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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第5章 バルバロンの闇と英雄の卵たち
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77.カーラの物語 Year Two 戦いの裏側

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 カーラ達はさっそく動き出し、リーアムの元へ向かう。彼も今回の事件を既に掴んでおり、反乱軍の家族たちをダダック港へ向かわせていた。彼はそれ以前にフレイン達のチョスコ入りを聞いただけで動き始めていた為、既に国外逃亡の準備は済んでいた。


 カーラは道中、その事を風魔法で察知して行き先をダダック港へ変更し、馬を奔らせる。


「父さんは預言者か? 仕事が早すぎる」トニーは感心するのと同時に不気味がる様に口元を渋くさせる。


「情報をいち早く掴み、次の一手を予想する。父さんは強いだけじゃなくて、そこまで頭が回るって事よ。あたしもそこまで賢ければね……」


「……男爵の事が心配だな」


「あたしらはこっちに集中しましょう。彼らの家族を無事に逃がす事が一番重要なんだからさ」と、カーラは風魔法で追い風を起こし、更に馬を加速させる。


 その道中、更に風魔法で魔王軍の動きを察知する。アヴェン砦では未だかつてない程の魔力の渦巻きと闘気を感じ取る。そこにはノーマンと炎と雷を感じ取った。更にチョスコ港でも魔王軍の追撃部隊が進軍しており、そこでは妙に静かな炎が落ち着いた動きを見せていた。それを感じ取り、カーラは手助けに行きたい衝動をグッと堪え、更に馬を加速させる。幸いダダック港に向かう魔王軍の影は無く、反乱軍の家族らが続々と到着し貨物船への乗り込みを開始していた。


「……なぁ、カーラ……こっちは……」トニーが口を開いた瞬間、彼女は迷いを断ち切るために彼の後頭部を叩いた。「いってぇ!!」


「あたしたちは自分の仕事に集中するの! 自分の仕事には責任を持つ!!」


「あぁ……」トニーは叩かれた場所を摩りながら小さく頷き、目の前の仕事に集中する事に決めた。




 その頃、スワート達はチョスコ外れの村にある隠れ家で待機していた。この数日、彼らはカーラ達の仕事の事を理解し、自分達の置かれる状況を再確認していた。


「なぁ、スワート。流石に退屈じゃないか?」ロングは相変わらず手の中で炎を転がしながら口にする。


「ま、まぁね」スワートはトニーから教わった筋肉トレーニングをしながら答える。


「またチョスコ港当たりへ出向く?」スーが口にすると、トレイが首を振った。


「やめておいた方がいいっすね。今、この国中ですんごい魔力を感じるっす……俺っち達よりも強力な魔力をいくつも感じるっす」と、目を瞑って冷や汗を流す。


「クラス4の俺たちよりもか?」ロングが意外そうに口にすると、トレイは呆れた様にため息を吐く。


「クラス4と言っても、ロングは魔力自体クラス3に毛が生えた程度っす。スーは近接戦闘が得意なクラス4っすけど、今、チョスコ港周辺で感じるのはそんなレベルじゃないっす。一国を救うも滅ぼすも自在な賢者クラスっすよ。そんな使い手を感じるっす……」


「そんな凄いヤツ……見に行かない手はないだろ?」ロングは眉を上げ下げさせて立ち上がる。


「退屈だし、今度は下手な真似をしなきゃ大丈夫でしょ」スーも退屈に飽きて立ち上がる。


「やめておいた方がいいっす! 今回の使い手は俺っち達の気配を感じ取る事が出来るっす! 万が一スワートが見つかったら、責任を取れるっすか? 俺っちには自信がないっす」


「あんた、実力の割に臆病よね」スーが口を尖らせると、トレイは鋭く彼女を睨む。


「実力があるから慎重なんっすよ」そんな2人の間にロングが入り込み、ニンマリと笑う。


「まぁまぁ……スワートに決めて貰おうぜ。見に行くか、大人しくするか。な?」と、黙々と筋トレを続けるスワートを見る。


「……カーラ達に言われただろ? 大人しくしていろってさ」スワートは目を瞑り、深く深呼吸をしながら腕立てを続ける。


「そうだ、それでいいっす……暇ならお前らも鍛錬なり勉強なりするっすよ! 俺っち達も国外へ出たら色々な知識が必要になるんっすからね!」


「なんだよ、面白くねぇなぁ……スー、ちょっと外の空気でも吸ってこようぜ」と、ロングは面白くなさそうに鼻息を鳴らし、彼女を連れて隠れ家を出た。


「2人とも……馬鹿っすよ……今後足を引っ張る真似をしなければいいんっすが」



「全くだ」



 すると、トレイが聞いたことのある声が部屋に響く。その声色は随分聴いていなかったが、忘れようのない声であった。一瞬で冷や汗が背中を濡らし、首がガチガチになって動かなくなる。声の主である者は背後にいるスワートであった。


「どうしたんだ? トレイ」何事も無かったようにスワートが声を掛ける。


「あ……いや、何でもない。俺達はじっとしていよう」余りにも取り乱し、普段の口調が出来なかった。


「変な奴だな……よし、今度は」と、スワートは手鏡を見て自分の表情の作り方を勉強し始めた。


「き、気のせいだよな……」トレイは耳を穿って首を振るい、頬を叩いた。先ほど彼の耳に入ったのは、魔王の声色であった。




 ダダック港に着く頃、既に貨物船出港の準備は整い、船長と港責任者は最終調整を行っていた。あとは碇を上げてロープを外すだけで出港出来た。


 カーラ達は急いで2人と合流し、反乱軍の家族が全員乗船したかを確認した。詰み損ねた荷や人がいないか確認し、最後にカーラが周囲数キロに人がいないか二回りほど偵察した。その結果、魔王軍はひとりもいないと判断し、貨物船を出向させた。カーラとトニーはダダック湾を無事抜けるまで乗船し、海域を抜けたのちにボートにダダックへ戻った。カーラだけはダダック海域から見えなくなるまで貨物船を見送り、最後まで周囲の警戒を続けた。


「驚く程に魔王軍がいなかったが、やはり全軍チョスコ方面へ向かったのか」トニーは仕事が終わった事にひとまず安堵しながら口にする。


「反乱軍や助っ人が暴れたお陰ね」何事も無く終わったにも関わらず、カーラは胸騒ぎがしていた。彼女はトニーを置いて風魔法でチョスコ方面まで飛んでいった。


「お、おい!!」置いて行かれたトニーはチョスコへ戻るのは真夜中になってからだった。


 カーラがチョスコ港へ着いたのは夕刻であった。そこは戦争でもあった様に所々が瓦礫になっており、あちこちで煙が燻っていた。反乱軍を乗せた貨物船は港には無く、一見逃亡に成功した様に見えたが、海上でも煙が立ち上っているのを見て愕然とする。


「まさか、嘘でしょ……?!」カーラは急いで酒場へ向かい、この港で何があったのかを問いただした。ここの酒場の店主も情報通であったため、彼女に昼に起きた事を事細かに説明した。反乱軍を乗せた貨物船は六魔道団のパトリックの手によって沈められ、イングロス並びに反乱軍メンバーは全滅したと語った。


「……ビリアルドはどうなったの?」彼女は呆然とした表情で静かに問うた。


「彼も戦死した。跡形も無く」店主は頼まれるまでもなく彼女の前に一杯用意する。


 彼女はそれを飲まず、ここで起きた戦いを問う。生き残りはいないのか、魔王軍側の被害は、助っ人は何をしていたのか。金に糸目を付けずに周囲の目撃者にも聞いて回る。


 真夜中になる頃、トニーが到着するとカーラは彼に整理した集めた情報を説明した。彼は拳を震わせ、涙を浮かべる。


「くそ……くそっ……ビリアルド……無茶するなって言ったのに……」


「あいつが無茶してくれたから、家族たちは無事、何に脅かされる事も無く国外へ逃げる事が出来たんだ……あいつはよくやった……」


「助っ人は何をやっていたんだ? 賢者の娘も大したことないな」


「その賢者の娘がアヴェン砦でノーマンを討ち取ったそうよ。あいつの妹のスカーレットと共にね」カーラはゆっくりと口にし、酒を一杯飲み下す。


「そういえばニックはどうした?」


「それに関してはわからない。ただ、ジェットボートが沈められたって情報は無かったわ……それに、この港が半壊したのはパトリックと炎使いが戦った跡だそうよ」


「炎使い? フレインってヤツか?」


「いいえ、その仲間、ヴレイズって奴よ。六魔道団と渡り合うなんて……サバティッシュ国を救ったのは多分、ヴレイズの方ね。そんな強さを持っていても、ビリアルド達を救えなかった……あたし達が介入してもどうしようも無かっただろうね……」と、カーラはもう一口酒を呑みながら一筋涙した。「もっと強くならなきゃ……」


「あぁ……そうだな」トニーも彼女から酒瓶を受け取り、一口飲み下した。


如何でしたか?


次回もお楽しみに

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