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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第5章 バルバロンの闇と英雄の卵たち
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70.カーラの物語 Year Two トレイの依頼

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

「ま? 本当かよ?!」トニーは目を回して仰天するが、カーラは落ち着いたように口元を拭き、トレイに向き直る。


「何かの悪ふざけかしら? それが本当なら、証明できる?」彼女の口調は相手から答えを導き出そうとする教師の様だった。


「ん~、2人の評判を聞いて来たんっすけどね。どんな者でも無事国外から逃がせるって。それに、俺っちたちが逃がし屋たちの事を魔王軍に告げ口してもいいんだけどな~」彼は少年と青年の間という顔で悪戯気に笑う。


「マジかよ、俺達を脅迫するのか?」


「信じないと言っているわけじゃないわ。貴方とそのツレが魔王の身内だってことを証明して欲しいの」


「ん~、じゃあ合わせる代わりに、2人が本当に信頼できる人か仕事ぶりを見せて下さい。そうすれば、会わせるっすよ」トレイは調子を崩さずに口にし、トニーの前に置かれたナッツを摘まむ。


「因みに報酬は?」トニーはナッツの小皿を遠ざけ、彼を睨む。


「相場は2人で2000ゼルっすよね? 余裕で足りるっすよ」


「いや、本当にお偉いさんの息子さんなら……話が変わってくるんだ。色々な」トニーは悩む様に首を捻る。その間にトレイはナッツの皿を彼からくすね取り、再び頬張った。


「とりあえず、仕事場を見学させてあげる。その間に父さんに相談ね」


「じゃあ、早速行くっすよ!」と、トレイは腰を上げて酒場から出る様に2人に催促した。


「物怖じしないな、子供のくせに」トニーは呆れた様に首を振る。


「あの子、クラス4の水使いよ。魔力循環が普通じゃない。それに、少しも魔力を漏らしていない。子供ながらに相当な使い手ね」


「マジで?」




 2人はトレイを連れてチョスコ首都の外れにある村に向かう。そこにリーアムらは潜伏しており、2人の仕事場もここにあった。


この数ヵ月でチョスコは一気に魔王軍色に染められており、すっかり魔王の政治を受け入れていた。ボディヴァ家は森の中でゲリラ活動を行い、反乱軍を組織していたがノーマン率いる部隊と幾度か交戦し、兵数を減らしていた。2人は数度、手紙でビリアルドとやり取りしており、逃亡の手助けをすると送った。彼は『それは父が許さない』と返していた。


 ニックは港を出たっきり姿は見せていなかった。


カーラはトレイを仕事場へ入れ、書類の山と積まれたデスクを見せた。その書類は国外へ出た者とこれから出る者のデータが書かれ、行先などが記されていた。出た者の書類は無事に逃亡し生活が安定したという手紙が来るのを合図に焼却処分していた。


「俺達が使っている港は2つ、チョスコ湾とダダック港。知り合いの輸送会社は2社。信頼できる」トニーは自信満々に腕を組む。


「これだけじゃ、あんた達が信頼できるって証拠にはならないっすねぇ~」


「じゃあどうすりゃいいんだよ!」と、苛立ったように唸る。


「1週間、あんた達の仕事を見せて下さい。それで判断するっす」


「随分用心深いんだな。てか、1週間も余裕はあるのか?」トニーは腰を曲げて彼の目を覗き込む。


「……それだけ慎重って事っすよ」


「言っておくが、逃がし屋の仕事はそんなにしょっちゅう来るわけじゃないし、半分以上は運送業と情報工作、武器密輸が主だ。まさか、それも見たいっていうんじゃないよな?」


「言ったっすよね? あんた達の仕事を見せてくれって」トレイはにっと笑った


「マジか」彼は参った様に頭を掻き、溜息を深く吐いた。


 



 その頃、カーラはリーアムの家を訪れていた。彼はこの村の村長の相談役となり、うまく立ち回り潜伏していた。


「父さん、面白い話があるんだけど」


「ほぅ? お前が面白いと? 話してみろ」リーアムは手紙に目を通しながら彼女の話に耳を貸す。魔王の息子絡みだと知った途端、目の色を変えて窓の外を伺った。


「やっぱヤバい?」


「その話の裏を取るが、扱うつもりか?」


「あら、あたし達より信じるんだ、この話」意外そうに驚くカーラ。


「情報を扱う仕事を任せたが、まだまだだな」リーアムは呆れた様に書類を彼女に渡す。そこには新聞にも書かれていない様々な事が書かれていた。


「ファーストシティから魔王の息子『スワート・ワーグダウナー』が姿を消した、か……家出ぐらい誰でもするでしょ? あたしも3回はやったけど」


「お偉いさんの息子に家出は許されないんだ。特に、魔王の身内はな」


「って事はこの話の魔王の息子は本物と?」


「その裏を取る。他にも色々とな。この話を耳に入れたら飛んで来る奴がいるんだ」リーアムは紙を取り出して慣れた様にペンを走らせる。


「一応、本物なら国外へ逃がす方向でいいんだよね? 騙して売り飛ばすとか、やらないよね?」


「そんな事はさせないさ。が、その息子さんはどういうつもりで国外へ逃げたいのか……そこを聞き出さないとな?」リーアムは手紙を書き終わり、丸めてサンダースパローの脚に括り付けて飛ばした。


「そこは任せて。じゃあ、あの坊ちゃんを手懐けますか」カーラは気合を入れる様に手を叩き、笑いながら手を振って家から出ていった。


「魔王絡みか……運が向いて来たか、果たして……」リーアムはもう一枚手紙を書き始めた。




 2人の仕事場ではトレイが本棚の本を読み漁りながらトニーに質問攻めにしていた。


「最後に戦ったのはいつ? 2人は相当強いみたいだけど」彼は魔法学の本を読みながら問う。トニーはうんざりした様に頬杖をつきながら答えていた。そこへカーラが現れ、彼の後頭部を引っ叩く。


「ちゃんと見張りなさいよ」


「勘弁してくれよぉ……逃がし屋だけじゃなく、他の仕事の事まで根掘り葉掘り聞きやがってよぉ」


「答えられたの?」


「イマイチ」彼は力仕事担当なので詳しい事までは答えられなかった。


「じゃあ、今度はあたしとおしゃべりしましょうか。その本はどう?」トレイが次に取った教本を指さしながら問うた。


「随分、勉強しているみたいだけど魔力循環は早いけど、解放は得意じゃなさそうっす。見た感じ魔法は得意じゃなくて、魔力を力に変えるインファイトが得意って感じっすね?」トレイは片眉を上げながら得意げに口にする。「で、相棒さんは魔法と縁のない喧嘩自慢っすね」


「こいつ……」トニーは額に血管を浮き上がらせるがカーラが阻む。


「中々鋭いわね。そう言うアンタはあたしと真逆ね。魔法は得意だけど接近戦は苦手ね?」


「魔法が得意なら格闘の必要はないっすからねぇ」と、手の中で水魔法を蛇のように這わせながら口にした。


「へぇ~子供が知った風な口を効くんだねぇ~、よし! 面白いところに連れて行ってあげる」カーラは何か企む様な表情を見せる。


「おい、あそこか? 仕事と関係ないし、子供の行くような場所じゃないだろ?」


「ただ仕事を見せるだけじゃつまらないでしょ? 1週間も付き纏うなら、楽しませてあげましょう」


「どこへ連れて行くつもりっすか?」


「……ちょっとした遊び場よ」カーラはそう言うと、トレイを外へ連れ出した。


「何が遊び場だよ……」トニーは深い溜息を吐き、彼らの後を追った。


カーラが連れて行く先はチョスコ国内にあるプーム村の酒場であった。この地下には昔からとある娯楽が行われていた。それは小さな格闘場であった。夜になるとここには元兵士や傭兵、盗賊、賞金稼ぎに至るまで集まり、賭けと共に一対一の殴り合いが夜な夜な行われていた。今は夕暮れである為、小間使いが箒で闘技場の掃除を行っていた。


「今日は早いな、カーラ」酒場の店主が出迎える。


「ちょっと小さな観客を連れて来たわ。面白い試合を見せてよ」


「お前は戦わないのか?」店主がグラスを拭きながら問う。


「トニーがやるよ」


「え゛ぇ?! まぁいいけど……」と、トニーは夜が来るまで卓に付き、夕飯を注文し始めた。トレイも座り、彼女らの奢りで夕飯を頼んだ。


「へぇ~、面白そうっすね」

如何でしたか?


次回もお楽しみに

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