幕間 世界神の闘争
お久しぶりです。更新が滞っておりまして大変申し訳ございません。
なお、この話は第19話と第20話の間にある「幕間」が前提となっております。
「!?…マズいぞ」
私、人界神ウィルファナインは慌てて立ち上がると部屋の外に駆け出した。
直後、灰燼と化す部屋。
現実改変が起きたか…しかも過去最大規模の範囲と威力だ。
コンマ数秒間の解析しか出来なかったが、おそらく効果は「隔絶」だ。強い人間はさらに強くなり、弱い人間はさらに弱くなる。
それ以外にもなにか起きてることは間違いないだろうが…後でロゼにでも聞いてみよう。あそこはここより研究が進んでいる。
そして現実改変の力を『魔界神』マイナを受けた。
(リィの観測値もおかしい。効果を受けたと見て間違いないだろうが…『闇堕ち』しないか心配だ。早く行かなくては…)
とはいえそんな事は出来そうにない。
目の前に立ちはだかる緑髪の少女。途方もない闘気を纏って私を睨みつける。
「なぁマイナ、今はそんな場合じゃないだろ?落ち着けよ」
「ごめんねウィルファ。ボクもこんな事はしたくないんだけど…」
一際増す覇気。並の人間なら視界に捉えただけで死に至るほどだ。
「今のボク、制御が効かないんだ。力も何倍にもなっちゃってるみたいだし、正直もうどうなっちゃってもいいかなって…」
「馬鹿野郎、世界神ともあろうものが精神汚染にかかるなんてどうなってるんだ。取り敢えず、ちょっと痛くするぞ。覚悟しておけ?」
○
とはいえ厳しい戦いだ。
マイナに魔法が途方もなく効きづらい。その癖して奴は近接格闘が滅法強い。
「シーリン術式・第五階層≪古紀魔素≫解放」
左手をバッと突き出すマイナ。短く切り揃えられた緑色の髪が風を受けて逆立っている。
マイナは自身の能力を8段階に分けて管理している。第5ともなるとかなり体に負荷がかかるらしく、そう長い時間は持たないだろうがなかなか厄介だ。
事実、私は1000年前に第六階層まで解放したマイナに敗れている。
「いくらマイナと言えど、精神汚染された状態で私に勝利できると思うなよ…!」
左手で30個の神代魔法を同時起動。しかし、マイナが左手をあげるとすべて発動前にキャンセルされてしまった。
「シーリン術式・第五階層・≪霧散≫。こんなものでボクを倒せると思ったの?」
「うるさい、黙ってやれ!≪四重詠唱・神罰/対魔≫ッ!」
「ちょっとそれは頂けないかな…シーリン術式・第五階層・≪古紀魔素錬成:対神土壁≫」
極光の4連レーザーも、素早く展開されたマイナの土壁にて防がれる。有効な攻撃が見当たらない…
そんな私の焦りを悟ったのか、マイナが攻勢に出始めた。
「シーリン術式・第五階層・≪雷槍≫、さぁ受けられるかな?」
広く世界で使われる、雷魔法の数千倍もの威力を持つ槍が私を襲う。が、この程度なら簡単に返せる。
「ふん、私も舐められたものだな」
左手を振って跳ね返す。マイナは横っ飛びで躱すと、私を警戒するかのように距離をとった。
「時間もないし決めに行くよ。シーリン術式・第六階層≪深淵≫解放」
…ついに第六階層を使ってきたか。お互い有効打はなかったし、まあ確かな選択だろう。
私も1000年前と違って訓練は積んできたが、それはマイナも同じだろうからな…ここからは絶対に気の抜けない戦いってわけだ。
「第六・≪自己改造≫。魔法、撃たせないから」
「ちっ、近接戦かよ…有利状況に持ち込む気か」
第六階層になると、シーリン術式の詠唱も短くなり、移動速度も攻撃力も大幅に上がる。
普通近距離戦に於いて肉弾戦をしようとすると、基本的には魔法を0距離で撃ち込める魔法使用側が有利になるのだが、いかんせんマイナには魔法が極端に効きづらい。
その特性は魔法の発動箇所が自身に近ければ近いほど強くなるのだ。
だからこうなったら私は近接戦闘を甘んじて受け入れるしかない。距離を詰めようにも、速度はあちらのほうが速いからな…。
あとは奥の手を切るか否かだけだ。
「死んでよウィルファ!はやくボクを楽にしてよッ!」
そう叫びながらも攻勢を緩めないマイナ。毎秒数百回繰り出される殴打を何とかいなし続ける。
「精神汚染なんか受けるからそんな目に合うんだよッ!魔界神としての自覚はないのかマイナッ!!」
「だってボク魔法耐性極端に高いし呪いとか精神汚染とか食らったことないもん!めんどくさい、これでも決めきれないならボクにも考えがあるんだから!」
「馬鹿野郎、まさか第七階層を使う気じゃないだろうな!?あれはお前には耐えきれないぞ!?」
「うるさいうるさい!シーリン術式・第七階層・《崩壊》解放ッ!!」
第7階層が解放されてしまった。ここまで来ると世界広しとはいえ対応できるのは私くらいだ。
マイナの体にはヒビが入り、中から蛍光色の眩い光が漏れ出している。第7階層にもなると、最早動きを目で追うことも困難になる。気配と行動を読み取って、先手を取り続けるしかない…
「うぁぁぁぁぁぁっ!!!!……!!」
悶え苦しみ、自身の内部から溢れ出る力を抑え込もうとするマイナ。
深緑だった髪は黄緑色へと変貌し、紋様の様な線が体中に走り、線は常に消滅と出現を繰り返して脈動し魔力を放っている。
「チッ…厄介な。いつの間に第7階層を解放したんだ」
「うぅっ………あぁぁぁぁッッ!!!」
音速の数倍で放たれる殴打を、体を捻って避ける。空気が焼ける音がしたぞ…
「おい、マイナ?こんな不毛な戦いはやめにしないか?」
「うぅぅぅぅぁああああ・・・!!!」
呻きを上げ、大振りの殴打を繰り返すマイナ。隙を突こうにも移動速度が速すぎてどうにもならない。
というか、理性を完璧に失っている。
横っ飛びで回避、追撃を狙うべく左手を振り上げる。
「・・・!!」
マイナは目を見開くと、私の左半身に向けてビームを放ってきた。
ノーモーションで私を消し飛ばしうる火力、正直理解できない。そして避け切るのは無理そうだ。
錐もみ回転のような形で回避しようとするも、左ひじより下は巻き込まれ焼失した。
「チッ・・・左腕が持ってかれたか・・・」
「・・・」
だらっと体の力を抜き、虚ろな目で私を睨みつけるマイナ。
顔からは一切の感情が欠落し、ただ紋様が怪しく脈動しているのみである。
私としてもこれ以上の部位欠損は今後に影響してくるから控えたい、マイナの精神汚染だけでこの事変が終わるとは思えないからな・・・
「・・・マイナ、行くぞ。殺したらごめんな」
「・・・」
ここで終わるわけにはいかない。私には『人界神』としての矜持がある・・・!
「『刻界-Dial2』」
カチリ、と脳に音が反響する。まるで硝子細工のようにマイナの周りが崩れ落ち、文字通り空間が切り取られた。
空間を世界から隔離し、いかなる活動を許さない監獄を作り上げ、世界との時間矛盾が生じさせ自壊させる。
最強の世界神たるウィルファナインを最強たらしめる彼女のみがもつ特権、それが『刻界』である。
勿論、このままではマイナは確実に死に至る。しかし、
「ヘンジ、止めろ」
「ふぇ!?と、とりあえず・・・『時流制御』ッ!」
二回手を叩き、同格の神であるヘンジを召喚。彼女の特権、『時流制御』で対象の時間を停止させる。
「神を一人独断で『凍結』させた、私の処罰は免れないかもしれないな・・・」
「ちょと待って、何でマイナを凍結させなきゃいけなくなったの?」
かくかくしかじか。
「・・・もっと早く私を呼んでくれればよかったのに」
「すまんヘンジ。私は直ぐにステン教団に向かう。後処理は頼んだ」
「ちょ、えぇっ!?まだ分からない事いっぱいあるのに!!」
今回の事件が小規模で終わるわけがない。この規模の現実改変を起こすには少なくとも数十年の用意は要した筈。どこかに雌伏しているはずの犯人を捕まえなければ・・・
そんな事を考えながら、結晶の中に閉じ込められたマイナと途方に暮れるヘンジを残し、私は燃え尽きた部屋を後にした。




