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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第5章 バルバロンの闇と英雄の卵たち
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89.カーラの物語 Year Two VSカエデ

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 捕縛されたリーアムはコネリーと共に高速馬車に乗せられて要人用刑務所、通称『魔王のポケット』へ連行されていた。彼は右腕を斬り落され、封魔の首輪を付けられていたが、それでも体力は有り余っており、その場で暴れて逃げ出す事は容易であった。が、彼はあえてそれをしなかった。それを不思議に正面に座ったコネリーは片眉を上げながら口を開く。


「捕まったクセに満足そうだな」


「まぁな。俺の長いようで短く感じた仕事が終わったのでな。あいつらはもう俺がいなくても大丈夫だ。これから俺は第2の人生を楽しむとする」と、リーアムは脚を組んで勝ち誇った様な顔を見せる。


「……それは羨ましいな。その第2の人生は檻の中での暮らしになるがな。迎えが早いと良いな」コネリーは鼻で笑いながら懐から葉巻を取り出し、咥える。


「その迎えとは……俺を捕縛しろと依頼した者は誰だ?」


「六魔道団のひとり、ソロモンだ」この名を聞き、リーアムは表情を顰めたが、身に覚えがない様に首を傾げながら唸った。


「確かにボルカディの同門だったが……今更、何の用だ?」


「さぁな。そこまでは聞いていない。それにお前が向かう場所は魔王のポケットと呼ばれる刑務所と言う名の……退屈な場所だ。監禁はされるが、他の収容施設に比べたら遥かにマシだろう」彼の言う通り、魔王のポケットととは将来的に利用価値のある人物をとりあえず収容しておく場所であった。


「それにしてもお前、弟子を持て余している様だが?」リーアムは思い出した様に口にし、コネリーの目を見る。


「……お前に相談するつもりは無い。黙っていろ」


「ふん、正々堂々を非難するか……ま、お前らの様な仕事には不要だろうがな」


「取り立て人たちには不要だ。依頼された仕事を、手段を選ばず遂行する。それが我らだ。あいつは強すぎるが故に、そういった不要な考えを持っている」


「不要、か……だからお前は俺に勝てなかったんだ」リーアムは笑いながら相手の面白くなさそうな表情を見て楽しんだ。


「お前も強すぎるんだ。果たしてお前の残した連中がこの時代を生き残れるか楽しみだ。いや、アルバートの向かった先にいるんだったな。なら、終わりだ」コネリーも負けじと笑い返し、葉巻の煙を燻らせた。


「いや、楽しみだ。あいつはただやられる娘じゃない」リーアムは心配も焦りも見せず、カーラの事を想いながら勝ち誇る様な笑みを覗かせた。




 その頃、トニーは駆けていた。彼はリーアムを取り戻そうとするでも、カーラに加勢に行くでもなく別の方向へと向かっていた。そこはリーアムが居を構えていた隠れ家であった。彼はキャラバンの皆へ今あった事やこれからの事を伝える為に向かっていた。


 彼は自分の不甲斐なさ、力の無さを悔やんでいたが、そこまで気に病んではいなかった。


 自分はまだこれから、まだ伸びしろがあり強くなれるという信念があり、それをリーアムが認めていた。故に後悔し涙をする暇も無く、自分が成すべき事の為に駆けていた。


「カーラ……信じているぞ。お前は俺より圧倒的に強いし、賢いもんな……死ぬなよ!!」と、彼は己の心を落ち着かせる為に口にし、走った。




 カーラは木箱の前に立ち、凄まじい殺気を放った。それはカエデだけでなく、周囲の魔王軍兵らをその場に釘付けにするほど強烈なモノであり、何人か尻餅を突きそうになっていた。


「獣が如き殺気だ……いや、獣と言うより戦場に立つ剛の者か」と、カエデは居合の構えで腰を落とし、呼吸が乱れない様に集中する。カーラの放つ殺気は突風の様で、その正面に立つのは並大抵の集中力では不可能であった。


「あんたなりに認めているって事かな?」にやりと笑った瞬間、耳の奥で異音を察知し、一瞬早く脚を動かす。次の瞬間、彼女の脚はカエデの柄を押さえつけ、居合一閃を阻止していた。


「なに?」カエデは肝を冷やしながらも慌てずに距離を取り、腹の底から沸き上がる怒りと不甲斐なさを沈める。「アラカゼ流と対峙した事があるのか?」


「刀を使う剣士と昔、ね。目、足先、刀から発せられる微妙な音を聞いて見切らせて貰ったわ。ただ、あんたあたしに対して手を抜いているでしょ? だから出来たんだよ」


「成る程……」カエデは手加減を指摘されて刀の握りを変える。彼女は峰打ちカーラを仕留めようとしていた。



「ふざけんなよ」



 カーラは殺気を強め、今にもカエデを食い殺す様な表情を向ける。


「わかった。本気を出そう」と、言い終えた瞬間に彼女はその場からそよ風と共に消える。次に風が吹いた瞬間、カーラも消え、幾度も金属がぶつかり合う音が鳴り響く。


 魔王軍兵らがキョロキョロし始めた頃、上空から2人が現れ、同時に着地する。カエデは息を荒げで膝を付きながらも刀をゆっくりと納刀する。カーラは余裕そうに着地し、満足げに息を吐いた。


「全部、蹴り足で捌いてやったわ……」


「凄まじいな……まだ腕が痺れているし、その衝撃が内臓にまで届くとは……」と、カエデは血の混じった咳を吐く。


「さ、どうする? まだ続ける?」


「それはこっちのセリフだ。まだ続けるか?」カエデが口にし、完全に納刀し終える音を鳴らした瞬間、カーラの左太ももが横一線に切裂かれ、その場にボトリと倒れる。


「んぅ?! こいつ、軸足を……」思い出した様に激痛が走り、滝の様な出血で一気に身体に寒気が奔る。が、彼女は意地でも倒れる事は無く、未だに殺気を放ち続けていた。


「さて、このまま続けるとお前は死ぬ。出血多量でな。そんな様になっても木箱の中身を守ろうとするとは、必ず何かあるのだろうが……大人しく退けば、」と、口にした瞬間にカエデの顔面にカーラの膝蹴りが綺麗に炸裂する。あまりに不意を突いた攻撃にカエデは一瞬気を失い、地面に不時着して無様に転がった。起き上るのに数秒もかからなかったが、本日2度目の屈辱であった。



「軸足を斬り落されても、2分しか持たない命でも、ここを退く理由にはならないんだよ!!」



「……そうか」カエデは口内奥の砂利の様な感触に更に苛立ち、目を尖らせて瞬時に抜刀して見せた。彼女の斬撃は目にも止まらないカマイタチの様な振りであった。先ほどは一振りを覗いてカーラに刀の側面を蹴られて防がれたが、今の彼女にそれは出来なかった。


 カエデは悠々と木箱の前に辿り着き、手早く納刀する。次の瞬間、血の霧が舞い、カーラはズタズタに斬り裂かれてその場に崩れ落ちた。


「片足で虚勢を張るな」カエデは腹の底で怒りを抑えながらも口から漏らし、木箱の蓋を斬り裂く。中からは大量の砲丸芋が悪臭を放ち、彼女の鼻をついた。


「へへ、へ……」血だまりに沈んだカーラは勝ち誇る様に笑う。


「な! バカな!!」カエデは中身を掻き回し、微かに感じた魔力の正体に触れる。それは魔王軍製のエレメンタルガンであった。スイッチがオンになり、小さく魔力をチャージする様に唸っていた。「じゃあ、魔王様のご子息は! ナイアは何処だ!! 国内に留まるなら既に見つかっている筈! 包囲網は完全にここに閉じ、国を出るしかない!!」彼女の言う通り、関所や港は魔王軍が詰め、上空は飛空艇の目が光っていた。更に森に隠れても飛空艇の魔力探知に引っかかる為、逃げ込んでいたら既に見つかっている筈だった。こうなると逃げ場は地中ぐらいにしかなかった。


「さて、どこでしょうねぇ?」カーラは楽し気に笑いながら寝返りをうって大の字になる。彼女はここで死んでも悔いがないのか、楽し気に勝ち誇る様に笑っていた。


「……どこ……だ……皆、この港を探せ!! どこかにいる筈だ! 建物、船、海中に至るまで虱潰しにしろ!!」と、カエデは怒鳴りながらカーラに駆け寄って無理やり立たせる。「まだ死なせないぞ!! 魔王様のご子息の居場所を吐くまでな!!」


その言葉に対しカーラは血の唾をカエデの顔面に吐きかけ、憎たらしく笑って見せた。それに対しカエデは脇差を抜いてカーラの腹を刺し貫き、痛みを与える様に抉った。


「うぐぁ!!」永久に続く様な鋭痛を味わいながらも、勝利の余韻で再び笑いがこみ上げ、カエデに笑顔を見せ付ける。


「調子に乗るなよ……」怒りに震えながらカエデはカーラを地面に叩き伏せ、顔を汚した血唾を拭った。


如何でしたか?


次回もお楽しみに

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