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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第5章 バルバロンの闇と英雄の卵たち
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59.カーラの物語 Year One 逃走と追手

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 森の中で5分だけ休み、再び重い身体で無理やり立ち上がるカーラ。彼女の肋骨はまるで体内で百足が這う様な痛みを発していた。本来なら風魔法で空を低空で飛び、数分で待ち合わせ場所に辿り着けたが、キャメロンを背負って飛ぶ事は出来なかった。


 キャメロンは安心して気を失うことも出来ず、未だに傷の痛みと拷問時の体内のむず痒さに苦しんでいた。カーラに体重を預けて何とか立ち上がるも、両膝とも踊り続けていた。まともに歩けず、一歩進むたびに捻じ切られる様な激痛が走り、血の混じった咳と呻き声を殺す。


 そんな彼女らを探す為、魔王軍の追手が周囲を探索しており、上空にはたった一機だがガルムドラグーンがサーチライトを当てながら旋回し続けていた。


「くそ……少し急がないと……」カーラは風魔法で自分の出来る術を必死に考え、ある一つの無茶を試すつもりだった。それは『大地に風魔法の道を作り出し、高速で駆け抜ける』というものであった。キャメロンを担いで飛ぶ事は出来なかったが、走る事は出来た。が、自分の肋骨の痛みを無視しなければ不可能であった。更にキャメロンにもその無茶を強要しなければならなかった。


「ちょっといい……今からすんごい無茶するんだけど……」カーラは今から自分のやる無茶を軽く説明し、返答を待つ。キャメロンは身体の痛みを押し殺しながら血涎混じりに返事をする。


「……死んだら……そこまでって諦めるよ……」と、覚悟を決める様に眼を瞑って奥歯を噛みしめる。


「その時は御免!」カーラはその言葉を合図にキャメロンを丸太の様に担ぎ、目的地の先まで風の道を作り出し、それに乗って高速で駆け出す。その速さはまさに上空を高速で飛ぶ速度に近く、追手の進軍速度の数十倍の速さであった。


 ただ、その負担も凄まじかった。百足の暴れる脇腹は獣に噛み砕かれる様な痛みになり、治りつつあった骨も歪んで折れる。喉の奥から激痛の叫びと鉄の塩辛さが昇ってくるが、それを飲み込んで走った。彼女のカモシカの様な脚は湯気を立てながら力強く動き続けた。


 キャメロンは激しい揺れに耐える為にひたすらに全身から襲う捻じ切られる様な激痛に耐えていた。顔のあらゆる穴から血がゴボゴボと溢れ、それを我慢する事は出来なかった。


「これなら大丈夫、絶対に間に合う!!」カーラはキャメロンと自分自身を鼓舞する様に叫び、速度を上げてひた走る。もう直ぐ森の出口付近に辿り着き、あとは街道を進んで港へ向かうだけであった。


 が、そんな彼女らの眼前に何者かの影がぬっと現れる。その者は森の影のせいで正体は解らなかったが、殺気が放たれていた為に味方ではないと一瞬で判断し、急停止する。


「誰だ!!」カーラは道を阻まれた苛立ち混じりに問う。



「お前か、捕虜共を逃がした奴は……傭兵ではなさそうだな。何者だ?」



 その者はノーマンであった。彼はクラス4であるカーラの魔力を強く感じ取り、彼女が奔る速度の数倍の速さで急行し先回りしていた。彼は雷の使い手であり、魔力はカーラ以上であった。


「ちょっとした通りすがりよ。人助けして悪いかしら?」カーラは一目で相手が自分よりも圧倒的に上手である事を感じ取り、相手から目を離さないままキャメロンを寝かせる。彼女を担ぎながら相手を撒く事は出来ないと考え、覚悟を決めた。


「人助けのつもりなら逆だな。そいつをこちらへ寄越し、他の捕虜共を捕まえる手助けをしろ。と、いうかおm」と、彼が何かを問おうとした瞬間、カーラの容赦のない飛び蹴りが首に炸裂した。大木を薙ぎ倒せる程の威力のある彼女の蹴りは轟音を立て、周囲に突風が噴き荒れる。


 が、ノーマンは傾げるだけで倒れる事は無く、逆に彼女の脚が衝撃で震えていた。


「くっそ……」ベストコンディションではないが、森を奔り、彼女の脚は温まって最高の状態であった。そこから繰り出される蹴りは例え熊でも鬼でも倒す自信があった。が、その自信が一気に打ち砕かれる。


「……お前、そいつを担いで自信満々に奔るって事は、逃げ先があるんだよな? どこへ逃がす気だった? この森を抜けたら、やはりチョスコ方面か?」何事も無かったように問う。


 カーラは眼前の巨漢から逃げ出す策が思い浮かばず、真空波で首を狙う。しかし、その刃はノーマンの魔力で強化された肉体には通らなかった。そこから彼女は無心に蹴りを浴びせる。ハイキック、膝蹴り、後ろ回し蹴り。今迄リーアムから習い、自分で培った技術の全てをノーマンに喰らわせる。


 その全てはまるで巨岩、巨木を相手している様にビクともせず、自信と蹴り足が皹だらけになった。


「はぁ……はぁ……化け物か……」息を上げ、忘れようと努めていたあばらの痛みがぶり返す。


「お前、クラス4の癖に魔力循環法と肉体強化が出来ないんだな。その割には馬鹿みたいに強力な蹴りだな」ノーマンは勝ち誇る様に微笑みながら彼女を見下す。


 カーラは痛みを無理やり忘れる様に雄叫びを上げて飛びかかり、踵落としの体勢になる。鉞が如く振り上げたそれをノーマンの鎖骨目掛けて振り下ろした。


が、それが命中する前にノーマンの巨拳が彼女の脇腹にめり込んでいた。


「ぅぷあ!!」今迄我慢していた激痛がツケを払えと言わんばかりに奔り、痛みの嗚咽と共に吐血し、蹲る。


「手負いか……その身体でよく俺に喧嘩を売れたな? そいつを置いて1人で逃げたら……いや、逃がさんが、な」ノーマンは虫を甚振る餓鬼の様な顔で腕を振りかぶり、拳を一閃させる。その一撃が彼女の胸に命中し、その衝撃で背後の大木へ叩き付けられる。胸骨は砕け、心臓が爆ぜる様な錯覚に襲われる。膝から崩れ落ち、うつ伏せに倒れ伏す。


 が、彼女は震えた脚で起き上り、大木を背に何とか立ち上がる。


「……こ、の野郎……調子に乗るなよ……」彼女のセリフには、今迄のリーアムやトニー達と共にした数十年分の逃亡生活の中で溜まった鬱憤が込められていた。


「それはこっちのセリフだ」ノーマンはゆっくりと距離を詰め、彼女に遠慮なく拳や膝蹴りを喰らわせる。


「がっ! げはっ! ぐぁ!!」全身の骨は砕け、内臓は潰され、視界があちこちに飛び回り、意識も消えそうになる。


「上から下から内臓が噴き出るまで繰り返してやろうか? あの女のようにな」と、地面に転がるキャメロンを指さす。


「う゛ぁ……ぁ……」鳩尾を潰されたばかりのカーラは背後の大木と共に崩れ落ちそうになるが、ノーマンの悪意に満ちた手に頭を掴まれ、無理やり立たされる。彼女の身体は最早自力で立つことが出来ない程に疲弊していたが、顔面からは闘志が消えずにいた。それは悔しさや今迄の想いが込められており、肺がまともなら唾を吐きかけている所であった。


「そうだった。拷問する体力は残してやらないとな」ノーマンが口にした瞬間、彼の首元にチクリとした痛みが奔る。カーラは拾った木片を握り、弱々しくもそれを彼の首に突き立てたのであった。


「……ぐっ……」カーラは涙ながらに殺意に満ちた瞳を向け、握った木片に力を入れる。


「こいつ……!」彼は大地に彼女を叩き付け、彼女の右脛を容赦なく踏み砕いた。幹の折れる音が鳴り響き、遅れてカーラの甲高い悲鳴が轟いた。自慢の脚をへし折られ、情けなく転がる。


「う゛……くっ……」


「もう片方も踏み砕いてやろうか? え? 詫びるなら勘弁してやるが?」ノーマンは勝ち誇る様な憎らしい笑みを向ける。


「く……たば……れっ!!」カーラは最後の力を振り絞って激しく睨み付ける。


「そうかい!」ノーマンは彼女の左脛を真っ二つに踏み拉いてトドメを刺す勢いで脚を上げる。



「俺の娘に何をしている?」



 すると、そこでノーマンの背後に背格好の似た男が立っていた。初老ではあったが纏ったオーラはノーマンのソレとは比べようが無かった。


「な、何だ貴様?!」不意に現れたその相手は魔王軍に入って以来の初めての強者であり、そんな相手が自分の間合いに気配も無く入ってきて狼狽していた。咄嗟に魔力の籠った正拳突きを見舞い、相手の顔面に喰らわせる。その一撃は巨岩どころか要塞の壁に穴を開ける自信のある一撃であった。それが相手の顔面に炸裂する。


「お前みたいな奴が各地で偉ぶっていると思うと気分が悪くなる。それに……よくも俺の、娘を……」静かに殺気を漏らし、男は目にも止まらぬ速さでパンチを一閃させた。その一撃がノーマンの顔面の中央を捕え、遥か彼方まで素っ飛ばした。彼はそのまま大地へ転がって気絶し、数日後まで発見される事が無かった。顔面は拳一個分凹み、右目は飛び出て、元の顔に完治するまでに半年以上かかった。


「遅くなって悪かった……」その男は彼女の帰りを待てずに迎えに来たリーアムであった。


「あし……い……たい……」カーラは彼を安心させるようにわざとらしい泣き笑いを見せた。


如何でしたか?


次回もお楽しみに

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