53.カーラの物語 Year One 新たな地
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
魔王歴15年、バルバロンより西の国ダダック。この国はこの時期、魔王軍からの侵攻に抵抗していた。どの国も魔王軍に攻められれば半年から1年以内には侵略され、遅かれ早かれ降伏を迫られていた。
国境の激戦地より離れた街道には馬車の団体が列を成していた。御者は皆、周囲を警戒する様に隙の無い面構えであった。そんな馬車の列の上空では何者かが風を操って飛翔していた。周囲を見回し、西から東へ流れる風から気配を感じ取る。
その者はカーラであった。彼女は先頭の馬車まで飛来し、御者の隣に座る。その者は銀色の髪と髭を蓄えた筋骨隆々の老人であった。
「この先に大きな森があって、周囲に村がいくつか点在しているわ。それから、20キロ先に大きな街もね。ただ、不穏な気配もいくつか……」と、荷の中身を掻きまわし、ソルティーアップルを取り出して齧る。
「安全なコースは?」
「このまま街道を直進すると、一団がキャンプをしているわ。そこを素通りするのが最短コースね。見てこようか?」
「気をつけろよ」彼が口を開く間もなくカーラは飛び立ち、500メートルほど先のキャンプへ降り立つ。その瞬間、キャンプの住人5名が彼女にボウガンを向けた。
「何者だ?」ガラの悪い男が気安く近づき、彼女の身体を舐める様に眺め、口笛を吹く。彼女は短パンにシャツ、ノースリーブのジャケットという露出多めの服装だった為、キャンプ内のゴロツキは鼻息を荒くさせた。
「ちょっとした旅団の者なんですが……ここを大人しく素通りさせていただけるとありがたいんですが、よろしいでしょうか?」カーラはにこやかに口にし、頭を下げる。
「へぇ~、それを聞いて大人しく通すと思うか? そうだな、物資の半分と女連中を置いて行くなら考えてもいいが?」
「そりゃあ困るなぁ~ 迂回しないと……」
「もしくは、お前が俺達を楽しませてくれるなら……なぁ?」ゴロツキは仲間が四方からボウガンで狙っている事を良い事に鼻先まで近づき、彼女の胸先を指で小突く。
「あー、もういいや我慢できない」
カーラは気怠そうなため息と共に宙返りをした途端、眼前のゴロツキが真っ二つに割れる。血飛沫が上がった途端、四方のゴロツキ達が一斉に矢を放つ。すると、その矢は不自然な軌道を描いて互いの額を撃ち抜いた。
「あと4人隠れているのはわかっているわ。死にたくないなら、荷物を纏めて逃げな!」カーラは腰に手を当てながら大声を上げる。するとキャンプにいた残りの4人が振り返らずに逃げ去った。
カーラは馬車が来るのを焚き火の近くで待っていたが、そこへ砂埃を上げながら何者かが奔ってくる。その者はトニーであった。
「カーラ!! もう終わったのか?」
「終わったも何も、喧嘩にすらならなかったよ」と、真っ二つになったゴロツキヘ親指を向け、額に矢の生えた連中を指さす。
「カーラ……こう言う連中は俺に任せてくれよ! お前からすればただの雑魚だろうけど、俺からすれば良い喧嘩相手なんだからよぉ!」
「あんた1人でボウガンと武器を持った奴ら9人を相手に出来る?」
「出来るさ!! てか、お前が強すぎるだけだろ?」トニーは拳を素振りさせながら口にする。一応クラス2の大地使いであったが、幼少期よりクラス4に早々に覚醒したカーラには勝てなかった。
そこへ馬車が現れ、御者の老人がため息を吐く。
「口で上手く説得できなかったのか?」彼はこの一団のリーダーであり、リーアムといった。カーラに蹴り技、トニーに拳闘術を教えた師匠でもあった。
「無理ね。丁寧にお願いしたけど、こいつあたしの胸に気安く触ってきやがった」
「「そいつぁ殺されて当然だな」」2人は口を揃え、そのまま馬車を進ませてこの先の森へ入っていった。
その後、リーアム率いる一団は森の中の広場へ馬車を泊め、近場の村へリーアムとカーラの2人が向かう。敵意がない事を示し、村長の家へと案内して貰い、そこで今後の事を話し合う。近場に居座らせて貰うという許可、この森での山菜や動物の狩りの許可など、丁寧に書面にサインし、握手を交わす。代わりに人手の貸し出しをすると約束し、リーアムは早速村長と良い関係を築き始める。
それを見てカーラは一足先に戻り、一団の者全員に聞こえる様にこの森に居座る条件を説明する。すると早速、団の者は荷物や大型テントを広げ始める。中にはその場を離れ、別の村や町へ向かう者らもいた。彼らはこの様に根無し草の生活を長年続けていた。
「何故、この様な旅を?」村長が尋ねると、リーアムは頭を掻きながら苦しそうに笑う。
「魔王軍と色々ありまして」
それから数ヵ月、リーアムはこのキャンプを拠点に活動を開始した。彼について来た者達が何処でどんな仕事に就いたか、どこに居を構えたかなどを書類で管理し、さらに団の金庫に幾ら儲けを収めたかなどを書き記す。団の者は嫌な顔せず素直に稼ぎの20パーセントを彼に収めた。集めた資金はいざという時の為に彼が保管し、既にかなりの大金が溜まっていた。
そんな中、カーラはトニーと組んで近場の街まで出向き、そこで賞金稼ぎの仕事を請け負っていた。彼らは団の情報網を利用して手配犯をすぐさま見つけ出せた為、あっという間にダダック首都のプロハンターとして名前が売れた。彼女ら2人は嫌な顔せず、儲けの半分以上を金庫へ納め、街遊びはせず拠点へ戻り、村で慎ましく暮らした。
そんなある日の事。
「ねぇトニー、調子はどうよ?」カーラは汗だくで鍛錬を続けるトニーを見ながら声を掛ける。
「黙っていろよ……集中しているんだ」彼の眼前には山の様に巨大な岩が聳え立っていた。岩肌にはいくつも拳の跡が残っていた。彼は毎度、拠点近くの大岩をライバル視し、それを旅立つまでに拳で粉々に砕き尽すのを目標にしていた。
「大地魔法も合わせれば楽に割れるのに……」
「それじゃダメなんだ! 魔力も使わず、肉体と技術だけで割るんだ! それが出来れば、魔力を合わせた時の威力は絶大になる!」と、トニーは目をカッと開き、拳を振る。彼の拳は深々と岩へめり込んだが、彼の拳から血が滴り、骨が飛び出ていた。
「あ~あ、握りが甘かったんじゃない?」カーラは寝そべりながら口にする。
「くっそ……まだまだ鍛錬が」と、ヒールウォーターと薬草の入った瓶に手を突っ込む。これで砕けた拳は数分で完治した。
すると、カーラは急に立ち上がって後ろ回し蹴りを放つ。その一撃に魔力は籠っていなかったが、明らかにトニーの拳とはキレも威力も段違いであった。その蹴りは大岩に致命的な大皹を入れ、粉々に砕いてしまった。
「あ、こいつ!!」
「新しい岩を探して、一撃で砕ける様に頑張んなさい~」と、にやにや笑いながら彼女は拠点のテントへと戻る。
そこにはリーアムを何者かが訪ねていた。
「客人?」彼女が顔を出すと鋭い目つきの男が睨み付けた。彼はこの国の軍の兵士長であり、プレートの突いた軍服を着ていた。その背後には気の抜けた目つきの女が柱にもたれ掛っていた。
「リーアム、力を貸してくれ。今度の戦いで踏ん張れば、チョスコから援軍が来る。追い返す事が出来れば……」
「無理だ。例え踏ん張っても、チョスコにそんな余裕はない。それに、お前らは踏ん張っている様に見えるが、魔王軍の兵器開発部門の連中に遊ばれているだけだ。あいつらが遊びを止めた途端、ナイトメアソルジャーが雪崩れ込んでくる」リーアムは周辺の事情や魔王軍のやり方を把握しているのか、滑らかに口にする。
「それでも……戦うのが我々だ。お前はそれでいいのか? 本当は燃え尽きたいんじゃないのか? え?」
「……帰れ」リーアムは腕を組みながら相手を激しく睨み付けた。
「戦えるのにか? ……お前らはまだ燃え尽きていない筈だ! 頼む、力を貸してくれ!!」兵士長は深々と頭を下げた。
が、リーアムは頭を縦に振る事はせず、そのまま兵士長を追い返した。
「……力貸してあげないの?」カーラは小さな声で問うた。
「戦争に関わるのは二度と御免だ」リーアムは打って変わって弱った様に眉をㇵの字に下げ、大きなため息を吐いた。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




