第34話 現実改変の傷跡①
「さて、それじゃあ誰から対戦しますか?」
手を叩いて注目を引き付けるフィン。出来ればヴェルとは最初に当たりたくないが・・・
と、ライラが手を挙げながら飛び跳ねて言った。
「誰もいかないならライラがいくよっ、誰か私と戦いたい人はいる?」
「…私がやってもいいですか?」
静かに呟くエルナ五梯。声は聞こえたようでライラが返答するも、全く違う方向を見ている。
心なしかしょんぼりとするエルナ五梯。しかし気を取り直した様子で構えを取り始める。
「…行きますよ」
床を蹴って加速すると、ライラの鳩尾目掛け殴打を狙うエルナ。魔法系かと思ったら意外と物理格闘系であった。
「ちょ、見えないの卑怯だよっ!」
さっきを読み取ったのか仰け反って回避するライラ。上体が反り返ってかなり無理な態勢になっている。
「…隙あり、です」
続けざまに足を払う。重心を崩したライラはそのまま床に倒れこむ…と思いきや、
「よっ、と。その手には掛からないよ?」
そのままバックで宙返り。着地すると同時に目を見開く。
「見えなくても魔力は見えてるんだからね、行くよ?」
「…別に見えてないんじゃなくて、意識されないだけなんですけど」
お互い向かい合って膠着状態に移る。
「なあフィン隊長、あの二人ってあんな武闘派なのか?」
目を細めて微苦笑を浮かべるフィン。
「普段はそんな事無いんですけどね~、テスラさんの魔法無効に引っ張られてるんでしょうね」
「それ、俺がますます辛くなるんだが…」
「なるようになりますよ、…おっと内線で連絡が来ました、ちょっと行ってきます」
小走りで部屋の奥に設置された小型の受話器に向かうフィン。横ではいまだに2人が見合っている。
一体いつまで見合ってるつもりなんだ・・・
「…ちょっとマズいことになりました、いったん模擬戦は終了です」
フィンは深刻そうな表情を浮かべ、手で2人を制した。
「なにフィン、せっかく良いところだったのに」
「いや、二人とも見合ってただけじゃない・・・」
ヴェルのツッコミに同意し、概要を尋ねる。
「防衛部長から第14外機動隊がお呼ばれです…」
青褪めるフィン。鮮やかな水色の髪を指で弄りながら俯き気味に言った。
「…部長って、あのロゼ様から直々に…?」
「ちょちょ、消えようとしないでエルナ!どういうことなのか説明してっ!!」
混乱状態に陥る二人、ヴェルは…まあいつものように泰然としている。
「わ、私にも分からないんですよっ!とりあえず部長の部屋に向かいま―――」
セリフの途中で口をあんぐりと開けてフリーズするフィン。視線の先には赤髪を靡かせた少女(32歳)、ロゼさんが居た。
「…何が32歳よ、ぶっ殺すわよ。そうそう、呼び出しておいてごめんね。ちょっと来ちゃった」
「いやそんな彼氏の家に唐突に来た彼女みたいに言われても…なんの用なんですか」
「まあまあ、中々マズい事態が起きてるのよ。一緒にきて」
首を竦め、やれやれと言わんばかりに目を閉じるロゼさん。とりあえず背中を追って部屋を後にする。
「ちょ、テスラ、部長に対してあの態度って…」
「いくら親交があるとはいえ恐ろしいですね…」
ひそひそと2人で慄いている。まぁ、ロゼさんは心が読めるからこれも伝わっているんだがな…
〇
地下2階、大広間。
コンクリートで打ちっ放しのだだっ広い灰色の空間に、防衛部と思わしき人間が40名ほど集められている。
チラッと階級章を見た感じ、俺らより3段階くらい上の役職である二梯、三梯あたりも散見される。
というか、皆殺気立っている。場違い感が半端ねぇ…
(ちょっとテスラ、なにかロゼさんから聞いてないの?私と同格の人間がゴロゴロいるんだけど?)
ヴェルですら若干委縮するレベルである。ライラとフィンは顔から血の気が引いて真っ青である。エルナは…見えなくなっている。
「え~、防衛部の遊撃隊の諸君。あ、外機動隊もちょっと居たか。今から特命任務にあたってもらいます。
第4遊撃隊の皆はもう気が付いているかもしれないけど、第4遊撃隊長リィ一梯が今、非常に危険な状況にいます…」
ロゼさんが壇上に上がり、今回の任務について説明をする。
概要を纏めるとこんな感じだ。
・リィ一梯が「現実改変」の影響をモロ受けた結果、『闇堕ち』が制御できなくなった。
・結果、魔王と呼ぶには強すぎるあり得ないレベルの魔物が生まれてしまった。
・彼をボコって殺さずに救出し、元の状態に戻すのが今回の任務である。
25分間の準備時間が与えられ、俺たちはロゼさんから別室でいろいろ説明を受けることになった。
「あ、あの…私たちのような外機動隊の端っこにいるような隊がこんな任務に…?」
フィンが恐る恐るといった様子でたずねる。
「まあまあそんな固くならないで?ほら笑って笑って」
そう言ってロゼさんはフィンの頬に手を当てると、無理やりと口角を上げるように手を動かす。
フィンは真っ赤になって俯いている、そういえばこの子はロゼさんに憧れてるんだった。
ライラとエルナもどこか羨ましげだ。ヴェルだけは無表情、こいつ何考えてるんだ?
「全く部長なんて立場、百害あって一利なしね。んじゃちょっとざっくりとした解説をさせてもらうね
君たちは純粋な戦力で呼んだんじゃなくて、一人ひとりが持ってる特殊な力目的で呼んだのよ。
ライラちゃんは「魔王」の中に居た事で魔力に変異が起きてる、今回のケースの成功例ともいえるわね。
エルナちゃんは、後方支援部と併せて増幅させる事で回避にとても有用だし、
ヴェルちゃんは…まあ本来なら遊撃隊に入れるレベルだから呼ばない選択肢はないし、
テスラは、魔法攻撃無効というローザ姉のスキルに似てる特性を持ってる。
フィンちゃんは…あ、言わないほうがいい?了解。
君たち第14外機動隊はそういう集まりなんだ、だから呼んだって訳よ」
じゃあ皆で連携取れるように。宜しくね~と言って部屋を後にするロゼ。
フィンが自分の能力を秘匿してるのはちょっと気になるが…今はそんな場合じゃなさそうだ。
「とりあえず…もうこうなったらやるしかないんじゃないの?」
投げやりに言い放つヴェル。俺も同意見だ。
「ライラが役に立てるか分からないけど…一生懸命頑張るよ!」
「こうなったらやるしかないですね。気を引き締めていきましょう」
「…私も、できる限りは…」
皆の意見が一致した。これから何が起きるかは分からないが、とりあえず乗り越えるしかない。
…俺、試練に次ぐ試練で一回も休めてないんだけどなあ…




