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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第5章 バルバロンの闇と英雄の卵たち
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55.カーラの物語 Year One VSキャメロン

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 カーラとキャメロンは同時に着地する。カーラは頬の火傷に触れ、キャメロンは手足に深く刻まれた切創を見やる。傷からは激しき出血しており、身じろぐだけで鮮血が激しく噴き出た。


「危なかった。もう少しで斬り飛ばされるところだったかな」彼女は怯むことも焦る事も無く、片眉を上げる。


「あら、それだけ傷ついて、まだ続ける気?」カーラはもう戦いは終わったモノだと思い、手足から力を抜こうとしていた。


「酒場の喧嘩の方がまだ激しいってね。あんたこそいいの? 次、その次、そのまた次に自分がどんな目に遭うか……」意味ありげに微笑みながら指先に火を灯し、切創を撫でる。すると傷口は焼き潰され、出血が止まった。


「うわっ……強引なヤツぅ」


「戦場で出血と血の匂いを消すにはこれが一番よ。さて」キャメロンが笑った瞬間、カーラの眼前から消え去る。彼女は火炎翼を生やし、真上を取っていた。カーラは0.5秒程遅れて反応し、火炎雨をもろに浴びる。


「ぐぁ! 油断した!」カーラは堪らず風魔法で突風を巻き起こし、火炎を払って相手の方を睨む。が、睨んだその先には彼女はおらず、代りに火炎の塊が浮いていた。その塊がカーラ目掛けて突撃する。彼女はそれを回し蹴りで消し飛ばし、周囲を見回す。


「やっぱりだ」キャメロンは余裕を含んだ楽し気な声を出し、空中で錐揉み回転をしながら火炎弾をばら撒く。その弾の全てがカーラへ向かい、数発が腕や脚に突き刺さる。


「熱っ!!」カーラは堪らず怯み、火傷を押さえる。



「その怯み……戦場では命取りよ」



 彼女の声が耳元で囁かれた瞬間、火炎を纏った膝蹴りがカーラの腹部に炸裂する。一撃で肋骨が粉砕し、破片が内臓に突き刺さる。彼女は激しく吐血してしゃがみ込んだ。そこへ追い打ちにもう一発蹴りをめり込ませるキャメロン。


「ぐばぁ! がはっ、げほっ!!」カーラは堪らず転がって悶絶し、痙攣する。苦し紛れに真空波を放つが、キャメロンは首を傾げるだけでそれを避ける。


「あんた、戦場に立った事、ないでしょ? まぁ、あたしらに協力してほしいのはリーアムの旦那の方だからねぇ」


「ぐ……あ、だ、誰が……お前らに……」カーラはヨロヨロと立ち上がり、痛みを堪えながら大地を踏みしめる。腰を落とし、蹴りを放とうとするが、その攻撃には体重も勢いも乗っておらず、簡単に受け止められる。


「痛みに対しての耐性がないね……起き上ったガッツはまぁまぁだけど……こんなんじゃ、戦場で1分も持たないよ」と、キャメロンはダメ押しに顔面へ向かって回し蹴りを見舞う。


 それを見たトニーは黙っていられずに拳を構えながら駆け出した。


「やめろぉ!!」と、無鉄砲に拳を振ろうと力むが、彼女の間合いに入った瞬間、回し蹴りを顎に喰らい、一瞬で意識を彼方へと飛ばし、大地へ倒れ伏す。


「あんたは論外ね。さぁて……カーラちゃん」キャメロンはカーラの髪を掴み、血と泥に塗れた彼女の顔面を引き起こした。「あんたの負けでいいよね?」


「冗談じゃない……」血の泡をゴボゴボと吐きながらもゆっくりと抵抗の一声を上げる。


「死ぬ一歩手前まで喧嘩を続ける気? ま、あたしはいいけど」キャメロンは呆れた様に笑い、カーラの脇腹を蹴り潰す。枝の折れる様な音と同時にカーラの勢いの弱い悲鳴が上がる。


「あ、が……」白目を剥き、血涎を垂らして痙攣する。


 すると騒ぎを聞きつけてリーアムと兵士長が現れる。彼ら2人は慌てた表情は見せず、真剣な顔で眺めた。


「あら、兵士長に旦那……もう決着ですよ。旦那は参加する準備を、」と、言いかけた瞬間、カーラが力強く起き上がった。「あら」


「まだ終わってない!! あたしは、絶対に、おやっさんを戦場に立たせない!!」カーラは激痛を堪えながらもキャメロンから距離をとり、風の魔力を身体に纏う。


「満身創痍になってからやっと本気になったの? ちょっと遅くない?」キャメロンはおどける様に口にしたが、視界のグラつきを感じ取って頭を押さえる。「さっき血を流し過ぎたな……それにこいつぁ応急処置……長くは持たないか」


「あと一撃ってトコロか……」カーラの視界もぐにゃぐにゃに揺れ動いており、膝は震え、脇腹は巨大な百足が這う様な不快感と痛みに捕らわれていた。


 2人の戦いをリーアムと兵士長は腕を組んで黙って眺めていた。


「互いに長期戦は無理……でも、こちらが有利か。悪いけど、容赦なくいくよ!! いい? あんたみたいに逃げる奴より、戦う意志を持った方が強いんだよ!!」キャメロンは再び炎翼を生やして彼女の上空を取り、勢いよく滑空する。カーラは反応できないのか目も向けず、血唾を吐いて頭をグラグラと揺らしていた。


「トドメだ!!」キャメロンは火炎を纏った蹴り足で襲い掛かる。そのつま先はカーラの首を狙っており、これが直撃すれば確実に気絶、下手をすれば首骨をへし折る勢いであった。その蹴り足がカーラの間合いに入った瞬間、彼女の風魔法が反応し、同時にカーラの身体が滑らかに動く。彼女は逆立ちになってキャメロンの蹴りを避け、カウンターに踵落としを見舞う。その一撃は勢いよく彼女の首筋に命中し、強制的に意識を分断する。キャメロンは呻き声すら上げずに突っ伏して失神した。


「うぎぃ!! ぐ、あ……ぅ……」大型猛獣に身体を噛み砕かれる様な激痛に襲われ、意識が溶けそうになる。が、それでも気絶しないように首を振り乱し、一歩二歩と歩き、リーアムと兵士長の前で踏ん張る。


「リーアムは決して戦場には戻りません……お引き取りを……」今にも死にそうに吐血しながらも訴えるカーラ。


 そんな彼女を見て、兵士長は納得した様に頷き、リーアムの方へ向き直る。


「いい娘を持ったな。もう二度と頼みにここへはこない……さらばだ」


「あぁ……」リーアムも頷きながらカーラへ歩み寄り、肩を貸す。すると彼女は安心した様に崩れ、気絶した。


 兵士長はキャメロンに近づき、揺り動かす。すると彼女はケロッと起き上って立ち上がった。


「……油断したか……最後は、気持ちの強い方が勝ったってところね……」彼女は頭をポリポリと掻き、兵士長の背後を守る様にしながら帰路へついた。




 カーラは3日後に目を覚ました。ダダックと魔王軍の戦いはまだ怒っておらず、胸を撫で下ろすが、同時に未だに痛む脇腹に悶絶しながらもリーアムの元へ向かう。


「おやっさん……兵士長は来てない?」


「あぁ、お前のお陰でな。まだ寝ていろ。その薬効包帯では完治に1週間はかかる」


「……そう……トニーは?」


「街へ使いにやった。傭兵に一発で倒されたのが相当堪えたんだと見える」


「……おやっさん……勝手にあんな事をしてごめんなさい……反省しています」


「いや、いいんだ。それより怪我を治すのに集中するんだ。これから忙しくなる」と、リーアムは卓上の書類を読みながら口にする。


「これから? 何か新しい仕事でも始めるの?」


「あぁ。お前のお陰でやっと俺も踏ん切りがついた」


「踏ん切り?」カーラは首を傾げながらリーアムの隣に立って書類を覗き見た。




 その頃、キャメロンは野営地で調理したてのホーンボアの肉料理を貪り食べていた。彼女は身体に足りない血と傷の回復の為、仲間に狩りを頼み、獲物を捌いて昨日から食べ続けていた。


「兵糧じゃ間に合わないからって強引だなぁ~」仲間の1人であるダニエルが呆れた様にため息を吐く。


「てか、内臓料理中心とか……吐き気がするな」吐く真似をするライリー。彼は肉料理には手を付けず、自分の分の食料を細々と食べた。


「傷を治すために兎に角食べる!! 流石キャメロンさんです!!」ローレンスはキャメロンに負けぬように骨付き肉に齧り付き、骨ごと噛み砕いた。


「それにしても、あたしが負けるなんてねぇ……余裕の隙を突かれるとは、あたしも焼きが回った……ゴメン。リーアムを引き入れる事が出来れば、地元の貴族と交渉して兵力を増強で来たかも……ま、勝敗は変わらないかもだけど……一発カウンターを入れるぐらいは出来た……かも」と、キャメロンは血生臭いゲップを吐きながら、もつスープを喉へ流し込む。


「負け戦、か……負けても死にたくねぇなぁ~」ライリーはぼんやりとした表情で遠くの地平線を眺めながら煙草を吹かした。


如何でしたか?


次回もお楽しみに

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