第16話 リィその後/『修羅の道』第2層
◯
「いいかリィ!お前はまだまだ魔力も少ないし魂も弱いんだから神代魔法なんか使っちゃダメだと何度も言っているだろう、実際今回の行使もロゼとかに見せびらかしたくなっただけなんだろう!?」
くどくどと説教を垂れるウィルファナイン。かれこれ2時間近く同じような事を繰り返している。
「いや師匠、今回は割といい事しましたよ?人の命救ったんですよ?」
「本当か?なら記憶を覗かせてもらうぞ」
両手の人差し指と中指の先端部を合わせてひし形を作り、強く目を開く。
「...ふむ、確かに今回はマトモな使い方だったようだな」
「でしょう?信頼してくださ「だが!!」」
リィの台詞を遮って前のめりになり、眼前に人差し指をズッと突きつけるウィルファナイン。
「リィ、今の仕草でドキッとしただろ」
「してませんよ!話が進まないんで早く要件を言ってください」
頭を掻いて元の体勢に戻る。わざとらしく咳払いをして、
「リィは明らかに修行不足。私の弟子なのにロゼに負けてどうするんだ!」
「そ、そうは言ってもですね...」
「私が見本を見せてやる。と、言うわけでここにヘンジを用意します」
2回拍手をすると一瞬で巨大な魔法陣が現れ、黒髪眼鏡の女性が訳も分からぬといった様子で召喚された。
「目に焼き付けとけよ、≪八重詠唱・聖域降臨≫」
突き出した右腕に八重に重なった巨大な魔法陣。地面に叩きつけるように腕を振ると、一瞬で視界が真っ白に染まり、直後に轟音が聞こえて来た。
「な?」
腰に手を当ててサムズアップ、ドヤ顔を披露するウィルファナイン。そして召喚されたヘンジは確認できない。
「何が!?てかヘンジさんってどなたですか!?」
「同期の神」
「あんた何やってんだ!!てか私はなにをすれば!?」
「さっきのが撃てるようになるまで特訓。ロゼに話は通してあるから」
「...まさか、『修羅の道』じゃないでしょうね...?」
「ご明察。さ、行ってこーい」
転移で叫ぶリィを無理やり飛ばし、一息ついてソファーに寝転がる。
直後にゆっくりと右腕を挙げ、
「ふ...ふふ...流石ねウィルファ」
自分に向けて振り下ろさんとされていた剣の峰をしっかりと抑えていた。
「ヘンジも急に召喚されて魔法に対する防御も張らないなんて気が抜けすぎなんじゃないの?」
「は、はぁー!?いきなり召喚されてあんな極大魔法を撃ち込まれると思う訳!?...てか、仮にも同格の神を召喚するウィルファの才能が怖い...」
「まあまあ、お茶でも飲んで落ち着きなよ」
そう言って指を鳴らして湯呑みを2つ出す。
「うん、で、私を呼んだのは何か理由があるんでしょ?早く要件を言いなよ」
「一回消滅させたのは理由なんてないけどね。んで、人界でこの間確認されたとある男の子がいるんだけど...
◯
「よっし!10倍スライムも一発で倒せるようになって来たぞ!」
剣を弾力のあるスライムの体に力のまま叩きつけ、消滅を確認する。
「これなら先に進んでも良さそうだな」
ゆっくりと第1層を進んで行く。どうやら敵はスライムで固定されているらしく、特に苦戦することもなく最深部へと到達する事が出来た。
威圧感を放つ赤黒い扉。装飾がどうも「修羅の道」の入り口部分に似ている。
戦闘のカンが無くても、ビリビリと強力な気配を感じる。正直テスラは尻込みしていた。
「行くしかないよな...お邪魔しまーす」
恐る恐るドアを押して入室。
「GYAAAAAAAAAA!!!!」
「失礼しました!!!」
バタン。慌ててドアを閉じる。
「ななななな、なんだあれ?ドラゴン?ドラゴンなのか?一層から?頭おかしいんじゃないのか?」
スーハーとゆっくり深呼吸。
「よし、落ち着いた。そうだよな、よく考えたらこの程度も乗り越えないと何か守るなんてことできやしないよな、うん。」
ギィィィ...
すかさず咆哮するドラゴン。思わず腰が抜けそうになるが、慌てて体勢を立て直ししっかりと対峙する。
「っしゃかかってこいやぁ!!!!」
◯
「はいはい、ヴェル到着しました」
気怠そうな、ただ鋭い瞳を持った銀色の髪の女の子が突然目の前に現れる。
「うん、よく来てくれたね。私は人界神ウィルファナインだ、よろしく」
握手をしようと手を出す。ヴェルはその手を握る寸前にパッと上に手を上げる。
「ふふっ、握手しようと思いました?残念でしたー!いてっなに叩くんだよ精霊長!!」
ヴェルは猫のような形相で威嚇する。やれやれとばかりにローザが肩を竦める。
「ごめんなウィルファ。こいつは優秀なんだが若干性格に難ありなんだ、ただ腕は確かだから安心してもらって構わない」
「これでも天界学校を首席で卒業してるので、期待に沿えるかと思いますよ」
ヴェルはふんす、と鼻を膨らませ腰に手を当ててふんぞり返る。
「いやな、そこまで難しい仕事ではないんだがとある人間の監視をお願いしたいんだが...
5分後。
...というわけだ。」
「えぇ、つまりその人は魔力が希薄すぎるから遠隔で見ることができない、だから精霊に監視をお願いしたというわけですね、了解です。んじゃさっそく向かいますねー、給金は振り込んでおいてください」
バシュン、と音を立てて消えるヴェル。
「「大丈夫かなぁ...」」
声を合わせてつぶやくウィルファナインとローザであった。
〇
「た、倒した...30回くらい死んだけど」
テスラはドラゴンの骸の前で呟いた。ボス討伐により大幅にレベルが上昇し、現在レベル14である。
2時間ほどかけてチクチクチクチク剣で突き刺し、攻撃をひたすら回避しつつ相手の出血ダメージで倒れることを狙う、というとんでもない搦め手である。
「眠い、疲れた、おなか減った。ロゼさんは中で睡眠も食事もとれるといってたけれども、いったいどこにあるんだ?あっ」
ボス部屋の奥にドアが見える。そこを開けると図書館の仮眠室と食堂に繋がっていた。
「もしかして、寝るためにはボスを倒さないといけないのか?...とりあえず今日は夕飯食べて、シャワー浴びて寝よう」
翌朝。
仮眠室の堅い床でなんとか寝たため、体じゅうが筋肉痛とで痛みが走る。
「今日から第2層の攻略...ってかいったい何層あるんだ?」
薄暗いゆっくりと階段を下りながらつぶやく。2層目は洞窟のような見た目で、ぎりぎり視界が確保できる程度の薄暗い明りがどこからともなく漏れている。
湿った空気が充満しており、ところどころからポタポタと水滴が垂れている。
「第1層と比べてさらに陰鬱な雰囲気...嫌な予感がするなぁ...」
喋ると壁に反響して自分の声が聞こえてくるのが更に不気味さを増させている。
そしてついに会敵する。体が半透明に透き通った女性のような見た目をした...
「幽霊?ゴーストって感じかな・ただ動きも遅いしそこまで難しい敵ではな」
スカッ。剣が空振る。
「目測を誤ったか!?」
スカッ。スカッ。
「この敵剣が効かない!?拳で対抗してみるか」
スカッ。
「駄目だ、通り抜けてしまう。いったいどうなってるんだ?」
脳裏に最悪の事態が思い浮かぶ。まさか、まさか、
「こいつら物理攻撃無効で魔法しか効かないんじゃないの!?俺魔法使えないのに!!」
そう叫びながら逃げ惑うテスラ。必死に打開策を考えて、一つ閃いた。
「図書館の食堂に繋がってたということは、図書館にも行けるはず!戻ろう!」
結局また第1層のボスを倒さなければいけない事態に陥ってしまったのであった。




