74.カーラの物語 Year Two 男爵の依頼
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
その日から、スワート達はカーラ達の仕事場に出入りする様になった。本来なら直ぐにでも国外へ逃がすべき彼らであったが、『魔王の息子』と言う事で2人は慎重に逃走ルートを用意する事に決めたのであった。トレイもそれには賛成し、少年ら4人は2人の仕事を見物しに毎日のように現れた。因みに他2人はロングとスーといい、2人揃ってクラス4の使い手であった。
スワートが言うには、3人とも幼少期からクラス4に覚醒しており、英才教育を施されて育ち、未来を有望視されていた。そこへ魔王が現れスワートの身辺警護兼友人になる様に命じたのだった。スワートに至っては魔王の嫁の兄の息子であった。
4人は平穏に暮らしていたが、とある出来事で魔王軍や父親に不信感を抱き、それが核心に変わって国外逃亡へ踏み切ったのであった。
「それがお姉さんの事、そして母親の死ってわけ……」カーラはスワートから直接、話をを聞きながら書類を纏めていた。
彼よりも4つ年上の姉がおり、魔王の仕事を手伝っているという名目で滅多に会う事が出来なかった。4人は結託してこっそりと仕事場である塔へ会いに行くと、そこには痩せ細った姉がおり、彼は何とか助け出そうとしたが失敗したのであった。そこで姉から母親の死について調べる様に助言され、4人は出入り可能の城や書庫などを漁った。そこでスワートに対して一通の手紙が届き、そこには『魔王が母親を殺した』という内容が書かれており彼は気が動転して泣きながらスワートらに伝えた。そこで4人は国外逃亡を計画し、今に至った。
「成る程……そりゃあ家出したくなるわね……」全て聞き終える頃、スワートの目には涙が溜まっており、カーラはハンカチを渡した。
「ほ、本当なら姉さんも助け出したかったんだけど……無理だった……」
「クラス4の3人がいても無理だったの?」カーラは3人を指さしながら嫌味ではなく本心で訊ねる。
「魔王軍はクラス4が束になっても歯が立たない。マジだ」ロングは指先に火を灯しながら口にする。彼は火炎を放ち、飛び回る事が得意な炎使いであった。
「使い手や兵器だけじゃなく、妙な人間? 兵士? 化け物……みたいな奴に警備させていてさ……正直、怖かったわ」4人の中で一番年長のスーが身震いしながら口にする。
「モンスターまで手懐けているって事?」
「モンスターっていうか、見た目は人間なんだけど、人間じゃないんだよ」彼女が言うのは所謂、ヴァイリーが作り出した人造人間のプロトタイプであった。
「ナニソレ……?」彼女は理解できないのか書類にハテナマークだらけの情報を書きながら頭を掻く。
するとそこへトニーが帰ってくる。彼は4人に挨拶をしながらソファに座り、口笛を吹いた。
「この前、地下で戦ったスティーブって奴? 外で戦っている所を見たんだがスゲェな。ありゃ俺じゃ勝てないな。変な器具を使って身体を魔力で強化していやがった。反則だろ」彼は先ほど、スティーブとマーヴがギルドの仕事をしている所に居合わせたのだった。彼は何故か物陰に隠れ、こっそりと2人の戦いぶりを観察したのだった。
「へぇー。あたしだったらどうかな?」
「さぁ? ただ燃費が悪そうだったな。本の数秒、力を使っただけで息切れしていた」
「じゃあ、余裕であたしの勝ちだね」
「どうかな? その数秒間だけ肉眼では見えない速さで数十人を秒殺してやがったぞ」
「そう? じゃあ、やり合いに行く?」
「いいや。そんな時間はなさそうだ」と、懐から手紙を取り出す。それはビリアルドからの手紙であった。カーラは素早くそれを受け取り、数秒で読み終わる。
「成る程……そろそろ反乱軍も終わり、か……」カーラは手紙を蝋燭の火で燃やす。
「あいつの妹が魔王軍に捕まったらしい。かなり酷い目に遭っている、とか。その首謀者はアイツらしいぞ」
「アイツ?」
「ノーマンだ」この名を聞いた瞬間、カーラは目の奥から殺気を滲み出し、頬をヒクつかせる。それをみた4人組は怯えた様に一歩後退った。
「お兄様に会いに行こう。あんたらは隠れ家に戻っていな」
その夜、カーラとトニーは地元の酒場へと向かった。そこには変装したビリアルドがおり、水を頼んで文句を言われ、口論になっていた。そこへトニーが4杯分の酒を注文し、カーラと2杯ずつ呑み始める。
「悪いな、厳しい店でよ」トニーは彼にソルティーアップルソーダを彼に奢る。
「全く……本当なら呑みたいトコロだが、僕だけが酒を楽しむ訳にはいかないからね……早速だが、仕事の話なのだよ」と、彼は懐から大金の入った袋を取り出し、彼らの前に置く。カーラはそれに手を付けず、つまみを食べながら酒を一口飲む。
「加勢して欲しいとか?」
「父からはそう言われた……どんな傭兵でもいいから数でも猛者でも連れてこい、と……しかし、虚勢ばかりの我々に力を貸す者など……僕はどちらかと言うと、2人に国外逃亡用の船を2隻用意して欲しいのだよ」ビリアルドは俯きながらも2人にだけハッキリと聞こえる声で頼んだ。
「2隻……? そんなに大人数だったっけ?」カーラは彼ら反乱軍の数を知っていた。もうまともに戦える人数はおらず、中型の貨物船一隻で事足りた。
「1隻は囮として僕ら戦える者らが乗る。もう1隻は兵士たちの家族を乗せたいのだよ。彼らは確実に助けたい。意地を見せたいだけで戦った僕たちと一緒の船に乗せ、危険な目に遭わせたくはないのだよ……」
「成る程。その逃走の手助けをして欲しい、と」トニーは金袋の中身を確認し、小さく頷く。彼らが用意できるギリギリの予算であった。
「……あんたらは敢えて囮の役を買って出る、と?」
「僕や父さんが派手に暴れ、あわよくばそのまま逃げられれば良し……」ビリアルドは握った拳を震わせながら口にする。
「覚悟は出来ているって訳ね。こちらからも条件があるんだけど、いい?」カーラは金袋を取り、ビリアルドの前に置く。
「なんなのだ?」
「これは家族の逃亡資金として使う事。逃亡先の安全は約束してあげる。あんた達は、派手に暴れな。それだけの決断をしたんだからね」カーラも腹をくくった様な声を出す。ビリアルドら反乱軍はそれだけ祖国に多大な損害を与え、魔王軍に付け入る隙を存分に与えてしまい、チョスコはダダックよりも速く文化侵略や政治介入が行われ、属国ではなくバルバロンそのものに成りつつあった。ボディヴァ家の決断はまさに戦犯であり、チョスコからは追われるだけでなく指名手配されていた。
「わかっている……すまない……」ビリアルドは涙を零しながら頭を下げる。
「一日で2回も涙は見たくないよ……今日は奢るから、沢山食べなよ」と、カーラは滑らかに大量の料理を注文し始めた。
「いや、僕だけが食べては……」と、慌てて注文を止めようとするが、彼女は胸倉を掴んで引き寄せる。
「いいか? あんたはクラス4の戦士なんだ! あんたが一番頑張らなきゃ、ここぞってとこで戦えなきゃ意味ないんだよ! 貴族なんだろ? 男爵なんだろ? だったら黙って喰って力をつけろ!!」
「あ……そうだな、こいつの言う通り」トニーも何か口出ししようとしたが、口を結んで腕を組む。
「……そうだな、では、ありがたく頂こう」と、鼻を啜ってソーダを一気に飲み下し、卓に置かれた食べ物を頬張った。
すると、酒場に1日早い情報紙が届けられる。それは朝刊にかかれる内容が無編集で書かれており、他にも有力な情報が挟まれていた。この酒場に集まった情報通はこれが目当てで来ており、店主に高い金を払って情報紙を買っていた。カーラ達もそれが目当てで通っていた。
トニーは早速それを受け取り、読み始める。
「なになに……? お、サバティッシュ国を支配していたウルスラが炎使いに敗北? 能力者の力で氷の国は一夜で解凍?? コリャ凄い!」
「あの氷に包まれた国だっけ? そんな国を一日で? どんな奴よ」
「炎の賢者ガイゼルの娘、フレイン・ボルコンとその仲間たちだってよ」
如何でしたか?
次回もお楽しみに




