第25話 『修羅の道・修羅』リィの戦い
「まったく、取り敢えずココに突っ込んでおけみたいな風潮良くないと思うんですよ」
悪態を吐き、向かってくるゾンビを左手の槍で突き刺す。そのままグルッと回し、右手側の敵をまとめて薙ぎ倒す。
「《土龍式流星砲》」
土属性の上位魔法。
リィの背後に龍のようなものが現れ、ブレスを放出する。
射線上の敵を全て呑み込み、一瞬だけだが道が開く。
その隙を見逃さずにダッシュ。僅かに前線に上がる。
「30層を超えてから難易度がおかしくなってきてますね、『克己』より1段階難しいとはいえ、ちょっと調整ミスでは?」
軽口を叩かないと戦いに集中できないほど、リィは追い詰められていた。
33層突破時のリィのレベルは278。しかしレベル190相当の強さを持つゾンビが毎秒のように沸いてくる。
つまりは倒し続けない限り、生きる道はない。
「3時間倒し続けて、ようやくボス部屋ですか…50層まであるのに、先が思いやられますね。」
33層のボスは巨大な猪であった。体長は10メートルほどか。
「『情報』さて、どう戦いましょうかね」
スキルを起動してボスの情報を覗き見る。
特・猪上さん 年齢36秒 出身地:人界
【レベル】 413
【生命力】 5887
【魔 力】 4911
____以下解析不能____
「これは全力で行かないと厳しいですね、『人型闘気』」
ボッ、と紅のオーラを纏う。
「これはホイホイ使いたくないんだけど…『闇堕ち』」
自分の意識を深い闇へ落とし込み、慎重に引き上げる。
現れる異形の翼、溢れだす瘴気。
銀色の目は大きく見開かれ、紅に染まっていく。
リィ 24歳 出身地:人界
【レベル】 279
【生命力】 4720(+75%)
【魔 力】 3879(+75%)
____解析停止____
「これならなんとか行けそうではありますが」
翼をしならせ瘴気をまき散らすリィ。生命に対して等しく有害なそのエネルギーはボスも例外に洩れず、苦しそうにしている。
「今となっては本当に何故ロゼさんに通用しなかったのかは疑問ですが、まああなた程度なら倒せるでしょう。行きます」
つま先でトン、と地面を蹴り飛び立つ。
「≪五十重詠唱・上位魔力弾≫!」
背後に十数センチの銀色の魔法陣が50個現れ、手を振ると銀色の弾が大猪に降りかかる。
「ブモォォォッ!!」
その雨をバンッと飛び上がって避ける大猪。
「嘘でしょう!?その巨体でどう飛び上がるんですか!?」
「ブモォッ!」
同じ高度まで上がって口を大きく開く大猪。放たれる炎のブレス。
「猪がブレスですかっ!!」
魔力をぶつけて魔法を相殺。相殺しきれなかった炎がリィの金髪を少し焦がす。
地面に着地するとともに轟音が鳴り響き地面が震える。
飛んでなければ動けなくなっていただろう。
「クッソ、次に行きます!≪五十重詠唱・上位火球≫!」
範囲の広い炎の魔法を選ぶ。追従する炎の弾が猪にヒットする。
「ブモォォォォッ!!!」
火だるまとなる大猪。直後に大爆発が起こる。
「よし、やりましたかね」
「.....モォォォォオオオオ!!!!」
その炎の中から空中に猛突進してくる大猪。驚くべき速度だ。
そして放たれる炎のブレス。
「嘘でしょうッ!?」
翼を畳み急降下。左の頭髪が焦げるが直撃は免れた。
距離をとってにらみ合う。
「これを使うとしばらく具合が悪くなるので本当に嫌なのですが...やるしかありませんね『魔王闘気』」
リィが呟くと体表に赤黒い閃光が走り始める。生命を否定する死のエネルギーがリィを蝕んでいく。
それをロゼに言われたように体表に漏れ出させず、体内で循環させるように力を封じ込める。
「うっ、うぁあ!!...!!」
右頬に稲妻のようなヒビが入ったが、そんなものは関係ない。
地面に法陣紙をバラバラと撒いていく。そして滾るエネルギーを開放し、片っ端から魔力を注ぐ。
「魔王の姿となり果てた俺が神代魔法とはなんたる皮肉ですかね、魂の損傷は避けられないでしょう」
しかしリィには退けない理由があった。ここで致死判定に甘え戦うことを諦めれば、どうしようもなく大事なものを失ってしまう気がした。
(本当に嫌な施設ですね、修羅は伊達ではなかった)
横っ飛びによる回避運動を継続しながら、集中し呪文を唱える。
「≪我は天上の腕・神の意を成す者・穢れし者欠けし者の不浄の地を癒し・天の仇を滅ぼさん≫うグッ」
血を吐きながら唱えるリィ。魔力が呪文発動に足りておらず、魂のエネルギーが吸われているのである。
「神代魔法≪擬似神域降臨≫...『闇堕ち』解除ッ!!」
暴力的な虹色の光の氾流。膨大な魔力を喰って、魔なるものの存在を許さない絶対の聖域が現界する。
それは魔王化したリィとて例外ではない。呪文の発動と同時にそれを解除することで自滅を免れた。
目がつぶれるほどの虹色の光が収まる。そこには猪の姿はない。
レベルが284まで上昇した旨の通知が出るが、無関心に視線を外す。
「う、ゴホッ...うぇぇ...うっ」
非力を嘆き涙をこぼしながら、膝をついて血を滝のように吐くリィ。血だまりが広がっていく。
――八重の虹色の魔法陣。俗世の穢れ歪みをすべて払う光の暴力。
リィの脳裏に自分より鮮やかで神々しい金の髪の毛を持つ師匠の姿が浮かぶ。
「師匠、俺は...」
地面に落ちた血液と涙を拭い、石の床を這い、立ち上がったリィ。
魂への傷は甚大で、もはや生命力も残っていない。もはや気力だけで意識を保っている状態だった。
唐突に脳に走る痛み。
脳裏に浮かぶ黒い影。すべて奪われたあの日を思い出す。
(はは、『闇堕ち』の副作用ですか、もう何年も思い出していなかったことじゃないですか)
「俺は弱い」
そういってリィはゆがんだ微笑を浮かべ、光の先へと消えていった。




