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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第5章 バルバロンの闇と英雄の卵たち
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85.カーラの物語 Year Two 息子の咆哮

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 時同じくしてダダック港。ここでは数か月前の混乱が嘘のように平和が流れていた。それどころか増築、拡張されており飛空艇の発着場が出来上がっていた。そこには魔王からの指令を受けたアラカゼ・カエデが立っており、ガルムドラグーンを睨んでいた。


「今からチョスコへ……か。何故、私にこの様な指令が?」と、文句ありげな表情でため息を吐く。そこには『チョスコの港へ向かい、ナイア・エヴェーブルー並びに魔王の息子を確保せよ』と書かれていた。


 この指令を彼女に渡した魔王軍兵は申し訳なさそうに頭を下げる。


「相手はあの悪名高いナイア・エヴァーブルーです。黒勇隊は近くにおらず、六魔道団も忙しく……近くで動けるのは貴女しかいないんです」彼の言う通り、他にいるのは魔王軍兵であったが、彼らは過去に幾度も彼女らに出し抜かれていた。今回は魔王の息子もいる為、確実に確保したいが為、彼女に指令がきたのであった。もちろん魔王軍兵も共に向かうが、彼らはカエデの手足であった。


「しかし、剣術指南役の私に指令がくるとは……よし!」彼女は気合を入れる様に両頬を叩いて震える。腰には二振りの刀が備わり、この頃はまだ左腕は生身であった。


「やる気を出して頂けますか?」


「我が国の為、尽力させて貰う!」と、彼女はガルムドラグーンに乗り込んだ。左手で魔刀嵐牙の刃をチラリと確認し、直ぐに納刀する。その一瞬だけで突風が駆け抜け、機体が揺れる。


「それが噂の魔刀ですか?」ひとりの魔王軍兵が訊ねる。


「……まだ抜刀には至らない……数打ちで事足りるだろう」と、もうひと振りの刀の刃を確認する。


「もっといい武器がありますが?」


「いや、これでいい」と、ハッチの外に向かって軽く刀を振るう。その一瞬で海が割れ、一瞬で穏やかな海原に戻る。「上々だな」


「うわ……今度こそナイアはお仕舞だな……」


「港は抑えるとして、陸路はどうする?」


「すでに別の手練れを行かせてあります。他の街道も封鎖済みです。相手の目標は国外逃亡なので、港を抑えるのが一番の目標です」


「私の役割は重要というわけか。失敗はできないな」


「えぇ、魔王様の息子様がかかっていますから」と、彼が合図をすると扉が閉まり、ガルムドラグーンア唸り声をあげ、上昇を開始した。


「もう一方の手練れは何者だ?」カエデは腕を組んで目を瞑りながら問う。


「『取り立て人たち』のコネリーとアルバートです」


「取り立て人……個人で小国を刈り取る実力を持つ仕事人か。手合わせしてみたいな」と、彼女は口元を緩める。




 一方、スワートの精神世界でのカーラは未だに夢心地でフワフワした気分を引き締めながら彼の気配のする方へ向かっていた。やがて薄暗がりの中でドアを見つける。遠慮なく開くと、そこは豪華な子供部屋であった。


「スワートの部屋か?」彼女はベッドや机、棚を調べて彼の手掛かりを見つけようとする。そこに置かれた本、日記帳、ノートなどは捲ると全て真っ黒に塗り潰されていた。彼に関する情報は全てぼやけており、ベッドの上に置かれたぬいぐるみの様な何かはグズグズに崩れていた。


「魔王が邪魔しているんだな……」手に取った本が砂の様に崩れ落ち、やがて部屋が蜃気楼のように掻き消える。再び闇の中に孤立し、彼女は苛立って大声を上げた。



「おぉい!! スワート!! どこだ、出てこい!! 今日でこの毒親と縁を切って自由になるんだ!! 隠れているのか! 監禁されているのか知らないが、返事をしろ!!」



 彼女が大声で問いかけると、遠くから再びスワートの気配が漂う。姿形は無かったが、確かに彼の気配のみがカーラに向かってくる。


「よし、そっちね! 邪魔するなよ、くそオヤジ!」




「まだ見つからないみたいね。早くしないと、追手がくる……」ナイアは珍しく焦りの冷や汗を拭い、溜息を噛み殺しながらトレイに光魔法を集中する。トレイは苦しそうに呼吸を荒げ、止めどなく涙を流していた。「大丈夫?」


「す、すいません……貴女とカーラさんの記憶が流れ込んできて……苦しいんっす」今の彼の頭の中にはナイアとカーラの心、過去が走馬灯のように流れ込んでいた。その内容は過激且つショッキングであり、子供の精神では厳しいモノであった。


「ごめんなさいね……その調子でスワートの心は見えないの?」


「無理っす……真っ黒に覆われていて……その漆黒にカーラさんが向かっているっす……うっ!」その瞬間、トレイは嘔吐しそうになり、吐く前に飲み込む。


「どうしたの?!」


「ま、魔王の笑い声が……聞こえたっす。これ以上続けたくないっす……」


「笑い声……ハッタリか挑発か……ここら辺が正念場ね」ナイアは光の粒子が満ちたヒールウォーターを彼に飲ませ、集中させた。




「……ぁ……ぅ……」暗黒の中からスワートの声が確かに響き、カーラは駆ける。気配の先は漆黒の粘液に塗れた牢獄があった。その中には闇の触手で雁字搦めになったスワートが叫ぼうともがき苦しんでいた。時折、口元に隙間が出来て必死に声を漏らすが、その度に口を闇が覆う。


「スワート! やっと見つけた!!」カーラは牢獄をすり抜けて彼に駆け寄り、闇の触手から彼を助け出そうとする。が、闇に触れる事が出来なかった。「くっ、干渉ができないのか……語り掛ける事しかできない、か……よし」


 彼女は目を瞑り、彼の頭にそっと手を置く。その瞬間、彼の悲鳴と苦しみが頭の中に流れ込み、苦悶の激流に呑まれそうになる。が、彼女は踏ん張り、手を離さないまま奥歯を噛み絞める。


「離さないよ……戦え! 独り立ちの時ってやつよ! 魔王以前に、父親の束縛から自由になるんだ! その為には……悪態を吐け!! 心の中にある不満とか、本音をぶちまけろ!! 戦いの第一歩だ!!」


 カーラは口ではなく心で語り掛け、闇と負の激流に逆らいながら、その向こう側にいるスワートに言葉を届ける。


「っ……ん……ぅ……んーっ!!」彼のもがく力が強くなり、声を上げる前に闇の触手に噛みつき、暗黒を吐き捨てる。



「こんの、クソオヤジがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



 スワートは渾身の叫びを轟かせ、暗黒の牢獄を支配する触手を吹き飛ばす。


「いいぞ、スワート! その調子だ!」


「よくも、よくも母さんを……姉さんを……俺は絶対に姉さんを助け出す!! お前みたいな奴、俺が倒してやるからな!! このクソ野郎がぁぁぁぁぁ!!」彼は叫び散らしながら闇の触手を引き千切り、やっとの思いで立ち上がる。その頃には周囲に不快な触手は無くなり、牢獄は砂となって崩れ去った。


「よく戦ったね、スワート」彼女は彼の肩を叩いて微笑んだ。


「……と、オヤジからは口の利き方を矯正されていたけど、もう知った事か! 俺は俺だ!! ありがとう、カーラさん!」



「そんな子に育てた覚えはないぞぉ?」



 すると足元から魔王の影がニョキリと生え、スワートの前に立つ。未だに彼は子供の姿をしていたが、威圧的な笑顔がスワートを怯ませる。


「クソオヤジが!」彼は勢いのまま眼前の影に殴りかかったが、影が手首を動かすと再び触手が現れ、彼を捕縛した。「むぐっ!」


「だめだめだめ~、もう一度教育してやる……覚悟しろ、今度のは苦しいぞ?」と、スワートの口内へ触手を深々と突っ込む。


「やめろ!!」カーラは無駄だと分かりつつも影に向かって蹴りかかる。


 すると、影はニヤリと笑って彼女の脚を切断する。闇の切断面から彼女の中へ闇が入り込み、冷たく侵食する。


「ぐぁっ!!」


「さて、外のトレイごと始末して、ナイアとご対面するか」影は楽しそうに笑い、闇の触手を背後で踊らせた。


如何でしたか?


次回もお楽しみに

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