51.アリアンの選抜サバイバル Part8
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
ダークビルの森上空の遊覧飛行船。ここでは物見で各地の有力者が集まり、酒と食事を楽しみながら目下の殺し合いを見物していた。普通に見下ろすと森に阻まれて戦いを見る事は出来なかったが、スクリーン越しだと体温感知や集音などの機能を利用して、素人目でもわかりやすい殺し合いを見物する事が出来た。一般の有力者らはそんな殺し合いを横目に見物目当てで集まった有力者同士で談笑し、仕事に繋げようと必死になって会話を交わしていた。
そんな中、スネイクスはスクリーンに頼らずに肉眼で見物していた。彼女はこの3日間で一睡もせずにアリアンや他の実力者の戦いを観察し、心から楽しんでいた。
「まさかハーヴェイが現れるとはね……魔王様に報告しなきゃ」ワイングラスを傾け、彼がどの方角へ向かうのかを目で追いながらも他の戦いを観察する。
するとそんな遊覧船に向かって何者かが高速で飛来し、ふわりと甲板へ着地する。その者は和服を身に纏い、只ならぬ得物を帯刀した女性であった。鋭い目つきで警備員に目をやると、警備員は目を泳がせながら会釈し彼女を通す。
彼女はツカツカとスネイクスのいる方へと向かい、跪く。
「お迎えに上がりました、スネイクス様」
「あら、もう時間かしら? いい休日だったわ」
彼女の名はアラカゼ・カエデといった。彼女はヤオガミ列島出身でアラカゼ家という名門出身であった。アラカゼ流という風魔法を絡めた剣術の達人であり、魔王軍や黒勇隊の剣術指南役を務めていた。現在はスネイクスの統治する地方で世話になっていた。彼女はスネイクスの下で風魔法を本格的に学んだため、彼女を師事していた。
「さて、いい場面は殆ど見終わったし……ねぇカエデ」
「なんでしょう?」
「今から、貴女がこの戦いに参加したらどうなるかしら?」
カエデは真下に目を向け、片眉を上げる。
「……魔封じ状態で、手練れが50以上……面白そうですね」
「主催しているアリアンを討ち取れば、目下の参加者を纏めた精鋭部隊を指揮できるそうよ? どう?」
「その地位に興味はありませんが……少し試したいですね」と、カエデは軽やかな足取りで甲板へと向かい海へ飛び込む様に森へ向かって急速落下する。彼女は風使いであり、飛行可能なほどに魔力を操れるクラス4であった。次第に魔封じの効果で身体から魔力が抜けるが、それを物ともせず眉ひとつ動かさないまま100メートル上空まで近づく。そのまま大木へ突っ込み、枝に掴まって高速回転し、枝から枝へ飛び移る。勢いが弱まった瞬間、大地へふわりと着地する。
「少々無茶をしたか」と、カチャカチャと鳴る腕を摩る。彼女の左腕は上腕から先が義手になっており、先程の枝を掴んだ衝撃で動作不良を起こしていた。
その後、彼女は大木の枝を折り、鯉口を切った瞬間に刃の輝きだけが見える速度で抜刀し、納刀した瞬間、枝が木刀へと変わる。
「これで十分か。今の私を試すにはいい機会かもな」と、強い気配を放つ方へと駆けた。
「中途参加者、誰かしら……? あの遊覧船から落ちてきたように見えたけど……?」アリアンは首を傾げながらも森の中を歩き続けていた。彼女は自分の痕跡をワザとらしく残しながら歩き、誰が引っかかるかを見て楽しんでいた。案の定、尾行してくるものがおり、彼女はそれに気付きながらどんな風について来るかを観察していた。
「私の斜め後ろ10メートル……足音、環境音だけでなく匂いにまで気を配っているわね……更に、気付かれた時の為に逃走経路の計算までしている。抜け目がない……こういう人材が人用なのよね。じゃあ、最終試験よ」と、アリアンはその場から消え去る。それを見て追跡者は彼女が推理予測した通り、用意していた逃走路へ迷いなく駆けた。彼はまるで草食動物の様に軽やかに逃走し、川の流れる場所まで辿り着き、そこから更に下り、仕舞には大木へ上る。そこは彼の隠れ家なのか、色々な道具や戦利品が隠されていた。
「流石にアリアンは無理だったか……」冷や汗を拭い、喉の渇きを潤す。彼は彼女とハーヴェイの戦いを見ており、それよりも以前から彼女をつけていた。
「いいね。貴方の追跡能力」
急に彼の眼前にアリアンが現れる。彼はナイフを片手に自衛を試みたが、直ぐに手首を掴まれて木に押し付けられる。
「くそ……ここまでか」諦めた様に眼を閉じる。
「そう早まらないの」と、彼の戦利品の集まる木の洞へ目を向ける。そこにはバッヂだけでなく刃物などの武器やがらくたが沢山仕舞われていた。
「これ、貴方の戦利品ね」相手が頷くと、彼女は楽し気に笑う。「これだけで合格よ。あとは油断せずに生き延びる事ね」
「殺さないのか?」
「優秀な人材を殺す趣味はないわ」と、アリアンは不敵な笑みを残してその場から去った。
「成る程……わかった、貴女の下で能力を使わせて貰おう」と、彼は安堵した様にその場に座り込み、そこでやっと大汗を掻いてため息を吐いた。
カエデは疾風の如く森の中を駆け抜け、気配の強い方へと駆ける。彼女は微妙な風の流れと匂い、生き物の発する音を察知して急行する事が出来た。彼女に運悪く見つかった参加者である狩人は、自分が察知された事にも気付かぬまま木刀で打ちのめされ、目を回した。
「正面から打ったが、こんなモノか」と、木刀を振るい、次の気配の方へ顔を向ける。彼女の歩法は殆ど大地に触れずに高速で脚を動かし、まるで疾風そのものであった。
彼女の次向かう方には複数の気配があり、完全に油断していた。
「次は一戦交える余裕を残して名乗るか……」
一夜を生き残り、森の出口へ向かって歩を進めるトニー達。本来なら昨晩の時点で森を抜けている筈だったが、カーラが頭痛で苦しみ一歩も歩けなかった為、足止めを喰らった。彼女は急に蹴りつけてくる事は無くなったが、尋常ではない様子で頭痛を訴え、涙まで流したため2人は足止めを余儀なくされていた。
「こりゃあ、頭痛薬を探した方が早いかもね……」マリーはうんざりした様にため息を吐く。カーラをおぶって進もうとしたが、彼女はその衝撃にも耐えられない頭痛なのか、それすらも拒否した。
「嗅覚でどうにか出来るか?」
「犬でも無理でしょ……頭痛に効く薬草とか知らないし……いっそ吸血鬼にしちゃう? そうすれば頭痛も収まりそう」と、冗談口調ながらも犬歯を牙へ変える。
「やめろよ……不死身でも吸血鬼は御免だろ……ん?」不自然なそよ風を僅かに感じ取り、鋭く風の吹く方へ目を向けるトニー。
すると、彼らの眼前でカエデが立ち止まる。
「我こそはアラカゼ・カエデ。魔王軍剣術指南役……悪いけど、腕試しの相手になって貰う」と、木刀を構える。
「なんかすんごい気配のヤツが来たわね」マリーは目を鋭くさせて構える。
「剣術指南役か……相当な手練れだな」トニーも一気に戦闘態勢をとり、軽くその場でステップをしてみせる。
すると次の瞬間、隣で立っていたマリーが膝を崩してその場で倒れる。
「なn」トニーは彼女の異変に気付いた瞬間、左腕で首筋を庇う。その瞬間、木刀が命中し、上腕が砕ける。「ぐあっ!!」急いで距離をとり、打たれた腕を押さえる。
「お前は反応で来たか。いい目だな」カエデは静かに微笑を浮かべ、流れる様なステップで彼の間合いへ入る。
そこから彼女はトニーの正面に立ち、只ならぬ殺気を斬撃の様に飛ばす。
「こいつ、ヤバいな……」トニーは右腕も砕かれる覚悟を決め、深く息を吐いた。
そんな中、未だに頭痛に苦しむカーラも突然の刺客に反応し、カエデの方へ首を向ける。すると目をカッと開き、表情を険しくする。
「アラカゼ・カエデ……っ!!」次の瞬間、彼女は跳ね起き、彼女に向かって蹴りを浴びせた。カエデはそれを軽やかに木刀で受け流した。
「貴様は……? あの時のっ!!」彼女はカーラの顔を知っているのか、同じく表情を険しくし、木刀を構えた。
如何でしたか?
次回もお楽しみに