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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第5章 バルバロンの闇と英雄の卵たち
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71.カーラの物語 Year Two 酒場の闘技場にて

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 3人が夕飯を食べ終える頃、酒場が賑わい始める。仕事を終えた者や闘技場目当ての者もおり、中には不穏な気配の者もいた。その者は地元のギャングであり、店を値踏みする様に眺め、強い酒を啜る。


「ここは純粋な闘技場なんだけど、相変わらずギャングが賭場に使いたいと狙っているんだよね。ま、それを店主が許さないんだけどね」と、酒を啜る。店主は酒を注ぎ、馬鹿笑いをする者らの相手をしながらもギャングに向かって殺気を飛ばし、睨みを効かせていた。


「戦いはいつ始まるんっすか?」トレイは退屈した様に指の上でスプーンをクルクルと回す。


「このバカ騒ぎが収まって、店主が地下の扉の鍵を開けたらかな。真夜中だから、まだ時間があるな」トニーは今夜の参加者と思しき者らを眺める。


「そっかぁ……だったら、ツレでも連れてこようかな。退屈しているだろうし」と、指から水球を絞り出し、窓の外へ投げる。これはドッペルウォーターの小型版であり、近場であれば自動で目的地へ向かい、メッセージを伝える事が出来た。


「ツレって、例の息子さん?」


「いや、他にも2人程、一緒に来ているんっすよね。そいつらも一緒に逃げるからヨロシクっす~」


「人数分、料金は頂くぞ」トニーは釘を刺す様にトレイの胸を小突いた。


「へいへい、っす」彼はおどけながらストローでジュースを、音を立てながら啜った。




 2時間後、酒場に3人の未成年が入店する。その者らはトレイ同様、パーカー姿であり、サングラスやマスクを付けてフードを深く被っていた。


「うるさい店だな……」


「トレイが面白いもん見せてくれるって? シティにいた方がまだ面白いよ」


「……腹減った」3人は各々呟き、トレイを見つけてツカツカと歩み寄る。


「この子たちで全員?」カーラは首を傾げながら3人を見る。


「いや、例の息子はとある場所に預けてあるっす。な?」トレイが目配せしながら口にし、3人とも頷く。


「ふ~ん」カーラは酒を傾けながら微笑む。


 すると店長がカウンターから出て鍵を片手に地下への扉を開く。それを見て闘技場目当ての者達がドタドタと扉を潜る。


「さて、そろそろだな」トニーは腰を上げ、トレイたちを案内する。扉を潜ると、4人の子供らの鼻に悪臭が襲い掛かる。血と汗と何かが腐った様な悪臭とかび臭さが鼻の奥を貫き、4人とも殴られた様な表情で顔を押さえる。


「都会慣れしたお子様には刺激が強すぎるかな?」トニーは得意げに口にしながら慣れた足取りで地下階段を降りて行く。


「何が刺激だ! 臭いだけじゃないか!!」ひとりが嗚咽と共に訴える。


「サイテー……本当に退屈しないのよね?」もうひとりが涙目で鼻を押さえる。


「初めて嗅ぐなぁ……こんな臭い」一番小柄なひとりが興味半分に階段を降りる。


「この匂い、ゲロぶちまけた奴が掃除しないまま帰ったな? おっさんはちゃんと管理しなよぉ」カーラは歓喜する様に地下に風を送り込み、悪臭を見せの外まで吹き飛ばす。が、それでも改善されなかった。が、この腐臭にクレームを申す者は4人の子供らだけであった。


「最悪、空腹も失せるわ……」子供らは文句を垂れながらも息を止めながら最前列の席に座る。カーラは4人の間のど真ん中にドカリと座り、本日のメンツを確認し口笛を吹く。


「あれ、トニーは?」と、トレイが見回す。


「あいつは出場するから、あっちね。今日の出場者は中々ね。傭兵団の稼ぎ頭に、ギャングの力自慢。お、B級ハンターのマーヴもいるじゃん」と、紹介する様に口にする。すると、マーヴがカーラに気付いたように苦そうな表情を作り、歩み寄った。


「今日は出場しないんだな?」彼は何か釘を刺したそうな口ぶりで話す。


「えぇ。あたしが出るとつまらないんだってさ」彼女の言う通り、店長からは出場を控える様にお願いされていた。理由は誰を相手にしても蹴り一閃で勝負がついてしまう為であった。マーヴも彼女の蹴りを首に喰らい1カ月、寝たきりになる重傷を負った。


 彼女の言葉に安心したのか背筋を伸ばして胸を張り、機嫌の良さそうな表情を作る。


「今日の俺はセコンドだ。面白いヤツを連れて来たんだ」と、親指を背後へ向ける。そこには彼よりも一回り程小さく痩せた青年が腕にバンテージを巻いていた。


「誰?」


「最近、俺の相棒になったスティーブだ。仕事の時は不思議な筒を使って身体を強化するんだが……お前より強いかもな」彼は自慢げに話しながらスティーブの隣へと戻り、彼の肩を揉んだ。


「へぇ~、あいつが噂のね。トニーは久々に楽しめるかな?」


 しばらくして準備が終わり、淡々と始まる。店主がルールを口早に説明し、彼が決めた対戦カードで行われる。因みにルールは『武器と身体強化を含めた魔法は禁止』『賭け事も禁止』『それ以外は何でもあり』であった。この闘技場は純粋に戦いを楽しむ者達の為のリングである為、不純な要素は一切ナシと決めていた。その為、ギャングの出入りは歓迎していなかった。


 ゴングと共に試合が始まり、対戦者同士が雄叫びを上げ、殴り合いが始まる。その戦いは殺し合いの様に物騒であり、血と汗と反吐が混じり合った最悪の暴力であった。周囲の観戦者たちは興奮と共に応援と野次を飛ばす。


「こんなのどこが面白いの?」ひとりがうんざりした様にため息を吐く。


「シティのダンスバーの方がまだ面白い。あっちは参加できるしね」


「……わぁ……」ひとりはサングラス越しに殴り合いを眺めた。


「低レベルな戦いっすね。魔法も無い、武器もない、なんなら技術もない。ただの殴り合いじゃないか……シティの喧嘩の方がまだハイレベルだ」トレイは頬杖をつきながら欠伸をする。


「そう、最初はこんなもんよ。夜はまだ始まったばかりよ、少年」カーラはワクワクした様な眼差しの奥にギラギラとした殺気を抑えながら観戦していた。




 試合が進むごとに戦いが白熱していく。激化した殴り合いは殺し合いの様に物騒になっていく。目は潰れ、歯は飛び、血反吐を吐き散らす。それを見た観客は興奮しながら歓声を上げ、客席でも殴り合いが始まる。


4人の子供らも最初は冷めた態度で観戦していたが、観客席の熱気に当てられたのか、はたまた初めて顔面の潰れる場面を目撃したのか、興奮に呑まれて暴力に酔い始めていた。中でもサングラスをかけた子は前のめりになって応援の声を上げていた。


「お、次はメインね」カーラが呟くと、ダブルノックダウンした選手が引き摺り出され、トニーが闘技場に姿を見せる。彼は冷静に上着を脱いで上半身裸になり、指と首骨を鳴らす。盛り上がった筋肉からは蒸気が上がっており、殴り合いの準備は整っていた。彼はこの店の闘技場のチャンプであり、いわゆる花形であった。


 彼の正面には新人であるスティーブが立っていた。彼のギルドハンターとしての腕前を見込まれ、初日からチャンプと戦う許可を得たのであった。


「初めまして、新人君。自身の方はどうかな?」


「あー……マーヴが色々言っていたからよくわからないが……よろしく」スティーブは何かの合図か自分の胸をトントンと叩き、その場で小さく飛ぶ。


 すると、トニーは素早い動きでジャブを放ち、容赦なくスティーブを殴りつける。彼はジャブで防御や構えを崩し、一気に顎を捕える戦闘方法が得意であった。


 スティーブはそのコンボを防がずに殴られ、そのまま顎を打ち抜かれ、そのまま後ろへ素っ飛ばされる。


「なんだ、呆気ない」拳に残った確かな手ごたえを感じ取り、ガッカリした様にため息を吐くトニー。


「おいおいおい!! チャンプが相手でも秒殺はないだろ?!」セコンドのマーヴが柵を叩きながら激を飛ばす。


「あ……いや、一旦殴られてみた。成る程……強いな」スティーブは顎を摩りながら嬉しそうに笑い、ゆっくりと起き上る。


「お、余裕そうだな。さすがA級ハンターだな」


「それ程でも。じゃあ、俺もやらせて貰おうかな?」


「いや、このままお寝んねして貰うぜ。俺、今のギルドハンターが嫌いなんだよ」トニーは口にした瞬間、再び瞬時に間合いを詰め、今度はボディを狙った連打を見せる。が、今度はそれをスティーブが防ぎ、素早い足取りで一回転し、裏拳を見舞った。


「うぉ、やるな……」口血を拭いながら唸るトニー。


「あんたの拳の速さは見えた。ハンターが嫌いか?」


「今のギルドが嫌いなんだよ。魔王軍の息のかかったクソッタレ共がよぉ!!」トニーは歯を剥き出しにして殴りかかる。


「おぉ、そこまで意識して働いてなかったな……」

如何でしたか?


次回もお楽しみに

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