68.カーラの物語 Year One 海上チェイス!
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
カーラは幾度も鋭くも重い蹴りを放ったが、グームは汗ひとつ流さずにそれを打ち払い、突風を纏った拳と蹴りを放つ。彼の風神の型から放たれる攻撃には全て凄まじい風圧が纏っており、見た目の数倍の大きさの拳が瞬時に見舞われる。彼女はその攻撃を何とか防ぎつつ受け流し、空中で錐揉み回転をして衝撃波を分散させる。が、風圧から生じるかまいたちが肌を斬り裂き、ズタズタに斬裂かれていた。ギリギリ動脈は斬られずにいたが、出血が酷く、息を荒げていた。
「決着の様だな。もう諦めて投稿しろ」グームは鼻で笑いながら口にする。
「何言っているの? ここからが面白いんじゃん!」カーラは口血を拭い、ギラギラとした笑みを浮かべる。傷だらけの身体であったが、一切弱味を見せずに構える。
「その笑み……ある人を思い出すよ。黒勇隊の初代総隊長が、よく戦いの前にそんな顔をしていたな……不気味だったよ」
「へぇ~、会ってみたいねぇ」
「死んだよ。今のお前みたいに無茶をしてな!!」グームは正拳突きを放つ構えを見せた瞬間、凄まじい突風と共に間合いを詰める。カーラが防ぐ構えを見せる前にその拳は鳩尾にめり込み、衝撃波が背後へと突き抜ける。彼女はまた敢えて吹き飛ばされて衝撃を散らそうとしたが、既に体内は衝撃波でダメージを受け、胃袋から灼熱が昇り、激しく吐血した。そのまま彼女は海へと落ち、海面に叩き付けられる。そのまま身体が海へと沈んでいき、泡だけが昇り、真っ黒な海に黒い染みが浮かび上がった。
「手応えありだ。さて、港の騒ぎを沈めなければな……」と、目下の騒ぎに目をやる。火柱が立ち登り、倉庫からは煙が立ち上り、爆炎と共に吹き飛んでいた。ため息交じりに部下の元へ飛ぼうとした瞬間、後ろ髪を掴まれる様な気配を感じ取り、振り向く。
すると、眼前には鬼の様な形相をしたカーラが蒸気を上げながら睨み付けていた。
「まだ終わってないよ~?」彼女の形相にグームは冷や汗を掻きながら唾を飲み込み、再び風神の型を構える。
彼女の容態はもう戦えるコンディションではなかった。内臓は破裂して胃は傷つき、全身が捻じ切れるような激痛が走っていた。が、頭は冴えて身体は今まで以上に力が沸き、そして殺意が最高潮に達していた。カーラは耐え難い激痛以上にこの戦いの興奮を嬉しみ、鬼面のまま血唾を垂らしながらニヤリと笑った。
「そ、その顔……間違いない、ジャレッドだ……初代総隊長……あの怪物と同じ顔だ!!」グームは震えた声で怒鳴りながら再び正拳突きの構えを見せる。彼は明らかに怯えており、身体に纏っている風が委縮していた。
「怪物とは失礼じゃない……え? おっさん!!」カーラは殺意のままに襲い掛かり、未だ嘗てない最高のフォームで回し蹴りを放った。迎え撃つ形でグームは正拳突きを放っつ。2つの殺意がぶつかり合い、彼の風神の拳は骨片をばら撒きながらバラバラに砕け散る。彼が痛みを感じる間もなくカーラはそこから回し蹴りを放ち、彼の頭を刈り取った。グームの意識は消し飛ばされ、そのまま海面を転がって沈んだ。
「ふふ、ふふふふふ……トニーの言う通りね。でも、これをいつでも出せないとね」カーラは興奮を押さえる様に殺気で揺らめく髪を撫でつけ、待ち合わせ場所へ飛んでいった。
カーラがジェットボートへ戻る頃、ボートの魔動エンジンは温まっており、いつでも逃げだす事が出来た。ニックは貧乏ゆすりをしながら操縦桿を握り、トニーは仕事をやり切った様にぐったりと荷物置き場で気絶していた。ビリアルドは未だに落ち着いておらず、いつ自分の番が来るのかと、やきもきしていた。
「お待たせ! うっ……急に力が……まずいなコリャ……」急に顔色が青くなり、人形のように力が抜けて転がる。
「大丈夫かよ! よし、逃げるぞ!! ん?」上空から太陽の様な光が降り注ぐ。上空にはガルムドラグーンが3機睨みを効かせており、ヒートバルカン砲を唸らせていた。
「逃げるぞぉぉぉぉぉ!!!」
ニックは慌てて発進させ、ジェットボートを奔らせた。海上を高速で突き進もうとするが、そこへビリアルドが割って入る。
「追手は巻くのだよ! チョスコからの襲撃とは悟らせてはいけないのだよ!!」
「急な注文だな!!」と、操縦桿を切って沖の方へ向かう。ガルムドラグーンは3機ともボートの尻に喰らいつき、直ぐ後部と左右にヒートバルカンの火炎弾の雨を降らせていた。
「アレはヤバいな……サンダーキャノンのチャージが終わったら、このゲームは終わりだぞ? 何とかならんか?」
「僕が何とかするのだよ!」と、ビリアルドは外へ身を乗り出し、ガルムドラグーンを睨み付ける。サンダーキャノン砲はニックが言う通り、砲門が青白く光っており、最高のタイミングを今かと待っていた。
「何か策があるのか? 男爵よ!!」
「あの兵器は雷なのだろう? だったら、僕の雷で逸らす事ぐらいは出来る!!」と、砲門に集中しながら腕に雷を纏わせる。
次の瞬間、飛空艇から連続で雷が放たれる。その3発全てがジェットボートの上空で炸裂する。その瞬間、ビリアルドは左右に雷魔法を展開させた。すると、その雷へ向かってサンダーキャノンの雷が引っ張られて海上で爆散した。
「よくやった! 流石は賢者候補だな!!」
「そんな肩書きは今は意味がないのだよ!! 僕は雷魔法をなんとかするから、巻くなり飛空艇を落とすなりするのだよ!!」
「また我儘な注文だな!! 1機ならともかく、3機だろ? 無理だ!」
すると2機のガルムドラグーンが急旋回して港の方へと戻っていく。ダダック港では倉庫の爆発火災騒ぎ以外にも、これを機にダダック反乱軍が港へと雪崩れ込んでいたのだった。黒勇隊が照明弾を上げ、2機が援護へと戻ったのであった。
「これはラッキーだ! 1機なら何とかなるかもな!」ニックは勝機を感じ取り、微笑んだ。
この急な反乱軍急襲の裏にはリーアムの情報の横流しが効いていた。カーラの気まぐれで急な襲撃にはなったが、反乱軍はいつでも戦える準備をしていた為、この急襲を可能にした。
ニックの勝機とは裏腹にガルムドラグーンは余裕を持ってジェットボートを追い立てる。玩ぶようにヒートバルカンを連射しサンダーキャノンを、行く手を阻む様に撃ち込む。眼前でいくつも水柱が上がり、ボートが波に煽られる。
「頼む、揺らすな……気持ちが悪くなってきた……」床に転がったトニーが顔色を青くさせながら訴えた。
「同じく……あの蠅、鬱陶しいなぁ……でも、もう飛ぶ元気もないし……ニック、このボートに武器は積んでないの?」カーラも不機嫌そうに怒鳴る。
「普段は運搬しかやっていないからな。酒瓶でも投げるか?」
「僕が何とか撃ち落とすのだよ!!」ビリアルドは両腕に雷魔法を蓄え、一気に飛空艇へ向かって放つ。が、明後日の方向へ飛んでしまう。
「下手くそ!!」ニックが操縦桿を切りながら悪態を吐いた。
「雷魔法って言う奴は真っ直ぐ飛ばすのが難しいのだよ!!」
「はいはい口喧嘩しなーい。男爵、もう一度魔力を溜めて。ニック、揺らさない様に操縦して。で、あたしは」と、手の中で小さな竜巻を作り出す。
「揺らさない様にって……無茶いうなよ!」
「男爵が撃つ一瞬だけでもいいから揺らさない様にして!! あたしが風で砲台を作るから狙えるようにしたいの!」
「……よぉし、了解!!」ニックは何かを思いついたのか出力を全開にして速度を上げる。飛空艇から距離を置く事は出来たが、振り切る程ではなかった。が、ニックは強引な操縦桿さばきでUターンをしてみせ、飛空艇を正面に捕え、再び全速力で奔らせる。
「準備はいい? 男爵!!」
「あぁ、いいのだよ!!」
「よし!! 舌噛むなよ!!」と、ニックは操縦桿を上下させ、滅多に使わない補助ブースターを作動させる。すると船体が浮き上がり、飛空艇の正面へ向かって飛ぶ。その間は彼女の注文通り揺れる事は無かった。
「撃てぇ!!」カーラは竜巻の砲台をガルムドラグーンへ向け、そこへビリアルドが雷魔法を注ぎ込む。サンダーキャノンに負けない砲撃がジェットボート上で炸裂して飛んでいき、雷の矢が飛空艇の正面を捕え、貫く。機体は爆散し、パイロットは海面へダイブした。
「よしぃ!!! 当たりぃ!!!」同時にジェットボートが海面へ着水し、海水と瓦礫が雨の様に降り注いだ。
「注文通り、巻いたぞ……整備費はボディヴァ家にツケておくからな!!」ジェットボートのエンジンは悲鳴を上げ、船体は傷だらけになっており、後部では我慢できずにトニーが嘔吐していた。
「格好つかないねぇ。ま、話す時はいいトコロだけ掻い摘んで説明しようっと」カーラは笑いながら安堵のため息を吐き、同時に血を吐き己の重症に喘ぎ始めた。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




