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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第5章 バルバロンの闇と英雄の卵たち
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80.カーラの物語 Year Two スワートの闇

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 カーラ達がナイアと話し合っている時、スワートらは彼らの隠れ家で各々暇を持て余していた。スワートはトレイと共に魔法の勉強をし、ロングとスーは苛立ちながら街へ繰り出していた。


「相変わらずっすね、あいつら……あんまり外へ出て欲しくないんっすけどねぇ……」トレイは頭を掻きながら教科書を捲る。今、彼らが学んでいるのは体内の魔力循環法であった。トレイはクラス4であったが、循環法が甘く、接近戦が苦手であった。スワートに自分の技術を教えながら自分も復習する。


「まぁ、ぼ……俺さえ見つからなければいいわけだし……」スワートは苦笑いをしながら教科書へ目を落とす。


「いつから自分の事を『俺』って言うようになったんっすか? いい慣れていない見たいっすけど」


「……少しは自分を変えたいんだ。うっ……!」スワートは急に頭を押さえ、痛みを堪える様に表情を歪める。


「どうしたんっすか?」


「頭がちょっとね……」苦しそうに笑い、また教科書へ目を落とす。そんな彼の目の奥では闇の炎がチラチラと揺らめいていた。そんな彼を心配そうにトレイが眺める。彼の水魔法は相手の体調を調べる事が出来たが、スワートは闇魔法体質であるため使えなかった。


「ぐっ……いてててて」スワートは本を閉じ、両手で頭を押さえて涙目で蹲る。


「大丈夫っすか? ……頭痛に効く薬を買ってくるっすよ。1人で待っていてくださいっす」スワートは立ち上がり、フードを目深に被って街へ出かける。


 彼が立ち去った瞬間、スワートの目が真っ黒に染まり、顔面を黒い霧が覆う。


「うぅぅ……。……さて、言う事を聞かないガキ共はそろそろ消すか……トレイ君は相変わらず良い子だな。くくく……」




 その日の夜。ロングは1人、チョスコの港町の酒場に入り、弱めの酒を注文して夕食を摂っていた。彼はここ数週間、この酒場に来て背伸びをして大人の気分を味わっていた。周りの船乗りらに揶揄われそうになるが、彼はクラス4の炎使いである為、威嚇をするだけで喧嘩へ発展する事はなかった。彼は深夜になるまでこの店に入り浸り、店の雰囲気を味わって楽しんでいた。


 夜中の2時ごろに店を後にし、港から離れた村にある隠れ家へと向かう。


「ん? スワート?」彼の眼前に真っ黒な影が現れる。そのシルエットはスワートであったが、雰囲気は別人であった。只ならぬ気配を醸しだし、周囲から真っ黒な靄を滲ませていた。


「ロング……君は優秀だと思ったが、堪え性が無いな……ガキの癖に酒まで飲んで、呆れる……」スワートの影は一歩ずつ距離を詰める。その歩き姿は別人であり、堂々としたものであった。


「その声、スワートじゃない……誰だ!!」手に炎を滲ませ、正面へ掲げる。スワートのかかっていた闇が照らされ素顔が露わになる。それを見たロングは一気に帯び笑顔になり、一歩退く。


「俺様の顔は覚えていたか。あの時、お願いしたよな? 俺様の息子の言う事をよく聞け、とな?」スワートの影はニタリと笑いながら歩み寄り、いつの間にかロングの眼前に立っていた。


「あ……あぁ……うっ!」彼の両脚の下にある影に足を取られ、動けなくなる。


「お前は我が息子に相応しくない……」と、影は手を伸ばしてロングの顔面を掴む。その手から闇が零れだし、あっという間にロングを包み込む。そのまま彼は呻き声一つ上げずに自分の影の中へと消えていった。その場に残ったのはスワートの影だけであった。


「さて、もう1人の悪い子は……」




 スーはその夜、地元で知り合った若者と会い、2人で酒を呑んでいた。その者とは数日前に知り合って仲良くなり、毎晩のように港町の外れで会っていた。


「君、ファーストシティから来たってのは本当? 向こうはどんな感じなの?」


「凄い街だよ。流石はバルバロン首都って感じ。戦争は無くて安全だし、必要な物は何でも揃う」


「そんな街から何で離れたの?」青年は酒瓶を一口煽り、スーの目を見ながら問う。


「仕事でね……いや、違うか……あ、そんな街でも手に入らないモノがあるんだよ」


「へぇ~、それは?」


「人……貴方みたいな」と、スーは彼に笑顔を向ける。が、そんな青年の目や鼻から黒い汁が溢れだし、真っ黒な液体を嘔吐しながら倒れ込む。「え?!」



「こんな所で逢引か? いいご身分だな、仕事を放りだして……」



「ま、魔王様!! どうしてこんな所へ!! ひっ!」足元で転がる青年を見る。彼は絶命し、そのまま死体は影の中へ飲まれていった。


「我が息子の護衛を頼んだが、ロングと共に遊び呆けて……だらしがないなァ」スワートの影はゆっくりとスーに近づき、微笑みかける。体格はスワートのままであったが、顔は間違いなく魔王の顔をしていた。


「……ロングを……殺したの……?」


「あぁ。使えない奴には消えて貰う。お前もだ」影が手を翳した瞬間、スーは飛び退いて水魔法を一瞬で展開し、水流に乗ってその場から離れる。


「光の方へ! 灯りの方へ!! せめてそこでなら!!」彼女はチョスコ港の方へ向かう。そこは夜中でも明るく、海を味方にすれば彼女1人でも魔王相手でも逃げる自信があった。


 すると周囲の影という影から闇の触手が彼女を捕えようと伸びてくる。スーは水流を器用に操り、必死になって避ける。


 次の瞬間、彼女の眼前にスワートの影が現れ、手を翳す。


「うわっ!!」スーは急停止し、相手に何かをされる前に一瞬でハイドロブラストを放つ。そのまま水流に乗ってスワートを殺す勢いでブラストを連射する。


「やったか!!」水流を解除して着地し、立ち上る水蒸気を睨み付ける。その場の大地は歪な形に抉れ、大きな水溜りが出来上がっていた。その場にスワートは影も形も無かった。スーはそこでやっと安堵しながらも深呼吸をし、周囲を見回す。



「酷いじゃないか。俺の息子の身体だぞ?」



 突如、背後に影が伸び、彼女の肩に触れようとする。が、間一髪で飛び退いて再び水流を作り出して逃げようとする。が、逃げ場どころか周囲は漆黒の闇に包まれており、どこが港でどこが村なのか方角が分からなくなっていた。港の光も月明かりも通さぬ闇に包まれていた。


「もう追いかけっこは終わりだ」


「あんたは、そうやってスワートをどうするつもり? あんたがいるなら御守りは必要ないでしょう?」


「あんまり俺様が出てきたら息子の成長の妨げになるだろう? こいつには一人前になって欲しいんだよ」影は一歩一歩近づきながら笑みを覗かせる。


「本当にそれだけ? あんたの本当の狙いは何?」スーはまだ諦めていないのか、魔力循環を高速化させ、手に水槍を作り出して高速回転させる。


「なんだ? まだ抵抗するのか……この身体では数パーセントしか力が使えないんだ。大人しく殺されてくれないか?」


「殺されろ、と言われて大人しくやられる奴がいるか!」スーは水槍を振り乱し、掲げる。するとスワートの影の周りに水槍が現れ、鋭い矛先が襲い掛かる。が、彼に突き刺さる前に水槍は一瞬で霧散し、水滴が飛び散った。一滴一滴が彼に振りかかるが、全て弾き、目晦ましにもならなかった。次の瞬間、スーは意を決して距離を詰めて水槍を突き出す。当然、この槍も霧散したが、彼女の手の中にはナイフが握られていた。刃先が彼の喉元に近づくが、スワートの影は涼しい顔のままだった。


「くっ……」それ以上前進できず、あと少しの所で刃が止まる。彼女の脚の影から闇の触手が伸びて纏わりついていた。


「多少遊んでやったが、楽しかったか?」スワートの影はにっこりと笑い、指を鳴らす。次の瞬間、勢いよく触手が彼女の脚を伸びって体全体に絡みつき、影へと引き摺り込んでいく。


「ぐっ……さ、最悪な性格しているわね、あんた……」


「獲物を弄ぶのが好きでね」


「その性格が仇になってくたばれ!! くそオヤジ!!!!」黒い汁を吐き面しながらスーは呪詛を吐き散らし、影の中へと消えていった。最後に恨めしそうな顔を残し、真っ黒な暗黒へ溶けていく。


「お~怖い怖い。悪夢を見そうだ……」スワートの影はクスクスと笑い、踵を返して村の隠れ家の方へと歩いて行った。


如何でしたか?


次回もお楽しみに

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