第20話 こんなところにいられるか!
「二度と戦いたくない」
シャワー室へと到達して一息。ちなみにヴェルとやらは仮眠室に投げてきた。
ボスまでの道のりと違って、特に魔法じゃないと倒せないなんて言う制約は全く存在しなかったが、いかんせんボスがGである。
足を一本ずつ切り落として最終的に胴体を貫いて倒したのだが、その足一本一本がぴくぴくと動くのだ。しかも動きが素早く跳躍力もあるので、なかなか攻撃が当たらない。そして時間をかけすぎると、足が再生するのだ。その足の再生方法がまた...いや、これ以上はやめておこう。
幸い入口に放置しておいたヴェルは無傷だったので、討伐後背負って運びこみ今に至るというわけである。
「ふぅ、まだシャワーが浴びられるだけましと考えるか、シャワーですら制限されていると考えるべきか」
どうでもいい独り言をつぶやき、仮眠室に戻る。
「ヴェルさん、起きたかね」
「殲滅する...絶滅させる...この世から一匹残さず...」
俯きながらぶつぶつと呟くヴェル。目には光がともっておらず、焦点もあっていない。
ダメだ。完全に壊れている。
とりあえず物騒な言葉を吐くマシーンと化したヴェルを放置し、今日習得した「シーリン術式」について考える。
おそらく体内で行う魔力を魔法に変換する行為を、体表にエーテルを纏い、触媒(まあ消費されてしまうが)を用いることで疑似的に再現しているのであろう。
では体内にもエーテルを取り込むことができたらどうなるだろう?
全身の血管にエーテルを流すようなイメージで集中する。体表に瑠璃色の閃光が走り、バチバチと音を立ててはじけた。
「んあ...?すっごいエーテル、何よこれ」
まずい、ヴェルが正気に戻ったみたいだ。しかもちょうど射線上。止めなくては!しかし...
全身の体温が急上昇するような感覚が走る。そのエネルギーが右手に集中していく。
「う...うおぁあああああああーッ!!!!《火球》ッ!!!!」
すると先ほどまで放っていた温風とはわけの違う、太さ15センチメートル程のレーザーの形相を示した魔法が飛び出した。
「んなッ!?バカなの!?」
間一髪で横っ飛びをして回避してくれた。よかった...
壁に当たった時波のようなエフェクトが走り、吸収されていった。
焼けるように右腕が熱い。一息ついて、「無事か?」と声をかける。
「...無事かだって?テスラが撃ってきた魔法だろうがぁッ!いったいバカなの?私に殺されたいの?」
「いや、ごめん、暴発だったんだ」
「呪文唱えておいて何が暴発?本当に死ぬかと思ったんだけど?てか私も一発かましていいよね?」
「ごめんって、本当に勘弁してくれ。てかヴェルだっけ? 古精霊かなんだか知らないけど、何でこんな所にいるの?ここ訓練施設なんだけど」
するとヴェルは短く切りそろえた銀髪を人差し指でくるくる弄りはじめ、目を伏せると、またキッと睨んできた。
「うるさい!別に私のことはどうでもいいでしょう、というか一発かまさないと気に食わないからぶっ飛ばす!《天上の雨矢》!!」
俺の輪郭をなぞるかのように光の矢が無数に走っていく。これ、動いたら死ぬのでは?
一通り矢の雨を甘んじて受け、落ち着いたところで話を再開する。
〇
「で、テスラのそれは魔法じゃないってこと?」
「まあそうだね、魔界神マイナから教わった技なんだけど」
「魔界神マイナッ!!??」
ガタッと立ち上がり肩をつかまれる。
「うん、うん、事実だから放して」
「あっあ、ごめんなさい、つまり魔力がないからそれを使えるようになったってわけね」
肌理の細かい白い肌をわずかに紅潮させる。この子、口は悪いけどやっぱり根は素直ないい感じだな。
現状説明。
「えっと、つまりテスラの訓練に私が巻き込まれたって事?じゃあそのロゼさんとやらに気に入られなきゃ出られないかもしれない訳!?」
「ま、まあそういうことになるのかな?」
ふんす、と鼻を広げて不機嫌そうに鳴らすヴェル。
「だったら私がさっさとクリアできるように鍛えてあげるよ。とりあえず今日は寝る」
そういってぱたりと話さなくなったヴェル。一瞬で寝付いてしまったようだ。
さて、ゴキ汁のついた剣を磨いて俺も寝るとしようか。




