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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第5章 バルバロンの闇と英雄の卵たち
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83.カーラの物語 Year Two スワートの世界へ

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

「で、策って何よ?」カーラは腹部の痛みを堪えながらナイアに歩み寄る。彼女の腹はどす黒く変色し、内臓を損傷させ疲弊させていた。それを見たナイアは腕に光魔法を纏いながら彼女を寝かせ、変色部位に手を当てる。


「手当てをしながら説明するわ。時間が無い」彼女が光で触れると、変色した腹部から影が少しずつ取り除かれていく。


「時間? そんなにやばいの、スワートは?」カーラは気絶した彼を見て冷や汗を垂らす。


「彼もそうだけど、急がないと魔王軍が来るわ」


「魔王軍が? 何故急に?」徐々に腹部からの痛みが和らぎ、脂汗が引きはじめる。


「少し説明が長くなるわね」




 スワートは今迄、遥か遠くのファーストシティにいる魔王からの干渉を受け、体内に帰省した魔王の意志を活性化されて操られていた。闇魔法による干渉をナイアが光魔法で断ち切った事により、魔王がナイアの気配を嗅ぎつけ、魔王軍の精鋭を送り込む事は確実であった。それを見越して彼女はリーアムにチョスコ国境で足止めするように指示をした。


 魔王軍がやってくる前にナイアはスワートの中にいる魔王の影を祓い、国外へ逃がす必要があった。その為にはトレイとカーラに協力して貰う必要があった。




「で、どんな方法で彼を助けるの?」腹部の変色が消えて傷が完治し、カーラの表情と態度に余裕が戻る。


「まずトレイの水魔法で彼の心を覗き込んで貰うの。同時に貴女の心をスワートの中へ送り込んで貰って、彼の心と魂を救うのよ」ナイアの言葉に首を傾げ、目を白黒させる。


「は? え? 彼の能力は肉体の水分を読み取るってだけでしょ? 何? あたしの心を送り込むって?」


「高度かつ純粋な水使いにはそれが出来るのよ。トレイにはこれができる。でしょ?」と、ナイアが彼に顔を向ける。同時にトレイは怯えた様に肩をビクリと震わせた。


「お、お……俺に出来るかどうか……」彼の心中は先ほどの戦いで恐怖や後悔の念でぐちゃぐちゃになっていた。


 それを見たナイアはため息を呑み込みながら彼に歩み寄り、優しく抱きしめる。じんわりと光魔法を全身から滲み出し、心地よい温もりを与え彼に安心感を与える。



「大丈夫、自信を持って。出来るから」



 ナイアはやさしく伝え、しばらく抱き締めた。


「案外優しいんだね。流石、子持ち」カーラが小さく呟くと、ナイアは彼女に向かって鋭く睨み付けた。「褒めたんだけどな」




 その頃、リーアムとトニーはチョスコ国境の関所の目と鼻の先まで近づき、小高い丘の上で身を潜めていた。もし魔王からの命令を受けた何者かが通るならここであった。万が一、飛空艇や船で近づこうものなら、港に配置した仲間からの連絡がナイアへ直接いく様になっていた。が、ナイアの直感ではここを通る筈であった。


「父さん、その……悪かった」トニーは頭を掻きながら謝る。彼は昨日の錯乱に近い怒り方をし、リーアムに叩きのめされた。自分ではそれなりに強くなったつもりであったが、手も足も出ずに己の無力さを思い知らされたのであった。


「その話は後だ。今は魔王軍に集中だ。今回の仕事が終わったら、俺たちもこの国を出るぞ」


「ついに出るのか? キャラバンの皆は?」


「まだ相談は出来ていないが……これが終わったらな」彼は腕を組みながら口にする。


「……その、この国を出たらでいいんだが……」


「わかっているが、お前に教える事は殆ど無いぞ。あるとすれば、心構えというか……ま、今回の俺の拳で色々と学んだ筈だ。そこから自分で鍛えて行けばいい」


「そうなのか?」


「カーラも大体そんな感じだ。お前たちはまだまだこれからだ。慌てるな」


「そうか……で、魔王軍は本当にここを通るのか?」トニーは心の中の引っかかりが取れた様な表情で関所の方を眺めた。それを見てリーアムは安心した様に頷く。




 時同じくしてファーストシティの魔王の居城。ここでは魔王がひとり執務室で頭を抱えていた。


「スワートの繋がりが切れた……こんな真似が出来るのはあの女だけ……クソ、いるのか?! 俺様の息子の傍にあの女が……!!」魔王は焦れた様に立ち上がり、執務室を出る。それを見た秘書長が彼に歩み寄る。


「如何いたしました? 魔王様」


「俺様のスワートの身に一大事だ! 黒勇隊を動かすぞ!」


「一大事? トレイや他の子たちが付いているのでしょう?」彼女が口にすると、魔王が回れ右でワザワザ彼女に向き直り、殺気に満ちた表情を向ける。


「あの女が! ナイア・エヴァーブルーと接触したんだ! あの女の手に落ちるのだけは許さん!!」


「あ、そうですか……しかし黒勇隊は出払っています」彼女は冷静に口にしながら眼鏡をくいっと上げる。


「なら誰を向かわせる? 軍の信頼できる者……いや、ナイアに出し抜かれずに息子を連れ帰れるものはいないか? もしくはチョスコ周辺にいないか?」


「う~ん……その為だけに六魔道団のパトリック様やウルスラ様を動かすのはどうかと……そうですね……そういえば隣国のダダックに腕の立つ者が2人いますね」


「その2人とは?」


「剣術指南役としてヤオガミ列島から呼んだアラカゼ・カエデ。それと『取り立て人』のコネリー。2人とも優秀には違いありません」


「よし……取り立て人は陸路からチョスコへ向かわせろ。指南役は確か風使いだったな? 飛空艇で空から向かわせるんだ」


「二手に分けるのですね? 何故?」


「ナイアの事だ。仲間を使って足止めをしようと用意する筈。それもディメンズなどの凄腕をな。今回は確実に息子を連れ戻さねば……」魔王は血走った目で唸りながら執務室へ戻る。


「……では、そのように」秘書長ソルツは言葉をいくつも呑み込みながら丁寧にお辞儀をし、追手を送る様に指示を出した。




 その頃、ナイアたちは早速、スワートを救うための策の準備を進めていた。ナイアは気絶する彼に万が一の為に鎮静剤を打って寝かせる。その隣に落ち着きを取り戻したトレイを座らせ、両手で彼の頭に触れさせる。


「まずは彼の心にコンタクトするの。出来たら、貴女が……」と、カーラの手をトレイの背に触れさせる。「これでトレイを通してスワートの心に入り込むことが出来るわ」


 するとトレイがゆっくりとカーラの方へ顔を向ける。


「あの……これが終わったら、謝らせてください」


「それはいいから集中しな。で、入り込んだら、どうすれば?」カーラはいまいち何をすればいいのか解らず首を傾げる。


「彼に心を強く保つように呼びかけるの。それを魔王の影が妨害しに来るでしょうけど、あいつは魂も肉体も無い存在よ。あなた自身が強く保てれば打ち勝てる筈」ナイアはある程度説明を終えると、今度は自分も用意する様に眼を瞑って深呼吸を始める。


「貴女は何をするの?」


「トレイが闇に侵食されない様に光魔法を集中するの。だからアドバイスはここまで。じゃあ皆、抜かりなく」と、ナイアは部屋中に光魔法で包み込み、その光をトレイへと集中させた。


「なんだかフワフワした策だけど……大丈夫かな? ま、あたしも集中しなきゃだね」と、目を瞑ってトレイの向こう側のスワートに神経を向ける。すると、ぼんやりと何かが見え始めた。そこは城の一室であった。


「こりゃ驚き」カーラは意識のハッキリした夢を見る様な気分でそこへと脚を踏み入れた。


如何でしたか?


次回もお楽しみに

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