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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第5章 バルバロンの闇と英雄の卵たち
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72.カーラの物語 Year Two トニーVSスティーブ

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 スティーブは余裕の笑みを浮かべながら軽やかにステップを踏み、フェイントを混ぜながらジャブを放つ。トニーはそれらを全て見切り、反撃を見舞うがスティーブはそれを素早く潜り抜け、懐に入り込んでボディブローをめり込ませる。


「うぉ!!」彼は驚いた様な表情を作ったが、効いていないのか怯まずにショートアッパーを放つ。それはスティーブに命中し眼球がひっくり返る。弓なりに倒れそうになるが踏み止まり、奥歯を噛み絞めながらトニーを睨み付ける。


「やるな。流石に仕事の時の戦いと違う」と、折れた奥歯を吐き出す。


「ここでは魔法も武器もご法度だからな。だが外でもお前に勝てそうだ」


「それはどうかな? 外の俺は強いぜ? だが、ここで勝つ!!」と、再び2人はステップを踏みながら距離を詰め、拳を交えた。


 観客たちは拳が炸裂し血が飛沫く度に歓声を上げる。どちらが勝つか予想し合い、酒を呷る。カーラ達も拍手して口笛を吹き、トニーを応援した。


「あいつ、久々の闘技場だから楽しんでいるな。最近はここに顔を出して無かったからな。前は毎日のように通っては、腕を磨いていたわね」カーラの言う通り、彼は酒場での用心棒に飽き、更なる猛者を求めてここに来たのだった。その結果、幾度かの敗北を経験しながらも着実に実力を付けていき、今では敵無しであった。が、相変わらずカーラには一触れも出来ない程に実力が今でも離れていた。故に実質、ここの王者はカーラであった。


「なんで殴り合うのか理解できないっすね……」トレイは頬杖を突きながらため息を吐いていた。


「それはなんで?」カーラは酒を呷りながら問うた。


「魔法を使えば、俺っちでも勝てるっすよ。見せ物なら理解出来るっす……でも、喜々として自分からルールに縛られながら殴り合うなんて、理解できないっす……」


「頭でっかちなんだねぇ、あんたって」カーラはクスクスと笑う。


 すると他の子らが頷きながら口々に話し始める。


「そうなんだよ、トレイってそう言う面白くないところがあるのよねぇ~」


「医者の息子か何だか知らないけど、冷めたトコロあるよな」


「うるさいよ、試合に集中しようよ」と、ひとりが注意すると2人は目を試合に戻した。


「ふん、俺っちはただ……この時代に殴り合いなんて時代遅れだと……自分から殴り合うなんて理解できないってだけっすよ」


「あんた、生まれてこの方、殴り合った事ないの? 男の子なのに?」カーラはトレイの脳天を小突きながら問う。


「戦った事はあるっすよ……でも、興奮はしないな」彼はクラス4の水使いであり、圧倒的実力で野盗やモンスターをねじ伏せた事しかなかった。故に戦いに興味が湧かなかった。



「じゃあ、あたしが後で興奮させてあげようか?」



 カーラは目に殺気を帯びながら優し気な表情でトレイの横顔を見ながら心中で舌なめずりをした。


「……それって、俺っちと殴り合うって事っすか? この闘技場で?」


「いやいやいや、そんな大人げない。あとであんたは全力で、あたしはハンデありで遊ぼうって事。あんたにやる気があればね」


「……ふぅ~ん……俺っちを舐めているんっすか?」


「いや、見た目通りの子供だから、少しは遊んであげようかな、って」


「なるほど……じゃあ、俺っちが遊んであげるっすよ」トレイは内心憤りながら鼻息を荒くさせ、試合に目を戻した。


その頃、トニーとスティーブは互いの顔面に拳をめり込ませていた。




 2人の激闘は3時間にも渡り、観客の半数は飽き、もう半数は黙って静観していた。興奮していた子供も2人は眠り、トレイともう1人は黙って見ていた。カーラは飽きて店主とグラスを傾けながら近況や情報交換をし、魔王軍と反乱軍の情勢についても話し合っていた。この店はまだ魔王軍の手入れは来ていなかったが、入ればこの闘技場は潰される可能性があった。その為、店主は闘技場の場所をどこか併設させようと計画しており、カーラはその手伝いをすると約束した。


「で、どうする? 久々に引き分けでいいかね?」カーラは闘技場を指さしながら問う。


「だな。もう店じまいだ」店主が頷くと、彼女は一足飛びで闘技場へ入り、2人の間に入った。


「と、いう事。夜も更けたし、勝負ナシ!」


「誰だお前! ふざけんな! 決着がつくまでやるんだよ!!」スティーブは目を血走らせ、彼女に殴りかかる勢いで拳を唸らせる。


「あ……カーラが出てきたんじゃ、終わりだな……くそっ」トニーは彼女が出てきた事で観念し、拳を降ろす。


「おい、まだやるぞ!! 勝負はついてないぞ!!」スティーブはカーラを殴り飛ばそうと拳を振るった瞬間、彼女の顔が消え失せる。同時に彼女は逆立ちし、回転蹴りを見舞った。彼女のしなやか且つ鋭い蹴りはスティーブとトニーの頬に綺麗に命中し、2人に意識を蹴り飛ばした。


「なんで俺まで……」トニーは目を回しながらその場で倒れ込み、白目を剥いて気絶した。スティーブも無言で倒れ込み、慌てた様に入ってきたマーヴが抱き起す。


「おい、大丈夫かよ! おい!!」


「脳を軽くシェイクしただけだから、すぐ目を覚ますわ」と、カーラはトニーを抱き起して闘技場をまた一足飛びで出る。


「流石、この闘技場の王者だな。あいつとだけは戦いたくねぇ」過去に酷い目に遭ったマーヴは身震いしながらスティーブを介抱した。




 トニーは数分で目を覚まし、頭を掻きながら唸る。


「あいつ、A級ハンターとか言っていたな……勿体ねぇな。もっとマシな生き方が出来るだろうよ」と、血と汗を拭い、シャツを着る。


「そう言うアンタは何様よ。逃がし屋に運び屋、似た様なものでしょ?」


「魔王軍の下で働いている様なもんだろ? ギルドハンターなんてよ。だが、次にやり合う事があれば……次こそ決着を付けてやるよ」トニーは未だに痺れる拳を握り直しながら唸った。


「外で会ったら違うかもね~」


「で、お姉さん! やるの? やらないの?」トレイが彼女の背後に立ちながら問うた。


「ヤルに決まってんでしょ? 遊んであげるよ、少年」カーラはぐにゃりとした笑顔と共に立ち上がった。


「やる? え? あいつと? やる……? え、殴り合う気? 子供と?」トニーは驚愕して目を丸くし、カーラを止めようと肩を掴む。


「大丈夫。教育してあげるだけよ。あたしなりにね……」と、トレイと他の子らを酒場の外へ連れて行き、小さな広場へ案内する。トレイはやる気満々に水魔法を全身に巡らせ、背後に水龍の頭を生やす。


「本気でやっていいっすよね?」目を鋭くさせ、手をゆらゆらと動かす。


「もちろん。で、ハンデとしてあたしは魔法ナシでやってあげる」カーラは微笑みながら腕を組み、自信満々に胸を張る。


「魔力を纏わないんっすか? 死んでも知らないっすよ?」トレイは額に血管を浮き上がらせ、背後の水龍を威嚇させる。


 そんな彼を見て仲間ら3人は好奇心の目を向ける。


「あ~あ、トレイ切れちゃったよ。プライド高いからなぁ」


「でも、本気かしら? 魔法を使わない人を相手にマジでやるって……」


「トレイ……やめようよ……」ひとりは乗り気でないのか、俯きながら訴える。



「ここまで来たら止められないっすよ!!」



 トレイが掲げた手を下げた瞬間、水龍が口を開き、ハイドロブラストを放つ。カーラの立っている場所の地面を抉り飛ばし、激しい水飛沫を上げる。その鉄砲水は破壊力が凄まじく、民家一軒を軽々と吹き飛ばせた。


 カーラは鼻息を唄いながらそれを僅かに動くだけで避け、挑発する様な表情を向けた。


「当たらなきゃ意味がないでしょ? 少年?」


「本当に当てていいんっすね? 本気でやるっすよ?!」トレイは目を血走らせ、水龍の頭を増やして一斉にハイドロブラストを放った。


 カーラは新しいおもちゃを目の前にしたような表情でそれを避け、フワリフワリとした足取りを見せた。


「さて、いつ気付くかな?」カーラは余裕の笑みを崩さずに踊る様に舞った。


如何でしたか?


次回もお楽しみに

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