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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第5章 バルバロンの闇と英雄の卵たち
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56.カーラの物語 Year One サウールの戦い

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 リーアムは旅団の主要メンバーをテントへ呼び、これからの事について話す。その内容は、ダダック国から隣国のチョスコへと移動する準備をするというものであった。この国に来てまだ半年も経っていない為、他の者らからの反発は多かった。が、魔王軍の侵攻が早く、もうじき最終戦争が終わり、決着がつくというのがリーアムの見通しであった。その為、本格的に根を降ろす前に移動する方が旅団の為だと説明した。更にリーアムは今後のビジネスと西大陸へ渡る計画を話した。


その内容の説明後、メンバーの中にダダックに留まる者と、共にチョスコへ向かう者を募る。結果、全ての者がリーアムに付いて行くと頷き、すぐさま旅立つ準備を始めた。


「おやっさん……」隣に立つカーラは俯きながら呟く。


「少し危険な旅になるだろうが……お前は着いて来てくれるか?」


「もちろん。で、あたしはどうします?」


「出先のトニーにこの話を伝えてきてくれ。その後、ダダック国の逃亡兵たちをここへ連れて来てくれ」と、封筒を渡す。その中にはダダック港へ向かう目立たないルートを描いた地図と手紙が封されていた。


「兵たちを裏から逃がすって……うまくいくの?」


「あぁ、この数ヵ月で色々とパイプを繋げたからな。兵士長は挙兵の為に使いたかったみたいだがな……」


「今は逃げる事しかできないのか……」カーラは悔しそうに拳を握る。


「辛抱の時期だ。いずれ、攻勢が逆転する時が来る」リーアムは彼女の震える背中を優しく叩いた。


「いっでぇ!! まだ肋骨が治ってないの!!」


「あ、すまん……」




 数日後、ついにダダック首都より西へ10キロ地点のサウール平原にてダダック国軍と魔王軍が激突する。ダダック国軍は凡そ2万であったが、対して魔王軍は1万5千であった。数はダダック国軍が勝っていたが、魔王軍は兵器の質で勝っていた。


 ダダックは投石器や大砲、クラス4の属性使いが2人にクラス3が30人程であった。


 対して魔王軍はエレメンタル兵器が人数分に属性使いが多数、更にガルムドラグーンによる航空支援があった。極めつけに魔界の軍団長と呼ばれるロキシーが最後尾で構えていた。


 両陣営の激突前、ダダック国軍団長は全軍を鼓舞する演説を行った。その内容は鼓舞と言う名の命を捨てた突撃宣言であり、一兵たりとも逃亡は許さないと脅した。


 そんな中、キャメロン達傭兵らはうんざりした顔で煙草を吹かしていた。


「あ~あ、負け確定だな。上を見てみなよ」ライリーは煙を吐きながら上空を指さす。その先では飛空艇が2機旋回しており、攻撃命令を今かと待っていた。


「戦力差は圧倒的だな……負け戦は意気が極端に分かれる。頭に血が上って死に急ぐか、血の気が引いて、腰が抜けるか……さて、俺たちはどうしようか?」ダニエルは煙草を吐き捨て、頭を掻く。


「お、俺はやりますよ! ね、キャメロンさん!」太腕を唸らせ、巨大ハンマーで空を斬るローレンス。彼は彼女のセリフ次第でどちらにも転んだ。


「ん~、前金は貰っているから、やるだけやらなきゃねぇ……それに少しはあっと言わせたいよね」キャメロンは小さく溜め気を吐くが、覚悟を決めた様に拳を固く握り、魔力を漲らせる。


 すると、前方にいた兵士長が踵を返して彼らの前まで歩み寄る。彼の手には金の入った袋が握られていた。それをキャメロンに握らせる。


「約束の金だ」


「あら、どういうつもり? まだ戦いは終わっていないけど?」彼女が問うと、兵士長は声を落として彼女の耳元で囁く。


「この戦いの負けは決定だ。報酬は生きて使えなきゃ意味がないだろう? 君たちは、逃げる兵らを援護してやってくれ」


「……あなたは?」


「私は、軍団長殿の期待に応える義務があるからな。では、さらばだ!」と、兵士長は先頭へと戻っていった。


「あ~あ、立派な人だこと……じゃあ……」ライリーは待っていましたと言わんばかりに後ずさりを始める。


「だな。早くしないと、爆撃で退路を塞がれるな」ダニエルは目を付けていた退路へ顔を向け、そちらへ向かう。


「キャメロンさん、どうしますか?」ローレンスは彼女の一言を待ちながらも腕を唸らせる。


「……うん、よし……ただ逃げるんじゃなくて、彼の言った通り、撤退する兵の援護に集中するよ!」と、キャメロンは炎の翼で飛び立てる用意をした。


 すると、激突の合図となる軍団長の怒号が轟く。



「さ、終わらせましょうか」


 


 ロキシーが指を鳴らすのと同時にサウール平原の大地が真っ黒に染まる。そこから人影がにょきりと伸び、不気味に身体をくねらせ、黒甲冑兵に形作る。その数はざっと3000。あっという間に揃ったナイトメアソルジャーは魔王軍の先頭に立ち、足並みを揃えて行進を開始した。


 相手の意図を知らずにダダック国軍は総力を上げて放火や属性弾をナイトメアソルジャー達に浴びせかけた。


 それを合図にダダック国全軍は突撃を開始したが、キャメロン達は退路を確保すべく後方へと素早く移動し、撤退する兵を待った。しばらくは退く兵士は現れなかったが、時が経つにつれて猛々しい声は悲鳴へと変わっていき、やがて敵からの放火や上空からの爆撃が容赦なく降り注ぐ。堪らずキャメロンの待つ退路へ向かう者が現れたが、その隙を突いてナイトメアソルジャーが背後から身体を貫く。


「ここまで来られないか……助けに行くよ!」と、キャメロンとローレンスは撤退する兵を援護すべく戦闘へ突入する。


 すると彼女らの目には地獄絵図が広がっていた。兵たちは成す統べなく漆黒兵に八つ裂きにされ、勇猛果敢に戦う猛者は上空の爆撃や魔法弾で木っ端みじんにされた。ダダック国が誇る属性使いはナイトメアソルジャーの勢いに押されて負傷し、数の暴力に飲み込まれていた。逃げ出そうと判断した兵は一足遅く、殆どが背中から貫かれて倒れた。


 キャメロンとローレンスは何とか数人は助けたいと考え、戦闘の真っただ中に割って入り、ナイトメアソルジャーの横っ面を殴りつけ、炎を浴びせた。


 が、そこでやっと眼前の敵がどんな得体のしれない者なのかを理解した。炎も打撃も斬撃も効かず、無感情のまま鋭く尖った手足で兵士を貫いた。その姿は兵と言うより昆虫であった。


「こりゃあ……無理だ! 逃げるよ!」自分の実力では無力と判断し、キャメロンは直ぐにローレンスに引くように言った。


彼はしつこくナイトメアソルジャーを叩き潰し、吹き飛ばしたが、全く手応えがなく体温も呼吸もない相手を不気味がった。


「なんなんですかこいつら!!」助けを求める手を握ろうとするが、その間に身体を穴だらけにされるダダック国兵。それを見てローレンスは怯える様に後退り、キャメロンの言う通りに脱兎の如く退路へと向かった。


 2人は何もできずにライリーとダニエルの元へと戻り、首を振りながら森の中へと無心に駆ける。


「あんなの、無理だ……あたしが戦った時はあんなんじゃなかった……何、あれ?」キャメロンは顔色を青くさせ、冷や汗を拭う。


「噂に聞いた漆黒の兵か……初めて見たが、あれは戦いじゃない。虐殺だ」ダニエルは心底怯えた様に眼を泳がせ、唾を飲み込む。


「あれが魔王軍の切り札か……逃げるが勝ちだな」予め森へ放っていた動物たちから情報を得て、逃走経路を計算するライリー。


 そんな中、ローレンスは震えたまま一言も発せずにいた。


「情けないけど……今は逃げる事しか出来ないか……あの兵士長さんはどうなったかな……?」キャメロンは彼の安否を心配しながらも脚を止めず、森の中を走った。その最中でもサウール平原では虐殺が続いており、軍団長の最後の咆哮が途切れる。それと同時にナイトメアソルジャーは大地を漆黒色に染めながら溶けていき、真っ暗闇がロキシーの足元へ集中していく。


「2万の兵力も呆気なかったわね……さ、首都へ入りましょうか? 生き残った兵は逃がさず、捕えて」彼女は的確に配下らに命令し、血の池となった大地を歩いた。


 この激突は1時間足らずで終わった。


如何でしたか?


次回もお楽しみに

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