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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第5章 バルバロンの闇と英雄の卵たち
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64.カーラの物語 Year One 男爵VSトニー

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 目を回して気絶したビリアルドに水をかけ、頬をペチペチと叩くカーラ。彼女らの助力を賭けた勝負ではあったが、まだトニーが2発した拳を振るっておらず、勝負になっていなかった。


「おーい、まだ始まったばかりでしょう? 起きて~」


「普通ならこれで勝負ありだろ……」ニックは呆れた様に頭を押さえる。


「……だよな? なんでコイツに戦わせたいんだよ?」トニーは疑問に思い、カーラに問う。あまりも手応えに無いクラス4に、自分は彼女に担がれているのではないか、とまで疑っていた。


「男爵の本心を引き出したいと思ってさ。協力してよ、トニー」カーラは笑い掛けながらビリアルドの頬を叩く力を強める。「おら、起きろ!!」


「痛い! 起きる! 起きるからやめるのだよ!!」急いで飛び起き、トニーを見ると再び身構える。身体から稲光を発生させ、周囲に雷をばら撒き始める。


「うひゃあ! 退散退散!」ニックは慌ててその場を離れ、木陰に隠れた。


「ん~、あたしの見立てだと……」カーラは見切った様なステップで雷の雨の中を歩き、彼らから距離を取る。


「今度は油断せず本気でいくのだよ! 覚悟するがいい!!」手の中で稲妻の球を作り、トニー目掛けて放つ。それは勢いはあれど真っ直ぐには飛ばず、ヨタヨタとした軌道で前進し、明後日の方向へ飛んでいった。着弾すると凄まじい破裂音が轟き、焦げ臭いにおいが漂った。


「威力は凄いが……なるほど、コントロールがイマイチなのか」トニーはニヤリと笑い、拳を握り直す。徐々に距離を詰めていき、鼻先で止まる。


「何だ?!」相手の意図が読めず、狼狽える。


「一発当ててみな。クラス4の稲妻を味わってみたい」トニーはその場で腕を組み、仁王立ちする。それを見てカーラはため息を吐きながら口を尖らせる。


「甘く見ない方が良いよ? 雷の威力は中々見たいだから……」


「その通り、甘く見るな……僕を……」ビリアルドは額に血管を浮き上がらせ、唸る様に口にする。




 彼は賢者候補としてこの数年間、彼なりに頑張ってきた。チョスコの危機の為に立ち上がり、ククリス魔法学院で術者や兵士、大臣らに頭を下げ、助けを乞うた。が、ククリスが与えたのは『賢者候補』という箔のみであった。ククリスは彼を鼻から賢者に選ぶつもりは無かったのである。


 その事にビリアルドは最初から気付いており、周囲の物から陰で馬鹿にされているのも知っていた。その悔しさをバネに研鑽を詰み、1年の旅を経験したが、全ては空回りに終わってしまう。何の成果も無く、『賢者候補』という肩書のみ持ち帰っただけであった。


 何もできず、誰も手を差し伸べてくれなかった現実に嘆き、悔しさを腹の中で溜めこんでいた。その結果、昨日酒場で理想を喚き散らしたのであった。




「僕を、舐めるなぁァァァァ!!!」ビリアルドは腹の底から怒鳴り、殺気立った両手に込めた稲妻を放つ。それは龍の様に暴れ、眼前のトニーに喰らいついた。彼は奥歯を噛み絞め、全身に力を込める。全身に血管が浮き上がり、髪の毛が全て逆立つ。皮膚がほんのりと焼け焦げ、歯の間から黒い煙が立ち上る。「どうだ!」



「俺の番だ」



 トニーは一瞬で構え、ビリアルドの腹に一撃を見舞う。深々と腹筋に突き刺さり、鈍い音と共に宙へ舞い上がらせる。


「うぐぷっ!!」彼は崩れ落ちて蹲り、嘔吐した。


「こんなもんか……クラス4の雷は……」トニーは逆立った髪型を整えながら血唾を吐き捨てる。強がってはいたが、実際は現在のビリアルドよりもダメージが大きかった。が、強がるように余裕の笑みを見せ、指骨を鳴らす。


「油断して心臓を止められないようにね」カーラはそんな彼の強がりとダメージを見抜いていた。


「なぁに、あのぐらい……あと10発喰らっても倒れる気はしないな」


「がはっ……お、おのれ……」ビリアルドは立ち上がろうとしたが、膝が笑い上手く立てずにいた。


「どうした男爵? だらしねぇぞ~」トニーは挑発する様に前のめりになって、彼の眼前で満面の笑顔を覗かせる。


 すると男爵は彼のそんな顔を鷲掴みにした。


「調子に乗るな!!」次の瞬間、掴んだ手の中で閃光が爆ぜ、彼の顔面に焦げた返り血が飛ぶ。


「ぐぁっ!! こいつ!」掴まれた手を振りほどき、急いで距離を取る。彼の目は白濁し、血涙が流れていた。「なんだ? 真っ暗だぞ……?」周囲を見回して手さぐりに探る。


「視神経を焼いたのか……ただでは終わらなそうね」カーラは口笛を吹き、口角を上げる。


「ここからは僕の番だぞ!!」と、ビリアルドはクラス4の無尽蔵の魔力を生かして雷をばら撒き、いくつもの雷柱を立てる。これによってトニーの耳を攪乱し、気配を悟られないようにする。そこからビリアルドは一方的に雷球を投げつけ始めた。半分以上は外れたが、1発2発と直撃し、トニーに着実にダメージが入った。


「ぐぁっ! くそ!! 調子に乗りやがって!!」片膝をつきそうになるが踏ん張り、気配の方へ拳を振るう。が、足腰は痺れて上手く動かず、拳の遠心力で転びそうになる。


「どうした? 無様なもんだぞ!!」ビリアルドは調子に乗り、お返しと言わんばかりに吐きかける。


「そこか!!」トニーは声の方へ拳を振るったが空を切り、その場で回ってついにはバランスを失って転ぶ。


「あ~あ、調子に乗るからそうなるんだよ?」カーラはため息交じりに、ガッカリと言わんばかりに口にする。


「うるせぇ……でも、待っていたよ……こういうの……」トニーは雷に打たれ放題にされ瀕死のダメージを負ったが、それでも余裕の笑みを蓄えていた。


「待っていた?」


「あぁ……こういう、ピンチ……目も見えず、上手く身体が動かず、激痛に塗れてよ……あとパンチ一発程度しか打てないかな? だが、これがいい……」と、ゆっくりと起き上り、見えない目と聴力の鈍った耳、痺れた肌でビリアルドの場所を探る。その間、ビリアルドは容赦なく彼に雷を浴びせ続けた。


「降参するのだよ!! これ以上続けたら、本当に心臓が止まるのだよ!!」彼のこの言葉がトニーの耳に突き刺さった瞬間、心中で闘志が爆裂し、彼が拳を意識する前にビリアルドの顔面を打ち抜いていた。トニーの全身は稲光が絡みつき、あと数瞬電撃を流されていたら彼の言う通り、心臓が止まっている所であった。


「あ……がっ……」ビリアルドは目を剥き、あんぐりと口を開けたまま仰向けに倒れた。


「はぁ……はぁ……少しは、カーラに近づけたかな?」トニーは満足そうに笑い、見えない目で己の拳を見つめる。


「今度は勝負ありでいいんじゃないかな? どう思う、ニック」カーラが問うと、彼はため息交じりに恐る恐る近づく。


「お前ら、普段からただの喧嘩に命を賭けているのか? バカだろ?」


「命を賭けないと覚悟ってのは見えないからねぇ。で、男爵の覚悟はどうかな?」カーラはビリアルドに近づき、注意深く観察する。


 すると、今度は誰の手も借りずに彼は不器用にゆっくりと起き上る。頬骨は砕け、意識は未だに宙を舞っていたが、踊った膝のまま起き上り、トニーの方へ向き直る。


「ま、まだなのだよ!! まだ、終わっていないのだよ!!」白目を剥いたまま腕に雷を纏い、闘志を剥きだした顔を向けた。


 が、トニーは言葉を返さないままその場で立ち尽くしたまま動かなかった。数瞬して何かに気付いたカーラは彼に駆け寄り、指で小突く。


「こいつ、気絶してるよ……満足そうに」カーラは呆れた様にため息を吐き、今度はビリアルドに近づく。「って事で、この勝負はあんたの勝ち! あんたの戦いに協力してあげる」


「お、終わりか……勝ったの……か」彼は折角立ち上がったが、力が抜けたのか風船が萎む様に地面に倒れ伏し、そのまま彼も失神した。


「根性見せたなぁ~、男爵さん」ニックは彼に歩み寄り、見直した様に唸る。


「って事で、これからの事を話し合う為に港へ戻るよ。こいつら引き摺ってきて」と、カーラは鼻歌を唄いながら港方面へ向かった。


「ほいよ……って、えぇ? 俺が1人で2人を連れて行くのかよ!? 聞いてねぇよ!!」と、彼はブツクサと文句を言いながら気絶した2人を担いだ。「冗談じゃねぇよ」


如何でしたか?


次回もお楽しみに

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