚が残っていたからだ。
秒という概念を体で理解するのはなかなか骨が折れる。
・1日は24時間。0時から12時までが午前、12時から24時までが午後。
・30日が1か月。1週間は7日。
・1年は12月。6年に1回13月があり、その1か月間は人々は家からほとんど出ない。
ここら辺は特に注意するところはないな。しいて言えば13月が気になるが...
そして次、オリガミについてだがこれは有益な文献が見つからなかった。
司書さんも知らないようで、唯一あったものといえば
・オリガミは自然発生するものではない
とだけ書かれた古い文献だった。気になることこの上なしだが、文献がない分にはどうしようもない。
そして次、ステン教団とステン様について。これには2時間以上かかった。
これには神という概念を理解しなければならなかった。どうやらここには神というのが確かに存在するようで、この世界を治めている神はもとは人間だったという。
また、ある一つの道を究めるめたものとして 神 という呼び名が使われるようだ。
例えば目玉焼きを究めたものは「目玉焼き神」なんだろう。実在はしないだろうが…。
そしてステンというのはこの世界を作った神の一柱で、目撃した人はいないようだ。だからジンさんが信じていないというわけだろう。どうやら魔力や生命力をつかさどる神らしい。
教会系の場所が発行している文献はちょくちょく勧誘が入るし、文体が旧かったため読みづらかった。
さて、そろそろ12時だな。おなかが減ってきたし、少し順番は違うが経済、貨幣について調べよう。
食堂に行ってどの硬貨を出せばいいのかわからないみたいな事態は嫌だからな...
○
「フィン、あの男の子ロゼさんに引きまわされてた子じゃない?」
「えぇ。おそらくそうでしょう。どうします?声かけますか?」
「もうちょっとだけ様子を見るよ。あっ、どこか行くみたいだよ」
そういって彼女らは本棚の後ろに隠れた。と、後ろから。
「あのー、先ほどから不審な行動をとられているので少し事務所でお話を伺いますね」
「あ、いえ違うんです司書さん!ほら、フィンからもなんか言ってよ!」
「決して怪しいものじゃありません!信じてください!」
頭に手を当て困った様子を見せる司書さん。
「じゃあ、ここで何をやっていたか教えていただけますか?」
顔を見合わせ頷く2人。
「「ストーキング」」
「やっぱり事務所でお話を聞きます」
「「えっ!?なんで!?」」
「その解答ではいそうですかと離す人がどこにいるのですか...」
そういって彼女らは連れ去られていった。
図書館編はあと1回続きます。