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オリガミ 記憶喪失の冒険記  作者: 玄紗(げんしゃ)
第2章 防衛部はじめました
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第19話 仕事人ヴェル

バシュン、と音を立てて消えるヴェル。

「「大丈夫かなぁ...」」

声を合わせてつぶやくウィルファナインとローザであった。


ボブカットの銀髪、深い碧の瞳を持つ彼女の名前はヴェル。天界学校を首席で卒業した秀才である。


「命じられた仕事はこなしますけどね、こんなあいまいな依頼は初めてだよ」


魔力を持たないため魔法的監視を行えない少年を代理で監視する仕事。期間は定められておらず、正直自分みたいな高位の精霊が行う必要はないよなあと文句をたれながら歩いている。


転移した場所はジメジメとしており、亡霊系の魔物が沸いている悪環境。


「うぇぇ...気持ちわるっ、こんなところにいる監視対象陰キャラだわ。便所飯してるタイプ。いるんだよねぇ、そういう人」


まだ見ぬ監視対象の印象を脳内で勝手に決定して、ゆがんだ笑みをうかべるヴェル。だが途端に弛緩しきった顔をキッと引き締め、臨戦態勢をとる。


「亡霊系か、『閃!《天上の光明セレスティアル・フォトン》』」


ビシッと突き出した指からあふれる光。天界出身のものにしか使えない、天上系魔術である。

本来は長い詠唱を必要とする魔法であるが、性格はともかく成績は優秀なヴェルは詠唱を短縮することができる。


「拍子抜けだわ、もう少し強い魔物かと思った」

着用していた白灰色のパーカーに無気力に手を突っ込む。背中には大きく「天界産」と黒い文字で入っている。


気の向くままに魔法を連発し、監視対象を探す。魔法的な探査方法が全く効かない為、完全にしらみつぶしである。

「ん?エーテル異常かな、ここだけ極端にエーテルの味が違う」

高位の精霊はエーテルへの感度が高く、一般的な人間と比べて10万倍以上であるといわれている。

そのため、人為的なエーテルの変化に機敏に反応することができる。


きょろきょろとあたりを見回す。しかし何も見つけられない。

「気のせいか...ったく、この迷宮私に無駄なことをさせるなんていい度胸...ッ!?」


後ろに強大なエーテルの気配!生命の危険を感じるレベルなのに、ここまで感知できなかった事を悔やむ。

「間に合え!『断罪せし天上の威光よ!《天上の浄雷セレスティアル・ライトニングボルト》』」



「で、できた...」

全身にエーテルを纏うことに成功したテスラ。最初こそ魔界神からもらった呪文を使わなければできなかったが、出力の上限があることが判明し「目をつぶってエーテルを感じる」という傍から見たら寝てるだけにしか見えない練習を数時間繰り返していたのである。


「やっぱり俺ってやればできるタイプなんじゃない?」

自慢げに鼻を膨らませているが、あくまで第一段階を突破しただけである。


「んで、次は呪文を唱えればいいんだよね...「シーリン術式対応初級魔法」の項目のこれでいいか、『火球ファイアボール』」

呪文が書いていないなあ、と思ったら右手からボスン、と音がして熱気が出た。


「え?これだけ?もしかして呪文って魔法の名前言うだけなのかよ...」

しかしこの熱風だけで倒せるのだろうか。急いで第2層へと向かう。



到着。相変わらず湿ったところだ。


「なんかいい匂いがする…花っぽい匂いかな?なんでこんなところでそんな匂いがするんだ、っとと早速来たぞ」


立ち入ったとたんに向かってくるスペクター。引き付けて...

「よし、いまだ『火球ファイアボール』」

ボスン、と熱気が放たれ、ギリギリのところで直撃する。

「よっしゃ、倒せるぞ!…なんて息つく間もなくでかいのが来たぞ」


角を曲がった先から感じる強大な気配。


さらに持っている石(その辺で拾った)に力を込め、全身にエーテルを走らせる。目を瞑り、強大な気配に向けて全力を放とうと角を曲がったとき。


「『断罪せし天上の威光よ!《天上の浄雷セレスティアル・ライトニングボルト》』」


「は?」


雷が一度に何本も落ちたような暴力的な激しい閃光と轟音。俺の視界は真っ白に塗りつぶされた。

「ったく即死だなんて、ロゼさんも性格悪いなあ…」

頭がグラグラする。



ヴェルは慌てていた。

「今の男の子、もしかして監視対象だったんじゃない…?ま、まずい、このままでは私の仕事失敗0に傷がついてしまう、さすがに生きてはないよね」


光が晴れ、だんだんと視界がハッキリとしてくる。

「あ、あれ…生きてる、気絶はしてるけど」


額の汗をぬぐい、テスラを背負うヴェル。


なんでこの程度の力の人間が自分の魔法で死んでいないのか。対象が生きていてよかったはずなのに、その思考がヴェルの脳内をぐるぐる回っていた。


「わ、私の実力が落ちてるわけじゃない。たまたま運が良かっただけだよ、きっと魔物か何かに攻撃を吸われたんだ」


そう自分を納得させて、存在するであろうセーフハウスへと向かった。


「さて、これでやり直しは40回目くらいかな?まったく、唐突にあんな大魔法をぶっ放されてどう勝てばいいんだろ」


目覚めたテスラが伸びをして、あたりを見回す。しかし予想とは異なりあの溶岩にまみれた山脈と門は見えず、湿った岩壁がうつるばかりである。


「ん?ここどこだろ?」

「やっと目覚めたようね、ったくとんだ無駄な時間を過ごしたわ」


悪態を吐く銀髪の少女(?)。ん?この子俺を殺してきたような気がするんだけど?

「えーっと、あなたはどちら様で」

「それより、あんたはテスラで間違いない?」

かぶせるように名前を聞かれた。肯定の意を表して頷く。

するとその少女は安心したように息をついた。


「私はヴェル。古精霊族」

「はぁ...よくわからないけれど、何でここにいたんですか」

「どうでもいいでしょう。で、出る方法を教えて」

腕組みをして神経質そうに指で腕をたたいている。そんなこと言われても俺も知らん。


~状況説明~


「ってことは、ここをクリアするまで出られないってこと?お風呂も入れないの?」

なぜかどんどん弱気になるヴェル。初めは接しづらいタイプかと思ったが、案外そうでもなさそうだな。


「いや、ボスを倒せばドアがあって、そこから食堂と浴室と仮眠室に通じている」

ガシッ。襟首をつかまれる。


「さっさと行くよ無能。私の足を引っ張ったら承知しないから」

前言撤回。やっぱり接しづらいタイプだわ。



...そういえば、ここはステン教団の訓練施設だったはず。古精霊が何かはわからないが、普段からここにいる存在ではないはずだろう、なぜここにいたのだろうか?


しばらくして。

「あれがボス部屋か、こんな迷宮居られるか、さっさと帰る」

ドアを蹴破って開けようとドアを強く蹴るヴェル。

しかしドアはびくともせず、反動で喰らったダメージで足をおかしくしてしまったらしい。


「あ、それはやめたほうが...遅かったか」

「この私にここまでの屈辱...絶対に許さないわ、一片たりとも残さずこの世から消し去ってやる」

自業自得だと思います。口に出したらやばそうなので口には出さないけれど。


ドアがゆっくりと開き、ボスが見える。

2層のボスは、体長5メートルほどの...



…Gだ。ゴキブリに違いない。


「ウゥゥ....」

隣に目をやると、ヴェルは目を回して倒れていた。


せっかくの戦力増強かと思ったけど、やっぱり俺が一人で倒すことになるのね。

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