第29話 克己①
3か月ぶりの更新です・・・!
「遅い!!」
バンッと机をたたき立ち上がるヴェル。
カウンターテーブルにはカップに茶色の液体。何くつろいでるんだこいつは。
「割と早めに来たつもりだったんだけど...」
「もう半日は待ったわよ!」
「ごめんごめん。あれ...そういえば19層の人、初めて負けたって言ってたけど」
「は...はい...?なんのこと??」
特に深い意味もなく言った言葉だったが、目を逸らし汗をだらだらと流すヴェル。目があらぬ方向に向いている。
え、何かそんな後ろめたいことでもあるの?
「ヴェル、10層でもなかなかにえげつないことしてたし、まさか」
「ふぃひむぅえ!?」
人間の言語を失ってるぞ。
「(じろっ)」
目をかっぴらいてヴェルに迫る。
「ごめんなしゃい...ズルしました...」
「ずるって...一体なにをしたんだ?」
体の前で人差し指を突き合わせ、もじもじする。
「階層飛ばしを少しだけ」
「何層飛ばしたんだ」
「7層くらい...?」
「あのなあヴェル、」
次の言葉を口に出そうとした時、なにか猛烈な違和感を覚えた。
不思議そうに首をかしげるヴェル。次の言葉を待っているようだ。
俺は違和感の正体について考えるのをいったんやめて、先ほど言おうとしていた言葉を口に出す。
「お前がここに来たいっていうから俺も手伝ってるんだぞ?」
一瞬ヴェルは目をぱちぱちとして首を傾げたが、何かに納得したような表情で言い放った。
「でも最後はしっかりやるから大丈夫よ!任せて」
「いやそういう問題じゃねえだろ・・・まあいいや、行こう。長かった戦いも終わりだ」
「そうね・・・2ヶ月くらいのはずが、心なしか半年以上いた気がする」
毎度のこと威圧感を放つ巨大な扉を抜け、最後の戦いに挑む。
扉の先には、殺風景な灰色の石のドーム。
『修羅の道』克己・20層。
最後のフロアにして最強の敵が出現する。
19層で己を超える敵と戦い、打ち勝つことによって最後の試練に挑めるのだ。
その20層に出現する敵は・・・
爆音とともに黒い煙が立ち込め、現れたのは真紅の髪を持つ小さな女性。
「ロ・・・ロゼ・・・さん!?」
震える体を抑え、俺は呟いた。
嘘だろ!?クリアできるはずがない・・・
「驚いてるわね。この層で現れる敵はね、『今自分が一番強いと思ってる人』なのよ。まあ、あくまでコピーだけどね」
「ねえテスラ、誰あれ?」
「ヴェルは知らないのか。ロゼさんは教会長ローザさんの妹で、ステン教会の防衛部長」
「ローザ!?ローザってあのローザ?や、やっべぇ関係者いるの・・・」
「知ってるのか?いや、それよりも今はとにかくロゼさんの対策をだな」
「うん、私はゆっくりしておくからいくらでも作戦会議するといいよ。一応、私はオリジナルの私よりは弱体化されてるわ、『修羅の道』の出力制限的な意味で」
余裕綽々と言った様子であくびをし、指を鳴らすロゼ。すると殺風景だった石のドームは、広大なバラ園へと変化した。
中央に現れた鉄格子の椅子に腰かけ、目を瞑って紅茶を飲みはじめる。
せっかく待ってくれているんだ、しっかり作戦会議をしよう。
「いいかヴェル、まずロゼさんは近接攻撃が強いから近寄ったら死ぬ。で、遠距離攻撃も強いから遠のいても死ぬ上距離をとっても秒で殴られるから死ぬ。魔法は全部基本効かない。近接攻撃も効かない。あと平気で数十トンのものとか投げてくる。つまりどこにいても死ぬ。OK?」
「OKな要素がどこにも見当たらないんだけど・・・」
苦い顔をして髪をいじるヴェル。
「OKな要素なんかないしな。ここで死んだらやり直しなんだろ?もう無理だろこれ」
投げやりに地面に寝転ぶ。
「ちょーっと!テスラがやる気失ったらますます勝てないじゃん!!」
「俺が居てもいなくても勝てないことには変わりないよ」
「そういう問題じゃないでしょ!」
「さすがに可哀そうだし、こうしましょ。『致死判定がでたら、20層の最初からやり直し』でどう?」
ロゼさんが人差し指を立てて提案する。
「まあそれなら・・・ヴェルもそれでいいか?」
「別にいいわよ」
勝てないことに変わりはないが、いささか気分は楽だ。
戦っていくうちに何かがつかめるかもしれない。
「決まりね。じゃあ行くわよ」
〇
「ん?何が起きたんだ?」
気づいたら20層の入り口に2人立っていた。
「おそらくだけど、ロゼさん?とやらが右手を少し上げた瞬間に『致死判定』が出たんだと思うわ」
「は?」
「無茶苦茶ね、これクリアさせる気あるのかな」
端正な顔をゆがめるヴェル。
「そういえばレベルってあったよな、見てみるか」
テスラ
【レベル】66
ヴェル
【レベル】57
「これってどうなんだろ?」
首を傾げるヴェル。
「一応、70レベル前後がクリア想定って書かれているし大丈夫なんじゃないか?」
「いや、出てくる人にもよるでしょ・・・自分が考える最強の人間のイメージが明確であるほどえげつない階層になりそう」
「とりあえず、死にながら覚えるしかない」
〇
幾度となく死んだ。回数は200回を超えたあたりから記憶していない。
近接を土の壁で防ぐと範囲攻撃で死に。
距離をとっても一瞬で詰められて死に。
ダメージを与えても速攻で回復され。
防御に徹せばダメージ不足で倒し切れず。
攻撃に徹せば瞬殺され。
そんな極限状況で、ヴェルがレベル100に到達し、そして目覚めたのだ。
『形態;熾天使』
10分間、飛行可能になり生命力と魔力が全回復、上限値が2倍になるという『スキル』である。
今のレベルは俺が99、ヴェルが101。俺も100になったら何らかのスキルを手に入れられるのではないかとワクワクしている。
「さあ!何百回目か分からないけど行くか!」
「227回目」
「お、おう・・数えてたのか」
扉を開く。
「あー、227回目ね。それじゃあ始めましょうか」
右手を上げ攻撃を開始するロゼ。
「≪錬成:再構成・土壁≫」
「≪天上の増強・4倍≫!」
バカみたいだが4倍に増強した土壁でロゼさんが掲げた右手の衝撃の余波を防ぐ。
それでもダメージはもらうので、2人して背後に吹き飛ぶ。
「防いだつもりじゃないでしょうねっ!?」
バンッと地面を蹴って飛び出すロゼさん。同じ方法で防ぐ。今度は5倍増強だ。
「今だっ!いけっ!!」
「『形態;熾天使』!!」
背中に生えた極彩色の翼をはためかせ、空高く舞い上がるヴェル。
「『断罪せし天上の威光よ!≪天上の浄雷≫』」
瞬間、ロゼを襲う8つの雷。
「ちいっ!?」
驚異的な反射速度で雷を避けると、右手を振り飛翔中のヴェルを墜とす。
「筋はよかったわ」
増強がかからない俺の土壁じゃ攻撃を受けきれず、成すすべもなく倒されてしまった。
〇
「ちっ、何よあのバケモン。倒せるはずないじゃない」
「いや、今回はいい筋言ってたと思うぞ?それより俺もスキル入手できたかな?」
「見てあげる、『情報』」
入手スキル→『情報』『≪疑似≫神罰の炎』
「「ん?なんだこれ??」」




