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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第5章 バルバロンの闇と英雄の卵たち
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90.カーラの物語 Year Two 剣士の左腕

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 カーラがチョスコ港で足止めをしている頃、ナイアは特殊なゴーグル越しでしか見えない照明弾を打ち上げ、飛空艇に合図を送る。それは魔王軍製、魔王軍所属であったがパイロットはナイアたちに寝返った者であった。彼は前もって言われていた通り、何も質問せずに彼女の傍らの木箱を飛空艇に積み込む。


「相変わらず派手な格好ですね」彼は口笛を吹きながら笑い、魔動エンジンをかける。彼女は上着を羽織っていたが、肌を露出したバニーガール姿であった。


「これから向かう船に溶け込むには打って付けなのよ。あまり飛ばし過ぎないようにお願いね」と、彼に金の入った封筒を手渡す。


「飛ばすのが、俺の仕事ですよ。大丈夫、今日はオタクらの捜索の為に10機以上もチョスコ上空を飛んでいますからね。怪しまれない様に飛ぶのには慣れていますよ」と、上昇を始める。そんな彼の腕に優しく触れるナイア。


「油断しないようにね」彼女はにっこりと笑いかけ、後部座席に腰を掛ける。背後の木箱の中から物音がゴトリと鳴る。


「その中身が噂の?」


「えぇ」ナイアは静かに頷き、木箱をコツンと小突いた。


 そこから彼女と木箱を乗せた飛空艇は真っ直ぐダダック湾海上まで飛び、そこを航行する娯楽船の甲板上空で滞空する。その船はバルバロンを一周するカジノ船であり、ダダックからチョスコ方面へと向かっていた。そこで補給船が貨物を運び込む予定であった。


 ナイアはこの船からチョスコ、そしてスワート達を補給船へと移す予定であった。因みにその補給船はマーナミーナ行きであった。


 甲板へ着陸した飛空艇からナイアが軽やかに降り立ち、駆け寄ってきた船員に向かって挨拶をする。


「はぁい! ご依頼のモノを配達しに来ましたよ!」


「配達……? 補給船とは別に何を?」と、船員は配達予定リストを確認する。


「補給船では運びにくい例のモノよ。ね? わかるでしょ? あ、コレは依頼人から貴方へ」と、彼に封筒を渡す。船員はニヤリと笑って頷きながら飛空艇の後部貨物室を開ける。そこには大きな木箱が4つ格納されていた。船員は他の船員を呼んでそれらを船内へ運び入れた。


「どうもね~、じゃあ、私もお仕事しなきゃね!」ナイアは上着を脱ぎ捨て、パーティーの真っ最中であるホールへと足早に向かった。


 船員たちが仕事に取り掛かる頃、パイロットは自然な足取りでスワートらの入った木箱を台車に乗せ、『手伝いますよ』と、にこやかにカジノ船倉庫へと運び入れる。船員たちが別の仕事に取り掛かる頃、彼は手早く木箱の中身を開き、スワートとトレイを出す。


「こんな窮屈な目に遭ったのは初めてっすね……」固まった関節をゴキゴキと鳴らしながらトレイが呟く。スワートは何かを考える様に押し黙っていた。


 パイロットは口の前に人差指を置きながら食料の入った袋を彼らに手渡す。


「よし、目立たない様にここに隠れているんだ。あとはナイアさんがやってくれる」と、彼は最後に笑いかけて貨物室を後にした。


 トレイは早速、袋の中に手を突っ込んでサンドイッチに齧り付く。


「ふぅ~、やっと落ち着いた。スワートも食べるっすよ」と、もうひとつを差し出す。スワートはそれを受け取りながらも何かを憂う様な表情で真っ暗な天井を見上げる。


「カーラさん……」




 それから2日後、カジノ船がゆっくりとチョスコ湾を通る頃。魔王軍は未だにチョスコ、ダダックを捜索していた。カエデは現場の陣頭指揮を執り、遅れて到着したアルバートも別方面で探索の指揮をした。捕縛されたカーラは取りあえず切断された脚の治療と輸血を施された。そして現在はチョスコの魔王軍砦内の尋問室に監禁され、カエデの命令で尋問受けていた。


「もう一度聞く。お前が関わっているのは裏が取れている」魔王軍は黒勇隊9番隊隊長グームの報告書によって照らし合され、ダダック港襲撃の犯人だという事も知られていた。


「……ここまでやって……吐かないって事は……もう死ぬまで吐かないってわかるでしょ?」彼女は宙吊り状態で血達磨になり、自慢の両脚は何か所もへし折られていた。が、彼女の周囲には3名の魔王軍兵が倒れていた。


「そうはいかないんだよ……魔王様のご子息だぞ?」と、トランペット型の装置に指をかけ、スイッチを入れる。これは去年、キャメロンの拷問の時に使われた装置であった。カーラの全身の血液が震え、内側から激しく擽る。彼女は堪らずに声を張り上げて爆笑し、血の泡を吐き散らす。この拷問は1分近く続き、彼女が白目を剥いて動かなくなる頃にスイッチから指が離れる。魔王軍兵のもうひとりがスタンバトンを彼女の背に押し当てて無理やり起こし、後頭部から髪を掴む。


「いいか? 次はもう10秒長く続けるぞ?」


「そりゃ楽しみ……意外と気持ちいいもんだよ、コレ? あんたらも試せば?」カーラは精一杯に言い返し、血唾を垂らしながら笑って見せる。


「そうそう、お前の今後について指令が来たよ。なんでも、どっかの研究所の実験用被験体になるとか? よかったな、ロクな死に方ができないぞ」兵士は彼女の笑みに応える様に笑いながら肩を叩く。


「そりゃ良さそうな就職先ね……」


「お祝いにコイツを喰らわせてやる」と、もうひとりが手にしたスイッチをチラつかせる。それはカーラの背中に刺さったある機械を作動させた。その機械はスタンバトンから放たれる電流が比にならない程に強烈な電流を放つ尋問用装置であった。その電流は彼女の背骨を直撃し、そこから手足へと流れて激しく痙攣させる。彼女は奥歯を砕きながら悲鳴を噛み殺し、歪な呼吸を繰り返しながら首を前後させる。スイッチから指が離れると、彼女の動きはピタリと止まり死んだように動かなくなる。


「安心しろ、くたばっても蘇生させ、身体を治療する準備は出来ている」


「そ……そりゃありがたいね……」カーラは生臭い煙を吐きながら笑う。笑う事が彼女の出来る唯一の抵抗であった。




 その頃、カエデはチョスコ湾の埠頭に立ち尽くし、拳を震わせていた。2日前に捕えたカーラの笑顔が脳裏に張り付き、敗北感に襲われていた。


「……このままでは我がアラカゼ家が……ヤオガミが……」彼女は魔王軍剣術指南役に選ばれたのは国の為になると勇んでバルバロンに尽していた。が、魔王の息子を最重要指名手配犯であるナイアに誘拐され、その奪還に失敗したとなれば、その失態は魔王の耳に届く事になるのは明白であった。これは自分の家名や国に泥を塗る事になり、彼女はそれが許せなかった。


 そんな彼女の背後にアルバートが現れる。彼は早々に捜索を打ち切り、上空を飛んでいた飛空艇も一機残らず基地へと返していた。もうナイアたちはこの国にいないと判断し、これ以上の探索資金を使う事も無いと彼は判断した。


「あんたがアラカゼ・カエデだな?」


「取り立て人たち、か……」


「悪いがあんたの命令で動いていた魔王軍兵たちは皆、砦に帰したぜ。俺の判断では、もう時間の無駄だ。ナイア・エヴァーブルーは素早い。彼女はファーストシティのど真ん中で魔王の顔面を殴りつけて逃げおおせた程の人だ」


「勝手な真似をするな! せめて結果を……結果を出さなければ……」


「出さなければ? 家名に泥を塗る、か? ま、どうでもいいが……俺に指令が届いているんだ」と、指で挟んだ指令書を彼女に渡す。そこにはアラカゼ・カエデの何らかのモノを取り立てる様に書かれていた。


「何を……取り立てる気だ……だが、命じられたお前も一緒だろ?」


「俺は道中、リーアムという大物を捕縛したんでな。それで不問だそうだ。まぁ、魔王からすればお前から取り立てるモノはどうでもいいんだろう。ただ、奪還に失敗した者はタダでは済ますなって事なんだろう」彼の言う通り、カエデの失態は大きく、今回の捜索費用もかなりの額が水の泡になっていた。因みにこの指令を送ったのは魔王ではなく秘書長ソルツであった。


「で、何を差し出す? 差し出す気がないなら、俺の判断で……」


すると、カエデは観念した様に息を吸い、左腕を差し出した。


「これで頼む……」


「剣士の左腕か……妥当、かな」いつの間にかカエデの左腕は切断されてアルバートが掴んでおり、それを保存用魔法水に漬ける。同時に彼は止血用キットを彼女に投げ渡した。「潔さは感心するぜ。じゃあ、確かに」と、彼はいつの間にかその場を立ち去り、同時に指令書が燃えカスになって舞い散る。


「……見えなかった……」カエデは肘から先がスッパリと斬り取られた事実をアルバートが立ち去ってから知り、痛みを感じるのは止血を始めた頃であった。その恐ろしい手際に驚愕するのと同時に己の未熟さを痛い程に感じ取り、胸の内の敗北感と同時に味わい、ついに声を上げ、独り港で泣いた。


如何でしたか?


次回もお楽しみに

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