第27話 転換点
○
「クソ、ダメだ。完全に古精霊からの通信が切れた」
結われた鮮やかな金髪を乱暴にほどき、机を叩く『人界神』ウィルファナイン。
「落ち着きなさいよ、というかどうしてそこまで拘るのよ」
「そうそう!もうボクの弟子のことは諦めなさいよ?」
不思議そうに首をかしげる『獄界神』ヘンジと『魔界神』マイナ。
その2人に対し、苛立ちすら秘めた声でいい放つ。
「その少年は魔力を持っていない可能性が高いんだ!この稀有な人間を監視せずにどうする!世界が変わるんだぞ」
「「??????」」
「分からないのか……いいか、今でこそ魔力はあればあるだけいいと言われているが、本来はそうじゃない。」
さらさらと紙の上に図を描いていく。
「人間が持つ魔力は『生命活動で生じた余剰エネルギー』だ。もうここまで言えば分かるな」
「つまり…生命活動で無駄なエネルギーを生じさせてないということ?」
「?」
何やら理解した様子のマイナと、未だに状況が読めないヘンジ。
「最も簡単に言えば、『無駄のない完璧な人間』というわけだ」
「!!!!わかったわ」
「問題はどう監視するかだ…魔力による探知ができないからなあ…」
○
「ジン、テスラの調子はどう?」
モニターに映った文字をカリカリと紙に書き写していたジンに、ロゼが声をかける。
眼鏡を取って机に置き、カタカタと何かを手元の端末に入力すると、テスラの情報が現れた。
「ふむ、テスラ少年は18層を突破し、遂に最深部19層の攻略に入ったようだ。あと2層だな」
「はぁ!結構早いわね、1か月でそこまで到達するとは思わなかったわ」
ぽりぽりと頭を掻くジン。
「おかしいな、想定では現在11層攻略中くらいなんだが...ん?なんだこの反応は」
スッと指さすジン。16層に、大きな光の点が映っている。
「何この巨大な魔力反応!私、ほかの誰にも使用許可出してないわよ」
「早い踏破ペースを保っている理由はこれか?しかし説明がつかない」
二人して悩むジンとロゼ。しかし結論は出ないままであった。
〇
「だらっしゃーーーーーーッ!!!まどろっこしい、全部ぶっ壊してやるわ!!」
『アナウンス、不正な破壊行為が発見されました。16層をリセットします』
「あああああーーーッ!!もうやだやだやだ!!!」
頭を乱雑に掻き、ペタリと座り込むヴェル。艶のある銀髪は好き放題に跳ね返り、頬はこけている。
「8時間じっとしてるだけの試練なんておかしいでしょ!力だけならどうとでもなるのにっ!!」
16層『忍耐の間』。2メートル四方の真っ白な部屋に8時間じっとするだけの簡単な試練である、はずなのだが...
「無理無理、大体そんな無駄なことなんでしなきゃいけないのよ!!おかしい、絶対テスラもクリアしてないわ。うん、きっとそうよね」
息を吸って落ち着くヴェル。着ている白灰色パーカーのファスナーを口元まで上げ、じっと目を瞑り耐え始める。
(...無理!!何か抜け出す方法はないかな、私ができることは...)
「わかった!!!」
『アナウンス、不正な移動が発見されました。16層をリセットします』
「ふん、今はいくらでもリセットするがいいわ!せっかくの天界学校限定パーカーを失っちゃうのは勿体ないけど」
バッと両手を広げ、目をかっぴらくと全身が炎に包まれ、純白のワンピースに身を包んだヴェルが現れる。
「主席の実力見てなさい、「≪我は幽玄にして偏在するもの・肉体の頸木より解き放たれん・『幻体化』≫」
体から光の粒子が溢れだし、透明度が上がっていき、最終的に視認できる限界まで薄くなるヴェル。
そのままゆっくりと摺り足で歩き出し、その白い壁を通り抜ける。
「『解除』」
一言呟くと透明度が元に戻る。踵からカタン、と着地すると静かにガッツポーズをとった。
そのまま17層へと消えていく。
白い部屋には、橙色のオリガミが残されていた。
〇
腑抜けするほど簡単な11層以下を抜け、19層へと向かう。
「ここからは戦闘が再開されるらしいからな...気を引き締めていこう。ヴェルとの合流は...諦めるしかないか」
10層で感じた威圧感よりさらに肌に刺さる、棘々しい殺意。気を失いそうになるのを必死でこらえ、唾をのみ、右手に剣を構えてドアを開く。
『...来たようだな』
燕尾服に山高帽。右手にステッキをもった長身の男。
「...なんで俺の声なんだ」
震える声を押し殺し尋ねる。
『私は貴様のコピーとして調整されている。しかしすべて貴様より秀でている。具体的には20%くらい』
「最後の説明いるかな!?」
『そりゃ、どれだけ強いか分からなかったら戦いづらいだろう』
「案外優しいなっ!?」
ちっ、恐れて損した。こいつも教会の人間らしい匂いがプンプンするぜ。
『あ、ちなみにもう少し説明しておくとだな。私は挑むたびに貴様の1.2倍強くなるからレベル上げには最適』
「...自分で言っちゃうんだ...もう良い、戦おう」
『その自信、いつまでもつかな?』
「先手必勝、≪灰燼と帰せよ≫・シーリン術式・≪上位火球≫!!」
『ふん、≪灰燼と帰せよ≫・シーリン術式・≪上位火球≫』
ほぼ同時に呪文を唱え、相手にまっすぐ飛来するそれぞれの炎。中心でぶつかり合って大爆発を起こし、その爆風はテスラ側に大きく流れた。
「!?そ、そうか、1.2倍か...案外つらいな」
『もう音を上げるのか?恐ろしく軟弱よ、とくと≪見よ≫』
ステッキを振りかざし、現れる3本の閃光の槍。最後の2文字だけで呪文の詠唱を代用したのだ。
「シーリン術式・八画赤珠方...間に合わねえっ」
防御する魔法陣の展開を放棄し、素早く頭を下ろす。
『続けていくぞ!』
ステッキをたたくとテスラのものと同じ大きさの剣に変化する。右深くに剣を据え、鋭く突き出される剣。
だめだ、見切れない。内心で毒づき、大きく剣を左へ払ってなんとか弾く。
「その剣、重すぎるだろッ」
『剣ではなく、技が重いのだ。見切って俺を超えて見せろ』
ちっ、この手は通用するか?
「シーリン術式・『付与』<炎上>」
相手に聞こえないように剣に魔法を付与する。銀色の剣が紅色に染まる。
一気に地を蹴り、猛突進。
「はあああああああああああ―――――――ッ!!!」
『むぅッ!?馬鹿正直に突っ込んでくるだとっ!?』
一瞬反応が遅れたが、しっかりと剣で防いでくる。それが狙いだ。
「燃えろおおおッ...!!」
重なり火花を散らす剣。その瞬間、付与されていた炎が大きく立ちのぼり、炎の柱に取り込まれる相手。
よし、やったか!?
『...フハハ、劣化オリジナルの分際でよくやる。しかし貴様はどうやってもこの俺に倒される。なぜなら1.2倍貴様より強いのだからな』
無傷で手を振って登場する。ありえないだろ...あんな至近距離で当てたのに無傷とは...
「…だったら、お前との戦いで1.2倍以上成長して見せる!さあ、来いッ!」
一瞬驚いた表情を見せた男は、そのあと満足気に不敵な笑みを浮かべる。
『いい、良いぞ!俺もただで越えさせる気はないが、その意気は買ってやる』
複雑に連続で交錯する二つの剣筋。戦いはまだ続く。




