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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第一章 光の狩人と愉快な仲間たち
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56.酒と策と愉快な仲間たち

いらっしゃいませ!


では、どうぞ!


「今帰ったぞ! エレン、これでいいのか?」


 真夜中になってやっと、ヴレイズが戻ってくる。彼は両手に薬草を山ほど抱え、机にドサッと置く。


「……片端から買ってきたんですか?」呆れた様に眉を下げ、ため息を吐くエレン。


「店に置いてなかった奴は図鑑片手に野原で摘んできた。どれも水魔法と相性がいいはずだぜ!」


 ヴレイズは早速、野草を火で乾かして粉末して混ぜ合わせる。エレンはそれを注意深く確認した。


 そんな2人を横目で見ながらラスティーはグレイスタン城下町の見取り図にこれでもかと記号を書き込みながら煙草の紫煙を燻らせた。


「おう、ラスティー帰っていたのか。何か重要な物でも見つけたのか?」彼の様子を見たヴレイズが背後から近づく。


「あぁ、アリシアからブリザルドの事を聞いて、な」



「は? 起こしたのか?」



 顔色を真っ赤に染め、目の奥から炎が噴き出る。


「アリシアを無理やり起こして、聞き出したって言うのか?!! あんなに傷ついているのに!!」今にも殴りかかりそうな勢いでラスティーの胸倉を掴み、拳に火を纏う。


 そんな彼の肩をエレンが掴み、落ち着いた口調で声を出す。


「彼女が自分の意志で起き上り、ラスティーさんに説明したんです。今は疲れ果てて寝ています」


「……そうか……悪ぃ」鎮火させ、俯いて踵を返し、薬の調合に戻る。


 そこからヴレイズとラスティーは目も合わせる事もなく、黙々と作業に没頭した。エレンはそんな空気の中で顔を渋くさせ、アリシアの眠る洗面所へと入った。




 星空輝く真夜中、町と宿の光は消えて町民たちの殆どは床に就いていた。


 そんな暗い部屋の中、蝋燭の光をひとつ灯し、ラスティーは地図を丸めて大きく唸っていた。机の上はインクと灰で汚れ、彼は濡れタオルで顔を拭い、一息つく。


 その部屋にヴレイズがノックして入る。少し気まずそうな表情をしていたが、目は真っ直ぐ向いていた。


「よ、久々に酒でも飲むか?」背中を向けながらラスティーはグラスとボトルを用意する。


「そんな余裕があるのか?」


「あぁ、日が昇るまでは余裕がある。それまで、一服したいんだ」ヴレイズの返答を待たずに2つのグラスに琥珀色の液体を注ぐ。


 ヴレイズは彼の隣に腰掛け、黙ってグラスに手を掛ける。


「日が昇ったら、どうするんだ? 先に聞いておきたい」


「いや、今は休憩だ。頭をクールダウンさせるんだ。だから、今だけは策とか忘れよう」ラスティーはグラスの音を鳴らし、一気に喉に流し込む。空っぽの胃と煮立った頭にアルコールが流れ込み、表情をクシャっとさせる。


「んめぇな……」


 ヴレイズも口にし、グラスを机に叩き付ける。


「くぁっ! 熱ぃな……」


「俺の故郷の酒だ。ソルティーアップルの種を絞って作ったヤツだ。もう作られてないがな」もう一杯注ぎ、一気に流し込む。


「そんな貴重な酒を今、飲んでいいのか?」


 ヴレイズが問うと、ラスティーは静かに煙草を咥え、自分で火を点けた。



「……俺はな、ヴレイズ……自分の国を取り戻すためなら、なんだってやるつもりだ。と言うか……『自分の国を取り戻す』って目標がどんだけ険しいかわかるか? そして、そんなデケェ目標よりも、『魔王討伐』って目標は……数倍険しく厳しいんだ。


 俺は命をかけるつもりだが、俺のだけじゃ足りないだろう……ヴレイズ、もしアリシアを死なせたくない、自分も死にたくない、と思うなら……無理強いはしない。もう俺たちと来るのはやめる事だ。」



 このセリフの後に、また酒を飲み下し、煙を吐き出す。


 ヴレイズは目を伏せ、何かを考える様に俯く。



「……俺は……魔王討伐なんてあまり興味ないのかもしれない……ただ、自分の復讐の為に……都合のいい目標が欲しかっただけかもしれない……アリシアと出会うまで、俺は街で腐る、ただの賞金稼ぎのチンピラだったからな……


 だが、今は違う。俺は……アリシアを守りたいんだ。彼女を……俺は……」



「好きなんだろ?」ヴレイズのグラスに酒を注ぐ。


「……だから、彼女が死にかけている事も、それでもなお戦おうとしている事にも我慢ならないんだ……だから、お前に当たったんだ……悪い」


「いいさ……だが、彼女の意見は聞いたのか?」


「……いいや」



「彼女も同じだ。お前の事が好きなんだよ。そして、俺達皆の事だけを考えている……おそらく、俺達を助けるためなら、自分の命の事をどうとも思っていない」



 ラスティーはそう口にし、また酒を飲み下す。ヴレイズもグラスを口にし、表情を険しくした。


「……なんでそんな……」


「わからない。だが、そんな危なっかしい彼女をお前は守れるか?」


「……」黙って酒を飲み下し、お替りを注いでまた飲む。


「彼女は、お前が死にかけた時、ただ信じたそうだ。何も出来ないから、ただ信じた。そして、お前は生きていた。さっき、彼女が起きて得た情報を俺に口にし、最後になんて言ったと思う?」


「?」



「ヴレイズが来てくれたってよ。あんなに嬉しそうなアリシアは見た事なかったぞ。あれで彼女がお前にほの字だとわかった」



「ほの字って……」


「ま、彼女はお前を信じたんだ。だから、ヴレイズもアリシアを信じろ。それが唯一、できることだと思うぞ?」ボトルの最後の酒を飲み切り、グラスを逆さに置き、吸い終わった煙草を揉み潰す。


「信じる、か……」ヴレイズも呑み切り、静かに置く。


「で、どうする? 魔王討伐に興味が無いなら、ここでお別れってのも構わないぞ。どうする? 今、決めてくれ」グラスを片付け、静かに煙草を咥える。すると、煙草の先が着火する。


「俺も、もう一度この酒が飲みたいからな。それに……な?」


「な? ってなんだよ」


「言わせるなよ。とにかく、お前が……いや、アリシアが魔王討伐を諦めるまで、俺はついていくつもりだ」


「それを聞けて安心した……俺もアリシアも諦める事は無いと思う。期待してるぜ」


「俺も、お前には期待しているぜ。明日が楽しみだ」ヴレイズは静かに腰を上げ、部屋を出た。




 夜が明け、太陽が東から宿を照らす。


 うつらうつらと船を漕いでいるエレンの顔に日の光が当たる。


「おっと、うっかりしていました」


 彼女の目の前では、ヒールウォーターバスが鮮やかな水色に輝き、その中でアリシアは穏やかな顔で眠っていた。


「やっと、落ち着いたみたいですね……ヴレイズさんの採ってきた薬が効いていますね」


 エレンは殆ど寝ずにアリシアを夜通し看病していた。夜中、アリシアは険しい表情で唸り、安眠は出来ていなかった。エレンはヒールウォーターバスの中に手を突っ込み、心を落ち着かせる魔法を休まずに発動させていた。


「今度はエレンが休む番だな」いつの間にか部屋に入っていたラスティーが声をかける。


「いえ、アリシアさんはまだ十分に回復できていません。このヒールウォーターバスから出られるようになるまで、私が休む訳には……」


「いいから休め。俺が診ているからさ」


「……あなたはどうなんです? もう1週間以上ろくに休めていないのでは?」


「昨夜、少し寝たから大丈夫だ。さ、お前も少し、な?」


「わかりました……」と、エレンは立ち上がろうと腰を上げるも、そのまま崩れて椅子に背中を預け、寝息を立ててしまった。


「……魔力が底をつきかけているじゃないか……ったく」ラスティーはエレンを抱きかかえ、寝室へと運び入れ、ベッドに寝かせた。そのまま踵を返し、アリシアの眠る洗面所へ向かうと、椅子にはバグジーが座っていた。


「ウソを吐かないで下さい、ラスティーさん。貴方も寝た方がいい」


「……悪い……気を使わせて、な」


「それは私のセリフです」




 太陽が真上に来る頃、ブリザルドのいる城へ、一羽の雷燕が飛んでくる。城の番兵にも気取られぬよう、器用に飛び、ブリザルドのいる部屋に入り込む。


「……ローズのサンダースパロウか……どれ」足に巻き付いた文書を手に取り、広げて目を通す。途端に頬を緩め、毒々しい笑いを静かに漏らす。


「裏で動いていたのはジェイソン・ランペリアスか……大方、亡くなった父親の無念を晴らすため、国盗りを考えたか? やるなら故郷のある南の大陸でやって欲しいものだな」読み終わった文章に蝋燭の火を点け、空中で燃えカスにする。


「亡国の王子と愉快な仲間達、か……で、このエレンとヴレイズが余計なマネをしてくれたのか……さらにウィンガズを味方につけ、炭鉱の秘密も暴いたか……」


 何を考えているのか、ブリザルドの額に血管が浮き上がり、眉を鬼の様に吊り上げて瞳を鈍く光らせる。



「面白い! 最近、張り合いがなくて退屈していた所だ。こいつらの未熟な策を正面から叩き潰してやろう! この大陸を飲み込むのはそれからだ」



 楽し気な表情のまま高笑いをしようとするも、強引にそれを飲み込んで我慢する。


「ここでは満足に笑えんからなぁ……」




 その頃、宿ではヴレイズ達が食卓を囲んで遅めの朝食を摂っていた。その食卓の中にはウィンガズも混じっていた。


「うむ、美味い……いやぁ砦のコックの飯は味付けがしょっぱくてなぁ……まぁ戦いに向かう者からすればありがたいのだが……」


「で、ラスティー? 練りに練った策を聞かせてはくれないか?」


「そうですね。私たちも先を急がねばならない身だし、ブリザルドもいつ戦争の火蓋を切るかわかりませんからねぇ」エレンは頷きながらオレンジジュースを飲む。


「よし、説明しよう!」ラスティーは口にしたベーコンを食べ終わり、口を拭いた。


「まず、ウィンガズ殿の兵に用意してもらいたい物がある。『風の共鳴器』だ。これを50ほど。それから、腕のいい風使いを20人だ」この共鳴器は、『風の伝令』キャッチし増幅する力を持っていた。よく中継地点に設置され、風使いが重宝していた。


「任せてくれ。共鳴器は城下町に?」


「あぁ、この前言った通りだ。で、その日が来たら……兵を引き連れて」


「わかっている……」


「で、エレンはウィンガズ殿に付いてくれ」


「ぅえ? 私は一緒に戦えないんですか?」


「エレンにはエレンにしか出来ない事をやってもらう。詳細は後ほど」


「……わかりました」少々不服なのか、頬を膨らませる。


「で、俺は?」張り切る様に胸を張るヴレイズ。


「あぁ、お前にしかできない! ヴレイズは……」


「あぁ! なんでも言ってくれ!」



「囮だ」



「やっぱりな」


いかがでしたか?


次回、アリシア復活!! 括目せよ!

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