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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第一章 光の狩人と愉快な仲間たち
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62.ウサギの皮を被った獅子

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ!



「ウィンガズ殿……その様な妄言を信じろ、というのか?」大勢の武装した兵を背にしたボーマン騎士団長の眉がピクリと動く。


 ウィンガズはラスティー達から聞かされた王代理ブリザルドの悪行を語り終わり、ただじっと目の前の漢の目を見た。


「信じられないだろうが……ここはじっと堪えて欲しい。もうじき、確固たる証拠が聞こえてくる筈なのだ!」ラスティー達の策を信じ、城の方へ目をやる。


「ウィンガズ殿……貴殿は疲れているのだ。その様なふざけた作り話はそこらへんで幾らでも聞こえてくるだろう……だが、それを鵜呑みにしては、騎士失格だ。確かに、警戒すべきかもしれない。だが、私には信じられないのだ! あのブリザルド殿がそんな……そんな魔王の使いなどと……この国に心血を注ぎ、身を削る聖人が悪魔などと……よく言えたものだな!!!」今迄穏やかだったボーマンの口調が少しずつ荒々しくなる。エレンの精神安定魔法が切れかかり、回りの兵たちも興奮し始める。


「まずい……みなさん、もう一度お願いします」ウィンガズの影に隠れたエレンがまた水魔法を練り上げ、薬品と混ぜ合わせて上空まで運ぶ。先ほどの要領で周囲の風使い達が息を合わせて魔法を放出し、再び精神安定の霧がボーマンたちを包み込んだ。


「……むぐっ……とにかく、私の意見も聞いてくれ。疑わしいからと言って、いきなり1万の兵を引き連れるのは勇み足が過ぎると思うのだ。もっと落ち着いて下され、ウィンガズ殿!」


「わかっている……」ウィンガズは目を瞑り、ラスティー達の策が成功するのを心中で祈った。


 その背後でエレンが冷や汗を掻く。ボーマンの顔色を窺い、爪を噛み始める。


「……薬品はもうありません……それに、これで4度目の安定剤。魔法に慣れて解ける感覚が短くなっていますね……ラスティーさん、早くしてください!!」


 この魔法が解けると同時に、ボーマンの兵たちは一斉に攻撃を仕掛けてくることは明白だった。これはラスティー達の敗北を意味し、この国、大陸の終わりを告げる内乱となるかもしれなかった。




「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」右腕を斬り飛ばされたヴレイズは、ロクに防御も出来ずにブリザルドに滅多打ちにされていた。甚振る様に小型風圧弾を無数に飛ばし、ヴレイズを血達磨に染める。


「どうした? まだクラス3.5の体内循環を維持できているんだろう? 無くなった右腕をフレイムフィストにして補ってみろ。炎障壁でこの風を防いで見せろ。体力が無いなら魔力で補ってみせろ。ん? できんのか? 無限の魔力循環を3割も使いこなせればこれらの事は同時に出来るはずだぞ?」ヴレイズにその様な技術はないと分かり切っていながらも心を甚振る様に言い放ち、真空波で薙ぎ払う。



「くそぉあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



 ヴレイズは残った左腕から爆炎を放ち、その反動で真空波を避ける。それと同時に苦し紛れに火炎弾を放つが、ブリザルドの眼前で頼りなく鎮火する。


「ふん、それで精一杯か?」指を鳴らした瞬間、ヴレイズの軸足に一閃が炸裂し、滑る様に転倒する。


「あ? え? え……」目の前に転がった右脚を目にして唖然とする。


「さてさて……君たちをどうするかな。ゴミの様に粉微塵にしてもいいのだが……ひとつ疑問がある。どこで、私が魔王と繋がっている、と聞いた? まさか隣国マーナミーナの情報かく乱……妄言を信じてここまで来たのではあるまいな?」一歩一歩進み、ヴレイズの前で片膝をつき、彼の顎をしゃくり上げる。


「あ……う……ぐ……」ブリザルドの質問よりも、遅れてやって来る右脚の不気味な激痛と、この事態をどう切り抜けるかで頭が一杯だった。


「ほら、早く答えたまえ。さもないと、あの小娘よりも酷い拷問を受ける羽目になるぞ? それでもいいのか?」


「くっ、この外道がぁ!」左腕に炎を纏い、最後の力を振り絞って拳を振るうも、その前に風圧弾が胸元で炸裂し、瞬時に壁に叩き付けられる。白目を剥き、一生分にも感じられる程の血を滝の様に吐き出す。


「あ……ぐ……あ……」


 前のめりに倒れかかり、血の海にダイブするヴレイズ。それをラスティーが傷に喘ぎながらも身体を支え、懐から即効性ヒールウォーターを取り出す。


「ま、まだ死ぬんじゃねぇぞ、ヴレイズ……」咳き込む彼の口へ無理やり流し込む。


「がぼ、げ、がぶぁ……」激しく痙攣し、治癒のショックで気絶する。ラスティーが手を離すと、力なく倒れ込む。


「お前の頼みのヴレイズ君はもうダメみたいだな。ま、何の役にも立たなかったがな」


「そうだ、まだ……やる事があるぞ、ヴレイズ……」全身の骨からの悲鳴に耳を貸さず、ラスティーは重々しく立ち上がり、ブリザルドを睨み付けた。


「まだ立てるのか、貴様」


「……あぁ、まだお前を倒していないからな」


「その減らず口はもう終わりだ。いまトドメを刺してやろう……」人差指を掲げ、圧縮竜巻砲を放てるだけの魔力を集中させる。


「それにしてもジェイソン君。君の父上は立派な方だったのだろうな。お噂はよく耳に入っていたよ。国が滅んでも、立派に王で在り続け、民を想い、そして最後まで立っていた、と聞く。それに比べて君は実に情けないな。立派な父親の重荷を背負いきれずに逃げ、チンピラにまで身を落とし……」


「…………」


「父親が死んだと聞いて焦ったか、自分の国を再興させる為に、何を思ったのか私の国に喧嘩を売るとは……身の程を知れ!!」魔力の練りあがった指をラスティーに向ける。


「……ふふっ」ラスティーは何を思ったのか、ブリザルドの目を見て笑った。


「何が可笑しい?」


「いいや、アンタ……自分のことを賢いと思っているんだろう? 自分は百戦錬磨の賢者。一目で見れば相手の考えや心情など手に取る様にわかる……ってね」懐から煙草を取り出し、咥える。


「なんだ? 私の予想は外れているとでも?」


「いいや、半分は当たっているさ。オヤジが死んで焦っているし、ランペリア国を再興させることが俺の最大の目標だ。だが……その前にやらなきゃやらない事があるんだよ」


「ほぉ~それは何だね?」



「魔王討伐だよ」



 ラスティーは煙草に火を点け、紫煙の向こう側からブリザルドを睨んだ。


「そのために、俺はこの国に来たんだよ。この国は魔王の使いの毒牙にかかり、とんでもない事をやらかそうとしているって、ある人から聞いてな……そうだろ? 魔王の使いさんよ」煙を吐き出し、得意げに笑う。


「…………」



「お前の企みは全部わかっているんだよ! この国の怒りを巧みに操り、他国にスパイを送り込んで自分の思うようなステージを作り上げ、グレイスタンを魔王の兵団としてこの大陸を占拠し、魔王に献上するってな!! そうなんだろ? 魔王の忠実なるパシリが!! 賢者の称号に泥を塗り、西大陸を陥れ、何を得る気なんだ? 金か? この小物が!!」



「言わせておけば、よく囀るガキだ」左腕を軽く振り、突風でラスティーを壁に叩き付ける。


「ぐぁ!!」



「誰が小物だと? 私は、今迄一度も魔王の使いだと名乗った覚えも、あいつに片膝を付いて忠誠を誓った覚えもない!! 私は……いずれ魔王を超え、この世界の神となるのだ!!! この大陸を制圧し、聖地ククリスを掌握し、伝説の『破壊の杖』と『想像の珠』を手にし! そして……ふ、ふはははははははははは!!」



「……お前も立派な魔王じゃねぇか」へし折れた煙草を吐き捨て、怯まずに睨み続ける。


「魔王と呼ぶより神と呼んで欲しいね! さて、話は終わりだ。最後に問う。私が魔王と繋がっていると、誰から聞いた?」指先の風の回転が速さを増す。



「……ヴレイズ……今だ!!」



 ラスティーが声を上げた瞬間、地面に這いつくばりながらも魔力を練っていたヴレイズが左腕から勢いよく炎を絞り出した。それをラスティーが風で操り、ブリザルドの周囲を奔らせる。


「んぅ? 何のつもりだ? こんなもの……」人差指の小竜巻を解除し、指を鳴らす。すると、あっという間に炎嵐が吹き消されてしまう。


 すると、ブリザルドの斜め右側から何者かが爪を光らせて飛びかかった。



「うおぉりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



 いつの間にか王の間に忍び込んでいたアリシアが、隠れていたカーテンを切り裂き、ブリザルドに向けてクローを片手、一足飛びで襲い掛かっていた。



「それがお前らの最後の策、か? ガッカリさせおって……」



 ブリザルドはため息交じりに指を動かし、アリシアを突風で床に叩き付けた。


「ぶべっ!」間抜けな声を上げて不時着する。


「お前は確か、あの時の……酷い拷問を受けたそうだが、元気そうだな?」


「いててて、鼻血でちゃった」強かに打った顔面を摩りながらブリザルドを見上げる。


「緊張感のないヤツだ。しかし、学ばんヤツだ。お前の爪はまた、届かなかったな」ブリザルドは得意げに手を背中で組み、腰を曲げてアリシアに顔を近づけた。それと同時にアリシアの自慢の爪が風魔法で砕け散る。


「本当、残念……本当は、あたしの爪を突き立てたかったんだけどな……」


「? 何?」ブリザルドはアリシアと、背後で倒れるヴレイズ、ラスティーを交互に目を向け、首を傾げる。


 その瞬間、ブリザルドの胸から銀の刃が生え、真っ赤な花が咲く。



「な、な……にぃ?」



 目を見開き、何が起こったのか分からぬまま胸から生えた剣を見る。



「……父の……我が友人たちの……この国の……仇


だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



 王代理の背後には、剣を両手で握りしめ、復讐鬼が如き顔となったバグジーが歯を剥きだしていた。


「ぐ、ぼぉあっっ! な、にもの、だ!」


「そいつが御所望のヤツだよ。俺に、お前が魔王の使いだと知らせてくれた……な」満身創痍ながらも勝ち誇った表情でラスティーが口にする。


「なにぃ?」



「我が名はシン・ムンバス!! 獅子王ラオ・ムンバスの、このグレイスタン国の息子だ!! 貴様はラオ・ムンバス王殺害により、王代理から退いて貰うぞ!!」



 自分の事をシン・ムンバスと名乗ったバグジーは、ブリザルドから剣を勢いよく引き抜き、蹴り転がした。


「ぐぉあ! シン・ムンバスだとぉ? お前の死はあの時、確認したはず! 崖下で右腕を……はっ!」シンの右腕を見て驚愕する。彼の腕には鉄製の義手が付いていた。


「幾ら貴様でも、利き腕であり、王家のタトゥーの入った右腕を捨てて逃げるとは思わなかった様だな。崖下のグリードボアの腹を裂いて中身を確かめなかったのがお前の敗因だ!!」


「ぐっ……ぅ……だが、勝ち誇るのはまだ早いぞ!!」血に濡れた口を歪め、怒号の飛び交う窓の向こう側へ顔を向ける。その無数の声は城下町を守る3万の兵たちの声だった。



「いや、お前はもう負けているんだよ! しかも最初っからな!!」



 ラスティーは何とか立ち上がり、自信満々に指を向けた。


「なんだと? ふふ、お前には聞こえんのか? もうすぐここへ兵が押し寄せるぞ? 敗北が決まっているのはお前らの……」


「まだわからないのか?」ラスティーは傷だらけの笑顔で魔力を練った右腕をひょいと動かし、風で窓を開けた。


 その窓の向こう側から、数千数万の合唱が嵐となって吹き荒れた。



「「「「シン・ムンバス王万歳!!! 逆賊ブリザルドを討ち取れぇぇぇぇぇ!!!!」」」」



「んんんんんんんなぁぁぁんだぁぁぁぁとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」



 ブリザルドは今までにない、おそらく彼の生涯初めての仰天顔を晒した。



「詰みだ、魔王の下っ端め!」


いかがでしたか?


これで決着か? 果たしてこれで終わりなのか?!


乞うご期待!!

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